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家族旅行。【11】

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「今夜はお招きに預かりまして、どーんと食べに参りましたぞ。わっはっはっはっ」
 
 
 6時半になると、陽気なフレディーさんがマデリーンを連れて現れた。
 
 アロハのような派手なシャツを着たフレディーさんにオレンジ地のムームー的ワンピースを着たマデリーンを見てると、ここはハワイかグアムのような気がするが、明るい色合いって夏場は爽やかでいいやね。
 
 2人ともこっちに来た時に市場のそばの屋台で売ってたらしい。
 
 ……何だか私も欲しくなってきた。
 明日にでも皆で行ってみようかな。
  
 
「いらっしゃい!マデリーン可愛いわ、とても似合ってるわよ!フレディーさんも」
 
 カイル達も着替えて一緒に出迎えていたが、
 
「本当に可愛いね」
 
 とカイルが少し顔を赤らめてマデリーンにニコニコとした顔を向けていた。
 
 
 んんん?カイルは年上ぽっちゃり女子がお好みかい?
 いいよいいよー、年上っていっても1つだしタメみたいなもんだわ。
 性格も素直でいい子よねえ。
 
 バカンス先での恋か。
 文通とかで愛を育むっていうのもいいじゃない。
 
 あら、そういう話もいいわね。
 薄い本だとすぐエロい方面に話が傾きがちだけど、プラトニックなジレジレもいいんじゃないかしら。
 まあどちらにせよやる事はやるんだけど。
 何もしないのは私も読者も許さないわね、うん。
 
 ぎりぎりまでプラトニック、そこから怒濤の満たされベッドシーンになだれ込みするのはどう──。
 
 
「リーシャ、もう火も起こしてるだろうから食材運ぼう。フレディーさん達も庭の方に案内しないと」
 

 ダークの声で妄想から現実に戻った私は、
 
「あらいけない。アレック達にさっき頼んでたわね」
 
 とフレディーさん達の案内しつつ、ダークとルーシーとで食材を抱えてバーベキュー会場(庭だけど)に向かった。
 
 
 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
 本当にびっくりする位フレディーさんはよく食べた。
 マデリーンも食べる方だが、想定内。
 
「美味い美味い。ミーシャさんとこのタレ、いい味ですねえ!ウチも作りたいもんです」
 
 とか、
 
「あんまり魚を生で食べる事がないんですが、この昆布締めもワサビをつけて食べると幾らでも食べられますな。いやはや驚いた」
 
 
 とか言いながらみるみる肉や魚が減っていく。
 いやはや驚いたじゃないわよ、こっちの方が驚いたわよ。
 
 ちょっと多すぎたかと思うほどの量だったのに、あっと言う間に消えたじゃないの。
 
 ダークやグエンさん、ジークやアレック達もだが、子ども達も結構な勢いで食べていたので、ものの1時間ほどでフルーツポンチを残して綺麗に片付いた。
 
 まあ気持ちいい食べっぷりだったので、もてなす側としては嬉しかったけれど。
 
 でも、クロエと仲良く食べていたジークが、何か言いたげに何度も私を見るのが不思議だった。
 2人で夜のデートでもしたいのかしら?
 夜はダメですよ夜は。
 
 
 
 
 
「……あら、ミヌーエ王国にお住まいなんですの?かなり遠いですわねえ」
 
「まあでも列車で2時間半だし、それほどでもないかな。馬車だと数日はかかったけど便利になったよ」
 
 食後のフルーツポンチを食べて、子ども達は腹ごなしにマデリーンと一緒にふんばば踊りをしており、一部の大人勢(私たち夫婦とフレディーさん)は作って冷やしておいたアイスコーヒーで室内でティーブレイクである。
 
 アレックとジョニーは、
 
「俺たち今日は昼間は自由に過ごせましたし、何にも手伝えてないので後片付けは任せて下さい!
 後は適当にコンドミニアムに戻りますので」
 
 と鉄板を洗ったりテーブル配置を戻したりするのをやってくれたのでとても助かった。
 
 
 ちなみに、ミヌーエ王国は我が国ガーランド国の西側にある。山を越えた東側がこないだ王様が来ていたガレク王国で、ミヌーエ王国は西のデカい湖を越えた先にある。
 
 まだ行ったことはないが、確かミヌーエワインがとても有名だ。
 
 器も凝っていてちょっとお高いので、我が家ではなかなか飲む機会はないのだが。
 
 
「シャインベック家の方々と仲良く出来ると分かってたら、ミヌーエワインを持ってきたんですがなぁ。
 ワインで有名なのに、私は酒に弱いものであまり飲まないんですよ。眠くなってしまうもんで」
 
「まあ!分かりますわあ、私もですの!
 主人は飲んでも全く変わらないのに私はグラス1杯か2杯でもう眠くて眠くて」
 
 だからそんなに強烈にお酒が飲みたいというのもないんだけど、美味しいと評判ならばいつかは試してはみたいものである。
 
「ダークは飲んだ事はある?ミヌーエワイン」
 
「ん?……確か1度、前の指揮官の引退する時にご馳走になった。香りもいいし、喉ごしも滑らかだ。結構飲んだが次の日に全く残らなかったのが驚いたな」
 
「いいお酒って悪酔いしないらしいわよねぇ」
 
「国の名産を誉めて頂くのは照れ臭いが嬉しいですな。はっはっはっ。
 ──ところで、カイル君、でしたか。彼は騎士団にでも入るんですかね?かなり体を鍛えているようだが」
 
 表の謎の舞踏集団を眺めてフレディーさんが尋ねた。
 
「あ、ええ。主人が騎士団におりますので影響を受けたようですわね。今のところは騎士団に入りたいと申してますが……子どもは分かりませんものね先の事は」
 
 ダークと顔を見合わせる。
 よく分かるな鍛練してるって。子どもだから成長に影響でないようにって、ダークは余り筋肉はつけすぎないよう気をつけてるのになー。
 
 私たちの不思議そうな顔を見て、フレディーさんは笑った。
 
「いやね、我が家の方針でうちのマデリーンも結構鍛えてるんですよ。剣の腕前なんか、情けないことに私なんかよりよほど使えるんです。だから何となく分かるんですよねえ。私んとこは妻も娘もかなり使えるんですよ。
 私はさっぱり向いてないからねえ」
 
 薄くなった髪の毛をペシリ、と叩いた。
 
「まあ、ウチの奥さんには申し訳なかったなと思って。だけど娘が剣術とかやるのって、やっぱり特殊でしょ?
 男性はあまり強い女って好まない人が多いからね」
 
「……まあ、女性はか弱いものだ、守るものだって方はいらっしゃいますわねえ」
 
 ウチのルーシーは強いし、グエンさんもそんなルーシーが好きだが、そういう人は少数派だろう。
 
「カイル君みたいな子がウチの婿になってくれたらどっちも強くて良さげだけどねえ。ははっ。
 それはともかく、良かったら娘とこれからも仲良くしてくれると嬉しい。
 娘は剣術ばっかりだし人見知りで友だちも少ないんだ。マデリーンがあんなに楽しそうにしてるの久しぶりに見たよ。アナちゃんやクロエちゃん、ブレナン君もいい子たちだし、是非ともウチの国にも遊びに来てよ。
 ダークさんやリーシャさんも妻にも紹介したいし」
 
 フレディーさんは深く頭を下げた。
 
「頭を上げて下さいな。──まあ国をまたぐのでそうそうは行けませんけれど、折角の出会いは大切にしたいですわ。
 手紙のやり取りとかは出来ますし、住所とか教えて下されば子ども達もマデリーンに手紙出せますものね」
 
「本当かい?嬉しいねえ!マデリーンも喜ぶよ」
 
 ペンとメモを用意すると、いそいそと書き出した。
 2つ折りにして私たちに渡すと、何度もよろしくと言いながらマデリーンを連れて、迎えに来た護衛のお兄さんとホテルに戻っていった。
 
 
「子ども達も友だちが増えて良かったわねえ」
 
「ああそうだな。俺たちも釣り仲間が出来たしな」
 
 私たちがのんびりとコーヒーを飲みながら語っていると、子ども達を連れてジークラインが室内に戻ってきた。
 
 クロエの傍を離れたくなかったのか、【子どもだけだと不用心だから】という名目で護衛と庭で見守ると言い張ったのでお任せした。
 
 王子であろうと本人がやると言うのだから止める筋合いはないだろう。
 
 まあ正直ロリコンを子ども達の傍に置く方が危険だが、クロエ限定ロリコンでクロエも許容してるので、ぎりぎりセーフだろう。
 
「あれ?フレデリックさんはお帰りになりましたか」
 
 ジークラインが私たちの座るテーブルにやってきた。
 
 子ども達には風呂に入ってから寝るようにといい、ルーシーとグエンも手伝い、用意していた風呂に連れていった。
 
 私はアイスコーヒーをマグカップに注いでジークラインの前に置いた。
 
「子ども達の見張りありがとうございました。悪さしてませんでしたか?」
 
 美味しそうに一気に半分ぐらいアイスコーヒーを飲んで、ジークラインは首を振った。
 
「いや、あの子達は踊っている時は無心だから。
 眺めてると退屈しないんですよね。可愛いし」
 
 特にクロエがでしょ。
 まあいいけど。
 
「ところでフレデリックさん?フレディーさんでしょ?帰りましたよさっき」
 
「フレデリックさんの愛称がフレディーさんです。
 そうなんですか……覚えてないだろうけど挨拶ぐらいしておきたかったんだけど、帰りに寄るか……」
 
「ジークライン王子、フレディーさんと面識が?」
 
 ダークがちょっと驚いたようにジークラインを見た。
 
「ええ、まあ公務でですけどね。兄の付き添いだったので顔を覚えてないのも仕方ないです。僕も余り不細工な顔を晒すのが嫌でなるべくうつ向いてましたしね」
 
 
 ……すごくすごく嫌な予感がする。
 
 
 あの商人みたいな陽気なおっちゃんはミヌーエのお偉いさんだったのか?
 
「あの、ジークライン様、フレディーさんて、もしかして大臣様とか、かなり爵位の高い方?
 今回の旅行で仲良くなったので、商人さんか何かだと思っていたのだけど……」
 
「……え?ご存知なかったんですか?ミヌーエ王国の王配ですよ。ほら、あそこは女王制ですから。
 釣りが好きとは聞いてましたが、この辺まで来られるんですねえ」
 
 
 おーはい。
 
 おーはい?……王配って……。
 
「ねえダーク、王配って王配よね?あの、女王陛下の配偶者の」
 
「……今のは聞かなかった事にしたいんだが」
 
「私もなの。──さっきのメモ見せてくれる?」
 
 ダークからフレディーさんに貰ったメモを受け取り恐る恐る開く。
 
 
≪フレデリック=ミヌーエ
 マデリーン=ミヌーエ
 
 住所:ミヌーエ王国 ミヌーエ城内≫
 
 
 私はてしーん!とメモをテーブルに叩きつけ立ち上がった。
 
「番地がないのは住所って言わないんだYO!
 統治場所って言えYO!
 アロハ着た釣り好きの王配なんて予想もしてないんだってばYO!」
 
「リーシャ落ち着け、らっぱーさんが舞い降りてる」
 
 ダークが慌てて私を抱き締めてヨシヨシと頭を撫でた。
 
「……なんで油断すると王族が近くにいるのかな。オイチャンそんな事頼んだこと1度もないよ。
 もうこれは呪いなのかな。オイチャン真面目に生きてきたのにいつもいつもアッチからよぅ……」
 
「そうだな。オイチャンは何にも悪くないぞ。ほら鼻をかみなさい。ちーんて」
 
 ぐしぐしと鼻をすすり涙ぐむ私にダークがティッシュを押しつけた。
 
 ちーん。
 
 
「知らずに仲良くなるなんて、流石にリーシャさん王族ホイホ……」
 
 ジークラインがキッ、と睨んだ私に言葉を止めた。
 
 お前もじゃ。お前も王族なんじゃ。
 王族ホイホイじゃなくて勝手に王族が粘着テープにダイブして来るんじゃないかーーー!
 
 
「えーっと、僕はそろそろ帰ろうかな。フレデリックさんに挨拶しないと。あはははは。
 それじゃまた明日……お休みなさーい」
 
 風向きが悪くなる前にジークラインは撤退していった。
 
 
「カイルがマデリーンを嫁にしたくなったらどうしよう。いや婿に行くのかな。
 ウチ王族スリーカードになっちゃうよぅぅ。
 オイチャン王族と文通なんかしたくないよぅ」
 
「いや、俺だって嫌だが、フレディーさん自体はいい人だろう?マデリーンも。
 ……たまたま、そうだ、たまたま仲良くなった髪の薄い陽気なおっさんと娘さんがたまったま王族だっただけだ。不可抗力だ。カイルがマデリーンと結婚するかなんて先の事は分からないし今は気にするな」
 
 
 私はダークに慰められながら、ブレナンだけが最後の砦か……と天井をぼんやり見つめるのだった。
 
 
 
 
 
 
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