異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

文字の大きさ
上 下
47 / 144
連載

オープンまであと2日。

しおりを挟む
 私は現在マシンと化している。

 レストランのメニューも決めた。
 パティスリーで出す焼き菓子も生菓子も決めた。パティスリー用の軽食や飲み物なども決めた。
 制服も準備した。器も用意した。


 ……そう、あとはただひたすら料理の下ごしらえをし、ケーキを作り、クッキーやパウンドケーキを焼いていくだけだ。


 バイトさんには、トラちゃんが調理の仕方を教え、ミリアンはパティスリーに働く子達と一緒に無言でクッキーやパウンドケーキの包装を朝から晩まで黙々とこなし。


 それでも。


 それでも不安しかない。


 なぜなら、クラインからレストランとパティスリーに来るために宿を取ったりテントを張ってる人達でリンダーベルが溢れかえっていると聞いてしまったからだ。

 なぜだ。

 なんでワザワザ旅費を使ってまで食べに来ようと言うのか。旅費の方が確実に高くつくではないか。

「いや、だから美味しいモノを食いにだろ?だてに移動食堂で町を回ってないしな」

 町の外なんか、テントとハンモックが先が見えない位広がってるぞ、と言われまさかーハハハッとマユツバでこっそり見に行ったら、ガチで野外フェスかと思うような大量の人とテントのスペシャルコラボが展開されていた。


 いや、そんなに待たれるほどのもんじゃないんですが。マジで止めて下さい。
 ただ町の片隅にオープンするだけのちょっと異世界風味の飯屋とお菓子屋ですよ。

「……きっと誰かお客さんがすげー美味かったとか話盛ったに違いない……」

《いや、実際ハルカの飯は美味いしな?》

「……美味しいよ?……」

「……いやだってさ、ショーユもミソも売るようになってるのに、自宅で作れるでしょ美味しいご飯は?」

 少なくとも塩味オンリーで煮る、焼くからは脱してると思うんだけど。

「まだ出てから日も浅いし、創意工夫には時間もかかるだろ」

「それに味付けだって好みがあんだろ?外食で新しい味つけのやり方も学ぶんじゃね?ハルカも向こうの世界でそうだっただろ?」

 プルちゃんが不思議そうに言う。

 ああ、そうだ。

 確かに、美味しいモノを食べて、これと同じ味つけをしたい!と家で試行錯誤した記憶が甦る。

 
 でもいくら何でもこの人数は多すぎだ。


 私の小心者センサーが反応しまくりである。うむ生まれたてのヤギみたいな足というのはこう言う時に使うのか、などと今更ながらに感心していると、クラインが肩をポンポン、と叩いた。


「……ハルカ、お前は多分、普通の町中の店の1つみたいな呑気な感覚で居ただろ?」

「…………(コクコクコク)」

「マーミヤ商会は……いやハルカはな、既に食べ物のレベルアップを知ってしまった国民の食の女神も同然だ。分かるか?」

「……(フルフルフル)」

「……何を後ずさりしている。
 今までは、移動食堂だったから、いつかうちの町にも来るかもと思って町の人間は待てた。だが、普通に店を開いたら移動食堂はやらんだろう?移動する手間が省けるしな。
 いくら待とうが確実に地元に来ないことが確定だ。
 美味いってもう食べて知ってる店が、移動しないで1つの場所で営業するんだぞ?
 そこに行けば食える、そこに行けば買える。そして自分はそらもう、ものっそい食べたい。さーレッツシンキンッ♪
 ハルカは行くか?行かないか?」

「…………行く」

「はい、よく出来ました。
 そのような人達が宿に集まり、こぼれて町の外まで垂れ流しの状態な訳だよ。
 さあ、ハルカの出来る事は何だ?」

「……ご飯とお菓子を作る……」

「のんのん、『自分史上最上級のスピードで大量に』『限界の更に上を目指して』『記憶に残すな記録を残せ』が抜けてるぞ」

「…………」

 スポーツ選手みたいなこと言われても困る。

 でも、待ってる人達がいるのは確かである。

「……頑張る」

「その意気だ。ちなみに自宅に戻るのはなしだぞ?市場で足りない食材の仕入れをしてもあの家までは少し遠い。オープンまでは帰れないと思え。風呂とベッドは今までの家を使え。近いから」

「……はい……」



…………で現在マシン化しているのである。

ただ、私もしんどいが、みんなも目が血走っている。
 プルちゃんは店で使う皿などを洗い終えると、今度はメニュー書きに入った。

「ハルカーっ、しょうが焼きは入れるんだったかー?」

「入れるよー!親子丼と照り焼き丼もねー!!」

 ポテトサラダの下ごしらえを精霊さんズとやりながら、すぐ横で唐揚げ用のドードー鳥をタレに漬け込んで行く。

「ハルカ、……精霊使いが粗いわ」
「体力がもたないお年頃よ私達」
「少し休憩を……」

「はい口を動かすなら手を動かして。いや、魔法の出し惜しみをせずにぱーっとやってぱーっと」

 今は厨房にはバイトさん立入禁止なのでいくら使ってくれても構わないのだ。

「頑張ってくれると、もれなく私のフランボワーズがつきまーす」

「やるわ」
「働く」
「がんばる」

「これが終わればあとはスイーツゾーンよーーーっ!」

「「「おーーーーっ!」」」


 ごめんよ精霊さんズ。

 私が客商売を甘く見てたばかりに大変な思いをさせてしまっている。

 フランボワーズ以外にシュークリームもつけてあげよう。
 

 流石に魔法を使いまくっても、味つけはしないといけないしバイトさん用に冷蔵庫にはしまわないといけないし、どこに何の材料があるのかメモを書かないといけないし、私もクタクタである。

 そろそろ日付も変わる。

 日付が変わるとあとオープンまで1日だ。


《……すまんがワシはちょっと寝ててもいいかのぅ?》

 ラウールがそばにやって来て私に耳打ちした。

「長老は起きてても今は手伝えないし、思う存分寝てていいわ。明日、材料が足りなくなった時の買い出しはクラインと頼むわよ」

《あいわかった、任せておけ》


 ラウールは厨房の隅っこに丸くなると、すぴすぴ言いながら眠りに入った。


 私も自分史上最高に眠い。
 しかしスイーツを作り終えるまでは眠れない。

 誰だよ店なんかやりたいって言ったの。

 私だ。

 そうか、それなら仕方ない。
 馬車馬のように働こうではないか。



 おとーさんおかーさん、やっぱり人生そんなイージーモードじゃないです。

 


しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。