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犬じゃなくて。

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「ハルカ、そこに正座」

「はいっ」

「報告、連絡、相談。いつも口を酸っぱくして言ってるよな俺は?」

「勿論しかと覚えておりますクライン様!」

「……じゃあなんで心話の出来る犬がここにいるのか、端的に説明よろ」

「喜んで!」


 レンタルハウスのリビングには、全員が揃っており、ハルカの隠しオヤツその2、チーズおかきをトラが淹れたほうじ茶を飲みながらもっしゃもっしゃと食べていた。

「ただ、説明と言ってもですね、バルゴで会った犬がなんでかここにいて、お腹空いてるみたいだったのでご飯をあげたら背中に呪(しゅ)がかかっていたので解除してあげただけでございまして……」

《その通りだ。聖女のお蔭で封印されてた魔力も戻ったし、死ぬ気で追って来た甲斐はあった。飯もうまいし》

 心話は皆にも聞こえているので、

「……いや聖女って?」

「……ハルカだろう、多分」

「……聖女?……」

 ボソボソ小声で言ってるが、精霊さんズが聴力勝手にあげて来たので丸聞こえである。穴があったら入りたい風情で真っ赤になりうつむくハルカを見ながら、犬は不思議そうに首を傾げた。

《転生者だろう?チートとか言う人外の力があり、ここにいる者は一撃で倒せる程の魔力もあるようだが、何故この者達に叱られたりからかわれたりされても何も反撃しないんだ?》

「……え?仲間になんで反撃しないといけないの?私が相談もなく勝手な事をしたからこうなってるのに。100%私が悪いじゃない」

 ハルカは犬を不思議そうに見た。

《……昔、出会った転生者は、強い魔物と戦いたがる好戦的な奴だったがなぁ。
 ハルカは国の浄化の為に転生したのではないのか?》

「浄化?いや全く聞いた覚えがありませんが。プルちゃん、私なんかやらないといけないの?」

「ほ?いや女神様からそんなこと聞いてないぞ」

「……だそうです」

「ハルカは食べ物の向上しか考えてないものね9割は」

「やだな、せいぜい7割位よ。あと3割は……のんびり生きて好きなもの食べることかな」

「……それだと10割食べ物のことしか考えてない……」

《……せっかく異世界に来たんだから、パーッと派手に生きるとか、悪魔を倒して世界に名を知られるほど目立ちたいとかないのか?》

「……まぁ、おいしく食べられるなら前向きに?
 あ、あと人々を襲うとか悪さする魔物は殲滅しますけど、目立つのは好きじゃないですしねぇ」

《その若さと美貌とチートな全属性の魔法も使えるのに、なんて欲がない……》

「美貌とかお世辞言われても。あ、まだなんか食べたいんですね?スイーツいきますか?チョコレートケーキありますよ。
 欲がないって、欲と煩悩の塊ですよ?
 美味しいもの食べたい作りたい食べさせたい広めたい、そして友達とのんびり過ごしたり、調味料やら開発してこの国の食べ物のレベルの底上げをしたいとかもう欲しかないといってもいい人間です」

《頂こうかチョコレートケーキ。
 成る程美味いな。甘すぎないのがいい。
 ……しかしほぼ食べることに目的が特化してるなお前は。まあだからバルゴで食べた焼き鳥とか衝撃的な美味さだったのか》

「お褒めに与り光栄ですが、そもそもなんで犬さんは呪(しゅ)をかけられたんですか?」

《ちなみに犬じゃなくて狼なワシ。
 一応ナイトウルフの血を引いてるから幻獣とも呼ばれるな。
 名はラウールだ。
 いや、なんか淀みが増えたから冒険者が増えたみたいでな?木の上で昼寝してたら魔物と間違えてどっかのパーティだかに封印魔法かけられた。あんまり魔法使える奴少ないから結界張り忘れて油断してた》

「弱っ、ラウール様は幻獣なのに弱すぎないですか?」

《油断してたと言うたろが。普段は魔物相手にワシに敵う奴はおらんのだ!》

「……でも油断してたって、下手すりゃ死んでましたよね?これだから腕に覚えのある方は全く。
 私なんか臆病者ですから寝るときも戦う時もきっちり結界張りますし、逃げる方法も第2第3と常に考えてますからね。
 人間、長生きしたところで食べられる食事やスイーツの回数は有限ですから、出来る限り死ぬのは寿命一択でありたいという慎重な姿勢も大事ですよ」

《要はえらそうに説教してるが、死ぬまでに食べられる回数を減らしたくないと言うことか?油断してたワシと大して変わらんな、ハルカよ》

「まあ、そうですが。
 じゃ、呪も解けた事ですし、良かった良かったということでお帰り下さい」

《……えー?ワシは本気出すと強いよ?
 助けてくれたお礼に暫く護衛してあーー》

「いや、結構です。私も多分強いし、ただでさえ魔王とか妖精とかメカニカルな人外いるんで。幻獣とか厄介な気配しかしません」

 ハルカはきっぱり断った。

≪いやでもだな≫

「大丈夫です。みんな強いですしご心配なく」

 まさか断られるとは思ってなかったのか、茫然とするラウールを見ながら、プルが椅子から降りてしゃがみこんだ。キャッチャー仕様でミットをパシパシ叩く真似をする。

「へいへい本音バッチこーい。本音バッチこーい」

《……2000年以上も生きてるとやりたいことも全部やったしな、もうずーっと暇なんだよ。ハルカの作る飯も美味いし、お主らといると面白そうだから暫く一緒に行動したいなー、と……人恋しいのもあるのかもな、ずっとワシだけだったから。いや、助けて貰った感謝も当然あるんだがな……》

 寂しそうな表情にハルカは心が揺れる。
 2000年以上も生きてるとか想像もつかないけど、友達出来ても先に逝っちゃうんだろうし、ぼっちだもんね結局。

「で、でもですね……」

「…………500年でも退屈で仕方がなかったのに……気持ちすごく解る…………」

 テンまでがしみじみと呟き、ラウールの背中を撫でる。

「ハルカ……もう人外祭りってことで良いじゃない。」

「そうだな、もう三人も四人も変わらんだろ。俺様は300年でも飽き飽きしてたからな、ラウールむしろすげーな」

「『人』じゃないと思うが、まぁむしろこそこそ隠れて追って来られるよりいいんじゃないか?」

「それはそうなんだけど……目立たないかなぁ?」

 (((……え?今さら?転生者としては解らないけど、もう商人としてはかなり目立ってますけど?)))

 とみんなは思った。

 目立たず静かに生きてると思ってるのはハルカ本人だけである。

「(ハルカの目立たずの概念がよく解らないけど)いやー大丈夫だと思うよ?ほら、犬飼ってたりする家って普通にあるし」

「そうか、そうよね?狼とか言わなきゃ犬よね?」

 ハルカはホッとしたように言い、ラウールの肉球をニギニギしている。
 最初から仲間にするつもりだったんじゃないかとクラインは思ったが、黙っといてやろう。

「じゃ、ラウールでいい?敬称つけるの仲間内で面倒だから」

《いいぞ。むしろワシもその方が楽だ》

「うーん、しかしなんでどんどんうちの平均年齢が上がって行くのかしら……既に老人介護施設ばりの高齢者集団になってしまった……」

「お迎えは全く来そうにないけどねぇ」

「ま、とりあえず明日の準備しよう。やれることをやる、それが一番」

 キッチンに戻るハルカを見ながら、

「ハルカってやっぱりなんか持ってんな、ヒキが強い色んな意味で」

 とプルが言った。

「だから面白いんだけどね」

 というミリアンにみんなは深く頷いた。

 なんとなくハルカの立ち位置が解った気がするラウールだった。





 

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