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家族旅行。【6】

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「よし。飲み物もオッケー、お弁当も出来たぞ、と。
 みんなー、準備は出来たかしらー?」
 
「はーい……」
 
「…………」
 
「母様……眠い」
 
「……私、何だかあまり寝た気がしない……」
 
 
 子供たちは旅行ならではのハイテンションで夜更かししたらしく、バッテリーセーブがかかったスマホのように動きが鈍い。
 
 元気なのは大人だけである。
 
「リーシャ様、わたくし釣りなど出来るのでしょうか?リーシャ様の釣りに同行した事はございますが、自分でやるのは初体験ですわ」
 
 子供たちの釣竿や魚籠を借りる時に、ルーシーもグエンもやはり一緒に来ると言うので、それなら何もしないよりは試しにやりなさいよ、と2人の釣竿も借りたのだ。アレックとジョニーは、ルーシーたちが行くなら安心だからのんびりと町をぶらついていると言う。
 
「ルーシー、初体験って何かエロい感じがしない?」
 
 とグエンが余計な事を言ってルーシーから脇パンを食らっていた。痛がりながらも嬉しそうなのは、構って貰えたからなのだろう。
 新婚さんですからねえ。
 
「ダークも用意できてる?」
 
「おぅ」
 
 元から鍛練のため早起き生活が当たり前になっているダークは通常モードである。
 
 私も久々にパンツ姿で釣りキチモードなので元気いっぱいである。
 
「ほら、行くわよみんな」
 
 ダークがソファーでだらんと液状化している子供たちの頭をぺしぺし叩いて起こすと、ホテルのエントランスへ向かう。
 
 
「やあおはようございますダークさんリーシャさん!」
 
 既にエントランスにはフレディーさんとマデリーン、あと護衛に雇われてる人だろうか、ガッシリした体つきの30前後のお兄さんが立っていた。
 
「まあすみません遅くなりまして」
 
「いやいや、こちらも今来たばかりだから」
 
「リーシャおば様おはよう!……あの、お願いしてたエビフライ作ってくれた?」
 
「もちろんよ」
 
「これマデリーン!はははっ、済みませんねエビフライ食べるから朝は食べないって楽しみにしてたもので」
 
「いえいえ。私は約束は守るわよ。
 ほら、みんなも挨拶しなさい。フレディーさんとマデリーンよ」
 
 歩いている内にようやく目が覚めてきたのか、口々に挨拶をする。
 話を聞いていたらマデリーンはカイルの1つ上、12歳になったばかりらしい。
 
「……マデリーンです、宜しくお願いします。
 ねぇリーシャおば様、みんなおば様にそっくりね」
 
「よく言われるわ。双子なんか私の子供の頃にそっくりなのよー」
 
「キレイでうらやましいわ。私ももっと髪の毛が黒っぽければとか、目がせめて茶色ならとか思ったけど、こればかりはしょうがないものね」
 
「ふお?マデリーンちゃん可愛いよ?色が白くて髪の毛赤っぽくて笑うと片方だけえくぼが出るの」
 
 アナがニコニコと言うと、クロエも頷いた。
 
「僕も可愛いと思いますよ。さささ、お近づきの印に母様の作ったクッキーでも」
 
 ブレナンが袋に入ったアーモンドクッキーをマデリーンに渡した。
 
「僕たちみんな釣りが初めてだから、分からない事があったら教えてね」
 
 カイルがにっこり笑って頭を下げた。
 
「こっ、こちらこそよろしくね。釣りは何回か経験してるから少しは分かると思うわ」
 
 
 いやー、なんで私のようなヒッキーの腐女子からこんな世渡り上手な子供たちが生まれたのかしら。
 
 ありがたやありがたや。
 目を細くして眺めていると、
 
「旦那様、そろそろ桟橋に向かわないと……」
 
 と護衛さんがフレディーさんに話し掛けた。
 
「おうそうじゃった!
 では皆さん行きますかね」
 
「ええ。楽しみですわ」
 
 
 総勢11名の釣り人と釣り人モドキは、のどかな気配を漂わせながら桟橋へ向かうのだった。
 
 
 
 
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
 
「……おぇぇぇぇ」
 
「ゆれる……足元がゆれる……」
 
 
 出港して30分もしない内に、ブレナンが船酔いでげーげーし始めて、クロエもちょっとヤバそうな顔色になっていた。
 
 不思議とアナとカイルは全く平気だ。
 
 朝食を食べると船酔いが酷くなると聞いたので、今日はみんな朝食抜きにしたのだが、酔いやすいタイプはいるものである。
 
「はい、みんな水分は取らないとダメよ。あとこれ酔い止め」
 
 レモン水を沢山作って別途水筒に入れてきたので、船の縁から離れないブレナンとクロエに薬と一緒に渡す。
 
「カイルとアナは平気?」
 
「全然平気ー」
 
「大丈夫だよ」
 
「……リーシャ様、わたくしにも頂けますか?」
 
「やだ、早く言いなさいよ真っ青じゃないの!」
 
 ずっと無言だったルーシーも船は弱かったようで、酔い止めを受け取り速攻で飲んでいた。
 気力で平気な振りをするのも限界があるわよね。
 グエンは、うん問題なさそうだ。
 
 
 ふうやれやれ、
 
 さて、私もそろそろ竿をセットしないと。
 私はいそいそとダークの隣の竿立ての所に座る。
 
「アオリイカの刺身が食べたいわー……カレイもいいけどまずはイカよ」
 
 仕掛けの餌木(イカ専用のルアーみたいなもの)をセットしてダークを見ると、彼はジャリメという虫餌だった。
 
「あら、シロギス狙い?」
 
「天ぷら美味いしな。まあカレイも引っ掛かればいいなと思うが。釣りやすいから子供たちもシロギスにしたいが、さて虫がつけられるかなあ」
 
 カイルに付け方を教えると、特に気持ち悪がりもせず淡々とつける。
 
 アナは虫さんが死んじゃう……と嫌がったが、
 
「肉も魚も元は生きてたのよ?虫だけ贔屓すると魚は食べられないけどそれでもいい?」
 
 と聞いたら渋々付けた。
 基本虫を触るのが苦痛でない子なので、
 
「ゴメンね。家族のご飯の為だから」
 
 と結構思い切って釣り針に刺していた。
 女の子は意外と割り切れる生き物である。
 
「フレディーさんたちは何を?」
 
 背中側の竿立ての所にいるフレディーさんに声をかけると、イカとアイナメを狙っているようだ。
 マデリーンは慣れているのか虫を釣り針に刺すのも平気そうだ。親子揃ってベテラン臭がするので、私のライバル心が少し騒ぐ。
 
「せっかくですから勝負しませんか?負けた方が夕食用の釣果を提供すると言うのはどうでしょう?
 あ、調理は私が担当致しますわ」
 
「おいリーシャ、失礼だろ」
 
 ダークがちょっと慌てるが、フレディーさんは大笑いした。
 
「リーシャさん結構やりそうだね。いいじゃないか、娘と受けて立とう。あ、でもこちらは2人だからそちらも勝負は2人でね?」
 
「はい、私と主人で。負けたらグエンや子供たちの釣った分もご飯で提供しますわ」
 
「言ったね?二言はないからね」
 
「おば様、私結構上手いのよ?」
 
 マデリーンがからかうような目で私を見た。
 
「おば様も結構前からやってるのよー。負けないんだからね」
 
 とVサインをすると、
 
「ダークも頑張ってね」
 
「うん、それはいいが……リーシャは釣りになると負けず嫌いが発動するな」
 
 ダークが笑った。
 
「久しぶりだと何か盛り上がっちゃって。ははは。
 ……ゴメンね?」
 
「いや、そういう所も可愛い」
 
 頭を撫で撫でされて、ちょっと顔が熱くなる。
 
「可愛いってトシじゃないんだから止めてちょうだい」
 
「でも可愛い」
 
「あのー、僕らの方が新婚ですからね?
 いちゃつくのも程々にして貰えますかー?」
 
 グエンがカイルの肩を掴んで身を乗り出した。
 ちなみに私が一番端で、ダーク、カイル、グエン、アナの並びだ。
 竿立てが両側に各5つなので、ルーシーやクロエ、ブレナンが復活したらフレディーさんの側を使わせて貰おう。復活するかは不明だけど。
 
 
「じゃあ始めますか!とりあえずお昼ご飯までという事で!」
 
「よっしゃ!マデリーン、頑張ろうな」
 
「うん分かった!」
 
 
 私たちは呑気な釣り人から鋭い眼差しの釣り人にジョブチェンジし、背中合わせで海面を見つめバトルはスタートした。
 
 
 
 
 
 
 
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