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オープン直前。
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【ミリアン視点です】
「……王国の創立祭の時以来だわね、こんなに沢山の人を見るのは」
ハルカと仮眠を取るべく、一旦以前のハルカの住んでいた家へ向かおうと外に出ると、丘から門兵のいる高い塀の辺りまで人の絨毯が出来ていた。
そして店の正面から縄が張られてそちらに2列ほどの列が延々と続いている。
イモムシのように寝袋にくるまってる人、テントから出てきて歯を磨いてる人、そばの井戸から水を汲んできて顔を洗っている人もいる。
娯楽がないのよねぇあんまりこの国には。ミリアンは思った。
バルゴのようにイベント的に定期的に祭りを開催して人を集める町もあるが、基本、王国で何かやるとしたら、年に1回冬に行われる創立祭位で、あとは武道会と舞踏会位だ。
それも今年の頭にやる予定だった創立祭は魔物の急激な増加に伴い中止になっていた。
リンダーベルの町の人間以外も物足りなく思っていたのが、ハルカの店のオープンというイベントが出来てテンションが上がってしまった。
お前も行くのか?俺もだ私もよ、みたいな辺りから近隣の町からどんどん人が集まってしまったのだろう。
そして、この光景へと繋がる。
(まあ正直、アタシもこんなに大袈裟な事になるとは考えもしなかったわよ)
確かにハルカの料理は美味しい。
スイーツなんかもう食べるのが勿体ないほど見た目も味も美味しい。
だけどね、移動食堂だって混んではいたけど仲間内の人数で回せる位だったし、クライン達が肉を捕りに行ってようが、アタシが化粧品売ってようが、対応は出来たレベルなんだもの。
ハルカだって甘く見てても仕方ないわよ。
徹夜組なんて誰が出ると思うのよ。
遊園地じゃないのよ?サーカスでもないのよ?レストランとパティスリーなのよ?
どこの世界にオールナイトで焼き菓子包んだり料理作ってもオープンに間に合わないかもって怯える店があるのよ。
ハルカなんて疲労困憊してカタコトしか言えない変な外国人みたいになっちゃってもまだ働くのよ?少しはサボれってのよ。無駄に真面目なのよこのおバカさんは。
まーそういうとこも嫌いじゃないんだけど。
「……ハルカちゃんだ……」
5分ほどの距離にある前の家に戻る道すがら、よく来ていたオッサンと目があった。
「おお、ようやくオープンだな!おい母ちゃん、ハルカちゃんだぞ起きろ」
起こすなオヤジ。オープンはまだ何時間も先だ。
アタシ達は少し寝るんだっつーの。
「……え?オープン?」
周囲に転がっていたジジババから子供達までザワザワし出す。
「やだわまだ3時間ほど後よーお客さんったら。もう少し待っててね」
アタシが周りの人達を宥めていたところ、いつのまにかハルカが幾つだかもよく分からない程のジー様に手を握られぶんぶん振られている。
「わしゃ本当に三度の飯より甘いものが好きでのぅ。
前に食堂で食った時にあまりの美味さに体が震えたんじゃ!
死ぬまでにこんな美味いもんが食えるとは思ってなかったのに、お嬢ちゃんのお陰でもっと美味いもんがあるかもと生きる活力が湧いて来てのぅ。
本当にありがとうありがとう!あと何回食えるか解らんけど、一生の思い出が増やせるよう頑張って通うからの。
……ま、今回は待ってる間に2度ほどお迎え来そうになったがのぅ」
涙を流しながら、ハルカに感謝の気持ちを伝えている。
ハルカもカラクリ人形のようにかくかくと握手をされるたびに首が揺れている。相方なのかまたすごいお年寄りのバー様まで握手を求められている。
……ジジイもババアも速攻であの世から迎えに来て貰うぞ。一年早いも二年早いも変わらないわ。
今のハルカには休息が必要なのに、ヤバいフラグばんばん立てやがって本当にはた迷惑な。
「……ほらハルカ、戻って少し寝ないとダメよ」
イヤな予感だけしかしないけど、一応声をかける。
「……ミリアン、私達寝てる場合じゃなかったわ。戻って早めにオープンさせないとおじーちゃん達にお迎えがっ」
ぜってえ来ねえよ。
何日も野宿出来る体力あんのにオープン前に死ぬわけないっしょ。下手な若者より元気アリアリだっつーの。
ミリアンは心の中で荒ぶっているが、ハルカは結構ジジババに弱い。
そして子供にも弱い。
だからといって若者や中年に強いかというと、ジジババ相手より多少ましかな程度の弱さでしかない。
そして、自分が出来ることで人に喜んで貰えるのが嬉しいと思ってしまうアホである。底抜けのお人好しである。
よくこの子生きてきたわね今まで。
……あ、それでうっかり死んだのよね前世は。
……そーか、それならしゃーない。ベースは変わらないもんねなかなか。
そんなら、親友として今度こそは長生き出来るように面倒見てあげるしかない。
「じゃ、戻るのはいいとして、戻ってシャワーだけは浴びてからにしましょ。着替えもしないと流石に飲食店だからね」
「……そうよね。ばっちいわよね……」
少しでも気持ちを切り替えるくらいしか出来なくてもね。
「……王国の創立祭の時以来だわね、こんなに沢山の人を見るのは」
ハルカと仮眠を取るべく、一旦以前のハルカの住んでいた家へ向かおうと外に出ると、丘から門兵のいる高い塀の辺りまで人の絨毯が出来ていた。
そして店の正面から縄が張られてそちらに2列ほどの列が延々と続いている。
イモムシのように寝袋にくるまってる人、テントから出てきて歯を磨いてる人、そばの井戸から水を汲んできて顔を洗っている人もいる。
娯楽がないのよねぇあんまりこの国には。ミリアンは思った。
バルゴのようにイベント的に定期的に祭りを開催して人を集める町もあるが、基本、王国で何かやるとしたら、年に1回冬に行われる創立祭位で、あとは武道会と舞踏会位だ。
それも今年の頭にやる予定だった創立祭は魔物の急激な増加に伴い中止になっていた。
リンダーベルの町の人間以外も物足りなく思っていたのが、ハルカの店のオープンというイベントが出来てテンションが上がってしまった。
お前も行くのか?俺もだ私もよ、みたいな辺りから近隣の町からどんどん人が集まってしまったのだろう。
そして、この光景へと繋がる。
(まあ正直、アタシもこんなに大袈裟な事になるとは考えもしなかったわよ)
確かにハルカの料理は美味しい。
スイーツなんかもう食べるのが勿体ないほど見た目も味も美味しい。
だけどね、移動食堂だって混んではいたけど仲間内の人数で回せる位だったし、クライン達が肉を捕りに行ってようが、アタシが化粧品売ってようが、対応は出来たレベルなんだもの。
ハルカだって甘く見てても仕方ないわよ。
徹夜組なんて誰が出ると思うのよ。
遊園地じゃないのよ?サーカスでもないのよ?レストランとパティスリーなのよ?
どこの世界にオールナイトで焼き菓子包んだり料理作ってもオープンに間に合わないかもって怯える店があるのよ。
ハルカなんて疲労困憊してカタコトしか言えない変な外国人みたいになっちゃってもまだ働くのよ?少しはサボれってのよ。無駄に真面目なのよこのおバカさんは。
まーそういうとこも嫌いじゃないんだけど。
「……ハルカちゃんだ……」
5分ほどの距離にある前の家に戻る道すがら、よく来ていたオッサンと目があった。
「おお、ようやくオープンだな!おい母ちゃん、ハルカちゃんだぞ起きろ」
起こすなオヤジ。オープンはまだ何時間も先だ。
アタシ達は少し寝るんだっつーの。
「……え?オープン?」
周囲に転がっていたジジババから子供達までザワザワし出す。
「やだわまだ3時間ほど後よーお客さんったら。もう少し待っててね」
アタシが周りの人達を宥めていたところ、いつのまにかハルカが幾つだかもよく分からない程のジー様に手を握られぶんぶん振られている。
「わしゃ本当に三度の飯より甘いものが好きでのぅ。
前に食堂で食った時にあまりの美味さに体が震えたんじゃ!
死ぬまでにこんな美味いもんが食えるとは思ってなかったのに、お嬢ちゃんのお陰でもっと美味いもんがあるかもと生きる活力が湧いて来てのぅ。
本当にありがとうありがとう!あと何回食えるか解らんけど、一生の思い出が増やせるよう頑張って通うからの。
……ま、今回は待ってる間に2度ほどお迎え来そうになったがのぅ」
涙を流しながら、ハルカに感謝の気持ちを伝えている。
ハルカもカラクリ人形のようにかくかくと握手をされるたびに首が揺れている。相方なのかまたすごいお年寄りのバー様まで握手を求められている。
……ジジイもババアも速攻であの世から迎えに来て貰うぞ。一年早いも二年早いも変わらないわ。
今のハルカには休息が必要なのに、ヤバいフラグばんばん立てやがって本当にはた迷惑な。
「……ほらハルカ、戻って少し寝ないとダメよ」
イヤな予感だけしかしないけど、一応声をかける。
「……ミリアン、私達寝てる場合じゃなかったわ。戻って早めにオープンさせないとおじーちゃん達にお迎えがっ」
ぜってえ来ねえよ。
何日も野宿出来る体力あんのにオープン前に死ぬわけないっしょ。下手な若者より元気アリアリだっつーの。
ミリアンは心の中で荒ぶっているが、ハルカは結構ジジババに弱い。
そして子供にも弱い。
だからといって若者や中年に強いかというと、ジジババ相手より多少ましかな程度の弱さでしかない。
そして、自分が出来ることで人に喜んで貰えるのが嬉しいと思ってしまうアホである。底抜けのお人好しである。
よくこの子生きてきたわね今まで。
……あ、それでうっかり死んだのよね前世は。
……そーか、それならしゃーない。ベースは変わらないもんねなかなか。
そんなら、親友として今度こそは長生き出来るように面倒見てあげるしかない。
「じゃ、戻るのはいいとして、戻ってシャワーだけは浴びてからにしましょ。着替えもしないと流石に飲食店だからね」
「……そうよね。ばっちいわよね……」
少しでも気持ちを切り替えるくらいしか出来なくてもね。
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