上 下
236 / 256

家族旅行。【5】

しおりを挟む
「家族で釣りとは珍しいですのう」
 
 
 そう声を掛けたオジサンは、私と同じぐらいか少し小さめの身長で、丸っこい体つきの優しげな人だった。
 
 前世で毎回入る度にマップが変わるダンジョンに懲りもせず潜ってるオジサンが主人公のゲームがあったが、あんな感じの見た目である。
 
 タヌキが瓢箪ぶら下げて立っている陶器の置物が日本に住んでいた時に我が家にあったが、あれをもう少し細身にした感じといったところか。
 
 
 娘さんもぽっちゃりしているが、赤茶色のゆるい癖毛を軽く三つ編みにしており、愛嬌のある顔立ちだ。
 
 美人かと言われたら、こちらの世界では私みたいなのが女神(他称)とか傾国の美貌(他称)とか言われる位、黒髪に黒い瞳の至極あっさり大和民族顔が人気らしいので、二重まぶたで薄いブルーの瞳、顔に軽くソバカスが散っているというのは恐らく今一つなのかも知れない。
 
 ただ彫りは深くないというか、割合あっさり目なので可愛い方なのかしら?うーん。
 基本的に見た目がどうこうより中身が好みかそうでないかだからな私。
 
 本当にこっちの基準がイマイチ分かりにくいのよね。
 個人的には気取りがなくてとても好感が持てる。
 
「奥さんもお子さん達もこれまた綺麗どころですのう。旦那さん羨ましい。ま、今回来てないがウチの妻も結構美人なんだよ、娘に似てな。はっはっはっ」
 
 ダークに楽しそうにのろける姿は親戚のオジサンのようである。
 
「明日は天気も良いらしいし、私も娘と船釣りに出ようとしてたんだが、1艘を1日まるまる借りるのは結構高くてなあ。
 ……そうだ、もし良ければ一緒に借りないかい?
 少し沖に出たほうが大物もいるし、時期的に旅行者が多いみたいで、そこの釣具屋の親父に聞いたら桟橋近辺はこの時期は釣り人が結構いるらしいんだよ」
 
「……ああ、そうですか。確かに人出が多いとは思っていたんですが……。リーシャ、どうする?」
 
「混雑してる所だと子供たちは初心者だから、糸が絡んだりして周りに迷惑かけたり、釣果にも影響しそうね。
 ──あの、船を借りるとお幾らなんでしょうか?」
 
 オジサンは自分はフレディー、娘はマデリーンだと名乗り、1日のレンタル代を教えてくれた。
 こちらも名乗っておく。
 

 うーん、確かに1日5万ビルはいくら大量に釣れたとしても高いよねえ。まあ漁師さんが操縦もしないとならないし、漁も休まざるを得ないし、燃料代もかかるから仕方ないんだろう。
 
 
 ただ大きめの船で、10人15人位は人が乗れるみたいなので、多人数で割ればお得だろう。
 
「出来れば子供連れが良かったんじゃよ。
 最近は物騒だし、ほれ娘もおるだろう?
 釣り人の振りをして強盗をするのもおるらしい。
 まあ釣りに来て大金持ち歩く奴もおらんと思うがなあ。人間切羽詰まると藁をも掴むもんだから」
 
「まあ……」
 
 我が家では意図せず望みもしないのに常時物騒な事が起こるけど、世間様も結構危ないのねえ。
 
 でも、カイルたちも海岸沿いで勝手にあちこち動き出して迷子か誘拐かで騒ぐより、船の方がいい気がする。
 
 ダークに小声で相談すると、ダークもそう思っていたらしい。
 
「それは有り難いお誘いですが、本当に宜しいのですか?子供が何人もいるので騒がしいと思いますが」
 
 ダークがフレディーさんに問い返した。
 
「私は子供好きだから別に構わんよ。マデリーンとも仲良くしてくれたら嬉しいんだが。
 あと、てんで腕に自信がないから1人荷物持ち兼ねて護衛を連れてくんで3人になるが、そちらさんは何人かね?」
 
 んー、ルーシーは絶対付いてくるし、もれなく引っ付き虫のグエンも来る気がする。
 
 アレックとジョニーは同棲期間は長いけど、こんな遠くまで旅行に来たのは初めてだって喜んでたし、あちらは2人でゆっくり観光でもさせてあげたいよね。
 一応アレックも新婚ではあるし。
 
「えーと、メイドとか入れて8人位になってしまいそうなのですが、大丈夫でしょうか?」
 
「それぐらいなら問題ないだろ。改めて予約しとくから、早くて済まんが明日の朝6時、2番桟橋のところで待ち合わせにしよか。
 お宅さんたちは宿はどこだい?」
 
「ゲイルロードグランドホテルです。コンドミニアムの方ですが」
 
「ああ!私らもだよ!あそこはいいね。オーナーの人柄のせいか居心地がいいな。
 私らはホテルの中の方だけど、じゃ、明日は皆で一緒に桟橋に向かうとしようか」
 
「そうですわね!私、少し料理をたしなみますので、よろしければランチはお任せ下さい。
 コンドミニアムはキッチンもございますので船でつまめるモノを作って参ります」
 
「おお、そりゃ有り難い。マデリーンほら御礼を」
 
 じっとキラキラした目で私を見ていたマデリーンはにっこり笑って、
 
「ありがとうおば様。おば様って本当に綺麗ね!
 私見たときびっくりしちゃった」
 
「あらありがとう。嬉しい言葉が聞けたからマデリーンの好きなオカズを1つ入れてあげる。何がいい?」
 
「えっ?本当に?えっと、えっとね、私、エビフライが大好きなの!タルタルソースたっぷりつけたの」
 
「ふふっ子供たちも私も大好きよタルタルソースをつけたエビフライ。白身魚のフライもいいわよね。
 さっきエビも沢山買ったから楽しみにしててね」
 
「わあっ、ありがとうおば様!」
 
 満面の笑みで万歳と手を上げるマデリーン可愛い。
 
「済みませんご迷惑かけてしまって。ちゃんとお金は払いますからな」
 
 申し訳無さそうな顔をするフレディーさんに、気にするなと首を振る。
 
「ウチの家族結構大食いばかりですからどうせ沢山作るのです。フレディーさんも沢山召し上がって下さい。……いえお口に合えばですが」
 
「私は好き嫌いありませんので。この体つきで分かるでしょうが食べるのは好きなんですよ。はっはっ」
 
 陽気に腹を叩くフレディーさんも気さくでいいオジサンだ。
 こういうのんびりしたオジサンと可愛い女の子が旅の釣り仲間になるというのもなかなか良いものだ。
 
 
 今回は初の船釣りだわー。やっふー!!
 
  
 
 
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を言われようとこの方々と結婚致します!

おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。 ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。 そんな私にはある秘密があります。 それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。 まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。 前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆! もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。 そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。 16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」 え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。 そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね? ……うん!お断りします! でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし! 自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】世界一醜い男の奴隷として生きていく

鈴元 香奈
恋愛
憧れていた幼馴染の容赦のない言葉を聞いてしまい逃げ出した杏は、トラックとぶつかると思った途端に気を失ってしまった。 そして、目が覚めた時には見知らぬ森に立っていた。 その森は禁戒の森と呼ばれ、侵入者は死罪となる決まりがあった。 杏は世界一醜い男の性奴隷となるか、死罪となるかの選択を迫られた。 性的表現が含まれています。十八歳未満の方は閲覧をお控えください。 ムーンライトノベルスさんにも投稿しています。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...