上 下
37 / 144
連載

ヴェルサス討伐【前編】

しおりを挟む
島の中央に位置する山の麓にその鍾乳洞の入口はあった。


 それほど高くもなく、私が住んでいた東京近辺だと、高尾山ぐらいの標高(約600メートル程度)に見えるが、大昔は噴火した事もあるとの事だったので、休火山なのだろうか。
 
「ごめんね、俺は商売関係の勉強ばっかりで剣なんか訓練まったくやってないからさあ。魔物とかほんと無理。申し訳ない」

「いや別に大丈夫ですよ。私達のパーティ割りと強いので」

「「「……割りと?」」」

 激強とか言える訳なかろうが。アホか君ら。

 一応鍾乳洞マップというのがあってマルセルさんから貰ったが、二股に分かれた道の左側の大きな空間の方に赤いバツ印がついていた。

「右側の方はヴェルサスいない方な。
 多分2週間以上前に左側の道は立入禁止になってたから、卵を持ってった人は右側の方に行ったと思うよ」

「ありがとうございます。上手く捕獲出来たら村の皆さんにもお分けしますね」

「いや、そんな高級品分けて貰ってもさ、村のみんな美味しく料理出来るか分からねえから、出来たらもう一度だけレストランでヴェルサス肉を使って料理作って欲しいんだよな。頼むよこの通り!」

「あーそうですねぇ。分かりました。美味しいお肉頂きましょう!」


 マルセルさんに手を振り鍾乳洞の中へ入る。中はひんやりして涼しくて、みんなでてろてろと歩いてると、本当に観光に来たみたいで何となく和みますねえ。


《どうでもいいが、ハルカは太っ腹だな》

「……へ?なんで?」

《いや、ヴェルサスだかの肉も、別に村の人間にあげる必要はないじゃろ?料理だって、捕ってきてなんで飯まで作ってやるんじゃ?
 ハルカ達が捕獲するだけで、別に協力してくれる訳でもないじゃろうが》

 ああ、そういう意味ね、と私は笑った。

「まあリサーチも兼ねてるから」

《リサーチとはなんだ?》

「私達、お店でご飯を出すじゃない?
 で、この味付けは好評だったとか、少しピリ辛な方が大人はよく食べてたとかね、そういう人の好む味を追求してくと、よりお客さん来てくれるでしょ?
 まぁそんな情報をたくさん集める感じですかね」

《ほう。そうかアレじゃな!あの森の果実は甘いとか、この山は魔物が少なくて暮らしやすいとか、そんな話を聞きためていく感じだの》

 ラウールがうむうむと頷く。

「…………それもあるだろうが、ハルカはそこまで細かい事は考えてないと思うぞ」

「そうよねぇ、単に皆で食べたことない美味しいお肉を食べれるねーわーい幸せねー、村の皆さんも元気になればいいよねー、のついでにリサーチ思い付いただけよ。優先度からいうとかなり下よ下」

「ミリアン……ひどい!私だって色々考えてるのよ?」

「じゃあ言ってみなさいよ。S級の魔物の肉はとぉっても高額なのよ。ヴェルサスが美味しかったとして、それを不特定多数の人間に振る舞うなんて、普通に大赤字よね?
 まあ実際にうちの店の限定メニューとして入れるとして、リンダーベルの貴族位しか食べられない位の高級メニューになると思うんだけど、そのリサーチを一般人にしても意味がないと思わない?
 ソコのところはどう考えてるのかしらハルカは?」

「……むむむっ」

 返す言葉がない。

「へいハルカー、オーライオーライ、本音オーラ~イ」

 プルちゃんまで。

「……美味しいものは正義。美味しいものを食べたいと思う気持ちも正義。私は正義の味方です!」

「素直に最初からそう言えばミリアンにからかわれなかったんですよ。
 悪いけどここにいる人達はみんなハルカさんの思考パターン読めますよ。食べ物関係だけですけどね」

 ケルヴィンさんがポンポン、と肩を叩いた。

「……ハルカ、心配ない。食べ物のことでなければ僕らは良く分からないから。…………でも、食べ物以外の考え事してるハルカは……あれ……いつ……」

「…………テンちゃん、傷口がぐりぐり広がる一方だからフォローはいらないわありがとう」

「分かれ道来たぞ。とりあえず右行くぞ。卵返してからヴェルサス捕獲に行かないと卵が危ないからな」

 クラインが先導して進む間に、私は思い出して精霊さんズを呼び出す。

「なになにハルカー、オヤツ?」
「なにここ洞窟ー?」
「みんな揃ってるのねー」

「オヤツはまた今度ね。あのペンダントの件なんだけど……」

 マヒ系の毒や魔法は無効化されるのか確認するか、

「……多分、大丈夫よ、ねぇ?」
「あまりマヒ系の魔物は多くないからねぇ。大丈夫よ、きっと。ほら、なんたって即死魔法を無効化するんだから」
「そーそー、それにマヒじゃ死なないし大丈夫じゃない?」

 今度はパウンドケーキちょうだいねー、とフワフワ精霊さんズは消えていった。

 こんなに安心できない「大丈夫」を言われたのは初めてである。


「……分かったわ。みんな、ヤバそうならアレ使ってちょうだい。マヒ系は不安しかない」

「「「…………」」」

 まだウル●ラマンスーツのこと根に持ってるわね。

「今回はパツパツのシルバーツナギじゃないから安心して!」

「ハルカさんの「安心して」もちっとも安心出来ない……」

 ケルヴィンがため息をつくと、ラウールが鼻をフスフス鳴らした。

《……おい、なんかピクサードラゴンの気配がするぞ》

 ラウールの声に慌てて辺りを見渡すと、奥の岩場から銀色のウロコが綺麗なちんまい丸みのあるドラゴンが恐る恐るといった風情で覗いている。赤い眼がテンちゃんみたいでまた綺麗である。
 

(……あれがママなのかしら?ちょっと可愛すぎるでしょ!)


 私は身悶えした。クラインやケルヴィンさん、ミリアンもツボったようで、うつむきがちに「あれは卑怯だ……」「お持ち帰りしたい……」「可愛いすぎる。視覚テロか」とぶつぶつ言っていた。


「あのーピクサードラゴンさーんですかー、綺麗な石と間違えて持って帰っちゃったお兄さんから卵を預かってるのでお返ししたいんですー」

『……まあ、私の赤ちゃん、連れてきてくれたの?』

 話通じるんだ。良かった。
 いや、と思ったら私がチートなだけか。みんなには何かぎゃおぎゃお言ってるな、と首をひねられてる。

 さすが全自動翻訳機能が初期装備(デフォルト)なだけあるわね。人と精霊と聖獣以外にドラゴンも可能なのか。

 

 布袋から卵を取り出して地面に置く。

「この子そちらのお子さんで間違いないですよねー?」

『!!』

 ピクサードラゴンのママがダッシュでやって来た。
 ……と言っても小型犬サイズなので感覚としてはペンギンの小走りみたいな速度だ。
 ドラゴンに言うのもなんだが、本当に可愛い。

『ありがとう人の娘たち。大事な子供が戻ってきてこんなに嬉しい事はないわ』

 どうやら三匹、という言い方でいいのか、卵は三つあったそうだが、ちょっと餌を探しにいってる間に一つなくなってたそうで、どこを探せばいいのかママさんは途方に暮れていたそうな。
 ちなみに旦那さんは亡くなってるそうで、未亡人……いや、未亡ドラゴンだ。


 ピクサードラゴンのママさんが深々と頭を下げる。本人はその気が無いんだろうが、持ち帰りたくなるのであざと可愛い動きはやめて下さい。

「……じゃあ確かにお渡ししましたよ。それじゃ私達はこれで」

 私達みんなの総意として、(これ以上ここにいるのはある意味ヴェルサスより危険である)という認識のもと、そそくさと立ち去ろうとする。

『待ちなさい。これを持ってお行き』

 ママさんが自分のウロコを一枚口で剥がすと、私にくれた。

『助けが欲しい時にウロコを触って呼んでくれればいつでも行くわよ』

 とのこと。いや、その可愛い姿を見る限り、多分私達の方が強いと思います。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

米国名門令嬢と当代66番目の勇者は異世界でキャンプカー生活をする!~錬金術スキルで異世界を平和へ導く~

だるま 
ファンタジー
ニューヨークの超お嬢様学校に通うマリは日本人とアメリカ人のハーフ。 うっとおしい婚約者との縁をきるため、アニオタ執事のセバスちゃんと異世界に渡ったら、キャンプカーマスタースキルと錬金術スキルをゲット!でもフライパンと銃器があったら上等! 勇者だぁ!? そんなん知るか! 追放だ! 小説家になろうでも連載中です~

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

階段落ちたら異世界に落ちてました!

織原深雪
ファンタジー
どこにでも居る普通の女子高生、鈴木まどか17歳。 その日も普通に学校に行くべく電車に乗って学校の最寄り駅で下りて階段を登っていたはずでした。 混むのが嫌いなので少し待ってから階段を登っていたのに何の因果かふざけながら登っていた男子高校生の鞄が激突してきて階段から落ちるハメに。 ちょっと!! と思いながら衝撃に備えて目を瞑る。 いくら待っても衝撃が来ず次に目を開けたらよく分かんないけど、空を落下してる所でした。 意外にも冷静ですって?内心慌ててますよ? これ、このままぺちゃんこでサヨナラですか?とか思ってました。 そしたら地上の方から何だか分かんない植物が伸びてきて手足と胴に巻きついたと思ったら優しく運ばれました。 はてさて、運ばれた先に待ってたものは・・・ ベリーズカフェ投稿作です。 各話は約500文字と少なめです。 毎日更新して行きます。 コピペは完了しておりますので。 作者の性格によりざっくりほのぼのしております。 一応人型で進行しておりますが、獣人が出てくる恋愛ファンタジーです。 合わない方は読むの辞めましょう。 お楽しみ頂けると嬉しいです。 大丈夫な気がするけれども一応のR18からR15に変更しています。 トータル約6万字程の中編?くらいの長さです。 予約投稿設定完了。 完結予定日9月2日です。 毎日4話更新です。 ちょっとファンタジー大賞に応募してみたいと思ってカテゴリー変えてみました。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。