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【テンペスト視点】森で人間に出会った。
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森でリスの親子が木の実をカリカリ食べているのを座り込んでぼんやりと見ていた。
500年以上も生きてると、大概の事は平常の時の中で過ぎてしまい、心躍るようなことも特になくなっていく。波立たない生活は、のどかではあるが退屈でもあった。
変化を望んで、魔族の王の地位も戦って手に入れてはみたが、だからと言って何が変わるわけでもなかった。
いつまでこんな日常が続くのだろうか。
誰かに倒されるのでも良かったが、周りが弱すぎるのか、返り討ちにしてばかりで倒されることはなかった。
そのうち誰も手を出して来なくなった。
何千年と寿命があるのに、まだ500年かそこらで飽きが来ていてどうする、と己を鼓舞してみたがあまり効果はなかった。
ふと、何かいい匂いがした。
立ち上がると匂いの元を辿って行く。
馬車を見つけると、周囲には結界が張ってあった。
敵意がなければどうと言うことはない。
多分馬車を使うのは人間だろう。
しかしこんな森の奥深くまで来るのも珍しい。
子どもの姿の方がもし見つかっても警戒されないだろうと経験から判断し、身を変化させた。
馬車に近づくと、ますますいい匂いがしてきた。
街には退屈しのぎで何度か行ったことがあるが、こんな美味そうな匂いをしていただろうか。
馬車の中で、
『おいしいは~正義~♪可愛いも~正義~♪』などと歌いながら、カチャカチャと物音を立てている女がいるようだ。
中の様子を窺おうとしたところ、急に女が出てきた。
人間で言うと20前後位だろうか。長い黒髪でダークブラウンの瞳をした、綺麗な女だった。
ただ、普通の人間にはない膨大な魔力のオーラが見える。だが禍々しいものではなかった。
あの結界もこの女が張っているのだろう。
とても興味深い。
女は一瞬びっくりしたようだったが、すぐに笑顔になって尋ねてきた。
「えーと……迷子なのかな?」
魔族は強大な力を持つため、とりたててこちらが敵意を向けなくても恐れられたり嫌われやすい。
自分は特に嫌ってないのだが。
銀髪と赤い眼は魔族の特徴なので、また恐れられるのではと思っていたが、そんな気配はなかった。少し戸惑う。
女の笑った顔は幼く見え、悪意の欠片もなかった。
「…………いい匂い、したから………」
咄嗟に出たのはそんな陳腐な言葉だけだった。
「お腹空いてるの?良かったらラーメン食べる?」
らーめんというのはよく分からないが、人間の食事なのだろう。
「……食べる……」
女は急いでキッチンに戻っていき、数分ほどで湯気の立つ器をトレイに乗せて持ってきた。
「お待たせ。私の故郷でよく食べてたものなの。醤油ラーメンっていうの。口に合うといいんだけど」
そういって木製のフォークも一緒に渡してくれた。
「熱いから、ふーふーして食べてね」
「…………?」
何をするんだろうか。ふーふーとは何だ。
「あー、ふーふーって分からないか。うんとね」
女はこちらのフォークで麺を掬って、息を吹きかける。
「こうやって少し冷まして食べるとヤケドしないからね。最初食べづらいかも知れないからクルクルってフォークに麺を巻き付けると食べやすいかな」
「…………分かった」
言われた通りふーふーしてクルクル巻いてから口に入れた。
ちょっとびっくりしたように目を見開いた。
「……美味しい……」
人間はこのようなものを毎日食べていたのか。100年ほど前に街にいって食べたのは大して旨くもないしょっぱいだけの肉の串焼きだったが。
「あー良かったわ。お代わりもあるから沢山食べてね」
女は安心したように貪るように食べている自分を見ていた。人にモノを食べているのを見られるのは少し恥ずかしい。だが美味いのでそのまま食べることにした。
「飯ー飯ー!」
なんか人の気配が増えたので顔を上げると、明らかに妖精のオーラを漂わせる幼児と、獣人の男とふわふわした髪の人間の女と黒装束の太った猫がやって来た。
これは冒険者の集まりなのか。だいぶバラエティーに富んでいるようだ。
「すぐ出来るから待っててねー」
急いで女がキッチンに向かうと、3人と一匹は、こちらに気がついた。
「……誰なの?」
「解らん。迷子か?」
「あの眼と髪の色……魔族じゃないか?」
魔族であることがバレたようだが、特にそれで嫌な視線を向けられる訳でもない。
何故か少しホッとした。
すぐに女がみんなのラーメンをもってきた。
「醤油ラーメンと味噌ラーメンねー。
日本ではスタンダードなチャーシュー麺と味噌バターコーンラーメンにしてみたよー」
あいつらも初めて食べる食事のようで食べ方を教えているようだ。
「……このスープと麺、というのか、これが絡み合って美味しいな。スープにドードー鳥とコカトリス、あと多分オークのエキスが入ってると思うが」
「ちょっと味噌バターコーンラーメンもいつもの味噌汁とはまた違った味わいで、バターがふわっといいアクセントになってスッゴく美味しい!
それでね、ちょっと下品だけど、麺を巻き付けるよりずずーって吸い上げる感じ?の方が汁の旨味が一緒に来ていいわよ」
そばで話を聞いていたこちらにも説明するふわふわ髪の女。
「おー、本当だ!ミリアンすごいなよく発見したな!!うまーっ」
確かに言われた通りちゅるちゅると啜ってみたら、スープの味も合わさってなかなかいい。
味噌バターコーンラーメンも美味しそうだったので、そちらも食べさせてもらった。
こちらも濃厚な風味があり、美味かった。
どちらも食べたことのない味だ。
食べ終えると、デザートということでプリンという甘味まで出た。
滑らかで甘みがくどくなくて、これも素晴らしく美味しかった。
なんとなく去りがたく、ゆっくりとプリンを食べる。
「でねぇ、これ食堂のメニューにしたいと思うんだけどどうかな?
ほら、これから広めようとしている『醤油』『味噌』の名前もついてるからさ、解りやすいんじゃないかなーと」
黒装束の猫はいつの間にかエプロンに着替え、コーヒーを運んできた。苦味がある飲み物で砂糖とミルクを沢山入れたら美味しくなった。
「いいんじゃないかしら」
「すごく売れると思うぞ。このツルツルした喉ごしもいい感じだし」
「そうだな。ただふと思ったが、もし定期的に俺達が殲滅がてら魔物食材取りに抜けてると、ハルカが作って洗い物もして、誰か残すにしてもちょっと負担が大きそうな気がするんだ。多分どこの町でも美味いモノは売れるだろうしな。きっと忙しいと思う」
クラインと呼ばれていた男は少し眉をひそめる。(※眉はひそめる。しかめるのは顔です。いわゆるしかめっ面。ちなみに、漢字はひそめるもしかめるも顰めるで同じです)
「……僕、働く……ご飯食べさせてくれる?……」
思わず声に出てしまった。
ご飯やプリンも美味しかったが、悪意のある視線を向けない人に会うのは久しぶりなので、ちょっと浮かれてしまったようだ。
初対面のヤツなど働かせようと思う筈がなかった。
「……え?それはありが……いやいやでも親御さんの許可も得ないとダメよ!
あなた位の年なら間違いなく私労働基準法とか誘拐とかで捕まる……」
……なんか、働いてもいいのだろうか。
親の許可と言われても、どちらももう死んでいるのだが。困った。
「……ハルカ、気づいてないと思うから一応言っとくけど、そいつ魔族だからな。俺様よりも年上だぞ?
多分、敵意なしの意味で子どもの姿になってるが、普通にがっつり大人だ」
妖精が3つ目のプリンを頬張りながら、こちらを指さした。
「と、年上なの?」
「…………500年以上は生きてる、かな……」
「じゃあ、普段の大人の姿になってみてくれる?」
ハルカと呼ばれていた料理の上手い黒髪の女にお願いされた。
「……ああ、うん…待ってね………」
お願いされたのがなんとなく嬉しくて、元の姿に戻った。
「……ハルカ、ちょっと店員さんとしては、彼はかなり女性客に刺激的過ぎると思うの」
ミリアンと呼ばれていたふわふわ髪の女から鼻血がボタボタ垂れていた。
何故いきなり。変化の術を見るのが初めてなのだろうか?解せない。
「……ごめん、もっかいさっきの子どもに戻ってくれる?」
「……分かった……」
ハルカは鼻血は出してなかったが、だから眩しい生き物はどうとか言っていた。嫌われたのだろうか。少し気を落とす。
ふわっとまた少年の姿に戻った。
「ミリアン、これなら大丈夫よね?」
「……まあ、子ども姿なら平気」
「よし!じゃバイト君、悪いけどその状態で仕事お願いします!
……ところで名前も聞いてなかったわゴメンね。あなたの名前は?」
「…………テンペスト…………」
「テンペストね、じゃ、テンちゃんでいいか。
テンちゃん、これからよろしくね!」
ハルカは笑顔で手を取ってぎゅっと握手をした。
良く分からないが別に嫌われた訳ではないらしい。働かせてくれるようだ。
テンちゃん……愛称がつけられたのは初めてだが、決して嫌ではなかった。
むしろ、ハルカがテンちゃんと呼んでくれるのは嬉しい。とても嬉しい。
他の奴も名前を覚えた。
ついでにブルーシャの道を聞かれた。
道を1つ間違えていることを教えた。
クラインという獣人が、
「地図が不親切だったんですがーすーみーまーせーんでしたー」
と棒読みで言うのを「誠意がない」とプルとミリアンに蹴りを入れられていたが、馬車で隣に座るハルカに聞いたところ、あれは『コミュニケーション』の一環で、ケンカしてるように見えて実は仲良しなのよ、と教えてくれた。
仲良しになるとケンカをしないといけないのだろうか。
ハルカとケンカをするのは嫌なのだが。
ついでに、なんで元の姿では働けないのか聞いたが、『イケメンでフェロモンだだもれで女性が危険だから』と良く分からない説明をされた。
「……人間は男も女も襲った事はない……」
野蛮な魔物などと一緒にされたのかとあまり愉快な気持ちではなかったのでそう返した。
「……いや、テンちゃんは襲われる方なんだよ」
と頭を撫でられた。
解せない。
だが、撫でられるのは気持ち良かったので、分かったような振りをしておいた。
ハルカは優しくて、そばにいるのはとても居心地がいい。
500年以上も生きてると、大概の事は平常の時の中で過ぎてしまい、心躍るようなことも特になくなっていく。波立たない生活は、のどかではあるが退屈でもあった。
変化を望んで、魔族の王の地位も戦って手に入れてはみたが、だからと言って何が変わるわけでもなかった。
いつまでこんな日常が続くのだろうか。
誰かに倒されるのでも良かったが、周りが弱すぎるのか、返り討ちにしてばかりで倒されることはなかった。
そのうち誰も手を出して来なくなった。
何千年と寿命があるのに、まだ500年かそこらで飽きが来ていてどうする、と己を鼓舞してみたがあまり効果はなかった。
ふと、何かいい匂いがした。
立ち上がると匂いの元を辿って行く。
馬車を見つけると、周囲には結界が張ってあった。
敵意がなければどうと言うことはない。
多分馬車を使うのは人間だろう。
しかしこんな森の奥深くまで来るのも珍しい。
子どもの姿の方がもし見つかっても警戒されないだろうと経験から判断し、身を変化させた。
馬車に近づくと、ますますいい匂いがしてきた。
街には退屈しのぎで何度か行ったことがあるが、こんな美味そうな匂いをしていただろうか。
馬車の中で、
『おいしいは~正義~♪可愛いも~正義~♪』などと歌いながら、カチャカチャと物音を立てている女がいるようだ。
中の様子を窺おうとしたところ、急に女が出てきた。
人間で言うと20前後位だろうか。長い黒髪でダークブラウンの瞳をした、綺麗な女だった。
ただ、普通の人間にはない膨大な魔力のオーラが見える。だが禍々しいものではなかった。
あの結界もこの女が張っているのだろう。
とても興味深い。
女は一瞬びっくりしたようだったが、すぐに笑顔になって尋ねてきた。
「えーと……迷子なのかな?」
魔族は強大な力を持つため、とりたててこちらが敵意を向けなくても恐れられたり嫌われやすい。
自分は特に嫌ってないのだが。
銀髪と赤い眼は魔族の特徴なので、また恐れられるのではと思っていたが、そんな気配はなかった。少し戸惑う。
女の笑った顔は幼く見え、悪意の欠片もなかった。
「…………いい匂い、したから………」
咄嗟に出たのはそんな陳腐な言葉だけだった。
「お腹空いてるの?良かったらラーメン食べる?」
らーめんというのはよく分からないが、人間の食事なのだろう。
「……食べる……」
女は急いでキッチンに戻っていき、数分ほどで湯気の立つ器をトレイに乗せて持ってきた。
「お待たせ。私の故郷でよく食べてたものなの。醤油ラーメンっていうの。口に合うといいんだけど」
そういって木製のフォークも一緒に渡してくれた。
「熱いから、ふーふーして食べてね」
「…………?」
何をするんだろうか。ふーふーとは何だ。
「あー、ふーふーって分からないか。うんとね」
女はこちらのフォークで麺を掬って、息を吹きかける。
「こうやって少し冷まして食べるとヤケドしないからね。最初食べづらいかも知れないからクルクルってフォークに麺を巻き付けると食べやすいかな」
「…………分かった」
言われた通りふーふーしてクルクル巻いてから口に入れた。
ちょっとびっくりしたように目を見開いた。
「……美味しい……」
人間はこのようなものを毎日食べていたのか。100年ほど前に街にいって食べたのは大して旨くもないしょっぱいだけの肉の串焼きだったが。
「あー良かったわ。お代わりもあるから沢山食べてね」
女は安心したように貪るように食べている自分を見ていた。人にモノを食べているのを見られるのは少し恥ずかしい。だが美味いのでそのまま食べることにした。
「飯ー飯ー!」
なんか人の気配が増えたので顔を上げると、明らかに妖精のオーラを漂わせる幼児と、獣人の男とふわふわした髪の人間の女と黒装束の太った猫がやって来た。
これは冒険者の集まりなのか。だいぶバラエティーに富んでいるようだ。
「すぐ出来るから待っててねー」
急いで女がキッチンに向かうと、3人と一匹は、こちらに気がついた。
「……誰なの?」
「解らん。迷子か?」
「あの眼と髪の色……魔族じゃないか?」
魔族であることがバレたようだが、特にそれで嫌な視線を向けられる訳でもない。
何故か少しホッとした。
すぐに女がみんなのラーメンをもってきた。
「醤油ラーメンと味噌ラーメンねー。
日本ではスタンダードなチャーシュー麺と味噌バターコーンラーメンにしてみたよー」
あいつらも初めて食べる食事のようで食べ方を教えているようだ。
「……このスープと麺、というのか、これが絡み合って美味しいな。スープにドードー鳥とコカトリス、あと多分オークのエキスが入ってると思うが」
「ちょっと味噌バターコーンラーメンもいつもの味噌汁とはまた違った味わいで、バターがふわっといいアクセントになってスッゴく美味しい!
それでね、ちょっと下品だけど、麺を巻き付けるよりずずーって吸い上げる感じ?の方が汁の旨味が一緒に来ていいわよ」
そばで話を聞いていたこちらにも説明するふわふわ髪の女。
「おー、本当だ!ミリアンすごいなよく発見したな!!うまーっ」
確かに言われた通りちゅるちゅると啜ってみたら、スープの味も合わさってなかなかいい。
味噌バターコーンラーメンも美味しそうだったので、そちらも食べさせてもらった。
こちらも濃厚な風味があり、美味かった。
どちらも食べたことのない味だ。
食べ終えると、デザートということでプリンという甘味まで出た。
滑らかで甘みがくどくなくて、これも素晴らしく美味しかった。
なんとなく去りがたく、ゆっくりとプリンを食べる。
「でねぇ、これ食堂のメニューにしたいと思うんだけどどうかな?
ほら、これから広めようとしている『醤油』『味噌』の名前もついてるからさ、解りやすいんじゃないかなーと」
黒装束の猫はいつの間にかエプロンに着替え、コーヒーを運んできた。苦味がある飲み物で砂糖とミルクを沢山入れたら美味しくなった。
「いいんじゃないかしら」
「すごく売れると思うぞ。このツルツルした喉ごしもいい感じだし」
「そうだな。ただふと思ったが、もし定期的に俺達が殲滅がてら魔物食材取りに抜けてると、ハルカが作って洗い物もして、誰か残すにしてもちょっと負担が大きそうな気がするんだ。多分どこの町でも美味いモノは売れるだろうしな。きっと忙しいと思う」
クラインと呼ばれていた男は少し眉をひそめる。(※眉はひそめる。しかめるのは顔です。いわゆるしかめっ面。ちなみに、漢字はひそめるもしかめるも顰めるで同じです)
「……僕、働く……ご飯食べさせてくれる?……」
思わず声に出てしまった。
ご飯やプリンも美味しかったが、悪意のある視線を向けない人に会うのは久しぶりなので、ちょっと浮かれてしまったようだ。
初対面のヤツなど働かせようと思う筈がなかった。
「……え?それはありが……いやいやでも親御さんの許可も得ないとダメよ!
あなた位の年なら間違いなく私労働基準法とか誘拐とかで捕まる……」
……なんか、働いてもいいのだろうか。
親の許可と言われても、どちらももう死んでいるのだが。困った。
「……ハルカ、気づいてないと思うから一応言っとくけど、そいつ魔族だからな。俺様よりも年上だぞ?
多分、敵意なしの意味で子どもの姿になってるが、普通にがっつり大人だ」
妖精が3つ目のプリンを頬張りながら、こちらを指さした。
「と、年上なの?」
「…………500年以上は生きてる、かな……」
「じゃあ、普段の大人の姿になってみてくれる?」
ハルカと呼ばれていた料理の上手い黒髪の女にお願いされた。
「……ああ、うん…待ってね………」
お願いされたのがなんとなく嬉しくて、元の姿に戻った。
「……ハルカ、ちょっと店員さんとしては、彼はかなり女性客に刺激的過ぎると思うの」
ミリアンと呼ばれていたふわふわ髪の女から鼻血がボタボタ垂れていた。
何故いきなり。変化の術を見るのが初めてなのだろうか?解せない。
「……ごめん、もっかいさっきの子どもに戻ってくれる?」
「……分かった……」
ハルカは鼻血は出してなかったが、だから眩しい生き物はどうとか言っていた。嫌われたのだろうか。少し気を落とす。
ふわっとまた少年の姿に戻った。
「ミリアン、これなら大丈夫よね?」
「……まあ、子ども姿なら平気」
「よし!じゃバイト君、悪いけどその状態で仕事お願いします!
……ところで名前も聞いてなかったわゴメンね。あなたの名前は?」
「…………テンペスト…………」
「テンペストね、じゃ、テンちゃんでいいか。
テンちゃん、これからよろしくね!」
ハルカは笑顔で手を取ってぎゅっと握手をした。
良く分からないが別に嫌われた訳ではないらしい。働かせてくれるようだ。
テンちゃん……愛称がつけられたのは初めてだが、決して嫌ではなかった。
むしろ、ハルカがテンちゃんと呼んでくれるのは嬉しい。とても嬉しい。
他の奴も名前を覚えた。
ついでにブルーシャの道を聞かれた。
道を1つ間違えていることを教えた。
クラインという獣人が、
「地図が不親切だったんですがーすーみーまーせーんでしたー」
と棒読みで言うのを「誠意がない」とプルとミリアンに蹴りを入れられていたが、馬車で隣に座るハルカに聞いたところ、あれは『コミュニケーション』の一環で、ケンカしてるように見えて実は仲良しなのよ、と教えてくれた。
仲良しになるとケンカをしないといけないのだろうか。
ハルカとケンカをするのは嫌なのだが。
ついでに、なんで元の姿では働けないのか聞いたが、『イケメンでフェロモンだだもれで女性が危険だから』と良く分からない説明をされた。
「……人間は男も女も襲った事はない……」
野蛮な魔物などと一緒にされたのかとあまり愉快な気持ちではなかったのでそう返した。
「……いや、テンちゃんは襲われる方なんだよ」
と頭を撫でられた。
解せない。
だが、撫でられるのは気持ち良かったので、分かったような振りをしておいた。
ハルカは優しくて、そばにいるのはとても居心地がいい。
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