異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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れっつオープン。(その1)

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 シャワーを浴びて、ハルカとミリアンは少しだけ気力を取り戻した。

 ハルカは風魔法でミリアンと自分の髪を乾かしながら、とりあえず何か食べないと倒れそうだとアイテムボックスからケーキを作った際に余ったブドウやイチゴを出して洗って皿に盛る。

 ついでにご飯を軽く水洗いして、2つ出した小さめの丼に一膳ほど入れ、焼いた鮭をほぐしておいたものと千切りにした沢庵と白ゴマを載せ、とある素を振りかけて冷茶を注げば夏でもサラサラ食べられる冷やし茶漬けの完成だ。寝不足で食欲がない今は特に丁度いい。

「わー、食欲なんか湧かないと思ったけど美味しそう。食べないと戦えないしね」

「そうよ、寝不足にはビタミンも不足するから肌荒れしないように果物も食べてね」

「はいはい、うちの母さんみたいだわ」

 二人はテーブルに座ってちゃちゃっと食事を済ませると、まだ7時前だ。

「よし、行くわよ」

「………あー、シャワー入ったから大分意識がはっきりしたわ。おっしゃ、待たせてたお客さんにバリバリ売るわよー!」

「はい、ちょっと待ちなさい」

「……な、なんでしょうか」

「店長だからって逃げられると思うな。制服着なさい」

 既にミリアンは制服であるメイド服でスタンバイしている。

「………いやでも厨房で動きづらいし………」

「今日はもう下ごしらえ済んでるからほぼ接客でしょ。バイトの子に厨房で調理に慣れて貰わないと意味ないし」

「………ミリアンみたいに似合わないし恥ずかしい」

「アタシだってクソ恥ずかしいのよ!メルヘンチックな格好なんて物心ついてからしたことないし、ふくらはぎ見えるスカートなんて子どもの時に履いたっきりだわよ。バイトの女の子もこの辱しめを耐えるんだから、あんたもやるのよ。眠気も飛ぶわよ」

「でもミリアンはスタイルいいんだし、バイトの子達も可愛い子ばかりだから楽しみで楽しみで。お兄ちゃん達もイケメン揃いだしねぇ、ベストとネクタイがまたたまらんよね」

「スケベ親父みたいな事を言うな。足が少しでも見えるだけで恥ずかしいのよ!
 だけどハルカの店なんだからハルカは一番着るべきでしょ。店に居るときは仕事着だと思って諦めなさい」

「………ふわい……」

 嫌々メイド服に着替えヘッドドレスを付けたハルカは、お人形さんのように本当に可愛かった。
 本人が全く似合うと思ってないので、恥ずかしそうにしてる姿もなかなか良い。

 ミリアンは目の保養をすると、気持ちを切り替えた。

「よっしゃー合戦じゃー!」

「お客さんを討伐するぞー」

「「おーっ!」」




*********************************

「ハルカ店長、似合いますね制服!ミリアンさんもお似合いです!」

 朝になり起き出したウォーキングデッドのような人々の群れを抜け店に戻ったハルカとミリアンに、バイト君やバイトさん達は驚きながらも制服を着た二人を褒め称えた。

「お世辞はいいので、ちょっと皆さんにお願いがあるのです」

 ハルカは申し訳なさそうにみんなを見た。

「思ったより長いことお待たせしてるお客さまがいらっしゃるので、店を早めに開けたいんです。もちろん残業代は出すので、是非協力お願い出来ないでしょうか」

「いや、もう掃除も準備も終わってるので、むしろ私たちの方でお願いしたい位です」

 ねえ、みんな?とミリアンの妹ニコルが制服を着た面々を見回す。
 みんなうんうん頷いてくれている。

「ありがとう!本当にありがとう!」

 ハルカはみんなに握手をしながら、賄いにはウナーギ丼にしようと思った。
 デザートにタルトもつけよう。
 だからみんな、ともに討ち死にしよう。
 れっつブラック企業。






「………おい、テン、なんか列が進んでないか?」

 町の外で客の整理をしていたプルは、一緒にいたテンに尋ねた。

「………本当だ。ちょっと確認する………」

 テンが小走りで前の方で進み出したお客さんから話を聞いている。
 戻ったテンは、プルに戻らないと、と告げた。

「………ハルカ達が待ってる人が多いからって早めにオープンした。手伝わないと………」

「あいつ、全然寝てないのに無茶すんなあ。クラインもまだ来てないだろう?」

 そういうプルやテンも仮眠程度しか取れてないので似たり寄ったりである。

「よし、戻って仕事入ってさっさとこの列を捌くか」

 テンは頷くと、看板を列の一番後ろの人に預けてプルを抱き上げた。
 こんなに人目の多いとこでふわふわ飛んで移動するわけにも行かないので、テンが抱えて走った方が早い。

「………楽なんだけど、とっても楽なんだけどさ。
 野郎に横抱きにされて移動するのは、……微妙な気持ちだな」

「………抱き抱えて走る僕の方がもっと微妙………これじゃ誘拐犯か変態……」

「……そうだな。出来る限りのスピードでよろ」

「………りょ」




***************************

(……あれ?何でもう列が進んでるんだ?)

 クラインは早足で店に向かいながら首を傾げた。

 懐中時計を見るとまだ8時にもなってない。

 近くの列にいた親子連れに尋ねたら、どうやら人が多すぎるので早めにオープンしたらしい。

 おい。これじゃまるで遅刻したみたいになるじゃないか俺が。

 クラインは慌ててダッシュするのであった。




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