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ショーユ、それは俺が見た光
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いつものようにナターリアに店を任せて、俺は朝早くからサッペンスへ馬車を走らせていた。
先日のモリーの電話がきっかけで、もちろんダニーたちも一緒だった。
(ショーユだよショーユ。うひひひひ)
頼んでいた大豆から作るショーユの試作品が出来たという知らせである。
これが嬉しくなくてどうする。
もちろん、モリーソースは美味しい。
ただしょっつるみたいな魚醤なので味に独特のクセがある。万能とは言えない。
俺がいま求めているのは何にでも使える、いわゆる「普通のショーユ」なのである。
──いや、何にでも使いたいわけじゃなく、今の俺の目的は、
(そのショーユで刺身とご飯が食べたい)
のである。
日本のワサビはまだ見つけられないが、西洋ワサビと言われているホースラディッシュはこの国にもある。
日本のものとは香りも味わいも違うが、代用は可能だ。ローストビーフに使った経験ぐらいしかないが、まあ何とかなる気はする。
ただ魚醤で刺身を味わいたくはない。
これは単なる俺のワガママだが、別に刺身醤油でなくていい。あの豆の風味豊かな、素材を邪魔しないさり気ないショーユの味で思う存分刺身を堪能したい。
そしてミソも出来ているのだから、なめろうだって食べられる。
なめろうは俺の大好物の一つで、新鮮な魚を粘りが出るまで細かく叩いて、ショウガやネギ、大葉や青唐辛子などとミソを混ぜ合わせて食べるものだが、それを炊き立てのご飯で食べるのが最高に美味しい。サンガ焼きという出来たなめろうを焼いて食べるものもあるが、俺は生が好きだ。
アジがよく使われていることが多いのだが、実は新鮮なものなら意外と何でも合う。
実際に我が家の家庭の味は、マグロのなめろうやイカのなめろうもあったし、それがまたバカ美味かった。父も好物だった。母は刺身の方が楽なのにー、と文句を言っていたけど、俺たちが喜ぶのでよく作ってくれていた。
……ああ、考えてみればミソもショーユも大豆から出来てるんだよな。本当に大豆って偉大だわ。ミソやショーユを発明した人には心から感謝である。
まあ俺の感謝はさておき、ショーユが手に入れば、俺は絶対ルルガの町に行こうと思っていた。
ルルガはホラールの北にある町で、馬車で四時間ほどあれば行けるらしい。
ホラールより少し大きな町で、画家や家具作家などアーティスティックな人が多く集まるところらしいが、俺の目的は特殊な海流によるサッペンスでは獲れない魚たちだ。
マグロにヒラメ、タイや牡蠣などサッペンスでは水揚げされない魚介類も沢山あるらしい。
話だけでヨダレが出そうだが、アマンダたちは食べたことがないのでピンと来ないらしい。
「オンダの国ではよく食べてるの? 美味しいのかい?」
と尋ねられたぐらいだ。ただここではまだ生食の文化がないので、それを生で食べたいとか言ったらものすごい顔をされそうなので黙っておいた。
だが俺はモルダラ王国生まれではない生粋の日本人だ。
生で新鮮な魚介類を食べられる環境を当たり前にしてきた民族である。
俺は食に順応性はあるほうだと思っていた。
日本でなくても美味いものはたくさんあるし、ファーストフードだって美味しく食べていた。
だからそれなりにどこでも生きていけると思っていたが、寿司に海鮮丼、なめろうに塩辛など、色々と生で食べてきたものをふと思い浮かべてしまったらもうダメだった。
ああ食べたい。食べたい。食べたい。
思う存分生の魚介類を食べ尽くしたいなーちくしょう。
と、最近ではそんなことばかり考えていたのである。
もし今回のショーユが俺が望むものだった場合。
ホラールに引っ越して来たばかりのパトリックには悪いが、俺はミソとショーユを抱え、うちの子たちと一緒にルルガに旅立つのだ。
なあにホラールから四時間なんて大した時間じゃない。
二、三日泊りがけで、営業の仕事も絡めて海産物食べ放題ツアーである。
ダニーたちも珍しい海の幸にご機嫌になってくれるはずだ。
「──オンダ、今日は何だか楽しそうね」
馬を急がせ、午後の一時にはサッペンスに到着していた俺は、ニヤニヤが抑えきれなかったのだろう。モリーの店に向かうと、少し驚いたような顏の彼女が出迎えた。
「ええ、ショーユが出来たと聞いて嬉しくて」
「本当に仕事熱心ねあなたは。いいわ、早速ラボに案内するわ」
仕事熱心というか、今は仕事なんて後回し状態なのだが、ダニーたちには裏のたらいで遊んでいてくれと伝え、いそいそとモリーの後ろについていくのであった。
先日のモリーの電話がきっかけで、もちろんダニーたちも一緒だった。
(ショーユだよショーユ。うひひひひ)
頼んでいた大豆から作るショーユの試作品が出来たという知らせである。
これが嬉しくなくてどうする。
もちろん、モリーソースは美味しい。
ただしょっつるみたいな魚醤なので味に独特のクセがある。万能とは言えない。
俺がいま求めているのは何にでも使える、いわゆる「普通のショーユ」なのである。
──いや、何にでも使いたいわけじゃなく、今の俺の目的は、
(そのショーユで刺身とご飯が食べたい)
のである。
日本のワサビはまだ見つけられないが、西洋ワサビと言われているホースラディッシュはこの国にもある。
日本のものとは香りも味わいも違うが、代用は可能だ。ローストビーフに使った経験ぐらいしかないが、まあ何とかなる気はする。
ただ魚醤で刺身を味わいたくはない。
これは単なる俺のワガママだが、別に刺身醤油でなくていい。あの豆の風味豊かな、素材を邪魔しないさり気ないショーユの味で思う存分刺身を堪能したい。
そしてミソも出来ているのだから、なめろうだって食べられる。
なめろうは俺の大好物の一つで、新鮮な魚を粘りが出るまで細かく叩いて、ショウガやネギ、大葉や青唐辛子などとミソを混ぜ合わせて食べるものだが、それを炊き立てのご飯で食べるのが最高に美味しい。サンガ焼きという出来たなめろうを焼いて食べるものもあるが、俺は生が好きだ。
アジがよく使われていることが多いのだが、実は新鮮なものなら意外と何でも合う。
実際に我が家の家庭の味は、マグロのなめろうやイカのなめろうもあったし、それがまたバカ美味かった。父も好物だった。母は刺身の方が楽なのにー、と文句を言っていたけど、俺たちが喜ぶのでよく作ってくれていた。
……ああ、考えてみればミソもショーユも大豆から出来てるんだよな。本当に大豆って偉大だわ。ミソやショーユを発明した人には心から感謝である。
まあ俺の感謝はさておき、ショーユが手に入れば、俺は絶対ルルガの町に行こうと思っていた。
ルルガはホラールの北にある町で、馬車で四時間ほどあれば行けるらしい。
ホラールより少し大きな町で、画家や家具作家などアーティスティックな人が多く集まるところらしいが、俺の目的は特殊な海流によるサッペンスでは獲れない魚たちだ。
マグロにヒラメ、タイや牡蠣などサッペンスでは水揚げされない魚介類も沢山あるらしい。
話だけでヨダレが出そうだが、アマンダたちは食べたことがないのでピンと来ないらしい。
「オンダの国ではよく食べてるの? 美味しいのかい?」
と尋ねられたぐらいだ。ただここではまだ生食の文化がないので、それを生で食べたいとか言ったらものすごい顔をされそうなので黙っておいた。
だが俺はモルダラ王国生まれではない生粋の日本人だ。
生で新鮮な魚介類を食べられる環境を当たり前にしてきた民族である。
俺は食に順応性はあるほうだと思っていた。
日本でなくても美味いものはたくさんあるし、ファーストフードだって美味しく食べていた。
だからそれなりにどこでも生きていけると思っていたが、寿司に海鮮丼、なめろうに塩辛など、色々と生で食べてきたものをふと思い浮かべてしまったらもうダメだった。
ああ食べたい。食べたい。食べたい。
思う存分生の魚介類を食べ尽くしたいなーちくしょう。
と、最近ではそんなことばかり考えていたのである。
もし今回のショーユが俺が望むものだった場合。
ホラールに引っ越して来たばかりのパトリックには悪いが、俺はミソとショーユを抱え、うちの子たちと一緒にルルガに旅立つのだ。
なあにホラールから四時間なんて大した時間じゃない。
二、三日泊りがけで、営業の仕事も絡めて海産物食べ放題ツアーである。
ダニーたちも珍しい海の幸にご機嫌になってくれるはずだ。
「──オンダ、今日は何だか楽しそうね」
馬を急がせ、午後の一時にはサッペンスに到着していた俺は、ニヤニヤが抑えきれなかったのだろう。モリーの店に向かうと、少し驚いたような顏の彼女が出迎えた。
「ええ、ショーユが出来たと聞いて嬉しくて」
「本当に仕事熱心ねあなたは。いいわ、早速ラボに案内するわ」
仕事熱心というか、今は仕事なんて後回し状態なのだが、ダニーたちには裏のたらいで遊んでいてくれと伝え、いそいそとモリーの後ろについていくのであった。
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