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かすかな不安
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幸いにも案内所のお兄さんが声掛けしてくれた商人たちは、快く招待に応じてくれたようだ。
コテージに夕方報告に現れてそう嬉しそうに報告しながら、バウムクーヘンだけ少し食べたらすっごく美味しいのでびっくりしました、と教えてくれた。
「ルルガでエドヤさんの商品が売られるようになるのを祈ってますね。そうしたら案内所でも宣伝しますからね!」
と爽やかな笑顔で帰っていった。
あのお兄さんは素晴らしくいい人だ。
これで商売に繋がるようなことがあれば改めてお礼をしなくては。
俺はパトリックがうちの子たちを風呂に入れてくれている間に、夕飯づくりに取りかかった。
ダニーたちは保護する毛があるせいか、冬場の寒い川や湖なども平気で飛び込むが、温かい湯というのもいいもんだと寒くなって来て感じたらしい。
ウルミは元々ルルガ地方の雪山が生息地らしいので、むしろ寒い方が元気いっぱいだけど。
夏場は水浴びで涼んでいることが多かったからなー。
「さあて、と」
俺は市場で買い込んで来た食材を冷蔵庫から取り出すと、ピラにゃんでニンジンやジャガイモの皮を剝き、ダマスカス包丁でカットしていく。
昼間は漬けマグロ丼を食べたので、夕食はカレーライスとサラダだ。
カレーにしたのは一日二日置いた方がより美味くなるからという理由。もちろん火は毎日入れる。
明後日のビジネスランチにも提供しようと考えている。この寒さなら簡単に傷むこともないしね。
PONカレーでも良かったが、今回はモリーのところで作っているカレールーのマイルドとスパイシーを半々に入れることにした。俺には辛すぎず甘すぎずでちょうどいい。
ぶっちゃけPONカレーはいつ供給出来なくなるか分からないし、ホラールやサッペンスだけで売っていればトラブルにはなりにくい。
それにモリーとの共同開発の方が売れてくれれば、みんなの利益になるからウィンウィンだ。
カレーはライスとパンどちらでも食べられるようにして、と。
俺は鍋をかき混ぜつつ考える。
バウムクーヘンやビーフジャーキーも減らないトランクのお陰で在庫には困らないが、徐々にモルダラ王国で作ったものをメインにしていきたい。
トランクの中のものばかりではこの国の経済が回らないし、文化的な発展もない。
それに実際に経験してみて感じたが、単に良いものを厳選して売るのも楽しいが、自分たちが一から作って、満足のいく商品にしていく作業もめちゃくちゃ楽しいのである。
まあトランクがお仕事をしてくれる間は細々と取り出した商品を売っていき、その間にこちらでも色んな商品を開発・販売していこう。
当日出すメニューなども考えつつ、レタスをちぎってキュウリを輪切りにし、塩ニンニクドレッシングで味をつけていると、バスルームの方からとてとてと出て来たウルミをダニーが捕獲し、タオルで拭き始めた。
「おいこらジロー、バスルームの外でブルブルすんな。俺が拭くから」
腰にタオル一枚巻いたパトリックがジローにタオルをぱさりとかけ、ムキムキの体に似つかわしくない優しい力の使い方で、三割減ボディーだったジローの水気を取っていく。
彼に安心して任せられるのはこういうところである。
「おい、お前たちはもうご飯済んだんだから、乾かしたらもう寝るんだぞ」
『キュゥ』
『ポポポ』
軽やかに返事を返す二人。
おや一人返事がないぞと思っていると、ウルミはダニーに拭かれている間にもう寝落ちしたらしい。
こいつがせめて一日の三分の一ぐらい起きているまで何年かかるのやら。野生のバナナチキンの親は大変だろうなあ。
大人しくみんなベッドに向かった後で、俺とパトリックは夕食だ。
「カレーの匂いってなんでこう美味そうかねえ。パンもいいけど、俺はライスの方が食べた気がすんだよな。腹にたまるっつうかさ」
「私もですね」
いそいそとテーブルに着いたパトリックは、サラダも美味いな、と相変わらず気持ちのいい食べっぷりでみるみる皿が空になっていく。
俺も一緒に食べながら、今日の成果を報告すると、彼も喜んでくれた。
「おお、商売相手とビュッフェか。商品を売るにはやっぱ味を知ってもらわないとだもんな。ミソもショーユもモリーソースも、こっちでも人気が出るはずだぜ。もちろんカレーもな」
「だといいんですけど」
「んじゃ俺は明後日は、ダニーたちと目の前の湖で釣りでもしながら遊んでるわ。倉庫に竿も入ってるんだぜ。至れり尽くせりだよなこのコテージ。ま、あいつらも知らない人間が何人もいたら気にするだろうし」
「ご迷惑を掛けますがよろしくお願いします」
頭を下げた俺にやめろよ、とパトリックは手を振った。
「言ってんだろ? 俺は大好きな奴らと遠慮なく好きなだけ遊べて美味いもの食べて、夜は夜でケンタローとたわいもない話が出来てよ。最高に楽しいバカンスだぜ」
「私も楽しいバカンスですよ。少々仕事は絡んでますけどね」
「ははっ、んじゃ俺たちのいい出会いに乾杯だな!」
彼はウイスキー、俺はレモンを入れた水で乾杯した。
明日はビュッフェ用の食材を買って、色々仕込みをしないとな。
食後、後片付けはやるからお前も風呂入っちまえよ、というパトリックにお礼を言い、湯船に浸かりながらやることを色々考えていたら睡魔が襲って来た。
案内所で最低一日一度はエドヤに連絡もしているが、ナターリアの方は問題ないようだ。
俺もいい返事を持って帰れたらいいんだけどな。
ただ今日町を歩いたら、何となく気が晴れない感じになっていた。
理由は心の隅っこに置いてある。
……気のせいだといいんだけど。
コテージに夕方報告に現れてそう嬉しそうに報告しながら、バウムクーヘンだけ少し食べたらすっごく美味しいのでびっくりしました、と教えてくれた。
「ルルガでエドヤさんの商品が売られるようになるのを祈ってますね。そうしたら案内所でも宣伝しますからね!」
と爽やかな笑顔で帰っていった。
あのお兄さんは素晴らしくいい人だ。
これで商売に繋がるようなことがあれば改めてお礼をしなくては。
俺はパトリックがうちの子たちを風呂に入れてくれている間に、夕飯づくりに取りかかった。
ダニーたちは保護する毛があるせいか、冬場の寒い川や湖なども平気で飛び込むが、温かい湯というのもいいもんだと寒くなって来て感じたらしい。
ウルミは元々ルルガ地方の雪山が生息地らしいので、むしろ寒い方が元気いっぱいだけど。
夏場は水浴びで涼んでいることが多かったからなー。
「さあて、と」
俺は市場で買い込んで来た食材を冷蔵庫から取り出すと、ピラにゃんでニンジンやジャガイモの皮を剝き、ダマスカス包丁でカットしていく。
昼間は漬けマグロ丼を食べたので、夕食はカレーライスとサラダだ。
カレーにしたのは一日二日置いた方がより美味くなるからという理由。もちろん火は毎日入れる。
明後日のビジネスランチにも提供しようと考えている。この寒さなら簡単に傷むこともないしね。
PONカレーでも良かったが、今回はモリーのところで作っているカレールーのマイルドとスパイシーを半々に入れることにした。俺には辛すぎず甘すぎずでちょうどいい。
ぶっちゃけPONカレーはいつ供給出来なくなるか分からないし、ホラールやサッペンスだけで売っていればトラブルにはなりにくい。
それにモリーとの共同開発の方が売れてくれれば、みんなの利益になるからウィンウィンだ。
カレーはライスとパンどちらでも食べられるようにして、と。
俺は鍋をかき混ぜつつ考える。
バウムクーヘンやビーフジャーキーも減らないトランクのお陰で在庫には困らないが、徐々にモルダラ王国で作ったものをメインにしていきたい。
トランクの中のものばかりではこの国の経済が回らないし、文化的な発展もない。
それに実際に経験してみて感じたが、単に良いものを厳選して売るのも楽しいが、自分たちが一から作って、満足のいく商品にしていく作業もめちゃくちゃ楽しいのである。
まあトランクがお仕事をしてくれる間は細々と取り出した商品を売っていき、その間にこちらでも色んな商品を開発・販売していこう。
当日出すメニューなども考えつつ、レタスをちぎってキュウリを輪切りにし、塩ニンニクドレッシングで味をつけていると、バスルームの方からとてとてと出て来たウルミをダニーが捕獲し、タオルで拭き始めた。
「おいこらジロー、バスルームの外でブルブルすんな。俺が拭くから」
腰にタオル一枚巻いたパトリックがジローにタオルをぱさりとかけ、ムキムキの体に似つかわしくない優しい力の使い方で、三割減ボディーだったジローの水気を取っていく。
彼に安心して任せられるのはこういうところである。
「おい、お前たちはもうご飯済んだんだから、乾かしたらもう寝るんだぞ」
『キュゥ』
『ポポポ』
軽やかに返事を返す二人。
おや一人返事がないぞと思っていると、ウルミはダニーに拭かれている間にもう寝落ちしたらしい。
こいつがせめて一日の三分の一ぐらい起きているまで何年かかるのやら。野生のバナナチキンの親は大変だろうなあ。
大人しくみんなベッドに向かった後で、俺とパトリックは夕食だ。
「カレーの匂いってなんでこう美味そうかねえ。パンもいいけど、俺はライスの方が食べた気がすんだよな。腹にたまるっつうかさ」
「私もですね」
いそいそとテーブルに着いたパトリックは、サラダも美味いな、と相変わらず気持ちのいい食べっぷりでみるみる皿が空になっていく。
俺も一緒に食べながら、今日の成果を報告すると、彼も喜んでくれた。
「おお、商売相手とビュッフェか。商品を売るにはやっぱ味を知ってもらわないとだもんな。ミソもショーユもモリーソースも、こっちでも人気が出るはずだぜ。もちろんカレーもな」
「だといいんですけど」
「んじゃ俺は明後日は、ダニーたちと目の前の湖で釣りでもしながら遊んでるわ。倉庫に竿も入ってるんだぜ。至れり尽くせりだよなこのコテージ。ま、あいつらも知らない人間が何人もいたら気にするだろうし」
「ご迷惑を掛けますがよろしくお願いします」
頭を下げた俺にやめろよ、とパトリックは手を振った。
「言ってんだろ? 俺は大好きな奴らと遠慮なく好きなだけ遊べて美味いもの食べて、夜は夜でケンタローとたわいもない話が出来てよ。最高に楽しいバカンスだぜ」
「私も楽しいバカンスですよ。少々仕事は絡んでますけどね」
「ははっ、んじゃ俺たちのいい出会いに乾杯だな!」
彼はウイスキー、俺はレモンを入れた水で乾杯した。
明日はビュッフェ用の食材を買って、色々仕込みをしないとな。
食後、後片付けはやるからお前も風呂入っちまえよ、というパトリックにお礼を言い、湯船に浸かりながらやることを色々考えていたら睡魔が襲って来た。
案内所で最低一日一度はエドヤに連絡もしているが、ナターリアの方は問題ないようだ。
俺もいい返事を持って帰れたらいいんだけどな。
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