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ウルミとの再会と新たな出会い(下)
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モリーの聞き込みにより、短時間で隣人の息子夫婦の住まいを無事確認。
近くだったので、先に彼女だけ連れて話を聞きに行くことにした。
一緒に住んでいた隣人夫婦に話を聞いたところ、家の改修はパトリックという腕のいい一人親方に頼んでいるとのこと。
「ただ住んでいるところまでは知らないんだよ。斡旋してくれた建築協会に聞いてくれないか?」
「そうですよね。ありがとうございました、そちらで確認します」
たらい回しになっている感があるが、付き合いがある関係でもなければ、仕事を頼んだだけの相手の自宅を知っている方が珍しいのだから当然か。
さっそく建築協会に向かう。
ここはいわゆる、フリーランスの職人の派遣をしているところだ。
一般的に屋根のペンキ塗りを頼みたい、倉庫を作りたいなど、誰に頼めばいいのか分からない人たちもたくさんいる。
ソロ活動なら、協会に手数料を払っても斡旋してもらった方が楽な職人もいるだろう。営業職は苦手な人が多そうだしね。
ただあくまでもサッペンスの町の人間への斡旋だ。
俺一人でいけば確実に門前払いだっただろうが、モリーは長年サッペンスで店を経営しているので顔は広い。
働いている受付の年配女性もモリーのことを知っていたので、とても話がスムーズだった。
俺は諸事情を話して、どうしてもそのパトリックのところへ訪問したいのだと伝える。
「それは大変ねえ。モリーの仕事相手なら信用できるし、お伝えするのは構わないのだけど、あの人無愛想だし、それに──
受付の女性は少し口ごもり、手を振った。
「いえ、意見の押し付けはダメね。黙々と仕事をこなすタイプの人が多いから、必要最低限の会話しかしない人も少なくないの。だから私にはとっつきにくい感じの人が多いのよ。ごめんなさいね」
サラサラと紙に何か書くと、ポン、とスタンプを押して封筒に入れ俺に渡した。
「これは紹介状よ。モリーの友人が困っているので話を聞いて欲しいと書いておいたわ」
「わざわざありがとうございます」
少し遠回りはしたが、ようやくそのパトリックという大工の住所が分かった。
モリーの店がある地域とは反対側の、あまり俺が足を踏み入れたことがない地域だ。
受付の女性の印象から推測するに、頑固おやじ系だろうか。
まあどんな人だろうと、ウルミを見つけるためだ。
俺のハイパーな営業スキルで、敵意を持たれないよう頑張ろう。
馬車を引き取ってきてくれたジェイミーにお礼をいうと、トランクを積み、ダニーとジローを乗せ、パトリックの家を目指した。
「──誰だあんた?」
「突然の訪問失礼いたします。実はわたくしオンダという商人でございまして、あ、こちら建築協会からいただいた紹介状になります」
いつものクセで滑らかに挨拶の言葉を口にできたが、パトリックという大工は、ビビるほどコワモテだった。
自分よりは少し若く見えるが、一九〇センチはあろうかという筋肉ムキムキ系。金髪の長めの髪を後ろでひとまとめにしている。声もかなり低い。
ただ、目鼻立ちはよく見れば整っているし、仏頂面だけなら全然怖くはないのだが、右頬から目じりに向かってかなり大きな傷痕があるのだ。
刃物でついたような傷なので、仕事でついたのかもしれないが、そのせいで表情が左右で異なる印象だ。そのせいで少し怖く見えるのかもしれない。顔面神経って細かいらしいしなあ。
一七五センチのド平凡顏で、これまた平均体型の俺から見ると、頭一つぐらい大きいし体重なんて二十キロ以上は違うのではないかという圧迫感だし、受付の女性が言いにくそうにしていたのも分かるかも、などと考えてしまった。
だが前科がいくつかついてそうに見える兄さんだろうが、塩対応だろうが、うちのウルミを見つけることが最優先である。
俺はトランクから出してきたバウムクーヘンとビーフジャーキーを差し出し、
「玄関先でお話もなんですので、詳しいご説明をさせていただきたいのです。あ、これ私のエドヤという店で扱っているお菓子と酒のつまみです。お近づきのしるしに。ままま」
『ポポポ』
『キュキュキュ』
うちの子たちの声を聞いて、初めて足元にダニーとジローがいるのに気づいたパトリックが、ビクッと体を揺らして目を見開いた。
「かっ、おい、何だこいつらはっ!」
「あ、すみません。この子たちは一緒に暮らしている子たちでして。もし生き物が苦手であれば、玄関で待たせておきますので」
「……構わん。入れ」
少しの沈黙の後、パトリックは扉を大きく開いた。
無愛想は無愛想なのだが、思ったよりいい人のような気がしてきた。
「……なるほど」
綺麗なティーカップで紅茶まで出してくれたパトリックにお礼を言い、ここに来た経緯を説明した。
ダニーたちが色々と教えてくれた、という部分は当然はしょり、モリーがたまたま目撃した馬車の幌の柄で、パトリックに辿り着いたという話にはなったのだが。
黙って聞いていたパトリックは、そう呟くと立ち上がった。
そのまま隣の部屋に入っていったと思ったら、タオルが敷かれた木箱に入っているウルミを連れて戻ってくる。
「ウルミ!」
『ポポ!』
『キューーッ!』
まだ爆睡しているように見えたウルミだったが、ダニーたちの声が聞こえたのか、うっすらと目を開いて、首を動かした。
『ナ……ナッナーッ!』
飛べもしない羽をパタパタさせて、嬉しそうに声を上げるウルミに思わず泣きそうになった俺は、必死で平常心をかき集めた。
「こいつか?」
パトリックがウルミを指差したので、慌てて頷いた。
「はい! ウルミは一日に数時間しか起きていられないので、まだ馬車の隅っこで寝てるんじゃないかと心配してたんですが、救助していただいたのですね! ありがとうございます!」
「救助ってか、仕事道具片付けようとしてたらたまたま、な」
「それでも本当に助かりました! 感謝の言葉もありません」
俺は深々と頭を下げる。
『ナ、ナナー』
ダニーが木箱からウルミを出すと、俺の方へウルミがとっとっ、と走ってきた。
「お腹すいたか? 今は干しイモしかないけど食べるか?」
『ナッ!』
ポケットからおやつの干しイモを出して床に置くと、すぐに美味しそうに食べ出した。
「お前たちも頑張ったな。ほら」
ダニーとジローにも渡す。
いかん、人の家で何をしてるんだ俺は。
「失礼しました。この子たち空腹だと機嫌が悪くなるので。あの、それで、お礼と申してはなんですが、うちのウルミが幌の穴を広げてしまったんじゃないかと思いますので、張り替えの費用を」
「ん? いらん。屋根の穴は俺が木枝に引っかけちまったやつだから」
「でもそれではこちらの気が──」
「だったら一つ頼みがある」
「何でもおっしゃって下さい。できる限りのお礼はさせていただきますので」
少しためらった様子のパトリックは、ドスの利いた声で一言告げた。
「俺もこいつらに干しイモ、あげてもいいか?」
「え? ああもちろん!」
ほんの少し口角を上げながら干しイモを受け取ったパトリックは、ダニーたちに向かって、
「ほれ。これも食え」
と手渡ししていた。
普段なら他人から出されるものは嫌がる三人だが、チラッと俺に目をやってから、ごく普通に受け取っていた。
……なるほど。
パトリックさん、あなた、動物好きですね?
しかも、動物に好かれるタイプですね?
俺は、少し抱いていた怖い人、という印象が一気に変わるのを感じた。
近くだったので、先に彼女だけ連れて話を聞きに行くことにした。
一緒に住んでいた隣人夫婦に話を聞いたところ、家の改修はパトリックという腕のいい一人親方に頼んでいるとのこと。
「ただ住んでいるところまでは知らないんだよ。斡旋してくれた建築協会に聞いてくれないか?」
「そうですよね。ありがとうございました、そちらで確認します」
たらい回しになっている感があるが、付き合いがある関係でもなければ、仕事を頼んだだけの相手の自宅を知っている方が珍しいのだから当然か。
さっそく建築協会に向かう。
ここはいわゆる、フリーランスの職人の派遣をしているところだ。
一般的に屋根のペンキ塗りを頼みたい、倉庫を作りたいなど、誰に頼めばいいのか分からない人たちもたくさんいる。
ソロ活動なら、協会に手数料を払っても斡旋してもらった方が楽な職人もいるだろう。営業職は苦手な人が多そうだしね。
ただあくまでもサッペンスの町の人間への斡旋だ。
俺一人でいけば確実に門前払いだっただろうが、モリーは長年サッペンスで店を経営しているので顔は広い。
働いている受付の年配女性もモリーのことを知っていたので、とても話がスムーズだった。
俺は諸事情を話して、どうしてもそのパトリックのところへ訪問したいのだと伝える。
「それは大変ねえ。モリーの仕事相手なら信用できるし、お伝えするのは構わないのだけど、あの人無愛想だし、それに──
受付の女性は少し口ごもり、手を振った。
「いえ、意見の押し付けはダメね。黙々と仕事をこなすタイプの人が多いから、必要最低限の会話しかしない人も少なくないの。だから私にはとっつきにくい感じの人が多いのよ。ごめんなさいね」
サラサラと紙に何か書くと、ポン、とスタンプを押して封筒に入れ俺に渡した。
「これは紹介状よ。モリーの友人が困っているので話を聞いて欲しいと書いておいたわ」
「わざわざありがとうございます」
少し遠回りはしたが、ようやくそのパトリックという大工の住所が分かった。
モリーの店がある地域とは反対側の、あまり俺が足を踏み入れたことがない地域だ。
受付の女性の印象から推測するに、頑固おやじ系だろうか。
まあどんな人だろうと、ウルミを見つけるためだ。
俺のハイパーな営業スキルで、敵意を持たれないよう頑張ろう。
馬車を引き取ってきてくれたジェイミーにお礼をいうと、トランクを積み、ダニーとジローを乗せ、パトリックの家を目指した。
「──誰だあんた?」
「突然の訪問失礼いたします。実はわたくしオンダという商人でございまして、あ、こちら建築協会からいただいた紹介状になります」
いつものクセで滑らかに挨拶の言葉を口にできたが、パトリックという大工は、ビビるほどコワモテだった。
自分よりは少し若く見えるが、一九〇センチはあろうかという筋肉ムキムキ系。金髪の長めの髪を後ろでひとまとめにしている。声もかなり低い。
ただ、目鼻立ちはよく見れば整っているし、仏頂面だけなら全然怖くはないのだが、右頬から目じりに向かってかなり大きな傷痕があるのだ。
刃物でついたような傷なので、仕事でついたのかもしれないが、そのせいで表情が左右で異なる印象だ。そのせいで少し怖く見えるのかもしれない。顔面神経って細かいらしいしなあ。
一七五センチのド平凡顏で、これまた平均体型の俺から見ると、頭一つぐらい大きいし体重なんて二十キロ以上は違うのではないかという圧迫感だし、受付の女性が言いにくそうにしていたのも分かるかも、などと考えてしまった。
だが前科がいくつかついてそうに見える兄さんだろうが、塩対応だろうが、うちのウルミを見つけることが最優先である。
俺はトランクから出してきたバウムクーヘンとビーフジャーキーを差し出し、
「玄関先でお話もなんですので、詳しいご説明をさせていただきたいのです。あ、これ私のエドヤという店で扱っているお菓子と酒のつまみです。お近づきのしるしに。ままま」
『ポポポ』
『キュキュキュ』
うちの子たちの声を聞いて、初めて足元にダニーとジローがいるのに気づいたパトリックが、ビクッと体を揺らして目を見開いた。
「かっ、おい、何だこいつらはっ!」
「あ、すみません。この子たちは一緒に暮らしている子たちでして。もし生き物が苦手であれば、玄関で待たせておきますので」
「……構わん。入れ」
少しの沈黙の後、パトリックは扉を大きく開いた。
無愛想は無愛想なのだが、思ったよりいい人のような気がしてきた。
「……なるほど」
綺麗なティーカップで紅茶まで出してくれたパトリックにお礼を言い、ここに来た経緯を説明した。
ダニーたちが色々と教えてくれた、という部分は当然はしょり、モリーがたまたま目撃した馬車の幌の柄で、パトリックに辿り着いたという話にはなったのだが。
黙って聞いていたパトリックは、そう呟くと立ち上がった。
そのまま隣の部屋に入っていったと思ったら、タオルが敷かれた木箱に入っているウルミを連れて戻ってくる。
「ウルミ!」
『ポポ!』
『キューーッ!』
まだ爆睡しているように見えたウルミだったが、ダニーたちの声が聞こえたのか、うっすらと目を開いて、首を動かした。
『ナ……ナッナーッ!』
飛べもしない羽をパタパタさせて、嬉しそうに声を上げるウルミに思わず泣きそうになった俺は、必死で平常心をかき集めた。
「こいつか?」
パトリックがウルミを指差したので、慌てて頷いた。
「はい! ウルミは一日に数時間しか起きていられないので、まだ馬車の隅っこで寝てるんじゃないかと心配してたんですが、救助していただいたのですね! ありがとうございます!」
「救助ってか、仕事道具片付けようとしてたらたまたま、な」
「それでも本当に助かりました! 感謝の言葉もありません」
俺は深々と頭を下げる。
『ナ、ナナー』
ダニーが木箱からウルミを出すと、俺の方へウルミがとっとっ、と走ってきた。
「お腹すいたか? 今は干しイモしかないけど食べるか?」
『ナッ!』
ポケットからおやつの干しイモを出して床に置くと、すぐに美味しそうに食べ出した。
「お前たちも頑張ったな。ほら」
ダニーとジローにも渡す。
いかん、人の家で何をしてるんだ俺は。
「失礼しました。この子たち空腹だと機嫌が悪くなるので。あの、それで、お礼と申してはなんですが、うちのウルミが幌の穴を広げてしまったんじゃないかと思いますので、張り替えの費用を」
「ん? いらん。屋根の穴は俺が木枝に引っかけちまったやつだから」
「でもそれではこちらの気が──」
「だったら一つ頼みがある」
「何でもおっしゃって下さい。できる限りのお礼はさせていただきますので」
少しためらった様子のパトリックは、ドスの利いた声で一言告げた。
「俺もこいつらに干しイモ、あげてもいいか?」
「え? ああもちろん!」
ほんの少し口角を上げながら干しイモを受け取ったパトリックは、ダニーたちに向かって、
「ほれ。これも食え」
と手渡ししていた。
普段なら他人から出されるものは嫌がる三人だが、チラッと俺に目をやってから、ごく普通に受け取っていた。
……なるほど。
パトリックさん、あなた、動物好きですね?
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