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ルーシーは社畜につき。
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(ああ……何だかエライ目に遇ったわ……)
ガレク国王陛下を動物園に案内した翌日の午後。
私が執筆仕事を片付け、ぎこちない足取りでリビングのソファーに腰を下ろし溜め息をついていると、ルーシーがカフェオレを持ってきてくれた。
「ありがとうルーシー。……ふぁぁ、この一杯の為に生きてるって感じするわねぇ」
いつも通り、ちょっと冷ましたぬるめのカフェオレをぐいっと飲むと、居酒屋で疲れを癒すオイチャンみたいな声が出てしまった。
「まあ昨日は旦那様がかなりご機嫌を損ねておられましたものね。夜は食後早々にリーシャ様と部屋に下がられた時は、これはお疲れになる展開かと陰ながら案じておりましたが」
「何が陰ながら案じておりました、よ。
案じてた割には笑いをこらえるために唇も噛んでるわよ。唇をケガするから止めなさいよ。でもダークのご機嫌が悪くても、今回は私ちっとも悪くないのよ?」
そう。本当に私は全く悪くないのだ。
ご飯のオカズの唐揚げも美味しく出来たし、夕食の時は楽しいひとときを過ごしていたのだ。
それが、風呂を出て寝室に戻った途端に待ち構えていたダークに押し倒されて、
「リーシャ、いくら望まれたからといってもガレク国王をファーストネームで呼ぶなんて酷いじゃないか」
「リーシャは俺の妻なのに、俺だけの妻なのに」
「だから嫌だったんだ王族接待なんて。基本的にリーシャはすぐ王族をコロコロしてしまうし」
「だが国王陛下はフェアで人間性は悪くない方だった。
流石に国を統べる御方は違うな。でもそれとこれとは違うだろう?……好きになったとかはないよな?」
「もういっそのこと父がいる領地の方に引っ越す方がいいのだろうか?仕事に通うのは大変だが、リーシャをすぐちょいちょい利用したがるウチの王族から引き離した方が俺の精神的なダメージが少ない」
「そうだいいことを思いついた。リーシャ少し不摂生して太ってみるとかはどうだ?──いや少し太った位で損なわれるほどの美貌じゃないか。ならどうすれば」
などと言われながら延々と求められ、明け方まで眠らせて貰えなかったのである。
何が太れだ。あんなに体力消耗させられたらむしろ激ヤセするっつうのよ。
大体他国の国王陛下にファーストネームで呼べと言われて断れる人がどこにいるのか。
とっても理不尽だわと思いつつも、不安がるダークを宥め、ダーク以外に好きになるような男性はいないし、これからもないと断言してようやく落ち着いたのだ。
私と結婚するまでは、この世界の価値観ではかなりの不細工である為にかなり不遇な人生を送っていたダークは、何かあるとすぐ心が低空飛行する。
結局は、私の美貌(笑)が不安にさせるのだろうが、この平たい大和民族顔を「傾国の美女」(他称)とかいってもてはやす方がぶっちゃけおかしい訳で、この世界の民はみんな視力矯正が必要だと思う。
そして己を知っている私は、周りがどう思おうと自分が美しいとか思えないので、いい女ぶった行動も出来なければ、したいとも思わない。凡人なのだ。
前世で私がそんなモデルか女優みたいな言動をしていたら、脳に虫が湧いたか頭でも打ったのかと身内に速攻で病院に運び込まれる案件である。
しかし事あるごとに不安がって頭をスリスリしてくるダークを見ると、私の愛情アピールがやはり足りてないのかも知れないと思う。
だが、あいらーびゅーあいうおんちゅーあいにーじゅーと毎日でも囁いていそうなオープンマインドな外国人と違って、前世での生粋の日本人魂を持つ小心者のヒッキーな私にはそれがかなり難しいのだ。
雑種のキジトラの猫に「オマエ明日からスコティッシュフォールドな」と言っているようなもので、取りあえず毛でも伸ばしてみっか的な進歩はあると思う。
頑張って毛を伸ばしてもスコティッシュフォールドにはなれないのだが、少しでも近づけようという努力はしていると言ったところだろうか。
今朝も頑張ってダークが仕事に行く時に、小声で
「今日も愛してる。お仕事頑張ってね」
と伝えたら物凄く嬉しそうな顔になって、
「……俺も愛してる」
とぎゅうぎゅう抱き締められたので骨が折れるかと思ったが、ご機嫌で出掛けて行ったので口に出す事に効果はあるのは分かっている。
分かっているが恥ずかしいモノは恥ずかしい。
これはお国柄というより性格的なものなので、ダークには申し訳ないが、私のほふく前進レベルの進化に付き合ってもらうしかないのだ。
脳内で自身を納得させている内にふと思い出した。
「あ、そうだ。ねえルーシー明日はグエンと珍しく普通のデートするんじゃなかった?」
「……デートと申しますか、町で服を見繕って欲しいと申されましたので、それに付き合う予定になっておりますけれども」
「もうっ、だからそれがデートじゃないのよ!
それで着ていく服は決めたの?」
「メイド服ではやはりまずいでしょうか?
エプロン外せばいけるのではないかと」
「ダメに決まってるでしょ」
「ですが、わたくしのクローゼットは夏場と冬場の2着ずつのメイド服と、前に着ていったワンピースと活動しやすい黒のパンツやシャツ位しかございませんので」
「……貴女お給料何に使ってるの」
「母に小遣いを渡して、主にリーシャ様の薄い本を購入したりマンガを購入したり、エンジェル電機の新製品の購入ですとか、無くなった基礎化粧品などの補充でしょうか。たまには下着や服も交換するために購入しますが、後は貯金致します」
「せっかく恋人が出来たのだから、もう少しオシャレに興味を持ちなさいよ」
「旦那様とお付き合いしていても、新しい服もろくに買わなければ、びよんびよんに伸びたパンツや寝間着を着ていたリーシャ様に言われたくはございません」
「……私はベースがヒッキーだから、一般女性の基準とは合致しないのよ。
──仕方ないわね、急いで行くわよ」
私は気合いを入れ立ち上がる。体力は大分回復した。
「どちらへ?」
「決まってるでしょう。ルーシーのデートの服を買いに行くのよ。しっかりとチチをアピールするセクシー路線で行くべきか、清楚に大人の魅力を前面に出すか迷いどころだわね」
「リーシャ様にそんなお気遣い頂かなくとも──」
「モタモタしてると週休3日にするわよ」
「只今支度して参ります」
驚くほどの早さで自室に消えていくルーシーに、待遇改善の提案を嫌がるほどワーカホリックなメイドというのもいささか問題があるわよねえと思いながら。私もえっちらおっちらと外出着に着替えるため階段を上って行くのだった。
ガレク国王陛下を動物園に案内した翌日の午後。
私が執筆仕事を片付け、ぎこちない足取りでリビングのソファーに腰を下ろし溜め息をついていると、ルーシーがカフェオレを持ってきてくれた。
「ありがとうルーシー。……ふぁぁ、この一杯の為に生きてるって感じするわねぇ」
いつも通り、ちょっと冷ましたぬるめのカフェオレをぐいっと飲むと、居酒屋で疲れを癒すオイチャンみたいな声が出てしまった。
「まあ昨日は旦那様がかなりご機嫌を損ねておられましたものね。夜は食後早々にリーシャ様と部屋に下がられた時は、これはお疲れになる展開かと陰ながら案じておりましたが」
「何が陰ながら案じておりました、よ。
案じてた割には笑いをこらえるために唇も噛んでるわよ。唇をケガするから止めなさいよ。でもダークのご機嫌が悪くても、今回は私ちっとも悪くないのよ?」
そう。本当に私は全く悪くないのだ。
ご飯のオカズの唐揚げも美味しく出来たし、夕食の時は楽しいひとときを過ごしていたのだ。
それが、風呂を出て寝室に戻った途端に待ち構えていたダークに押し倒されて、
「リーシャ、いくら望まれたからといってもガレク国王をファーストネームで呼ぶなんて酷いじゃないか」
「リーシャは俺の妻なのに、俺だけの妻なのに」
「だから嫌だったんだ王族接待なんて。基本的にリーシャはすぐ王族をコロコロしてしまうし」
「だが国王陛下はフェアで人間性は悪くない方だった。
流石に国を統べる御方は違うな。でもそれとこれとは違うだろう?……好きになったとかはないよな?」
「もういっそのこと父がいる領地の方に引っ越す方がいいのだろうか?仕事に通うのは大変だが、リーシャをすぐちょいちょい利用したがるウチの王族から引き離した方が俺の精神的なダメージが少ない」
「そうだいいことを思いついた。リーシャ少し不摂生して太ってみるとかはどうだ?──いや少し太った位で損なわれるほどの美貌じゃないか。ならどうすれば」
などと言われながら延々と求められ、明け方まで眠らせて貰えなかったのである。
何が太れだ。あんなに体力消耗させられたらむしろ激ヤセするっつうのよ。
大体他国の国王陛下にファーストネームで呼べと言われて断れる人がどこにいるのか。
とっても理不尽だわと思いつつも、不安がるダークを宥め、ダーク以外に好きになるような男性はいないし、これからもないと断言してようやく落ち着いたのだ。
私と結婚するまでは、この世界の価値観ではかなりの不細工である為にかなり不遇な人生を送っていたダークは、何かあるとすぐ心が低空飛行する。
結局は、私の美貌(笑)が不安にさせるのだろうが、この平たい大和民族顔を「傾国の美女」(他称)とかいってもてはやす方がぶっちゃけおかしい訳で、この世界の民はみんな視力矯正が必要だと思う。
そして己を知っている私は、周りがどう思おうと自分が美しいとか思えないので、いい女ぶった行動も出来なければ、したいとも思わない。凡人なのだ。
前世で私がそんなモデルか女優みたいな言動をしていたら、脳に虫が湧いたか頭でも打ったのかと身内に速攻で病院に運び込まれる案件である。
しかし事あるごとに不安がって頭をスリスリしてくるダークを見ると、私の愛情アピールがやはり足りてないのかも知れないと思う。
だが、あいらーびゅーあいうおんちゅーあいにーじゅーと毎日でも囁いていそうなオープンマインドな外国人と違って、前世での生粋の日本人魂を持つ小心者のヒッキーな私にはそれがかなり難しいのだ。
雑種のキジトラの猫に「オマエ明日からスコティッシュフォールドな」と言っているようなもので、取りあえず毛でも伸ばしてみっか的な進歩はあると思う。
頑張って毛を伸ばしてもスコティッシュフォールドにはなれないのだが、少しでも近づけようという努力はしていると言ったところだろうか。
今朝も頑張ってダークが仕事に行く時に、小声で
「今日も愛してる。お仕事頑張ってね」
と伝えたら物凄く嬉しそうな顔になって、
「……俺も愛してる」
とぎゅうぎゅう抱き締められたので骨が折れるかと思ったが、ご機嫌で出掛けて行ったので口に出す事に効果はあるのは分かっている。
分かっているが恥ずかしいモノは恥ずかしい。
これはお国柄というより性格的なものなので、ダークには申し訳ないが、私のほふく前進レベルの進化に付き合ってもらうしかないのだ。
脳内で自身を納得させている内にふと思い出した。
「あ、そうだ。ねえルーシー明日はグエンと珍しく普通のデートするんじゃなかった?」
「……デートと申しますか、町で服を見繕って欲しいと申されましたので、それに付き合う予定になっておりますけれども」
「もうっ、だからそれがデートじゃないのよ!
それで着ていく服は決めたの?」
「メイド服ではやはりまずいでしょうか?
エプロン外せばいけるのではないかと」
「ダメに決まってるでしょ」
「ですが、わたくしのクローゼットは夏場と冬場の2着ずつのメイド服と、前に着ていったワンピースと活動しやすい黒のパンツやシャツ位しかございませんので」
「……貴女お給料何に使ってるの」
「母に小遣いを渡して、主にリーシャ様の薄い本を購入したりマンガを購入したり、エンジェル電機の新製品の購入ですとか、無くなった基礎化粧品などの補充でしょうか。たまには下着や服も交換するために購入しますが、後は貯金致します」
「せっかく恋人が出来たのだから、もう少しオシャレに興味を持ちなさいよ」
「旦那様とお付き合いしていても、新しい服もろくに買わなければ、びよんびよんに伸びたパンツや寝間着を着ていたリーシャ様に言われたくはございません」
「……私はベースがヒッキーだから、一般女性の基準とは合致しないのよ。
──仕方ないわね、急いで行くわよ」
私は気合いを入れ立ち上がる。体力は大分回復した。
「どちらへ?」
「決まってるでしょう。ルーシーのデートの服を買いに行くのよ。しっかりとチチをアピールするセクシー路線で行くべきか、清楚に大人の魅力を前面に出すか迷いどころだわね」
「リーシャ様にそんなお気遣い頂かなくとも──」
「モタモタしてると週休3日にするわよ」
「只今支度して参ります」
驚くほどの早さで自室に消えていくルーシーに、待遇改善の提案を嫌がるほどワーカホリックなメイドというのもいささか問題があるわよねえと思いながら。私もえっちらおっちらと外出着に着替えるため階段を上って行くのだった。
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