土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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カメコン【4】

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「……やあ! ベイ子爵じゃないか」
 
 一瞬面倒な、という顔をしたお義父様が笑顔で振り向いた。私たちは知らぬ顔で辺りの様子を見る振りである。
 
「私たちの間柄で水くさいな。ルーカスと呼んでくれ。モリーも元気そうで何よりだ」
 
「ルーカスに会ったら元気が2割ほど無くなったけれど、ごきげんよう。もう少しスマートな挨拶は出来ないものかしらね。
 あら、ラナもお久しぶり。いつもながらお綺麗ね」
 
「またまた。でもお世辞でも嬉しいですわ、ありがとうございます。お久しぶりですモリーおば様」
 
 笑顔で結構言いたい放題な事を言っているのだが、モリーさんのキャラクターなのか、
 
「ははっ、モリーは相変わらず手厳しいな」
 
 などと聞こえてくるものの、不快感は感じられない。
 
 お義父様は馴れ馴れしく私のモリーに話しかけるなと言わんばかりに腰を引き寄せて、
 
「ああそうだ、今回は私も力及ばないまでも精一杯頑張ろうと思ってね。【家族】がたまたま遊びに来るというので協力して貰う事にしたんだ。そうだ紹介もせずに悪かった」
 
 
 止めれ止めれ。せっかく子供たちとステルスモードになってるんだから呼ぶな。
 
 
 私の願いは虚しく、
 
「おいリーシャ、カイルたちも挨拶しなさい。ルーカス・ベイ子爵だ。
 ……ああ、息子の方が出世したから爵位は同列だな」
 
 とにこやかながらもさりげなくマウントを取ろうとするお義父様が怖い。
 
 振り向く前に、
 
「母様、バージョン2でいい?」
 
 と早口で囁く子供たち。
 
「オッケー。武運を祈るわ。オーバー」
 
 頷く子供たちを視界の隅に入れ、私も気合いを入れて振り返る。
 
「まあ、すっかり景色に見とれておりまして申し訳ありませんでしたお義父様。
 初めましてルーカス・ベイ様、リーシャ・シャインベックでございます。こちらは子供たちで上からカイル、ブレナン、双子はアナスタシアとクロエと申します」
 
 淑女らしく挨拶をして、買い物もしないのに満面の笑みで土偶フラッシュをサービスした。
 
「……え?!……あ?……あー、するとあの騎士団の指揮官をしていると言うえらく不細工な……いや立派な一人息子がいると聞いていたが……」
 
 一瞬固まったまま目をガン開きにしたルーカス・ベイさんが、何とか言葉を絞り出した。
 
 本音が出たな。私のダーリンをえらい不細工とか言いやがったわね。エネミー判定だ。
 
「ええ、主人でございますわ。
 今回は仕事が多忙でございまして一緒に来られませんでしたの。
 子供たちにお義父様のところに遊びに行きたいとおねだりされましたものでこちらへ。
 たまたまカメラ……コンテストでしたかしら? 偶然そんなものがあると伺いまして、家族写真ならお目汚しにもならないかしら、と撮影して頂く事になりました。
 ルーカス様はベテランと伺っておりますので、どうぞお手柔らかにお願い致しますわ。ふふ」
 
 周囲の男女が溜め息をついてうっとりと私を眺めるのでサブイボ出たけど今日は長袖だもんねー。
 
 ほれほれ、大和民族の底力見せたるでー。
 行ったれ1号!
 
「僕たちなんか、ただ遊びに来たようなものですが、お祖父様がキレイに撮って下さるというので、至らないながらも4人で一生懸命モデルを務めたいと思います。
 よろしくお願いします!」
 
 にこー。
 
 2号も行けー。
 
「この町はチーズが美味しいと聞き及びまして、お祖父様のところに遊びに来たついでに父様のお土産にしようと思ってたのですが、写真まで撮って頂けるというので父様にいい土産話まで出来まして、ええ。
 あ、こちら母様が作ったクッキーです。
 宜しければ、さささ」
 
 にこにこー。
 
 最後に3号4号まとめて行けー。
 
「空気も美味しくてとっても素敵なところですねルーカスおじ様! こんな綺麗な景色のところでカメラコンテストなんて最高! 町の偉い方は頭がいいのですね!」
 
「ラナお姉様もとってもキレイ!
 クロエも大きくなったらお姉様みたいに綺麗になれるといいなー」
 
 にぱー。にぱー。
 
 
 よし、おおむね掴みはオッケーだ。
 
 とても演劇フェスで賞をもらった子たちとは思えん大根役者っぷりだけど、私も人の事は言えない。
 
 
 
 近くに立ってこちらを見ていた髭の紳士とその息子と思われる若者が顔を真っ赤にして、
 
「ててて、天使っ」
 
「めめめ、女神がっ!」
 
 とオロオロし、何故か慌てて土産物売り場に走って行った。
 
「デューク……ズルいじゃないか! 何故普段住んでもいないのに家族として撮影するんだ!
 大体血も繋がってないじゃないか!」
 
 頭の髪の毛がかなり物悲しい感じになっているので、血の気が上がると頭の上まで赤くなっている。
 
「嫌だなルーカス。血が繋がってたら息子と結婚できなかったじゃないか。しっかりしたまえ。なあモリー」
 
「デュークの孫は血が繋がってますけどねぇ」
 
 はっはっはっ、と笑いながらお義父様がチラリと私を見た。
 
 
 合点ですぜ旦那。
 もっとアピれって言う事っすね?
 
「まあ……お義父様やモリーさんと一緒に住んでなければ家族ではないんですの?
 私は家族は距離ではない、心の繋がりだとずっと思っておりましたのに……」
 
 おっと目薬がない。
 瞬きをしないようにしてホロリ、と。
 物書きは目を大切にしないといけないのに何でこんなえらそげなおじさんに無駄遣いせねばならんのだ。
 
 しかし、周りでさりげなく様子を見ていた参加者から、
 
「……女神を泣かせたぞあのじーさん」
 
「家なんか両親が慣れた土地で暮らしたいってずっと別居してんぞ」
 
「女神の言う通りだ」
 
 などとザワワザワワしてくれたので結果オーライだ。
 
 子供たちも抱き合うふりしてお互いの脇腹や背中を思いっきりつねるという荒行に入り、
 
「母様……僕たち……お祖父様と家族じゃないの?」
 
「やだー家族だもーーん」
 
「父様のお父さんだから私たち家族だよね母様?」
 
 などと小芝居を打って更にルーカスさんへの敵意が増加している。だが別に集団で苛めをしたい訳じゃないので、このままでは気の毒だ。
 
 オッケーそこまで、と子供たちに目で合図をして、
 
「いえ、私たちが家族だと思っていれば家族ですわ!
 ねえお義父様?」
 
 と指で涙を払い微笑む。
 
 あー、ツラい。私にこんなキャラいない。
 どこー。天真爛漫どこー。これで合ってるー?
 
「勿論だよリーシャ。──ルーカスも言い過ぎだぞ。
 うちの可愛い息子の嫁や孫たちを悲しませないでくれないか?」
 
 眉間にシワを寄せてルーカスさんを見る。
 
「そんなつもりはっ! ……いや、済まない。私が大人げなかった。許して欲しい」
 
 頭を下げるルーカスさんに、
 
「分かっておりますわ、ルーカス様にそのような悪意などないのは。私も子供たちも神経過敏になっておりました。こちらこそ申し訳ありませんでした」
 
「「「「ごめんさいルーカスおじさん」」」」

 行儀よく謝る子供たちでフィニッシュを飾り、ルーカスさんとラナさんは居心地悪そうに去っていった。
 
「……ふぅ……」
 
「リーシャ様、お子さま方も成長なされて……ルーシーは嬉しゅうございますわ」
 
 息をついていると、背後にルーシーがやってきて囁いた。
 
「やれば出来る子なのよ私も子供たちも」
 
「お子さま方はともかく、リーシャ様はやれば出来ると囁き続けて約30年の囁きメイド生活でしたわ。
 長い道のりでございましたが、3歩進んで5歩下がるようなベースの性格でよくぞここまで軌道修正を、と自分を誉めてあげたい……そんな気分でございます」
 
「主人への言葉をオブラートに包まなくなったのはいつからだったかしら」
 
「左様でございますね、かれこれ20年近くになりますか。オブラートに包んでる事に全く気づかれてなかったので無意味かと判断、撤去致しました」
 
「……そうね。心の機微には疎いのよ、私ガサツだから」
 
「まるで他は敏感だとでも仰っているように聞こえましたがきっと聞き間違いですわね。
 自己評価は低いわ心の機微には疎いわ人の視線には鈍感だわ、かと思えば旦那様から初キスや初膝枕を奪った上いきなり夜這いをかけようとする淑女にあるまじき特攻精神はあるわで、わたくしには心の安らぐ暇もございませんでしたが……リーシャ様もう1度伺っても?」
 
「……心の機微に【も】疎いのよ」
 
「やはりわたくしの聞き間違えでございましたわね。よろしゅうございました。もう体にガタが来たのかと不安になりましたがそれはさておき、大旦那様に撮影して頂くポイントをチェックしませんと」
 
 満足げなお義父様とモリーさんのところに歩み寄るルーシーの背中を無言で見ていると、グエンさんが声をかけた。
 
「……シャインベック夫人、ルーシーって、その、夫人にはずっとああいう感じなんですか?」
 
「まあ、割と小さい時からかしらね」
 
 何故そんな事を? 主人なんだから叱るべきとか言うのかしら?
 
「ルーシーがあまりにイケメンすぎてツラい……超いい……流石僕の愛する妻……」
 
 頬を染めてふるふると身を震わせるグエンさんに私は一歩引いて糸目になった。
 
 
 
 ルーシー、ちょっとー。
 貴女の旦那さんは主人をディスる妻に欲情してるみたいでめっちゃ怖いんだけどー。
 引き取ってーー。今すぐ引き取ってーー。
 
 
 心の中でグエンさんの真っ当な人評価がストップ安だ。我が家の周囲はじわじわと変な人たちが増えている気がする。
 
 
「──よし、みんな、さっさと撮影さっさと撤収よ」
 
「「「「らじゃ」」」」
 
 私は気を取り直して笑顔を作りつつ、子供たちを引き連れお義父様の元へ向かうのだった。
 
 
 
 
 
 

 
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