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マイホーム、店舗が完成だ!
しおりを挟む私は、心の底から感動していた。
(お父さん、お母さん。ハルカはついにやりました!
念願のマイホームですよ。自分で稼いだお金で作ったんですよ。すごいでしょ!
その上、レストランとパティスリー(食堂でいいと言ったらミリアンに響きがオサレじゃないと怒られた。まあ隣にパティスリーあるのに食堂はあれかなーとは思ってたけど)まで開けるほど成り上がりました。
この世界の友だちの協力があったからこんなに早く自分の城が持てたのよ。
とりあえずあの世で安心して下さい。
みんな優しくていい人達と人じゃないけどいい子達に恵まれてますから)
パンパン、と空に向かって拝む。
職人の皆さまの働きで、10LDKという日本では超お金持ちが住むような広さの家は、人海戦術でなんと3週間で完成した。
最初は確か10人20人程度だった筈なのだが、毎日昼ごはんを差し入れ持っていくようになってから、何故かどんどん職人さんが増えていき、最終的に50人以上のプロがとっかんとっかんやっていらっさいました。そらあ完成も早まります。
日々増えるお弁当を持っていくのは結構大変でしたが。
完成の連絡が来て、馬車でみんなでウキウキと見に行った。
まずはマイホーム。
森を背に広い敷地に建つ2階建てのログハウス調の建物。
うん、いい感じだ。
敷地の平地、丘陵部分は、乳牛や馬(はもうハチベエ達がいるけど)や豚(的な生き物)を先々飼う予定という話をしていたので柵を作ってくれていた。
柵の中、家から少し離れたところには、簡易的だがケルヴィンさんの研究施設と工場にする予定の大きな長方形の建物がある。
さらに少し離れたところには馬や牛などが雨露をしのげる厩舎まで出来ていた。
ケルヴィンさんは広い研究施設と工場に大興奮である。
そして、木の匂いが漂うログハウス調の家に入ると、まずはエントランス部分が広がる。
すぐ突き当たりの扉を開くとシアタールーム。はす向かいには30畳はありそうなリビングダイニングが開放感ある広々とした作りで存在し、大きな窓がいくつもついていて、気持ちいい位の明るさである。
この国、ガラスはあるんですよ。
ただアルミサッシとか当然ないので木枠にはまってて、上にスライドして開けるのだ。海外の古い建物みたいな感じで趣がある。
そしてリビングの奥にはキッチンである。私の城。
作業がしやすいので、こちらの世界では珍しい、というかまずないアイランドキッチンタイプにしてもらった。
憧れてましたしねえ。料理もしやすいしすぐダイニングに運べる。
キッチンの後ろ側には食料や調味料の保管庫がある。私が居ないときや作れない時には誰かが料理を作ったりする場合もあるので、私のアイテムボックスに入れたままと言うのも都合が悪い。
そしてリビングやキッチンと廊下を挟んで向かいには、私の部屋とシャイナさん+子供達の部屋があり、廊下の突き当たりの部分には男女の風呂場。そしてトイレ。
勿論お風呂は蛇口に魔石を使い、お湯も水もばっちり出るのである。
トラちゃんのネット通販で風呂グッズも買い込んである。風呂好きの私に死角はない。
シャンプーにトリートメント、温泉の素も沢山買ったぞ。
みんなにも是非あの気持ちよさを味わって貰いたい。
日本人は風呂に傾ける情熱が半端ないのだ。1日の疲れを取る魅惑の癒し空間だもの。
(……あ、シャンプーやトリートメントも多分売れるよなあ。こっちの人は基本石鹸だし)
ハルカは最初の頃髪の毛がバリバリになって泣きたくなった記憶が蘇る。
(温泉の湯もケルヴィンさんに相談してみよう)
私も商売人的な物の考え方をするようになったわー。
……でも、日本の商品て大概便利だし売れるのは解ってるんだけど、こっちに存在する材料で作らないといけないから、簡単にホイホイと売るわけにもいかないのよね。
まー販売を考えると楽はしちゃいけないよね。
トラちゃんのネット通販で「○○の作り方」なる本を何冊買って読んだだろうか。醤油、味噌に始まり調味料全般、食品の作り方や欲しい作物の育て方、など多岐に渡る。
あっちでは仕事も決まり、後は大学を卒業するだけだったのに、またこんなに学習漬けになるとは。
それも細かく要点をまとめてメモしている。ケルヴィンさんには日本語が読めないからだ。自分の作って欲しいモノを自分がきちんと説明出来なければ当然相手に伝わるはずもない。
現在の生活は、私史上最高に頭を使っているといっても過言ではない。
それもこれも、最終的には自己目的のためである。人間、必要であれば知識は結構詰め込めるものである。
えらいぞ私。がんばってるぞ私。
誉めて伸びるタイプなので疲れが出てくると自分を誉めて甘やかす事にしている。そうだ今日はレアチーズケーキを食べよう。そうしよう。
閑話休題。
さて、2階は階段を上がった両側に2部屋ずつ、廊下を挟んで4部屋あり、突き当たりの奥には細々したモノをしまっておける納戸のような部屋も用意した。
プルちゃんは、トラちゃんと一緒の部屋でいいとのこと。そんなに荷物もないし、広すぎて困ると。
そうそう、みんな個室は10畳くらいでトイレと洗面所は各部屋完備である。
4畳半か6畳と言う生活が基本だった私にも実は広いのだが、本も増える一方だし、こちらの世界では割りと一部屋一部屋の作りが大きいのでそれに合わせたところもある。
ベースの作りは同じなので、好きな部屋を選んでもらったが、階段を上がって右の2部屋がプルちゃん+トラちゃん、テンちゃんの部屋。左側の2部屋がクラインとケルヴィンさんの部屋になった。奥向かいの4部屋の右端がミリアンだ。
3部屋余るが、客間としても使えるし、万が一シャイナさん達のようにうっかり身内が増えた時にも利用可能である。
私達は住みやすそうな造りにすっかり満足し、そのまま店舗の状態も確認しに行く。
私の店は、メインストリートの外れ、つまりは商店街のはしっこの目立たないところにある。
はずなのだが。
なんだかとても人だかりが出来ている。
「……え?え?何?」
私達は恐る恐る店舗の方を覗き込む。
「ここがマーミヤ食堂とマーミヤ商会が経営するお菓子屋になるってのは本当に本当なのかい?」
見たことある市場のおばちゃんが職人に詰め寄っている。
「だから本当ですって!俺たちも出来るだけ早くオープンしてもらいたくて急いだんですから」
ゴツいおっさん職人がふん、と鼻息を荒くする。
「いつからだ?おい、うちのカミさんに聞いてこいって言われてるんだよ」
「俺らは店を調えるまでが仕事ですから、オープンする日はマーミヤ商会が決める事なんでねぇ」
「うちのパーティであの美味い弁当持ってった時は、皆パワー全開で討伐も楽勝だったんだよ。また持ってきたいんだよっ」
「うちの子、一月後の誕生日に前に移動食堂で買ったショートケーキをまた食べたいって大騒ぎなのよ。そのお菓子屋で売ってくれるかしら?」
前に通ってくれたお客さんやら、市場のおっちゃんおばちゃん達が、店の前で職人さんとあーだこーだ言っとります。
「とりあえず撤退しますどーぞ」
「らじゃ」
気づかれないようにズリズリと後ろに下がった時に、市場のおっちゃんと目が合ってしまった。
「ハルカちゃん!」
大声出すなおっさん。皆に気づかれたやないかい。
「ハルカちゃんいつオープン?何時から何時?お休みはいつ?」
「弁当はいつからやるんだい?」
「ショートケーキをショートケーキを」
集まった集団に矢継ぎ早の質問をされ、目を白黒させていると、ケルヴィンさんが前に出て、
「はーい、皆さん、お店の状態見ないとオープンも決められないですからね。
ちゃんと日程決まったら表にお知らせの看板出しときますから見といて下さいねー。
さ、ハルカさん行きますよ」
キッパリした冒険者ギルドのギルマス(退職予定)の言動に、安心したのか「よろしくね」「早めにな」と言いながら集団は散っていく。
「ケルヴィンさん流石です。助かりました」
「まぁそれだけ楽しみにしてるんだと思いますよ。さ、入りましょうか」
落ち着いたところでみんなが馬車から出てきて合流してきた。
「あれはお客さんだったのか。俺様てっきり反対する市場の飯屋関係かと……」
「……僕も……市場のお客さん流れて来ちゃうから……」
「だよなぁ。みんなオープン楽しみにしてたんだな」
「いや、それは有り難いんだけどね。
どんどん食べてうちの味を盗む位の気持ちで居てくれるといいんだけど」
ただ食べられるだけじゃ食の発展など夢のまた夢ではないか。
何のために調味料を開発して売り出してると思ってるのだ。
料理人や家庭を守る母親(父親でもいいけど)に、ぐんぐん腕を上げて頂いて、こちらに閑古鳥が鳴く位がベスト。調味料とか他の商品開発に集中出来るのよ。
そしたらこの店も調味料とか化粧水とかの商品販売の店にくら替えしちゃえばいい。パティスリーは多分同レベルを作るのは、きっとかなり時間がかかると思うから当分は営業予定だけど。
考えてみたら商業ギルドにマージンも払わなくて済むし、より値段も下げられるかも知れない。
いかん。今は店舗の確認だ。
まず外観。
パティスリーの方は、ウッドデッキもついたイートイン出来る仕様になっていて、外のウッドデッキがミニテーブル3つ、店の中にはスツールのついたカウンターとテーブルが6つある。中30人、外のウッドデッキに6人ほどが利用可能だ。私の希望したペンキなどを塗らないシンプルな木目を活かした造り。
そして広々としたキッチンとオーダーメイドした日本のケーキ屋に近いショーケース。水魔法を魔石に込めたものを3つ使い、冷蔵出来るようにしている。傷んだら大変だし。
キッチンにもでっかい金属のケースを作ってもらった。こちらは冷凍と冷蔵を分けて保存できる。
こちらは魔石それぞれ2つずつ。
魔石に込める水魔法の強弱で調整出来るように私も地道に練習したのだ。厳しかったけど精霊さんズ。
あの子達、スイーツには弱いけど自分の仕事には容赦ない。
焼き菓子も売れるように壁に沿って商品棚も作ってもらった。
おっけー、とってもブラボーです!
さて、食堂もといレストランだが、こちらはもともと飲食店だったせいか、店もパティスリーより広い。テーブル席も大小含めて60席はある。席と席の感覚もゆとりがある。
しかし、こんなにお客さん入るんですかちょっと。食堂はテーブル6つで24人でひーひーいってましたけども。
バイトの確認を急がねば。本当に満員になったら皆が死ぬかも知れない。
いや私は確実に死ぬ。料理人が私しかいないんだぞ。
いや、そろそろ信頼できそうなのが入ったら、普通に調理できるやり方を教えるのもいいかも知れない。
魔法使って調理できる人なんてほぼいないし、転生者のチート能力だから、よく解らない不特定多数の人間に知られるのは困るんだよね。そこが問題か。
レストランの厨房にもちゃんと冷凍庫と冷蔵庫を作ってもらったので、後で魔石に水魔法の魔力を込めとかないと。
レストランもパティスリーに合わせた姉妹店のように木目調の落ち着いた店である。
そして頼んでなかったと思うが、レジカウンターの横にガラスのないショーケースっぽい棚も出来ている。
そう、お弁当とかを積んで売るには丁度良さげな。
……職人さん達、絶対に弁当売らせたいんだな。売らせるつもりだろおい。
早起きしないといけないじゃないですか。
無意識なのか計算ずくなのか判断に迷うところである。
そして、私は人の期待をあまり裏切りたくないタイプである。
きっとここに弁当を載せて売ることになるに違いない。
ダメだ。本当にバイトさんが来ないと身動きとれないぞ。
職人さん達にお礼の焼き菓子を渡して今住んでる家に戻ってきた私達は、晩ごはんを食べながらも、家の引っ越し日程に、バイトさん確保や店のメニュー、仕入れ先など夜遅くまで開店まに必要な打ち合わせをしながら頭を抱え、少しため息をつくのであった。
そして引退まで1週間となった時、冒険者として最後の国の依頼までがやって来たのであった。
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