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オープンまであと2日。

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 私は現在マシンと化している。

 レストランのメニューも決めた。
 パティスリーで出す焼き菓子も生菓子も決めた。パティスリー用の軽食や飲み物なども決めた。
 制服も準備した。器も用意した。


 ……そう、あとはただひたすら料理の下ごしらえをし、ケーキを作り、クッキーやパウンドケーキを焼いていくだけだ。


 バイトさんには、トラちゃんが調理の仕方を教え、ミリアンはパティスリーに働く子達と一緒に無言でクッキーやパウンドケーキの包装を朝から晩まで黙々とこなし。


 それでも。


 それでも不安しかない。


 なぜなら、クラインからレストランとパティスリーに来るために宿を取ったりテントを張ってる人達でリンダーベルが溢れかえっていると聞いてしまったからだ。

 なぜだ。

 なんでワザワザ旅費を使ってまで食べに来ようと言うのか。旅費の方が確実に高くつくではないか。

「いや、だから美味しいモノを食いにだろ?だてに移動食堂で町を回ってないしな」

 町の外なんか、テントとハンモックが先が見えない位広がってるぞ、と言われまさかーハハハッとマユツバでこっそり見に行ったら、ガチで野外フェスかと思うような大量の人とテントのスペシャルコラボが展開されていた。


 いや、そんなに待たれるほどのもんじゃないんですが。マジで止めて下さい。
 ただ町の片隅にオープンするだけのちょっと異世界風味の飯屋とお菓子屋ですよ。

「……きっと誰かお客さんがすげー美味かったとか話盛ったに違いない……」

《いや、実際ハルカの飯は美味いしな?》

「……美味しいよ?……」

「……いやだってさ、ショーユもミソも売るようになってるのに、自宅で作れるでしょ美味しいご飯は?」

 少なくとも塩味オンリーで煮る、焼くからは脱してると思うんだけど。

「まだ出てから日も浅いし、創意工夫には時間もかかるだろ」

「それに味付けだって好みがあんだろ?外食で新しい味つけのやり方も学ぶんじゃね?ハルカも向こうの世界でそうだっただろ?」

 プルちゃんが不思議そうに言う。

 ああ、そうだ。

 確かに、美味しいモノを食べて、これと同じ味つけをしたい!と家で試行錯誤した記憶が甦る。

 
 でもいくら何でもこの人数は多すぎだ。


 私の小心者センサーが反応しまくりである。うむ生まれたてのヤギみたいな足というのはこう言う時に使うのか、などと今更ながらに感心していると、クラインが肩をポンポン、と叩いた。


「……ハルカ、お前は多分、普通の町中の店の1つみたいな呑気な感覚で居ただろ?」

「…………(コクコクコク)」

「マーミヤ商会は……いやハルカはな、既に食べ物のレベルアップを知ってしまった国民の食の女神も同然だ。分かるか?」

「……(フルフルフル)」

「……何を後ずさりしている。
 今までは、移動食堂だったから、いつかうちの町にも来るかもと思って町の人間は待てた。だが、普通に店を開いたら移動食堂はやらんだろう?移動する手間が省けるしな。
 いくら待とうが確実に地元に来ないことが確定だ。
 美味いってもう食べて知ってる店が、移動しないで1つの場所で営業するんだぞ?
 そこに行けば食える、そこに行けば買える。そして自分はそらもう、ものっそい食べたい。さーレッツシンキンッ♪
 ハルカは行くか?行かないか?」

「…………行く」

「はい、よく出来ました。
 そのような人達が宿に集まり、こぼれて町の外まで垂れ流しの状態な訳だよ。
 さあ、ハルカの出来る事は何だ?」

「……ご飯とお菓子を作る……」

「のんのん、『自分史上最上級のスピードで大量に』『限界の更に上を目指して』『記憶に残すな記録を残せ』が抜けてるぞ」

「…………」

 スポーツ選手みたいなこと言われても困る。

 でも、待ってる人達がいるのは確かである。

「……頑張る」

「その意気だ。ちなみに自宅に戻るのはなしだぞ?市場で足りない食材の仕入れをしてもあの家までは少し遠い。オープンまでは帰れないと思え。風呂とベッドは今までの家を使え。近いから」

「……はい……」



…………で現在マシン化しているのである。

ただ、私もしんどいが、みんなも目が血走っている。
 プルちゃんは店で使う皿などを洗い終えると、今度はメニュー書きに入った。

「ハルカーっ、しょうが焼きは入れるんだったかー?」

「入れるよー!親子丼と照り焼き丼もねー!!」

 ポテトサラダの下ごしらえを精霊さんズとやりながら、すぐ横で唐揚げ用のドードー鳥をタレに漬け込んで行く。

「ハルカ、……精霊使いが粗いわ」
「体力がもたないお年頃よ私達」
「少し休憩を……」

「はい口を動かすなら手を動かして。いや、魔法の出し惜しみをせずにぱーっとやってぱーっと」

 今は厨房にはバイトさん立入禁止なのでいくら使ってくれても構わないのだ。

「頑張ってくれると、もれなく私のフランボワーズがつきまーす」

「やるわ」
「働く」
「がんばる」

「これが終わればあとはスイーツゾーンよーーーっ!」

「「「おーーーーっ!」」」


 ごめんよ精霊さんズ。

 私が客商売を甘く見てたばかりに大変な思いをさせてしまっている。

 フランボワーズ以外にシュークリームもつけてあげよう。
 

 流石に魔法を使いまくっても、味つけはしないといけないしバイトさん用に冷蔵庫にはしまわないといけないし、どこに何の材料があるのかメモを書かないといけないし、私もクタクタである。

 そろそろ日付も変わる。

 日付が変わるとあとオープンまで1日だ。


《……すまんがワシはちょっと寝ててもいいかのぅ?》

 ラウールがそばにやって来て私に耳打ちした。

「長老は起きてても今は手伝えないし、思う存分寝てていいわ。明日、材料が足りなくなった時の買い出しはクラインと頼むわよ」

《あいわかった、任せておけ》


 ラウールは厨房の隅っこに丸くなると、すぴすぴ言いながら眠りに入った。


 私も自分史上最高に眠い。
 しかしスイーツを作り終えるまでは眠れない。

 誰だよ店なんかやりたいって言ったの。

 私だ。

 そうか、それなら仕方ない。
 馬車馬のように働こうではないか。



 おとーさんおかーさん、やっぱり人生そんなイージーモードじゃないです。

 


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