42 / 144
連載
ゆるゆると1日は過ぎ。
しおりを挟む
ようやくハルカ念願の無職である。
「無職♪無職♪」
いや、こう言うと少々語弊がある。
冒険者ではなくなった、と言うのが正しい。
これで店がスタートすると、オーナー兼シェフ兼マーミヤ商会会長という兼ねすぎじゃないかという専門職まみれな人にジョブチェンジするので、あくまでも一時的な無職モードなのである。
最後の討伐は、日本ではGと呼ばれる台所によく現れる、黒光りしたアレのような色のムカデもどきのバルタンを殲滅してまた口座残高が増えたのだが、それ以前に調味料の売れ行きが絶好調なので、だんだんと見る口座がふざけた桁数の金額になっているので、ちょっと怖いのである。
先日、家や店舗の改装代金で750万ドラン(7500万円)ほど払っているので、持ち金は800万ドランほどだった筈だが、バルタン討伐のお金を入れに行ったら、また口座の金額が1000万ドランを超えていた。
本当にこの国、調味料欲しかったんだなぁ、とハルカはしみじみと思った。
しかし何しろハルカはバイトに勤しむ苦学生だったのだ。
あちらの世界では大金なんて持ちなれてる筈もないので、口座の金額が既によそ様のお財布みたいな感じなのである。
むしろこんな異世界知らずの若者に大金持たせてパーっと使ってしまったらどうするんだと不安すらある。
まあパーっと使うのは家と店の購入でやってしまったが、別にギャンブルとか酒とかではないのだ。先々の自分と仲間達との足場でもあるので、無駄遣いではない。
いやでもこの若さで家とか店とか、贅沢には変わりはないな。
恐らくケルヴィンが売上げを騙して懐に入れててもハルカは全く気づかないのだが、彼も日々好きな仕事が出来て、美味しいものが食べられればそれで満足という、誰かさんとよく似たキャラクターなので、きっと馬鹿正直に税金や経費を抜いてせっせと振り込んでくれているのであろう。
ケチャップとソースも量産体制が整い発売の目処が立ったし、メンツユも併せて発売することになった。
また口座の金額が増えていくのだろう。
ところでメンツユは恐ろしく便利なのである。
何しろ砂糖を加えたらそれだけで煮魚も野菜の煮物もお手の物なのだ。まあだしが入った醤油みたいなもんだから、皆さんも扱いやすいであろう。
魚とかは臭みとりに生姜や日本酒を入れた方がいいが、今までのこの国の調味料事情だと、魚は塩を振って焼く、塩味のスープに放り込むしかなかったのだ。
しかしこの国の人々は、食堂やってても感じるが、みんな美味しいものが大好きな食いしん坊が多い。
それなのになんで『もっと他の味つけでより美味しく食べたい!』と思わなかったのだろう。塩、砂糖、胡椒、ハチミツだけで料理のレパートリーはなかなか増えまい。
日本の調味料を生み出した皆さまを見習いたまえ。
だんだん調味料が増えていく。
これで家庭でもお店でも美味しいご飯が食べられる筈だ。
着々と【サウザーリン王国の食文化の発展計画】は進んでいるのである。
「トラちゃん、ちょっと来て」
ネット通販を出してもらい、食器を各店舗用に購入することにした。
レストランには色とりどりの皿やボウルを購入し、パティスリーはシンプルに白をメインに揃えた。
そして、制服である。
レストランは特にこだわりはないので、黒いシャツとパンツに同じく黒の腰エプロンだが、パティスリーは違う。
フリフリの乙女チックな黒のワンピースにフリルのついたエプロン。同じくフリフリのヘッドドレス。
そう、メイドカフェとかで
「お帰りなさいませご主人様」
のアレである。男性は、白シャツ黒ベスト黒パンツに細身のネクタイ。冬場用に燕尾服みたいなジャケットもご用意しますよ喜んで。
女の子はもふもふのフードつきの赤いコートとかで赤ずきん風にしてもいいが、多分仕事がやりづらいだろうからおいおい相談しよう。
自分にはとても似合わないのでフリフリ系は辛いが、可愛い子が多いこの国では眼福この上ないはずだ。
シャイナさん……たまーにでいいから店の看板娘してくれないかなあ。
子供達はまだ抵抗出来る強さもないし、あれだけ可愛いと誘拐待ったなしだから却下だ。
「トラちゃんはどっち着るー?執事服とメイド服。レストランの方もあるけど」
ハルカはみんなの希望を聞くためにお試しで購入した制服を広げて見せた。
『個人的にはパティスリーの方がいいですね。可愛らしいのでメイド服を』
サラサラと紙にペンで書きながら、トラちゃんがコクコクする。
「ずっと聞きたかったんだけど、トラちゃん女の子なの?男の子なの?」
『作り物なのでどちらでもありません。お陰様で気に入った服はどちらも着られます。洋服は可愛いのも格好いいのも好きでございます。ハルカ様のお陰で楽しい生活が出来てワタクシ大変感謝しております』
「これ土下座はやめんか。私が越後屋みたいじゃないか」
手足が短いので土下座というより五体投地みたいになるトラを慌ててハルカが止めた。
「トラちゃんはメイド服、と。後は晩ごはんの時にみんなに聞いてみようかな」
討伐してオークやらドードー鳥やら色々捕獲してきてもらわないと行けないし(まだ肉関連の在庫は沢山あるけど、高級食材の方が多いのよね)、色々とやらないといけない事が山積みである。
引っ越ししたら家財道具もトラから買わないといけない。今買うと荷物になるので、ほぼ荷物らしい荷物はなんもないので、自分は明日から引っ越しと言われても問題ない。
ケルヴィンやクライン、ミリアンはずっとこの国で生活していたのでそれなりの荷物があるだろう。どのくらいまとめるのにかかるんだろうか。
(……あ、私とかプルちゃんやシャイナさん達が先に引っ越ししとけばいいのか。待ってる時間が勿体ないし)
そうだそうしよう。
とりあえずそろそろご飯の支度をしないと。
傾いてきた陽を眺め、今夜はカツカレーにしようかなー、と呟きながらハルカはトラを連れてキッチンに向かうのであった。
「無職♪無職♪」
いや、こう言うと少々語弊がある。
冒険者ではなくなった、と言うのが正しい。
これで店がスタートすると、オーナー兼シェフ兼マーミヤ商会会長という兼ねすぎじゃないかという専門職まみれな人にジョブチェンジするので、あくまでも一時的な無職モードなのである。
最後の討伐は、日本ではGと呼ばれる台所によく現れる、黒光りしたアレのような色のムカデもどきのバルタンを殲滅してまた口座残高が増えたのだが、それ以前に調味料の売れ行きが絶好調なので、だんだんと見る口座がふざけた桁数の金額になっているので、ちょっと怖いのである。
先日、家や店舗の改装代金で750万ドラン(7500万円)ほど払っているので、持ち金は800万ドランほどだった筈だが、バルタン討伐のお金を入れに行ったら、また口座の金額が1000万ドランを超えていた。
本当にこの国、調味料欲しかったんだなぁ、とハルカはしみじみと思った。
しかし何しろハルカはバイトに勤しむ苦学生だったのだ。
あちらの世界では大金なんて持ちなれてる筈もないので、口座の金額が既によそ様のお財布みたいな感じなのである。
むしろこんな異世界知らずの若者に大金持たせてパーっと使ってしまったらどうするんだと不安すらある。
まあパーっと使うのは家と店の購入でやってしまったが、別にギャンブルとか酒とかではないのだ。先々の自分と仲間達との足場でもあるので、無駄遣いではない。
いやでもこの若さで家とか店とか、贅沢には変わりはないな。
恐らくケルヴィンが売上げを騙して懐に入れててもハルカは全く気づかないのだが、彼も日々好きな仕事が出来て、美味しいものが食べられればそれで満足という、誰かさんとよく似たキャラクターなので、きっと馬鹿正直に税金や経費を抜いてせっせと振り込んでくれているのであろう。
ケチャップとソースも量産体制が整い発売の目処が立ったし、メンツユも併せて発売することになった。
また口座の金額が増えていくのだろう。
ところでメンツユは恐ろしく便利なのである。
何しろ砂糖を加えたらそれだけで煮魚も野菜の煮物もお手の物なのだ。まあだしが入った醤油みたいなもんだから、皆さんも扱いやすいであろう。
魚とかは臭みとりに生姜や日本酒を入れた方がいいが、今までのこの国の調味料事情だと、魚は塩を振って焼く、塩味のスープに放り込むしかなかったのだ。
しかしこの国の人々は、食堂やってても感じるが、みんな美味しいものが大好きな食いしん坊が多い。
それなのになんで『もっと他の味つけでより美味しく食べたい!』と思わなかったのだろう。塩、砂糖、胡椒、ハチミツだけで料理のレパートリーはなかなか増えまい。
日本の調味料を生み出した皆さまを見習いたまえ。
だんだん調味料が増えていく。
これで家庭でもお店でも美味しいご飯が食べられる筈だ。
着々と【サウザーリン王国の食文化の発展計画】は進んでいるのである。
「トラちゃん、ちょっと来て」
ネット通販を出してもらい、食器を各店舗用に購入することにした。
レストランには色とりどりの皿やボウルを購入し、パティスリーはシンプルに白をメインに揃えた。
そして、制服である。
レストランは特にこだわりはないので、黒いシャツとパンツに同じく黒の腰エプロンだが、パティスリーは違う。
フリフリの乙女チックな黒のワンピースにフリルのついたエプロン。同じくフリフリのヘッドドレス。
そう、メイドカフェとかで
「お帰りなさいませご主人様」
のアレである。男性は、白シャツ黒ベスト黒パンツに細身のネクタイ。冬場用に燕尾服みたいなジャケットもご用意しますよ喜んで。
女の子はもふもふのフードつきの赤いコートとかで赤ずきん風にしてもいいが、多分仕事がやりづらいだろうからおいおい相談しよう。
自分にはとても似合わないのでフリフリ系は辛いが、可愛い子が多いこの国では眼福この上ないはずだ。
シャイナさん……たまーにでいいから店の看板娘してくれないかなあ。
子供達はまだ抵抗出来る強さもないし、あれだけ可愛いと誘拐待ったなしだから却下だ。
「トラちゃんはどっち着るー?執事服とメイド服。レストランの方もあるけど」
ハルカはみんなの希望を聞くためにお試しで購入した制服を広げて見せた。
『個人的にはパティスリーの方がいいですね。可愛らしいのでメイド服を』
サラサラと紙にペンで書きながら、トラちゃんがコクコクする。
「ずっと聞きたかったんだけど、トラちゃん女の子なの?男の子なの?」
『作り物なのでどちらでもありません。お陰様で気に入った服はどちらも着られます。洋服は可愛いのも格好いいのも好きでございます。ハルカ様のお陰で楽しい生活が出来てワタクシ大変感謝しております』
「これ土下座はやめんか。私が越後屋みたいじゃないか」
手足が短いので土下座というより五体投地みたいになるトラを慌ててハルカが止めた。
「トラちゃんはメイド服、と。後は晩ごはんの時にみんなに聞いてみようかな」
討伐してオークやらドードー鳥やら色々捕獲してきてもらわないと行けないし(まだ肉関連の在庫は沢山あるけど、高級食材の方が多いのよね)、色々とやらないといけない事が山積みである。
引っ越ししたら家財道具もトラから買わないといけない。今買うと荷物になるので、ほぼ荷物らしい荷物はなんもないので、自分は明日から引っ越しと言われても問題ない。
ケルヴィンやクライン、ミリアンはずっとこの国で生活していたのでそれなりの荷物があるだろう。どのくらいまとめるのにかかるんだろうか。
(……あ、私とかプルちゃんやシャイナさん達が先に引っ越ししとけばいいのか。待ってる時間が勿体ないし)
そうだそうしよう。
とりあえずそろそろご飯の支度をしないと。
傾いてきた陽を眺め、今夜はカツカレーにしようかなー、と呟きながらハルカはトラを連れてキッチンに向かうのであった。
15
お気に入りに追加
6,101
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。