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家族旅行。【8】

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「……え?ワシもいいのかい?」
 
 お弁当箱を家族総出で広げながら、私は船のオーナーで今日の操舵もしてくれているルーサーさんに声をかけた。
 
 ルーサーさんは50代。短髪で海の男らしく白のタンクトップに色黒ガッシリな体で、私には色気のあるイケオジである。即座に小説のシチュエーションが何通りも浮かぶ己の腐れ具合が情けない。
 しかしこれが現在の飯の種であるので仕方ないのだと開き直ろう。
 
「ええ、沢山ありますので宜しければ。
 ですがご自宅からお弁当持って来られてるのなら食べきれませんかしら……」
 
 私は茶色い紙袋を持っているルーサーさんの手を見た。
 
「ああいや、これは朝市で買ったパンだから、別に持ち帰って晩飯にすりゃあいいんだけどよ。そりゃ美人さんの作ったご飯の方がいいに決まってるが。
 でも旦那さんはいいのかい?」
 
 ルーサーさんは申し訳なさそうな顔をしてダークに目を向けた。
 
「ウチの妻は料理が上手いんです。本当に沢山あるのでみんなで食べましょう。ウチの妻は普段は余り外に出掛けないのでレアですよ」
 
 ダークが笑いながら座る場所を空ける。
 
「海の女神の作るものを食べたら今年はこれから大漁続きになるんじゃねえか?いやなるな間違いなく。
 いやぁ、ワシの船に見たこともねえ綺麗な奥さんや子供たちが乗ってきたのにも驚いたけど、女神さまは美しいだけじゃなく太っ腹だねぇ。それじゃ遠慮なく」
 
 
 しれっと海の女神とか言うな。
 もう●●の女神とか要らんわ。
 
 大漁になるとか勝手に自分が加護を授かるみたいな話をするな。もし大漁じゃなかった時に恨まれるじゃないか。ルーシーもダークも頷くな。
 
 フレディーさんもマデリーンも拝むな。
 てか子供たちまで「奇跡のエビフライ」とか「慈愛のタルタルソース」とか一家総出の壮大な詐欺をかましてんじゃない。
 
 なーまーみー。人外じゃなくちょっと大和民族なだけの人間でーす。
 
 いや、もういい。さっさと食べて帰ろう。
 そして負けた者として潔くバーベキューパーティーの準備だわ。
 
「さあどんどん食べて下さい!マデリーンもエビフライ一杯あるから好きなだけどうぞ。
 フレディーさんアスパラのベーコン巻きはお好きですか?……あ、脂っこいのばかりは健康に悪いですから野菜の煮物も食べて下さいね」
 
 少し泣きそうな気持ちを押し隠して、皆におにぎりを渡したり紙皿にオカズを取ったり飲み物を注いだりするのだった。
 
 大好評で綺麗に持ってきたお弁当が空になったのは嬉しいけど、ノリノリでご馳走さまでしたと拝む子供たちは今夜はお仕置きである。
 
 
 
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
 
「では、18時半頃にコンドミニアムの方へお願い致します。バーベキューセットも頼んでありますから」
 
「おお、間違いなく行きますよ。
 今回はシャインベック家の方々と知り合えて良かった。妻は仕事があるのでいつも娘と2人だったから少しばかり……なあマデリーン?」
 
「はい!リーシャおば様、エビフライもタルタルソースもとっても美味しかったし、他の唐揚げとか煮物もすごく美味しかったわ!カイル、ブレナン、アナもクロエも仲良くしてくれてありがとう。……あの、もし良かったら、私とお友だちになってくれる?」
 
 マデリーンは照れ臭そうに子供たちを見ると、手を差し出した。
 
「もう友だちじゃないですかやだなあ」
 
「マデリーン、今度ウチにも泊まりにおいでよ!」
 
「僕らの家はマーブルマーブル町にあるんだ」
 
「アズキって言う猫もいるのですよ」
 
「わあ!猫みたいわ!絶対に遊びに行くね!」
 
 みんなとぎゅうぎゅう抱き締めあってるのを眺めていたら、フレディーさんが小声で、
 
「私らは明日の朝には帰るんで、娘が今夜のバーベキューを楽しみにしているんですよ。
 お手数かけて済みませんが、改めて御礼は致しますので何とぞよろしくお願いします」
 
「そんな気になさらないで。でもせっかく仲良くなれましたのに残念ですわ。
 張り切って、といってもバーベキューなので大した事は出来ませんが、どうか楽しんで下さいね」
 
 無口な護衛のお兄さんも頭を下げて、3人はホテルへと戻って行った。
 
 早めに切り上げたのでコンドミニアムに戻って来たのはまだ昼2時を過ぎたばかりである。
 
「ダーク、フレディーさんたちは明日の朝に帰られるんですって。残念ね。
 あー、リベンジのチャンスも消えたわ」
 
「まあこれからもお付き合い出来たら年に1回でも2回でもお互いの家を行き来出来るといいな。
 ……そうだ、どこに住んでるのか聞くの忘れてたな」
 
「あら本当ね。夜に聞けばいいわよ」
 
「そうだな。少し疲れたから一眠りするか?」
 
 ソファーに座る子供たちを見ると、早起きのツケが遅れてやって来たようで、眠そうだ。
 
「ルーシー、悪いけど子供たち着替えさせるの手伝ってくれる?」
 
「かしこまりました。──あら」
 
 何か頼んだ覚えもないが、呼び鈴がなった。
 
 ルーシーがそっとガラス窓のカーテンを少し開けて扉の前を見て、一旦閉じて、再度見た。
 
「ルーシー、ホテルの方?フレディーさんたち?」
 
 私が声をかけると、
 
「いえ、予想外の御方でございます」
 
 ルーシーが恭しく扉を開けると、
 
「お義母さ……もといリーシャさんに指揮官!お久しぶりです!お元気でしたか?」
 
 アーデル国のジークライン王子が護衛を連れて笑顔で立っていた。
 
「ん?……ジーク?」
 
 目をこすっていたクロエがパッと振り返り、
 
「あー!ジークだ。本当に来られたのね。嬉しい!」
 
 タタタッとやって来てジークラインの胸元に飛び込んだ。
 
「クロエ、今日も可愛いね。会いたかったよ」
 
 クロエを抱き上げたジークラインは、
 
「済みませんが、入り口で立ったままもアレなので、お邪魔しても?」
 
「あ、ああ申し訳ありませんでした。どうぞ奥へ」
 
 固まっていたダークが立ち上がりお辞儀をすると、私を見て(どういう事だ?)という顔をした。
 
 
 ちょいまち。
 
 母様も父様も何も聞いてないわよクロエ。
 
 
 
 
 
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