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招待ビュッフェ

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 気の弱そうな案内所の若いお兄さんは、俺が持ち前の営業スマイルと太っ腹さを見せてコテージを借りてくれたのがよほど嬉しかったらしく(多分自分の成績にもなるんだろう)、

「滞在中にご協力が出来ることがあれば何でも仰ってくださいね!」

 と言ってくれていたので、翌日、早速力を借りることにした。時は金なりである。
 パトリックにはうちの子たちの面倒をお願いしているが、一日中可愛い彼らと過ごせるのが本当に癒やしになるらしく、

「こっちにいる間、こいつらは俺に任せてケンタローはどんどん仕事をしてくれ、どんどん」

 と真顔で言われたので、遠慮なく助けてもらうことにしている。
 ダニーたちもパトリックに対しては何故か警戒心ゼロの状態で、普通に近くで転がって遊んだり、ご飯をもらったり眠ったりするので、パトリックは嬉しくて仕方がないようだ。
 やはり打算なしの好意というのは、彼らにも伝わるのかもしれないと思う。
 俺とパトリックが仲良くなっているのも大きなプラスなのかな。
 お陰様で俺は好きに動けるので万々歳である。


「……ルルガにある大きな商会、ですか?」
「いえ、別にそこまで大きくなくてもいいんですが、それなりにルルガで知られているというか」

 案内所のお兄さんに頼みたいのは、この町の商人との顔つなぎだった。
 ホラールで商売をしているエドヤという店のオーナーが、こちらでも品物を売り出したいと考えている。
 それに伴って、コテージで軽くビュッフェ形式のパーティーをしたい。
 自社で扱っている商品を試食してもらいながらプレゼンしたい。
 今回は実際に商売には繋がらなくても構わず、今後のため面識を得たいのが先なので、気軽に招待に応じてくれそうな人はいないか、という話だ。
 何故コテージに招待するかって? ふっふっふ、当然じゃないですか。
 商人にとって、商売相手にゆとりがありそうに見せるのは基本。
 せっかく勢いとはいえお高いコテージを借りているのだ。キッチンもウッドデッキも広いし、これを有効活用しない手はない。いわば見せ金みたいなものだ。
 まあ実際に今はそこそこ稼いでいるんだけども。

「うーん、知名度があるところ、ですか」

 お兄さんが少し考え込んで、三つの商会を提案した。
 一番大きいのが、ルルガでレストランやパブなど五軒を経営しているベルファン商会。
 あとは大きいとは言えないが、二店舗経営している堅実な印象のモーガン商会、一店舗だけだが町で唯一の食品加工もしている土産物屋で、町の人間の知名度はあるというバッカス商会だ。

「なるほど」

 食品加工が出来る土産物屋というのは魅力的だ。
 今後の流れによっては、モリーの負担も減らせるだろうし、他の加工品も手掛けられるかもしれない。
 大きな商会というのも魅力はあるが、堅実も大事。うーん、でも反りが合う合わないもあるし、人柄も結構大きなファクターなんだよな。

「ちなみに、モーガン商会のモーガンさんと、バッカス商会のフィルさんはご兄弟でして、最初にお店を出されたのが弟さんなので、ファミリーネームのバッカスを使っておられるそうです」
「ああ、後からお店をやる時に混乱するから、お兄さんがお名前にしたんですね?」
「そのようですね。それに兄弟仲もいいので、先に仕事をしている弟の功績を取るみたいで気が引けたからね、とお兄さんのバッカスさんが笑って仰っていたことがあります」

 兄のモーガンは四十代前半、弟のフィルは三十代後半らしい。

「ベルファン商会のオーナーはどんな方でしょう?」
「いつもニコニコしている五十代ぐらいの恰幅のいい方ですよ。ただ私には少々高くて、レストランやパブなどはあまり利用してないんですが」
「ほうほう、高級志向という感じですか?」
「というより若者向けではなく、もっと上のゆとりのある親世代が対象かなという印象です」

 なるほど。どこも店によって特色はあるもんだな。
 どちらにせよ、ルルガでの基盤を固めるためには、エドヤの品物を認知させるのが先決だ。

「よろしければ、そちらのお三方に紹介状を書いていただくことは可能でしょうか? あ、これうちのエドヤのバウムクーヘンとビーフジャーキーです。さささ」
「え? こんな美味しそうなものいただいてしまっていいんですか? 私はオンダさんの望むホテルをご案内出来なかったのに」
「いえいえ、私もペット連れでしたので、そちらもお困りだったでしょう。こちら、今後こちらでも売り出したいと思っているので、よければ食べて感想を聞かせていただければ。ままま」

 遠慮するお兄さんに笑顔で商品を渡す。好感度アップの感触である。
 話しているうちに、お兄さんは童顔で若く見えるが実は今年三十歳になることを知った。
 案内所の仕事も十年越えのベテランだ。
 二十二、三歳ぐらいに見えるのに俺とたいして変わらないじゃないか。

「そんなわけで仕事柄、今お伝えした三つの商会の方とは面識がありますし、フィルさんとはよく飲みに行く友人でもありますので、紹介状を書くのはたやすいのですが、最初から呼んでしまった方が早い気がします」
「最初から? いやでも面識もないのに招待を受けてくれるとは……」
「ルルガはちょっと特殊なのです」

 お兄さんが言うには、町としての規模はそれなりだし風光明媚なところだが、ほぼ一年中寒い。
 なので観光客はそこまで多くはない。
 スキーなどウィンタースポーツをする人の需要は高いが、よそから商売目的で直接来る商人自体が少ないらしいのだ。

「家具職人とか画家とか衣服のデザイナーなど、この町ではクリエイティブな仕事をしている方が多いので、他の町との取引も当然あるにはあるのですが、出ていくばかり新たに入って来るものが少ないと言いますか」
「ふむ」
「なので新しいものに飢えている感じです。フィルは確実ですが、他のお二人もきっとオンダさんの話を聞きたいと思われるはずですよ」

 地域的に閉鎖的になりがちということか。
 こちらとしては願ったりな話だ。

「もし可能であれば、明日は私の準備期間とさせていただいて、あさってのお昼ごろに、お食事ついでに話をさせていただく、という感じではいかがでしょうか?」
「分かりました。すぐにでも打診してみます。オンダさんはこの後コテージに戻られますか?」
「あ、少し町のお店を散策してから戻りますので、二、三時間後には」
「それでは皆さんに確認してから報告に伺いますね。おそらく大丈夫だと思いますけど」
「お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

 俺は頭を下げて案内所を出た。
 ビジネスチャンス、けっこうありそうじゃないか。
 うんうん、いい感じだぞ。
 とりあえず、聞いていた三つの商会の店をチラッと覗いてから帰ろうか。
 ついでにまだ別の魚介類がないかも探索しないと。
 俺はふんふふん、と鼻歌まじりに商店街の方へ歩き始めた。



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