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周りはお人好しばかりで苦労する。

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 ちゃんと店舗として出すなら、パティスリーのメニューにも食堂のメニューにもこだわりたいし、制服も欲しい、それにお皿やグラスなども統一したい。
 ……と、ネット通販見ながらあーでもないこーでもないとみんなで色々と相談してるうちに早3日が過ぎた。

 マイホームの方も店舗の方も順調なようで、毎日昼ごはんの差し入れをお願いしてるトラちゃんとラウールが、日々の進捗を私に教えてくれる。

《マイホームの方は骨組みが出来だしたぞ。結構な広さだ。楽しみだのう》

『店の方も先に食堂を完成させたいようで、ピーターさんがえらい張り切っておられます。
 それと、皆さんウナーギ弁当大変ご家族様が喜んでいたとお礼をいっておられました』

「そう?やっぱりメニューに入れるかな。ひつまぶしも錦糸玉子も入って華やかだからいいんだけど、まずはウナーギ本来の味を町の人にダイレクトに味わって欲しいから、鰻重から行くかなーうーん」

 2店舗あるとバイトの子も雇わないといけない。みんなが休む時間がなくなるもんね。いや私も休みたいんだものぶっちゃけ。移動食堂すらやたら忙しかったのに、パティスリーまでやるんだぞ。
 労働基準法なんかK点越えのハイパーブラック企業になるじゃないですか。

 ただ、有難いことに、ミリアンの妹さんがパティスリーで働きたいと言ってくれたようなのでまず一人は決定。
 面接?何度も会って人となりも知ってるのに要らない要らない。

 後は二、三人入れてローテーションで営業しますか。パティスリーは9時5時位の営業でいいし。そんな夜遅くまで営業してもお客さん来ないでしょ。

 食堂は夜ご飯もあるから、少し遅めまで営業しないとダメだろうな。
 夜まで営業するなら早朝からは流石にキツいので、10時とか11時位から夜8時頃かしらね。

 当分は食材には困らないけど、ちょいちょいクライン達に捕獲してきて貰わないといけないから、食堂も5、6人はバイトさんがいたらいいなあ。

 店員さんが少なくて、頼むのも一苦労で頼んだものがいつまでも出てこなかった店と言うのをあっちの世界で経験したが、やはり気分が悪いし、少しイライラしたから美味しさも半減した。
 注文したいときにパパっと対応してくれるある程度気が利くバイトさんが欲しい。
 

 てなことを商業ギルドで相談したら、しっかりした信頼できる子を紹介します!と麺好きチューナーさんが胸を叩いていた。

 ウナーギも大変美味だったが、頂いた冷やしうどんはメンツユもとても美味しくてすぐなくなったと残念そうだったので、追加でうどんとメンツユをお礼に渡したら、両手で捧げ持つ位に喜んでいた。ウナーギより麺か。賄賂はやはり麺で正解か。

 日本だとウナギの方が何倍も高いんだけどね。「高い」と「好き」はイコールじゃない。私だって高級なウニよりもリーズナブルなイカの方が好きなのである。

 食堂で麺を出さないとチューナーさんが泣くだろうと言うことだけは理解した。

 そうそう。ウナーギ討伐でもまた結構なお金が入ってきて、魔石も高値で売れたので、私やクライン達はまた貯蓄高を増やしてしまった。

 店も最初のうちは初期投資で設備費用とか人件費もかかるし、ありがたく頂こうかな。
 別に食堂やパティスリーもそこそこの利益が出て、皆に給料払えてきちんと維持が出来ればいいのだ。

 調味料の販売でも利益が出るし、生活に困らないレベルの収入があれば充分なのである。

 いざとなれば討伐でも稼げるし。
 まあ、儲かったお金で他の町でもいつか店を出せたらいいな、位の願いはあるのだが。
 その方が早く国の食レベル上がりそうだし、上がってしまえばプロの料理人の方が美味しいものが作れるだろうし食堂はやめてもいい。所詮は素人の料理好きなのだ。

 調味料作成と販売に専念して、ついでにパティスリーで好きなお菓子とか作ってのんびり生きていければそれでいい。

 プルちゃんやトラちゃんとはこれから当分は一緒に暮らしていくし、テンちゃんも私がばーちゃんになっても一緒に暮らしたいと言っていた。

 まぁ時間の感覚が通常と違うから、何十年とかでも1か月とかそんな感覚なのかも知れない。
 ラウールも2000年も生きてるし、数十年なんて一瞬だろう。

 ミリアンにはハルカに子供が生まれたら大きな家も手狭になるとか言われたが、結婚も出来るか分からないし、この先ずっと独り身だったとしても一緒にいてくれそうな人がいるのは、異世界に放り出されたぼっちの人間にはとても嬉しい事なのだ。この自分の周りの人達を大切に出来れば悔いはない。

 いや、うん。
 まぁ人達と言うか人ではないけどね。
 でも自分より確実に長生きしてくれそうだし安心感がある。
 

 大体、お金が増えたところで私にはファッションもあまり興味ないし、衣食住の「食」と最近は「住」くらいしか興味も使い道もないのだ。

 ……うーん、自分で言うのもアレだけど、私はなんだか枯れている気がする。若い女性としてこう、もっとなんか、こう…………うん、いいか別に。
 悩んでても仕方ない。
 人は人、うちはうち。
 とりあえずはお店の開店まで色々と頑張りましょー。
 


ーーーーーーーーーーー

「……で、伝染病?」

 リンダーベルに戻ってから毎日夜ご飯を当たり前のように食べに来ているケルヴィンさんが、オーク肉の味噌漬けでご飯を食べながら、聞き捨てならない事を告げた。

 今夜はオーク肉の味噌漬けとクラインのリクエストでドードー鳥のチキン南蛮、冷奴(大豆からちゃんと作ったのだ。……本見ながらだけど、結構美味しい絹ごし豆腐が出来たさ)に肉じゃがと大根の味噌汁。
 意外とみんな和風のメニューに抵抗がないので、和食好きとしては嬉しい。
 日本の食が海外の人に認められてるみたいじゃないですか。
 いや、人と言うと語弊がある人も何人かいるけど。

 ちなみに本日は夜になっても暑さが引かず、家の中に水と風魔法でクーラーのような冷風を流しているので快適さ。

「また魔法をこういう使い方しやがって」

 とプルちゃんが文句を言うが、内心は涼しくて夜よく眠れるなー、ハルカは魔法を生活に使うがあながち間違いでもないなー、とテンちゃんに言ってたのを精霊さんズの一人が教えてくれたので、嫌がってないのは分かってるのだ。ふふふふふ。

 いやそんなことより伝染病とは?

「この町で伝染病が出たんですか?」 

「いや、町で、と言うよりは町に船でやって来た人が、3人ほど疑わしい症状なんですよ」

 悪寒、発熱、嘔吐、身体中に現れた湿疹。一人はかなり悪いようで、現在寝たきりで食事も取れないらしい。

「船で丸1日いったところにロンディールって言う細長い島があるんですけどね。そこで休暇を過ごして帰る途中で具合が悪くなったようです」

 ロンディールは、砂浜も景色も美しい観光地として知られており、それほど遠くもないので結構貴族の方とかがバカンスを楽しんだりもするらしい。
 グアムとかハワイみたいなものだろうか。

「島の人はどうだったんだろう?」

「なんか、数人が急に冷えた日があって風邪を引いたとか咳き込んでる人はいたけど、湿疹とか出てる人はいなかったと」

「これからかも知れないよな」

 クラインがコーヒーをトラちゃんから受け取りながら呟いた。

「も、もしかして、この町にも伝染病が流行るかも知れないの?!」

 ミリアンが声を震わせた。

「いやまだそうと決まった訳じゃないよ」

「決まった頃には手遅れじゃないの!」

 確かに。伝染病だと断定される頃には下手すれば死者が出ていてもおかしくない。

「よし。ひとまず支度するから私をその3人の方のとこに連れていってケルヴィンさん」
 
 私はテーブルの片づけをトラちゃんにお願いし着替えに立つ。動きやすい格好がいいよね。ついでに船……は酔うからとてもいやだけどそれしか手段ないなら仕方ない。数日の着替えもいるよね。

「……は?ハルカ何をいってんだ?伝染病ならうつるかも知れないだろ?」

 プルちゃんが慌てて止めにかかるが、私だって生前のように考えなしではございませんよ、ええ。

「私は転生者だしそんな簡単には死なないわよ。それに、アレ、あるじゃない」

「……アレ?」

「センチュリオン様の肉よ。……というかそこから作ったエリクサーというか回復薬もあるじゃない。だてに100年に1度しか会えない魔物じゃないんだから、伝染病だろうと治ると思うのよね。完治しなくても軽くはなるはずよ」

 そう。

 肉としては無味無臭なので料理には向いてなかったが、美容液や化粧水にすりゃぷるんぷるん、ちょっとしたケガもすぐ治る。肉自体が回復魔法みたいなえげつない魔物様である。
 むしろアレを今使わずしていつ使うんだ。一生化粧水や乳液作っても使いきれんのだぞ。

「ああ!センチュリオン様か。まだ大量にあるんだものね?」

「2トン以上は確実に」 

 船で移動してる間にどんどんエリクサーも作って追加すればいいし。
 死ぬような伝染病でなくても変に広まるのは困る。これから店だってやるのに外出禁止令とか出されたらもっと困る。

「念のため先に薬飲んでおけば、変に病気もかからないと思うし。あちこちで広まったらえらいことになるでしょう?」

「……俺も行く」

 クラインが立ち上がる。

「……僕も行くよ……」

 テンちゃんもにっこり笑って立ち上がる。

「いや、万が一の可能性もあるから皆はここにいてよ。ほら私には精霊さんズもいるし」

「絶対イヤ」

「俺様も行ってやる。未来のお客さんのためにもな。しゃあない、とっとといって帰ってこよう」

「アタシだって、家族が倒れたらと思うと居てもたってもいられないわよ。いつものように【殲滅】すればいいんだものね」

(みんな、ちょっといい人過ぎるよなぁ。もう少し私を利用すればいいのに。転生者でチート持ちなんだし)

 別に利用されても構わないのに。
 私が誰かの命を奪うとかは絶対無理だけど、私が動くことで助かる人がいるなら当然動く。

 こちとら前世の死亡理由も人助け起因よ。てやんでえ経験値あるんだぜ。

 それに、病気になった人にも家族がいるだろうし、うちの父さん母さんみたいに若くして死ぬのは許しませんよ。
 子供が泣くのは昔の自分を見てるようですんごくイヤだ。

 それにこちらで仲良くなった人達が病気で苦しい思いをするのはもっとイヤだ。クライン達もそうだが、市場のおばちゃんにマイホームや店舗の作業をしているオッサンの各達、兄さん達。町の商業ギルドや冒険者ギルドの皆さん、お店に食べに来てくれたお客さん、グランさんやジルベルトさんも。

 日本人てのはなー、拾った財布もパクらないで交番に届けちゃう人が大多数のお国柄なんだよー。転んだジジババは助け起こしちゃうんだよー。自分がせっかく座れた満員電車でも杖ついたりしてる人見たらつい譲っちゃうんだよー。うっかり人助けしちゃう国民性なんだよー。

 別にいいのよ好きでやってんだから。自己満足でも人が助かるなら悪くないじゃない。しない善よりする偽善でいいのだ。

 そんな私のワガママに付き合うことはないのに、皆お人好しばかりで困る。

 無茶しないように見張ってないとね、と私は拳を握るのであった。
 


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