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【閑話】トラちゃんのお使い。
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ご主人に頼まれて、ケルヴィン様のところまで向かう。
「あら、トラちゃん!久しぶりね!いい紅茶入ったから後で見に来とくれよ」
道すがら、顔馴染みの茶葉を扱う店の店主が声をかけてくる。
メモを書いてる暇はないので、手で○の形を作り、お辞儀をして先を急ぐ。ご主人は紅茶が好きなので、よく利用させて頂いている。気のいいご婦人である。
「トラちゃん!!わあみんな戻ったの?」
冒険者ギルドに到着すると、書類を抱えて受付の男性にあれこれ指示をしていたケルヴィン様に満面の笑みで抱き締められた。
ご主人に抱きしめられるのは気持ちいいが、紳士に抱きしめられるのはあまり嬉しくはない。さりげなく身を離す。
『お久しぶりでございました。
今夜ハルカ様が皆さまの夕食を作りたいとのことで、宜しければケルヴィン様も、と』
メモを渡すと、ケルヴィン様は
「もちろん!ハルカさん飯が食べられるならどんな予定も変更可能だからねっ」
と浮かれたようにご機嫌になって仕事に戻られた。
ご主人に会うよりご主人の手料理の方が楽しみなのがあからさまだが、以前から全くぶれないところは好感が持てる。
最初は食べ物目当てだったはずなのに、近頃とみに邪な目線をご主人に向けているクライン様と、最初から邪な感情が感じられるテンペスト様はなんとなく気に入らない。
だが、ご主人が仲良くしている方々なので、プロのメイドとしてわざと飲み物をこぼしたり、お代わりのご飯を少なくよそったりなどはしないのである。
ほんのたまにしか。
お使いを終わらせて帰り道、先ほどのご婦人からお勧めの紅茶と、ミリアン様が特に好んでいるモカコーヒーを購入する。
ついでに、切れかけていたハンドクリームも入手した。
早速蓋を開き、肉球にすりこむ。
なぜかご主人は肉球が好きなようで、何かあるとニギニギされるので、ざらついた状態で手を怪我してしまわれないように気をつけなくてはならない。
ご主人のためだけではなく、布地を持つ時のほつれ防止でもある。
先日、ブルーシャで大量の布地を購入した。もちろんご主人がくれたお給料からだ。食べ物に使うなどもないのでたまる一方だ。ご主人と創造主のプル様のためにも使いたいが、とずっと考えていた。
織物の町だけあってなかなか多彩な布があり、少し眺めていたが、ご主人に似合いそうな薄紫の伸縮性の布があった。
ご主人の部屋着を作っては、と思い、合わせてプル様の寝間着も、と考えていると、モコモコした厚手の白地の布があったので両方購入する。
お二人に気づかれないよう夜なべして早めに仕上げてしまわねば。
プル様は何度となく布団をはいで腹丸出しでお休みになっているので風邪を引かないか心配なのである。冬場だと言うのに。
ご主人は、部屋の中で寛げる楽な服が欲しいなーと言っていたが、食べ物以外にあまり贅沢をするという気持ちがないらしく、服なんて最低限洗って使い回せる数着あればいい、と買う気配もない。
メイドとしてはご主人が快適に家で過ごせるよう気を配るべきであろう。
ご主人達と過ごすようになり、毎日が充実している。
なるべく長い間、働かせて頂ける事を祈ろう。
「あら、トラちゃん!久しぶりね!いい紅茶入ったから後で見に来とくれよ」
道すがら、顔馴染みの茶葉を扱う店の店主が声をかけてくる。
メモを書いてる暇はないので、手で○の形を作り、お辞儀をして先を急ぐ。ご主人は紅茶が好きなので、よく利用させて頂いている。気のいいご婦人である。
「トラちゃん!!わあみんな戻ったの?」
冒険者ギルドに到着すると、書類を抱えて受付の男性にあれこれ指示をしていたケルヴィン様に満面の笑みで抱き締められた。
ご主人に抱きしめられるのは気持ちいいが、紳士に抱きしめられるのはあまり嬉しくはない。さりげなく身を離す。
『お久しぶりでございました。
今夜ハルカ様が皆さまの夕食を作りたいとのことで、宜しければケルヴィン様も、と』
メモを渡すと、ケルヴィン様は
「もちろん!ハルカさん飯が食べられるならどんな予定も変更可能だからねっ」
と浮かれたようにご機嫌になって仕事に戻られた。
ご主人に会うよりご主人の手料理の方が楽しみなのがあからさまだが、以前から全くぶれないところは好感が持てる。
最初は食べ物目当てだったはずなのに、近頃とみに邪な目線をご主人に向けているクライン様と、最初から邪な感情が感じられるテンペスト様はなんとなく気に入らない。
だが、ご主人が仲良くしている方々なので、プロのメイドとしてわざと飲み物をこぼしたり、お代わりのご飯を少なくよそったりなどはしないのである。
ほんのたまにしか。
お使いを終わらせて帰り道、先ほどのご婦人からお勧めの紅茶と、ミリアン様が特に好んでいるモカコーヒーを購入する。
ついでに、切れかけていたハンドクリームも入手した。
早速蓋を開き、肉球にすりこむ。
なぜかご主人は肉球が好きなようで、何かあるとニギニギされるので、ざらついた状態で手を怪我してしまわれないように気をつけなくてはならない。
ご主人のためだけではなく、布地を持つ時のほつれ防止でもある。
先日、ブルーシャで大量の布地を購入した。もちろんご主人がくれたお給料からだ。食べ物に使うなどもないのでたまる一方だ。ご主人と創造主のプル様のためにも使いたいが、とずっと考えていた。
織物の町だけあってなかなか多彩な布があり、少し眺めていたが、ご主人に似合いそうな薄紫の伸縮性の布があった。
ご主人の部屋着を作っては、と思い、合わせてプル様の寝間着も、と考えていると、モコモコした厚手の白地の布があったので両方購入する。
お二人に気づかれないよう夜なべして早めに仕上げてしまわねば。
プル様は何度となく布団をはいで腹丸出しでお休みになっているので風邪を引かないか心配なのである。冬場だと言うのに。
ご主人は、部屋の中で寛げる楽な服が欲しいなーと言っていたが、食べ物以外にあまり贅沢をするという気持ちがないらしく、服なんて最低限洗って使い回せる数着あればいい、と買う気配もない。
メイドとしてはご主人が快適に家で過ごせるよう気を配るべきであろう。
ご主人達と過ごすようになり、毎日が充実している。
なるべく長い間、働かせて頂ける事を祈ろう。
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