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れっつハイキング
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「……まあ、ハイキングですって? 素敵じゃないの」
「ええ。最近涼しくなって過ごしやすい日も増えましたし、ここ数日は雨の心配もなさそうです。ナイトやお友たちも町の中ばかりよりも自然に触れる機会もあった方が良いかと思いまして、良かったらニーナ姫とジュリアン様も気分転換にいかがでしょうか? 森林浴なんて言葉もあるぐらいですから、木々の中を散策するのも体に良さそうではありませんか?」
私はナイトたちと戯れる彼らにハイキングのお誘いを掛けていた。
『おお? いいねいいねー♪ 他の仲間にも声掛けてみるよ。……あ、こいつらは行くってさ。多分結構参加してくれるんじゃないかな? あ、でもおやつは頼むぜ? みんな腹を空かせていることが多いから楽しみにしてるんだよ』
「もちろんだよ」
ナイトもお友だちも乗り気だったが、ニーナ姫もジュリアン王子もとても楽しそうだ。
「山へ行くのは初めてだわ! 兄様もそうよね?」
「記憶にはないな」
「楽しみだわあ。どんな野生動物が見られるのかしら? あ、でも王宮の外となると、私たちだけじゃダメよね?」
「まず国王様に許可を頂くのと、ケヴィンさんの班の方々に護衛を依頼しようと思ってます。私とナイトたちのことは騎士団では彼らしか把握してないので」
「そうね。あ、私が父様に許可をもらって来るわ。ちょうど呼ばれてたから」
「それは助かります。ありがとうございます」
じゃあ早速行って来るわ、とニーナ姫は軽やかな足取りで消えて行った。
「ジュリアン様は元々鍛錬とかされてるので体力的には心配ないと思いますが、足元が悪いこともあるので、登山で使うような疲れにくいゴム底の靴はありますか? 出来たらそれを履いて下さい」
「ああ」
「じゃあ国王様から許可頂いたら、みんなでパーッと遊びに行きましょう!」
「……そうだな」
細く裂いた鳥の燻製をナイトたちに与えながら、少し口角を上げたジュリアン王子は、眩しいような美貌である。長時間続かないのが玉にキズだけど。
「トウコのランチも楽しみだな」
「ああ、前みたいな簡単なので良ければ作りますね」
「美味しかったから頼む」
誰かに喜んでもらえるのは自分も嬉しい。騎士団の人たちの分も沢山用意せねば。……でも国王が気軽に許可をくれるかが心配だ。町中はまだしも山の中だし、危険があるかも……あ。
「──そこの山って、クマとか凶暴な生き物はいないんですよね? 前に私とナイトがやって来た時には幸い遭遇しませんでしたけど」
秋口だから冬ごもり前のクマなんて出て来たら大変だ。ナイトたちはもとより騎士団の人たちやジュリアン王子、ニーナ姫だって危険にさらされてしまう。
「イノシシぐらいはいたかも知れないが、クマを見たという話は聞かないな」
「それなら良かったです」
「なんだ、クマぐらいなら私だって戦えるぞ?」
「男性って腕自慢したがる人いますけど、しなくていいケガをしたり無駄に痛みもらうなんてマゾですか。死の危険はどこにでもあるんですよ? この国のたった一人の王子様なんですからご自身の危機回避は優先しないとダメです。一度別の世界で死んでる人間が言うんだから間違いありません」
私がそういうと、少し目を見開いたジュリアン王子は頭を下げた。
「……すまない。そうだ、トウコは死の苦しみを味わっていたのだったな。軽率だった」
「私もナイトもあの時はまさか死ぬなんて思ってもいませんでしたけどね。ただ長いこと痛みを感じたり苦しんだりした記憶はないのでまだマシだったと思います。この国に迷い人として二度目の人生を送れているのも運が良かったですし」
「──トウコもナイトも、この国に来て良かったか?」
私はジュリアン王子の質問に少し笑った。
「他の選択肢がなかったですから、この国に来て良かったかどうかは、人生の最後まで多分分からないですね。今は仕事もあるし、私たちの境遇に理解があって助かってますが、今後何が起きるか分かりませんし。──でも、そうですね……両親や大切な友人とも会えなくなりましたけど、私はナイトと一緒に新たな人生が送れているのは幸せだと思っています」
『俺もトウコと一緒に暮らせて毎日楽しいぜー。話も出来るし、仕事をして町の役にも立ててるし』
「ありがと! でもナイトはおやつはもうその辺にしときなさい。夜ご飯だってあるんだからおデブになるわよ」
『……何だよう、少しぐらい良いじゃねえかよう』
ぶうぶう文句を言いつつも、すぐに食べるのを止めるところがナイトの素直なところである。
「まあ、現時点では良かったの方に傾いてますけどね」
私はジュリアン王子に笑みを見せる。
「そうか。……それなら良かった」
そんな話をしていると、ニーナ姫が満面の笑みで戻って来た。
「父様は騎士団の護衛も付けるなら構わないと仰ったから、早速予定を立てましょう! 明日かしら、明後日かしら? スカートでは歩きにくいから乗馬用のパンツにした方が良いわよね? ついでに川で大物でも釣り上げようかしら! ナイトのお友だちにもまた燻製を沢山作れるものね」
『お姫様いい人だな! 幸せは燻製のあるところ~♪』
「……私の方が釣りは上手い」
今回の外出で少しはジュリアン王子も気分転換してくれるかな。
私はそんなことを思い、ナイトとケヴィンのいる詰め所まで顔を出そうと考えた。ランチの希望も聞かないとね。
「ええ。最近涼しくなって過ごしやすい日も増えましたし、ここ数日は雨の心配もなさそうです。ナイトやお友たちも町の中ばかりよりも自然に触れる機会もあった方が良いかと思いまして、良かったらニーナ姫とジュリアン様も気分転換にいかがでしょうか? 森林浴なんて言葉もあるぐらいですから、木々の中を散策するのも体に良さそうではありませんか?」
私はナイトたちと戯れる彼らにハイキングのお誘いを掛けていた。
『おお? いいねいいねー♪ 他の仲間にも声掛けてみるよ。……あ、こいつらは行くってさ。多分結構参加してくれるんじゃないかな? あ、でもおやつは頼むぜ? みんな腹を空かせていることが多いから楽しみにしてるんだよ』
「もちろんだよ」
ナイトもお友だちも乗り気だったが、ニーナ姫もジュリアン王子もとても楽しそうだ。
「山へ行くのは初めてだわ! 兄様もそうよね?」
「記憶にはないな」
「楽しみだわあ。どんな野生動物が見られるのかしら? あ、でも王宮の外となると、私たちだけじゃダメよね?」
「まず国王様に許可を頂くのと、ケヴィンさんの班の方々に護衛を依頼しようと思ってます。私とナイトたちのことは騎士団では彼らしか把握してないので」
「そうね。あ、私が父様に許可をもらって来るわ。ちょうど呼ばれてたから」
「それは助かります。ありがとうございます」
じゃあ早速行って来るわ、とニーナ姫は軽やかな足取りで消えて行った。
「ジュリアン様は元々鍛錬とかされてるので体力的には心配ないと思いますが、足元が悪いこともあるので、登山で使うような疲れにくいゴム底の靴はありますか? 出来たらそれを履いて下さい」
「ああ」
「じゃあ国王様から許可頂いたら、みんなでパーッと遊びに行きましょう!」
「……そうだな」
細く裂いた鳥の燻製をナイトたちに与えながら、少し口角を上げたジュリアン王子は、眩しいような美貌である。長時間続かないのが玉にキズだけど。
「トウコのランチも楽しみだな」
「ああ、前みたいな簡単なので良ければ作りますね」
「美味しかったから頼む」
誰かに喜んでもらえるのは自分も嬉しい。騎士団の人たちの分も沢山用意せねば。……でも国王が気軽に許可をくれるかが心配だ。町中はまだしも山の中だし、危険があるかも……あ。
「──そこの山って、クマとか凶暴な生き物はいないんですよね? 前に私とナイトがやって来た時には幸い遭遇しませんでしたけど」
秋口だから冬ごもり前のクマなんて出て来たら大変だ。ナイトたちはもとより騎士団の人たちやジュリアン王子、ニーナ姫だって危険にさらされてしまう。
「イノシシぐらいはいたかも知れないが、クマを見たという話は聞かないな」
「それなら良かったです」
「なんだ、クマぐらいなら私だって戦えるぞ?」
「男性って腕自慢したがる人いますけど、しなくていいケガをしたり無駄に痛みもらうなんてマゾですか。死の危険はどこにでもあるんですよ? この国のたった一人の王子様なんですからご自身の危機回避は優先しないとダメです。一度別の世界で死んでる人間が言うんだから間違いありません」
私がそういうと、少し目を見開いたジュリアン王子は頭を下げた。
「……すまない。そうだ、トウコは死の苦しみを味わっていたのだったな。軽率だった」
「私もナイトもあの時はまさか死ぬなんて思ってもいませんでしたけどね。ただ長いこと痛みを感じたり苦しんだりした記憶はないのでまだマシだったと思います。この国に迷い人として二度目の人生を送れているのも運が良かったですし」
「──トウコもナイトも、この国に来て良かったか?」
私はジュリアン王子の質問に少し笑った。
「他の選択肢がなかったですから、この国に来て良かったかどうかは、人生の最後まで多分分からないですね。今は仕事もあるし、私たちの境遇に理解があって助かってますが、今後何が起きるか分かりませんし。──でも、そうですね……両親や大切な友人とも会えなくなりましたけど、私はナイトと一緒に新たな人生が送れているのは幸せだと思っています」
『俺もトウコと一緒に暮らせて毎日楽しいぜー。話も出来るし、仕事をして町の役にも立ててるし』
「ありがと! でもナイトはおやつはもうその辺にしときなさい。夜ご飯だってあるんだからおデブになるわよ」
『……何だよう、少しぐらい良いじゃねえかよう』
ぶうぶう文句を言いつつも、すぐに食べるのを止めるところがナイトの素直なところである。
「まあ、現時点では良かったの方に傾いてますけどね」
私はジュリアン王子に笑みを見せる。
「そうか。……それなら良かった」
そんな話をしていると、ニーナ姫が満面の笑みで戻って来た。
「父様は騎士団の護衛も付けるなら構わないと仰ったから、早速予定を立てましょう! 明日かしら、明後日かしら? スカートでは歩きにくいから乗馬用のパンツにした方が良いわよね? ついでに川で大物でも釣り上げようかしら! ナイトのお友だちにもまた燻製を沢山作れるものね」
『お姫様いい人だな! 幸せは燻製のあるところ~♪』
「……私の方が釣りは上手い」
今回の外出で少しはジュリアン王子も気分転換してくれるかな。
私はそんなことを思い、ナイトとケヴィンのいる詰め所まで顔を出そうと考えた。ランチの希望も聞かないとね。
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