上 下
66 / 75

ホラール帰宅でい

しおりを挟む
「ただいま戻りました」
「オンダさん、お帰りなさい! ダニーにジローにウルミも……ウルミは寝ちゃってるわね。パトリックさんもお疲れ様でした。一週間もみんなのお世話なんて、大変だったでしょう?」


 ルルガからホラールに戻って来る時は迷うことなく、四時間ちょいで帰って来られた。
 ナターリアに笑顔で出迎えてもらうと、ああ我が家に戻って来たなあという気持ちになる。

「いやあ、俺は全然! 初めての美味しいものもたくさん食べたし、ダニーたちと思いっきり遊べたし、楽しかったよ! ケンタローの方が料理したり、色々と大変だったと思うぜ」

 パトリックはうちの荷物を下ろすと、んじゃまたなー、と軽く手を挙げ馬車で自宅へ帰って行った。
 今日は馬車の手入れをして、うちの子たち用の馬車移動ボックスに貼る生地を見に行くそうだ。
 明日から仕事なのに元気ですねえと笑ったら、

「おいおい、俺たちが一週間もしていたのはバカンスじゃねえか。元気いっぱいだぜ」

 と言われて、ああ普通はそうかと納得した。
 俺は日本にいる頃から、車や飛行機、新幹線などの長時間の移動が苦手だ。
 体調によっては酔うこともあるので、旅行でも仕事でも酔い止め薬は常備していた。
 馬車は閉鎖空間じゃないからか酔うことはないが、腰に来るから少々辛い。
 でも実際ルルガの町では贅沢コテージで、セレブっぽいバカンスを過ごしたのは事実だし、美味しい魚介類を思いっきり堪能したので、元気いっぱいと言えば俺も元気なのだ。

(思えば、こっちに来てから大きな病気もしてないし、疲れても翌日にあまり残らない。俺も気づかないうちに体力がついてきたのかもな)

 まだ昼を回ったばかりだし、荷物を片づけて一休みしたら、ジルやアマンダ・ザックのところまで土産を持って行くか。いや、夕食を一緒にしようと伝えるか。
 ナターリアは普段店番をしている時は、サンドイッチなど仕事の合間につまめるような昼食を持って来ている。
 暇な時間帯というのも段々と決まって来たから、思ったよりも休めてるんですよー、と笑っているが、気が休まらないこともあるだろう。俺たちばかりバカンスで休養して申しわけない。
 いや、仕事はしたんだけどもね。
 今日もベーコンとレタスのサンドイッチを持って来ているそうだが、せっかく俺が帰って来たのだから、せめて温かい昼食ぐらい作って労らねば間違いなく罰が当たる。

「昼食は私に任せてください」

 と二階で荷物を片づけた後、急いで米を研いで火にかけた。
 フィルからもらったバカでかいアジの干物を焼き、ネギの味噌汁と青菜を茹でて胡麻和えを作った。
 ついでにダニーとジローには、サーモンの燻製と細かく切ったニンジンの昼ごはんだ。

「野菜もビタミンって栄養が入ってるんだ。あんまり好きじゃないだろうけど、健康にいいからしっかり食べるんだぞ?」
『……ポゥ』
『キュ……』

 明らかに気乗りしない感じの返事ではあったが、二人は言いつけを守って食べ始めた。
 ルルガで思いっきり美味しい魚介類を食べまくったので、彼らは少し太った。
 別に成長のために肉がつくのはいいけど、人だって動物だって、急激に肉がつくのは健康上よろしくはないだろう。
 現にダニーはいつも一番動いていたのに、疲れるのかルルガではゴロゴロ時間が増えた。
 栄養価の高い食事のせいか、尻尾のケガはすぐかさぶたが出来てほぼ完治したのはいいけど、ホラールではみんな少し節制させないと。

「ナターリアさん、二階に食事を用意しましたので交替しましょう。温かいうちにどうぞ。あ、サンドイッチは代わりに私がいただいてもいいですか?」
「まあオンダさんったら戻って早々……そんな気を遣わないでください。でもサンドイッチは食べてくださるなら助かりますわ」

 そう言いつつ、嬉しそうに二階へ上がって行った。
 彼女も慣れてるとはいえ一人でワンオペは疲れただろう。今回は特殊な事情もあったけど、次回からは短期間の出張にしないとな。

 その後、「あの魚、すごく脂がのってて美味しかったです!」などと喜んでいたナターリアと仕事をしつつ、アマンダの店とジルの家に電話をし、ジルの屋敷で今夜の夕食の約束を取りつけた。
 もちろん夕食の担当は俺だ。
 彼らも日本の調味料に舌が慣れて来たのか、俺が作るものを抵抗なく食べてくれるのが嬉しい。
 しかも今まで作った料理は、お世辞もあるだろうがみんな好意的な反応だ。
 ナターリアのお土産は、荷物になるからジルと一緒の時に渡すことにした。
 あらオンダ久しぶりねえ、などと声を掛けてくれるエドヤの常連さんに笑顔で挨拶をしつつ、俺は今夜の報告や相談を頭の中でまとめていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...