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オープンまで3日。
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「ねえクライン?」
「なあクライン…」
「無理ですすみませんほんと勘弁して下さい」
ここはサウザーリン王宮。
先程からクラインは何度同じ言葉を繰返しただろうか。
目の前にいるのは、父ザックと母アゼリア・サウザーリン。国王と王妃である。
そしてそばには兄アルベルトと妻フラン、息子のエンリケ。さらにその隣には次兄ミハイルが立っている。
「私達だってな、マーミヤ食堂で出来立ての熱々を食べたい訳だよ」
「土産は確かに有り難い。本当に嬉しい。だがな、国の愛すべき民と同じ空間で美味しいものを食べて語り合う。これは王族として民の声も聞けるいいチャンスではないか」
「エンリケもしさつに行くー」
「ハハハッ、エンリケは国を大事にするいい王様になれるぞー」
いや、何か綺麗な言い訳並べてるけど、1ミクロンも国のためとか思ってないですよね。エンリケのヨダレをまず拭いてから言え。
俺は糸目になってこの嵐から逃げ切ろうと内心必死である。
お忍びで行きたいとか言われても、警護も困るだろうしオープンして暫くは恐らく人出が物凄いことになる気がする。
並ぶのか?王族がレストランやパティスリーに並ぶのか?
先程、他の町からの旅行者が1日ごとに増えて町の宿が全て埋まってしまい、近くの丘にテントを張り出して全く帰る気配がないと王に報告が入った。
祭?そんなものはない。
ハルカの店のオープン狙いの食いしん坊の群れだ。
まだオープンまで日があると言うのに、土産まで買い損ねたら困ると早目に出てきたようだ。
王宮騎士団の者達も、ダメ元なのかオープン初日に休みを願い出ているのが多数いたが、一気にいなくなられると警備が疎かになるので、くじ引きで選ばせて貰った。
休みが当たった奴は喜びも束の間、魔物に襲われるが如くにメモを持った仲間達の波にさらわれて消えていったが、気にしてる場合ではない。
「ですから、父上も母上も少し国の頂点という自覚を持って頂い」
「当然持っているさ!
だが、私達がハルカの料理を食べてから既に1か月ほど経つのだ。クライン、お前は絶対にもっと頻繁に食っているだろう?それも熱々をだ」
「………いや、まぁ打合せもありますし……」
痛いとこを突いてくるな。
「喧しい!自分だけ美味しいモノを食べといて、親兄弟に我慢しろとか言えた立場か?」
「そうよそうよ!私だってハルカのスイーツ食べたいのよ!」
「そうですわよ!」
アゼリアとフランがいきなり共闘モードに入った。
「絶対にバレないように変装するからっ!この通りだ!食わせてくれ出来立ての熱々を!」
アルベルト兄上は膝をついた。
エンリケまでなんでか一緒にペコペコし出した。
ダメだこいつら絶対に諦めない。
あくまでもダメだししてるとどんなはじけた行動に出るか分からない。
「……分かりました。ぜっっったいに王族だとバレないように来るのであれば構いません。ただし、物凄く混んでると思いますので、下手すると何時間も待つかも知れませんよ?既に徹夜組が出そうな気配すらしますからね」
ほら、長いこと待つぞ諦めろ。
「そんなの苦になるものですか!
メイド長を呼んで頂戴!店に行くための平服の入手とメイクのやり方も確認しなくてはっ!
勿論持ち帰りのお菓子とご飯も大量に買うから護衛も力持ちの人にして貰うわっ」
「お義母様、いきなり大量に購入すると町の皆さんが買えなくなりますわ。
どちらにしろ、城下の様子を確認しがてら何度も伺うと思いますし、今回はほどほどで……」
「あら、そうね私ったら煩悩に負けそうになったわ。そうよね?そうよね?城下の様子を知るのは国を治める王族の務めですわよね、ダーリン?」
「ハニー、君の愛国心には頭が下がるよ。もちろん、私はこれでも賢王と呼ばれているからね。市場調査は己の足で行わないとな」
「父上、流石でございます!
私もそんな父上に負けない王になるべく研鑽したい、かように考えております」
大義名分を得たいがための小芝居を眺めながら、俺は何となく納得してしまった。
……王族がこんなに食い意地張ってるんだから、そらぁ国民も食い物の為にテント張るよなぁ、と。
「なあクライン…」
「無理ですすみませんほんと勘弁して下さい」
ここはサウザーリン王宮。
先程からクラインは何度同じ言葉を繰返しただろうか。
目の前にいるのは、父ザックと母アゼリア・サウザーリン。国王と王妃である。
そしてそばには兄アルベルトと妻フラン、息子のエンリケ。さらにその隣には次兄ミハイルが立っている。
「私達だってな、マーミヤ食堂で出来立ての熱々を食べたい訳だよ」
「土産は確かに有り難い。本当に嬉しい。だがな、国の愛すべき民と同じ空間で美味しいものを食べて語り合う。これは王族として民の声も聞けるいいチャンスではないか」
「エンリケもしさつに行くー」
「ハハハッ、エンリケは国を大事にするいい王様になれるぞー」
いや、何か綺麗な言い訳並べてるけど、1ミクロンも国のためとか思ってないですよね。エンリケのヨダレをまず拭いてから言え。
俺は糸目になってこの嵐から逃げ切ろうと内心必死である。
お忍びで行きたいとか言われても、警護も困るだろうしオープンして暫くは恐らく人出が物凄いことになる気がする。
並ぶのか?王族がレストランやパティスリーに並ぶのか?
先程、他の町からの旅行者が1日ごとに増えて町の宿が全て埋まってしまい、近くの丘にテントを張り出して全く帰る気配がないと王に報告が入った。
祭?そんなものはない。
ハルカの店のオープン狙いの食いしん坊の群れだ。
まだオープンまで日があると言うのに、土産まで買い損ねたら困ると早目に出てきたようだ。
王宮騎士団の者達も、ダメ元なのかオープン初日に休みを願い出ているのが多数いたが、一気にいなくなられると警備が疎かになるので、くじ引きで選ばせて貰った。
休みが当たった奴は喜びも束の間、魔物に襲われるが如くにメモを持った仲間達の波にさらわれて消えていったが、気にしてる場合ではない。
「ですから、父上も母上も少し国の頂点という自覚を持って頂い」
「当然持っているさ!
だが、私達がハルカの料理を食べてから既に1か月ほど経つのだ。クライン、お前は絶対にもっと頻繁に食っているだろう?それも熱々をだ」
「………いや、まぁ打合せもありますし……」
痛いとこを突いてくるな。
「喧しい!自分だけ美味しいモノを食べといて、親兄弟に我慢しろとか言えた立場か?」
「そうよそうよ!私だってハルカのスイーツ食べたいのよ!」
「そうですわよ!」
アゼリアとフランがいきなり共闘モードに入った。
「絶対にバレないように変装するからっ!この通りだ!食わせてくれ出来立ての熱々を!」
アルベルト兄上は膝をついた。
エンリケまでなんでか一緒にペコペコし出した。
ダメだこいつら絶対に諦めない。
あくまでもダメだししてるとどんなはじけた行動に出るか分からない。
「……分かりました。ぜっっったいに王族だとバレないように来るのであれば構いません。ただし、物凄く混んでると思いますので、下手すると何時間も待つかも知れませんよ?既に徹夜組が出そうな気配すらしますからね」
ほら、長いこと待つぞ諦めろ。
「そんなの苦になるものですか!
メイド長を呼んで頂戴!店に行くための平服の入手とメイクのやり方も確認しなくてはっ!
勿論持ち帰りのお菓子とご飯も大量に買うから護衛も力持ちの人にして貰うわっ」
「お義母様、いきなり大量に購入すると町の皆さんが買えなくなりますわ。
どちらにしろ、城下の様子を確認しがてら何度も伺うと思いますし、今回はほどほどで……」
「あら、そうね私ったら煩悩に負けそうになったわ。そうよね?そうよね?城下の様子を知るのは国を治める王族の務めですわよね、ダーリン?」
「ハニー、君の愛国心には頭が下がるよ。もちろん、私はこれでも賢王と呼ばれているからね。市場調査は己の足で行わないとな」
「父上、流石でございます!
私もそんな父上に負けない王になるべく研鑽したい、かように考えております」
大義名分を得たいがための小芝居を眺めながら、俺は何となく納得してしまった。
……王族がこんなに食い意地張ってるんだから、そらぁ国民も食い物の為にテント張るよなぁ、と。
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