異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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ミラクルって起きるんだよね。

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「今回の注文は、と……オーク肉とドードー鳥、いればフライングホーンラビットを。願わくばオーガキング様もねー、だと。全部かっこ大量ってついてる。
 おい奴は少し遠慮がなくなったと思わんかクライン?」


 その他森で取ってきて欲しいキノコなどが書いてあるメモを読みながら、プルはクラインにぶーぶー文句を言っている。

「そう思うが、まぁ割りと前から食い物に関してはハルカは押しは強かっただろうが」

 クラインは笑う。

「……仕方がない。ご飯に必要だから……」

 テンはペンダントをそっと押さえながらコクコク頷く。

「……また八丁堀になれると思うなよ?ランダムだって言ってたから今度は俺だと思うぞ」

 クラインはそんな様子のテンを見てからかう。

「……三味線屋でもいい……」

「まぁまぁ、何が出るかはお楽しみと言うことで。……ほら、居ますよオークの群れが」

 ケルヴィンが口元に人差し指を当て、進行を止める。

 10頭程のオークが草を貪っている。

 ぶっちゃけC級の雑魚である。
 必要はない。
 必要はないのだが、みんなペンダントをポチる。

(あれ、今回は俺様が主水になった。おー、刀とかは自動的に変身した人間に合わせたサイズになるんだな)

(僕はヒデさんのようですね)

(おー、三味線屋の勇次は俺か。よーし弦を投げるぞー)

(……組紐屋……これも格好いい……)

 プル、ケルヴィン、クライン、テンはそれぞれの格好に満足し、オークへ向かって走り出す。


 ぶぉぉぉっ、と荒ぶるオーク達も、元からS級だの魔族の王だの戦い大好きな妖精だのがペンダントで変身して底上げされたスキルでかかってくるのではたまったものではない。
 明らかにオーバーキルである。

 必殺技をむやみに繰り出し、トランペットが鳴り響くなか、瞬殺したオークをいそいそと解体してハルカに時間経過なしにしてもらった携帯アイテムボックスにしまいこみ、変身を解く。

「オークはもういいか。後はドードー鳥はさっき五体ばかり捕まえたし、ラビットは二体か。うーん、もう少し欲しいな」

 クラインは少し考えた後、ケルヴィンに尋ねた。

「あの、淀みが出てる裂け目の近くにオーガキング現れたって聞いたけど、誰か討伐したのか?」

「いや、まだでしたね。僕が辞める迄は誰も」

 ケルヴィンも副ギルマスからギルマスへ昇格したマルコフさんの涙目を耐えきり、無事ギルマスを引退した。

 辞めても人脈のパイプはあるので情報は意外に入って来るようだ。


「じゃ、ラビットも探しがてら、オーガキング様を頂きに行きますかね」

「うむ。次は俺様が三味線屋がいいな」

「その時になってみないと何とも。
 しかし次は誰だろうと思うとちょっとワクワクするよな」

「そうですよねえ!
 ハルカさんて本当に魔力のムダ遣……有効活用してますねえ」

 などとのんびりと歩いていると、前方からピリピリした空気が漂ってくる。

 魔力のレベルからいって、おそらくオーガキングだ。

「いや、雑魚ばかりで必殺技もなんか申し訳なかったし、ようやく本気で戦えそうで良かったですね」

 ケルヴィンの台詞に皆頷きながら、迫りくる気配を察知してペンダントをポチる。

 ジャストタイミングでオーガキングが現れた。何故か二体いる。少し面倒だとクラインが思っていたら、

「おいクライン、お前の格好……でっぷり太ったオッサンだぞ」

「……何だと?」

 よく見ると、腹は出てるし扇子しか武器がない。胸元に《当たり》って書いてあるんだが何だこれは。

「……おい誰だよこのキャラは……?」

「……多分悪代官……」

「悪代官?……いやちょっと待て!……ケルヴィン、お前もなんかきんきらの金持ち風の着物着たオッサンになってるぞ。襟元に《当たり》って書いてある」

「え!?え!?」

「そらぁ多分越後屋だな。ぷぷっ」

 三味線屋の勇次になったプルが口元を押さえるが、笑いが駄々漏れである。

「……主水、主水、……♪」

 一番大好きなキャラになれてご機嫌のテンを恨みがましく見つめながら、

「これが当たりな訳あるかぁぁ!ハルカーー覚えてろよぉぉぉっ!」

 と叫びながら襲ってきたオーガキングの蹴りを横っ飛びで避ける。

 ……おや?いつもより身が軽い。

「クラインさん、このキャラ後衛で使えますよ。小判投げられますよ!」

 きんきらのオッサン……ケルヴィンが小走りでオーガキングの攻撃を避けながら、

「ほーれほーれ、山吹色のお菓子でございますよ~ほっほっほっ」

 と小判を袂から出しては投げている。
 一つ一つは小さいが、確実にオーガキングを斬り付けダメージを与えている。

 視覚的にはこちらのメンタルがダメージを受けるが、いってこいでチャラだ。
 あの台詞は自家製か。意外と役に成りきるタイプなのかケルヴィンは。

 クラインも扇子を見つめる。
 すると、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべ、勝手に台詞が自分から転がり出てきた。
 
「 はびこる悪は絶える事なし。ワシもワルよのう」

 細めた目をオーガキングに向けると、手が勝手に扇子を開き、弧を描くように投げた。

 シュルシュルっと風斬り音をさせ、オーガキングの一体の首をはね飛ばした。
 またシュルシュルっと戻ってきた扇子をパシッと手でつかみ、パチン、と閉じる。

(……これは見た目はアレだが、使える、のか?)

 いや確かに使えはする。

 でも使えるからといって腹のでたオッサンに変身して戦いたいかと聞かれたら答えはノーだ。

 残りの一体はプルがトランペットの音を響かせとどめを指していた。

「ケルヴィン……当たり……なのだろうか……コレは……」

 小判を地味に回収しながら戻ってきたケルヴィンにすがるような目を向けた。

「……多分、強化は他のキャラよりされてるとは、思うんですけどね……動きも楽ですし。……ただ成金のオッサン仕様なのを除けば雑魚の討伐とか、めちゃ楽だとは、思いますけど……」

「……ハルカめ、自分が責められない微妙なラインナップぶちこんで来やがった」


「……彼女のいたニホンという世界では強いオッサンというのがデフォルトなのでは?だから悪党も強い、と」

「……そういえば主水たちもオッサンだしな……」

 解体をしているプル達を見ながら、ちょっとハルカに厳しすぎる意見だったかと考え直す。

「悪気はなかったんじゃないですかねぇ……?」

「そうだな……うむ、ハルカは強化のためにペンダント作ってくれてるしな。悪意があるならそもそもこんなペンダントも作らないよな」

 クラインは太鼓腹をぽむっ、と叩く。


 まさか改造される前は「こいつはうっかりだ!」しか言わない転ぶのと団子を出すだけのうっかり八兵衛と、「あーれー」と帯を解かれてくるくる回るだけだった腰元のハズレ変身だったとは露知らず、クラインもケルヴィンも普通に受け入れてしまった。


 そして、大きな成果を持って新居へ戻ってきた時に、ハルカへ当たり変身をしたことと、見た目はアレだが強さに感謝した。

 ハルカは、

「……まさか、両方同じタイミングで変身したの?」

 と呆然とした。

(なんてレアな……なぜ一緒に行かなかった自分!)

 歯噛みしたくなるような気持ちを抑えているハルカに追い討ちをかけるように、

「小判投げも綺麗で良かったですよ」

 などとケルヴィンがのたまった。

「扇子ブーメランも威力が凄かったな」

 クラインは頷く。


 二人は感謝の意味で言ってくれてるのだが、レア変身は見られなかった上に、笑いを取ろうとして大スベりした気持ちにさせられ、身の置き所がないハルカに気づくことはなかった。




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