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芽生える友情
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パトリックは体格と傷痕のせいでかなり圧がある人ではあったが、話してみると性格も温和で、ユーモアもある。
落ち着いているので同年代だと思ったら、俺よりも五つ下の二十七歳だという。
感じのいい男性にガラッと印象が変わるのはあっという間だった。
彼には悪いが一番意外だった部分がある。
それは、彼が可愛いものと甘いものに目がないことだ。
「オンダの家族はみんな可愛いな」
美味しそうにバウムクーヘンを頬張りながら、そんな嬉しいセリフをマフィアのボスのような低音ボイスで言うものだから、俺も帰るタイミングを見失って長居してしまっている。
干しイモのおやつを食べたあと三人で仲良く遊んでいたが、電池切れのウルミは、現在ジローの頭に乗っている状態だ。
興味深げに聞いてくれるものだから、彼らと出会ったきっかけなんかをついつい語ってしまい、うちの子たちの可愛いところを熱弁していて、一気に恥ずかしくなった。
「あははは、すみません。なんか気持ち悪いですよね。いい年した独り身の男が、こんな話を嬉々として話すなんて」
彼は聞き上手というか、いいタイミングで、
「ほう!」
「それでどうしたんだ?」
などとほどよいあいづちをくれるので、俺もつい話し込んでしまった。
なんというか、俺にとってすごく話しやすい人物なのである。
窓の外をチラッと見ると、すでに夕方である。もう訪問してから二時間以上はいるじゃないか。
今からホラールに帰っても真夜中だし、今夜はモリーのところへ戻って泊めてもらうか。
「長居してしまって本当にすみません。私は定期的に仕事でこちらに参りますので、お礼は改めてということで、本日はこれで」
俺が詫びをいい、帰り支度を始めようとすると、
「良かったらオンダにもっと話を聞きたいから、今夜はみんなで泊まっていかないか?」
とパトリックに引きとめられた。
近くの馴染みの酒屋に電話もあるから、モリーの店に電話もできるという。
「俺のところに来るってのは知ってるんだろう? どうせ今夜サッペンスに泊まるなら、客用のベッドもあるし、泊まっていけばいいさ」
「いやでもそれはさすがにご迷惑になりますから」
「おいおい、オンダも独り身なら分かるだろ? たまには話し相手が欲しい日もあるんだよ。こっちから誘ってんだから、迷惑もクソもねえよ」
パトリックも少し話しているうちに、俺に対する気兼ねがなくなったのか、気さくに話してくる。
「あ、でもちょっと待て。家族の了承も得ないとな」
彼は少し離れた床にいたダニーたちを見て、しゃがみこんだ。
「なあお前ら。よかったら今夜はみんなで泊まっていかないか?」
『キュ!』
『ポポッ』
不思議なことに、ダニーたちも初対面のパトリックに対し、避けるでもなく、頭を撫でられても嫌がるそぶりを見せることもなかった。通常モードである。
野生育ちのうちの子たちは、判断をしくじると自分の命に直結するためなのか、人を完全に信頼するまでに時間がかかる。
アマンダやザックだって、触られれば嫌がりはしないが、最初のうちはかなり緊張している様子もあったのだ。
パトリックには、野生の勘でさほど緊張せずにいられる何かがあるのだろう。
まあ俺も彼に対して、いつの間にか友人のような気持ちになってしまっていたので、別れがたい気持ちは芽生えていたのだが。
今日はお言葉に甘えることにして、酒屋で電話を借りてモリーにも連絡を入れた。
ウルミを保護してくれていたこと、そのパトリックの家で今夜はお世話になることを伝え、明日帰る前に顔を出すということになった。
モリーもジェイミーも喜んでくれていた。
どうせ泊まるなら夕食がてら一杯やらないか、ということで、ついでにスーパーのような総合雑貨店に足を伸ばし、食材を買い込む。
せっかくなので、と俺は料理の担当をさせてもらって、サーモンムニエルのタルタルソースのせ、キュウリのニンニク塩あえ、串のない甘タレの焼き鳥などを作る。
もちろん、モリーソースやミソ、基本の調味料はトランクの中に常備である。
馬車でどこに移動するか分からない商人でございますからね。もう塩だけの料理はこりごりだ。
「すげえな。手伝おうと思ったけど、俺よりよっぽど手際がいいや」
パトリックは俺のキッチンの様子を見ながら驚いている。そりゃあ仕事で教えてますからね。昔より自分でも素早くできるようになったと思う。
「なあオンダ、こいつらはメシ、どうすればいいかな?」
「ああ、ダニーたちですか? 今豚肉を焼いてるので、それを冷ましてあげようと思ってます」
「そうか。俺、何かできることはあるか?」
自分が何もしていないことが気になって仕方がないらしい。
俺は座ってていいですよ、と言いかけて、ふと思い出した。
「そのう……できたら一つお願いが」
「うん、なんでも言ってくれ」
「ウルミは寝てるのでいいんですが、ダニーを洗ってあげてもらえませんか? この子、けっこう体がオイリーになりがちなので、しょっちゅう水浴びするかお風呂に入れないと気になるようなので」
「分かった、石鹸で洗っていいのか?」
「はい、かまいません。ダニー、パトリックと一緒にお風呂で洗ってもらってくれるか?」
俺はフライパンの豚肉をひっくり返しながらダニーに呼びかけた。
ダニーはパトリックを見て、
『キュ!』
と声を上げると、パタパタとパトリックの後ろについていった。
賢い子だな、と少し驚いた様子の彼とバスルームに消えていったが、驚いたのは俺の方である。
風呂は嫌がるかもと思ったが、よほどパトリックが気に入ったらしい。
ジローはと見ると、風呂よりも豚肉の焼ける匂いの方が気になるらしい。
あまり動くとウルミが落ちそうなのか、ソワソワしつつこちらを見ている。
(なかなか楽しそうな人だな)
俺は、焼けた肉を皿にひょいひょいと移しながら、ウキウキした気分になっていた。
男同士の飲み会か。
あんまりお酒は強くないが、楽しめそうな飲み会は大歓迎だ。
落ち着いているので同年代だと思ったら、俺よりも五つ下の二十七歳だという。
感じのいい男性にガラッと印象が変わるのはあっという間だった。
彼には悪いが一番意外だった部分がある。
それは、彼が可愛いものと甘いものに目がないことだ。
「オンダの家族はみんな可愛いな」
美味しそうにバウムクーヘンを頬張りながら、そんな嬉しいセリフをマフィアのボスのような低音ボイスで言うものだから、俺も帰るタイミングを見失って長居してしまっている。
干しイモのおやつを食べたあと三人で仲良く遊んでいたが、電池切れのウルミは、現在ジローの頭に乗っている状態だ。
興味深げに聞いてくれるものだから、彼らと出会ったきっかけなんかをついつい語ってしまい、うちの子たちの可愛いところを熱弁していて、一気に恥ずかしくなった。
「あははは、すみません。なんか気持ち悪いですよね。いい年した独り身の男が、こんな話を嬉々として話すなんて」
彼は聞き上手というか、いいタイミングで、
「ほう!」
「それでどうしたんだ?」
などとほどよいあいづちをくれるので、俺もつい話し込んでしまった。
なんというか、俺にとってすごく話しやすい人物なのである。
窓の外をチラッと見ると、すでに夕方である。もう訪問してから二時間以上はいるじゃないか。
今からホラールに帰っても真夜中だし、今夜はモリーのところへ戻って泊めてもらうか。
「長居してしまって本当にすみません。私は定期的に仕事でこちらに参りますので、お礼は改めてということで、本日はこれで」
俺が詫びをいい、帰り支度を始めようとすると、
「良かったらオンダにもっと話を聞きたいから、今夜はみんなで泊まっていかないか?」
とパトリックに引きとめられた。
近くの馴染みの酒屋に電話もあるから、モリーの店に電話もできるという。
「俺のところに来るってのは知ってるんだろう? どうせ今夜サッペンスに泊まるなら、客用のベッドもあるし、泊まっていけばいいさ」
「いやでもそれはさすがにご迷惑になりますから」
「おいおい、オンダも独り身なら分かるだろ? たまには話し相手が欲しい日もあるんだよ。こっちから誘ってんだから、迷惑もクソもねえよ」
パトリックも少し話しているうちに、俺に対する気兼ねがなくなったのか、気さくに話してくる。
「あ、でもちょっと待て。家族の了承も得ないとな」
彼は少し離れた床にいたダニーたちを見て、しゃがみこんだ。
「なあお前ら。よかったら今夜はみんなで泊まっていかないか?」
『キュ!』
『ポポッ』
不思議なことに、ダニーたちも初対面のパトリックに対し、避けるでもなく、頭を撫でられても嫌がるそぶりを見せることもなかった。通常モードである。
野生育ちのうちの子たちは、判断をしくじると自分の命に直結するためなのか、人を完全に信頼するまでに時間がかかる。
アマンダやザックだって、触られれば嫌がりはしないが、最初のうちはかなり緊張している様子もあったのだ。
パトリックには、野生の勘でさほど緊張せずにいられる何かがあるのだろう。
まあ俺も彼に対して、いつの間にか友人のような気持ちになってしまっていたので、別れがたい気持ちは芽生えていたのだが。
今日はお言葉に甘えることにして、酒屋で電話を借りてモリーにも連絡を入れた。
ウルミを保護してくれていたこと、そのパトリックの家で今夜はお世話になることを伝え、明日帰る前に顔を出すということになった。
モリーもジェイミーも喜んでくれていた。
どうせ泊まるなら夕食がてら一杯やらないか、ということで、ついでにスーパーのような総合雑貨店に足を伸ばし、食材を買い込む。
せっかくなので、と俺は料理の担当をさせてもらって、サーモンムニエルのタルタルソースのせ、キュウリのニンニク塩あえ、串のない甘タレの焼き鳥などを作る。
もちろん、モリーソースやミソ、基本の調味料はトランクの中に常備である。
馬車でどこに移動するか分からない商人でございますからね。もう塩だけの料理はこりごりだ。
「すげえな。手伝おうと思ったけど、俺よりよっぽど手際がいいや」
パトリックは俺のキッチンの様子を見ながら驚いている。そりゃあ仕事で教えてますからね。昔より自分でも素早くできるようになったと思う。
「なあオンダ、こいつらはメシ、どうすればいいかな?」
「ああ、ダニーたちですか? 今豚肉を焼いてるので、それを冷ましてあげようと思ってます」
「そうか。俺、何かできることはあるか?」
自分が何もしていないことが気になって仕方がないらしい。
俺は座ってていいですよ、と言いかけて、ふと思い出した。
「そのう……できたら一つお願いが」
「うん、なんでも言ってくれ」
「ウルミは寝てるのでいいんですが、ダニーを洗ってあげてもらえませんか? この子、けっこう体がオイリーになりがちなので、しょっちゅう水浴びするかお風呂に入れないと気になるようなので」
「分かった、石鹸で洗っていいのか?」
「はい、かまいません。ダニー、パトリックと一緒にお風呂で洗ってもらってくれるか?」
俺はフライパンの豚肉をひっくり返しながらダニーに呼びかけた。
ダニーはパトリックを見て、
『キュ!』
と声を上げると、パタパタとパトリックの後ろについていった。
賢い子だな、と少し驚いた様子の彼とバスルームに消えていったが、驚いたのは俺の方である。
風呂は嫌がるかもと思ったが、よほどパトリックが気に入ったらしい。
ジローはと見ると、風呂よりも豚肉の焼ける匂いの方が気になるらしい。
あまり動くとウルミが落ちそうなのか、ソワソワしつつこちらを見ている。
(なかなか楽しそうな人だな)
俺は、焼けた肉を皿にひょいひょいと移しながら、ウキウキした気分になっていた。
男同士の飲み会か。
あんまりお酒は強くないが、楽しめそうな飲み会は大歓迎だ。
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