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家族旅行。【7】

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「あらまたヒットしたわ!」
 
 
 今日の私は絶好調である。
 
 
 たまたまアオリイカがうろついているエリアだったのか、糸を垂らせばすぐヒット、釣り上げ竿を振ればまたヒットという状況で笑いが止まらない。
 
 私にとって釣り上げるイカたちは無料のイカそうめんでありイカフライでありバター醤油焼きである。
 
「母様たいりょーだねえ」
 
 薬を飲んで暫くしたら復活したのかクロエとブレナンがやって来て、クーラーボックスの中を見て驚いていた。
 
「そうよー。父様も結構調子いいみたいだけど、シロギスはサイズが小さめだからねえ」
 
「カイル兄様とアナは?」
 
「何匹か釣ったわよ。見てらっしゃい」
 
 ブレナンたちが船頭に消えていき、虫を平気な顔で釣り針に刺しているアナたちを見てひえええぇ、と後じさりして泣きそうになっていた。
 
 あの子たちはルアーオンリーでないと無理かしらね。
 
 
 それよりも、と私は後ろをチラリと見た。
 
 フレディーさん達もなかなかの釣果なのだ。
 
「おお、これはなかなか大物だな」
 
「父様ずるいわ、私の方が釣ってる魚の数は多いのに」
 
 始終網を持ちパカパカアイナメやカレイを釣り上げているので気が気じゃない。
 護衛のお兄さんは2人の魚を受け取りクーラーボックスに入れる役目をしてるので、時間のロスも少ない。
 
「ダーク、そっちはどう?」
 
「大漁と言えなくもないが、サイズがな……もうクーラーボックス半分以上は釣ったが……」
 
 釣果だけであれば私達が優勢だが、基本的には釣る魚の種類が違うので、重さの勝負だろう。
 
 私のイカも結構な数(なんでイカって1杯2杯って数えるのかしらね)釣りはしたけれど重さだと……。
 
「負けたくないわダーク……」
 
 私はダークの方を見て呻いた。
 
「ほら元気のない顔をするな。リーシャはどんな顔でも美人だが、笑ってるのが一番可愛いんだから」
 
 頭をなでこなでこされて頬が緩む。
 
「──知ってた?私ダークの事すっごく好きなのよ」
 
「奇遇だな。俺もリーシャがいないと生きていけないほど大好きだ」
 
「良かったわねお互い片想いじゃなくて」
 
「そうだな」
 
 くぅぅ。ダークの微笑みがダイレクトに刺さるわ。
 何かしらこの人外の美貌。海の照り返しまで浴びてもはや正視するのも難しいわ。目がー。目がー。
 
 
「とっ!父様っ母様っ!!カイルが引っ張られるっ」
 
 アナの切羽詰まった声がした方を見ると、カイルにどうやら大物がかかったようで、真っ赤な顔で必死にリールを巻いているものの、油断すると前のめりになりそうな状態だ。
 
「ダーク!」
 
「任せろっ」
 
 ダークが急いでカイルの後ろに回り、一緒に竿を掴む。カイルの竿のしなりが大きい。
 
「……このヒキはまさかクロダイか?」
 
 ダークの呟く声に思わず私も身を乗り出す。
 
 塩焼きも刺身もマーベラスなオールマイティーの超高級魚じゃない!
 口からヨダレが出そうになる。
 あの、刺身で戴くとタイのコリコリとした食感がまた美味しいのよねぇ……。
 
「ダーク!カイル!何としても釣り上げて!私が美味しくさばくから!」
 
「おう!」
 
「がっ、がんばる!」
 
 私は私でまたイカがヒットしたので手が離せない。
 こっちも釣らないと。
 
 チラチラと気にしつつも自分の方も忙しい。
 
 
 竿が余り良いものでないようで折れないようかなり苦戦したようだ。
 20分ほどは竿を引き上げてはリールを巻いて、のバトルをしていたが、ようやく海面に黒のシマ模様が見えた時には私まで気になってダークの傍で応援していた。
 
 網で引き上げると50センチ近くはありそうな大物だった。
 
「よくやったわカイル!半身はお刺身にして半分は鯛めしに……いや塩焼きも捨てがたいわ……。
 ともかく祭りよ祭り!」
 
 私の浮かれ具合にブレナンとクロエも、
 
「祭り~♪」
「祭り~♪」
 
 と踊り出した。
 
「クロダイさんたら我が家に来る為にこんなに成長するまで頑張って他の釣り人から逃げ回ってくれたのね……はいみんなー、美味しくいただく為に感謝ー」
 
 クーラーボックスに放り込んだ(尻がはみ出てるけど)クロダイにパンパン、と私が手を合わせると、子供たちも手を叩き、
 
「さよならクロダイさん」
「僕らの血となり肉となって成仏してください」
「アナたちが残さず食べるからね」
「また生まれ変わったらお会いしましょう」
 
 とそれぞれ拝んでいた。
 
 ルーシーが騒ぎに気がついて休んでいたいた場所から現れて、状況を把握したようで少し笑顔になった。
 顔色も大分良くなったので私もホッとした。
 
「大丈夫?ルーシー」
 
「ええ。お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした。もう大丈夫です。
 ──因みに、グエンは何か釣れたのでしょうか?」
 
 チラッとグエンを見ると、グエンは目を逸らした。
 
「3匹は釣ったけど、小魚……ごめんねルーシー」
 
「まあ、初めてで3匹も釣れたらよろしいではありませんか。ねえリーシャ様?」
 
「そうよ。1匹も釣れないなんて良くあったわよ私」
 
「え?じゃあ少しは才能ありますかね?」
 
「大有りよ大有り」
 
 途端に元気になるグエンにルーシーがお疲れ様でした、と飲み物を渡していた。
 
「……リーシャ、俺も頑張ったんだぞ」
 
 背後からダークのちょっと不機嫌な声がして振り返る。
 
「ダークもお疲れ様!やあねえ、ダークが居ないと釣り上げられなかったわよ。さすが私の旦那様だわ!!」
 
 抱きついて頬にキスをすると、すぐ機嫌が直るダークは単純である。ウチの旦那様はなんでこう素直で可愛いんだろうか。本当に私には勿体ない人だ。
 
 
「おーい、そろそろ昼だから終了でいいかーい?」
 
 フレディーさんの声が聞こえて、私とダークは同時にハッと敵のクーラーボックスを見た。
 2つのクーラーボックスがいっぱいのようだ。
 
「いけない、つい大物だー、で自分の釣果をおろそかに……」
 
「俺もポイントにならない子供の竿を握ってた……」
 
 
 
「おう。こりゃあ私たちの勝ちかなあ。はっはっはっ」
 
 私たちのクーラーボックスを眺めて、嬉しくて仕方ないという顔になったフレディーさんに内心で己の甘さに舌打ちしながら、
 
「今回は白旗ですわね……」
 
 と悔しさが滲んでしまう私はかなり大人げなかった。
 
 しかし約束は約束だ。こちらの食材はバーベキューででも提供しますかね。
 
 
「じゃあ、そろそろお昼にしましょうか」
 
 私たちは竿を一旦片付けて、ご飯の支度に取りかかるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
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