異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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冒険者引退って直ぐに出来ないぞ。

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「ハルカさんっ!ほんっとうに会いたかったですよ~!」

 冒険者ギルドにお邪魔すると、言葉通り抱きつかんばかりの勢いでケルヴィンさんが私に走り寄って来た。
 さささこちらへ、とギルマス部屋へ案内される。

「お久し振りですケルヴィンさん」

 私はアイテムボックスからプリンを取り出して差し入れた。

「おお……疲れた時には甘いモノ、いいんですよねぇ。特にハルカさん特製ですもんね」

 お茶を持ってきたお姉さんがすわ恋人か?という目になってるよケルヴィンさん。
 誤解をされるから止めて欲しいわ。
 お姉さん、この人ただの食い意地張った人なだけですからね。会いたかったのも美味しいご飯食べたかっただけですからね。ほらしっぽブンブン振ってますよ?ご飯前のワンコと同じですからね。

 喉元まででかかったが、むしろ弁解する方が変に疑われそうなので無視する事にした。

「ケルヴィンさん、研究所の方は順調ですか?」

「順調です。甥っ子と、信頼できる引退した冒険者仲間も人手が足りなくて引き入れましたけど、お陰でうまく生産も波に乗ったと言うか……あっ!そうそう」

 ケチャップ、出来ましたよ!とハルカに試作品を持ってきた。

 瓶を空けて味見をする。

「……うん、酸味がそんなに強くなくて私の好みです。コストはどうですか?」

「トマトは温暖な気候もあって毎年豊作な年が多いので、まとめて仕入れるとこの位で作れます。一つの瓶で大体20ドラン以下で経費は収まるので、40ドラン位で売るのはどうですか?」

 メモで説明したケルヴィンさんに「高い」と渋る。

「高い調味料なんて庶民にはなかなか広がらないでしょう?広がらないと美味しい料理も広がらないんですよ。30ドラン以下でなんとかいけるようもう少しコストダウン出来るかやってみてもらえますか?儲けは少しずつ色んな商品で取ればいいので調味料は常に利益抑え目にして下さい」

「うーん、そうですね。解りました、考えてみます」

 ついでにマヨネーズとだしの素についての相談もして、ひとまず商売の話は落ち着いた。

 紅茶を飲みながら、ふと私は思い出して、ケルヴィンさんに聞いてみた。

「あの、私そろそろ冒険者引退して本格的に商業ギルドに商人登録したいんですよ。引退届みたいなのありますか?」

 ケルヴィンさんは、え?という顔になった。

「引退届……いや、あるんですけどね、ハルカさんA級になってるから、申請から1か月かかるんですよね」

「ちょっと待って下さい。なんでA級?
 B級でしたよバルゴの時には!」

「……バルバロス討伐、したでしょ?沢山討伐してお肉にした記憶ない?ない?」

「……ほんのりとあります」

「あれでミリアンはS級に、ハルカさんはA級に上がってるんですよ」

 私から冒険者カードを受けとるとカードリーダーみたいな魔力の込められた箱にスッと入れると、キラキラしたシルバーのカードになって戻ってきた。

「ほら、A級」

 ほんとだ、A級って入ってるよ。うわー。

「基本的に国の依頼を受けるCランク以上の冒険者は、1か月前から引退申請して、その間の国の依頼を受けて終了なんですよ。仕事をしてても直ぐに辞められないのと一緒ですよ。
 急にベテランの冒険者がいなくなると困りますしね」

「……そうですか……」

 やりたくはないけど、国の依頼を受けないとダメか。
 言われてみると尤もな話だ。

「あ、でも商業ギルドの登録は時期被っても大丈夫なんで、今から早速作りに行きましょう商業ギルドカード」

「分かりました」

 そういやリンダーベルではショーユとミソの卸の件はクラインに任したままで商業ギルドのギルマスの名前も知らないや。これはいかん。これから多大なるお世話になるお方に何も持ってかない訳にもいかない。

「商業ギルドのギルマスさんは、なんか好きな食べ物はあるか知ってます?」

 ケルヴィンさんは、ふっと笑って、

「彼は先日の食堂の時に麺類にはまって美味い美味いと身悶えしてましたね。
 いつ戻るのか、店の営業はいつだとしつこく聞かれて大変でした」

「麺類……うどんなら打ったのがありますねぇ……うん。これからの時期はざるうどんだし、とっときのメンツユも出しましょう」

 ケルヴィンさんに袋を貰って、手打ちのうどん(細切り)と、自家製のメンツユを出して入れる。

「メンツユと言うのは?」

「これから暑い時期は温かい麺は辛いじゃないですか。うどん茹でて水にさらして冷やしたのを冷たい汁で食べるんですよ。これは濃縮なので3倍位に薄めると調度いいと思います。勿論温かいのもこれで作れますが。
 ああ、これも商品化しますか?」

「是非とも!」

 商業ギルドに出る前に材料や作り方など教える羽目になったけど、ショーユあるから基本的に時間かからないし、夏の一番暑い時期に売れるように急ぐようだ。
 みりんと料理酒とお酢も出来たらしく、帰りに研究所で見本をくれる話になった。
 よしよし、どんどん調味料が増えるのは良いことだ。


 商業ギルドのギルマスさんは、チューナーさんという30代前半に見える男性で、薄い茶の癖毛のゴツい人だった。
 190センチ位はありそうな長身で筋肉質な体。昔のケルヴィンさんの冒険者パーティ仲間だったそうだ。

「いや本当にマーミヤ商会の会長さんにお会いしたかったですよ。何しろあのラーメンとうどんは衝撃的な出会いでしたからね。あんな美味いものがこの世の中にあったのかと目から鱗がポロポロと」

 うん、麺類への愛が暑苦しいほどはんぱない。

 とりあえず、マイホームとパティスリーを作る計画があり、食堂は冒険者引退するまで難しいと説明したら、かなりがっかりされた。

「いやっ、甘いモノが嫌いな訳ではないんですよ?むしろ好きな方なんですけどね。でも麺類がない生活が辛くて……」

 そうか、麺類も売りに出すべきか。
 うどんとかなら作るの簡単だし。後でケルヴィンさんと要相談だ。

「麺類がお好きと聞いたので、これを……」

 手打ちうどんとメンツユを渡す。

「おお!これはう、うどんですか?!」

「これから暑いですから、冷やしうどんがいいと思います」

 私は作り方を説明する。

「……今夜は是非ともこのうどんを食べたいと思います。ようやっと……ようやっとうどんが食べられる……」

 拝むように袋を掲げられる。
 流石にケルヴィンさんの冒険者仲間だった人だ。この人も食いしん坊認定だ。

「あの、それで商業ギルドのギルドカードは……」

「ああ、はいはい。すぐ出来ますから」

 申込書に名前を書いて渡すとチューナーさんは急いで出ていった。

「ケルヴィンさん……チューナーさんって実はめちゃめちゃ仲良くないですか?」

「分かります?独身仲間で一番食の好みが合うんですよ。あのオーガキングを仕留めた時には共に涙を流した戦友です。食えなかったのがツラくて」

「でしょうねぇ」

 チューナーさんがお待たせしました!と戻ってきて私にギルドカードをくれた。

「あの……これA級ってあるんですが」

「実績で通常は徐々に上がるんですが、ハルカさんは既に十分実績を出しておられるのでこれでいいんです」

 いや、良かないだろ。

「……これ、ランク上がると何か国の依頼を受けないといけないとかありますか?」

「まあたまに王族のパーティーとかの料理作ったり商品仕入れたりの依頼位はありますがそれほど機会はないですよ。
 それに信用度があると店を開く際も便利ですしね」

「……」

 どちらにせよ王家と関わるのか。
 厄介な事にならないといいけど、どう考えても断れない感じである。

「私は静かに平穏に商売したいので、出来るだけ依頼がかからないようにお願い出来ますか?」

「そうですか?払いもいいのに。ご希望ならなるべく回さないようにしますね」

「はい、お願いします!」

 しぶしぶA級ランクの商売人になってしまったが、うん、今までも何とかなってたし、これからも目立つような悪どい商売しなければ、変に目立つ事もなかろう。

 私は平穏な暮らしを諦めないのだ!



 悪どい商売をしなくても、良心的な価格の調味料の販売でかなり大目立ちしているのだが、ケルヴィンが元冒険者仲間を表の責任者にして販売も卸しも回してるのでハルカが目立たずに済んでいるだけである。


 商業ギルドを出て、研究所で見本の商品をもらい、アイテムボックスにしまいこんだ。なかなか出来の良いのが揃っていて私はご機嫌だ。

「今夜は会合ですよね?私もお邪魔していいですか?」

「当然ですよ。お待ちしてますね」


 久々のコードネーム会合である。
 新入りのテンちゃんとラウールは新たにコードネームを付けないといけないな。
 うーん、しかしコードネームで会合するほど極秘の話し合いはあるんだろうか。まぁいいか。面白いから。

 美味しいも正義、面白いも正義だ。


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