上 下
216 / 256

子供たち捕獲される。

しおりを挟む
 カジュアルなレストランは、オープンテラス全体をVIPルームみたいに護衛の方々が取り囲んでおり、物々しい雰囲気になっていた。
 
 内部より外の方がお店の人もいいんだろうけど、いやー、この空気感でご飯を食べるとか勘弁して欲しいわ。
 
「リーシャ様、申し訳ございません。中は飛び飛びにしかテーブルの空きがありませんでしたので致し方なくオープンテラスの方に」
 
 ルーシーが背後にやって来て囁いた。
 
「それはいいんだけれど、お客さんが怯えるかも知れないわねえ、コワモテのお兄さんたちが立ってると」
 
「ガレク国王陛下と王子が座ってから護衛の皆様も席について頂く事になっておりますので」
 
「──リーシャ、お腹が空いたな。早く座ろうか」
 
 私とルーシーがこそこそ話をしていたら、ガレク国王がグイっと腕を引いた。
 
「左様でございますね。ではそちらに。皆様もお疲れでしょう。お好きな席にどうぞ」
 
「ウチの兵士はそんなやわじゃないが、リーシャがそう言うのなら……おい、みんな席につけ」
 
 ムキムキの兄さんたちが頭を下げて各自席についた。
 異様な光景ではあるが、威圧感は収まったのでホッとする。
 
 席に案内すると、店員がメニューをそれぞれのテーブルに置く。
 
「園内の施設ですので、高級なレストランにあるようなものはございませんが、ご了承下さいませ」
 
「ああ、構わん」
 
 ガレク国王が王子とメニューを見ながら、唐揚げとポテトフライのセットにホットドッグ、炭酸のジュースやコーヒーを頼む。
 
「リーシャは何にするんだ?
 ……ルーシーといったか?君も座りなさい」
 
「いえ、わたくしは……」
 
「ルーシー、お許しが出たのだから一緒に食べましょうよ。私も嬉しいわ!」
 
 (意訳:もう結構ギリだから。私だけにされたら泣くから。オイチャン来ちゃうから)
 
 私の潤んだ目を見て察してくれたルーシーは、
 
「……それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます」
 
 と深くお辞儀をして隣に腰掛けた。
 
 私は食事をするほど空腹感はなかったので、アイスミルクティーとフルーツタルトを頼んだ。ルーシーはアイスコーヒーのみだ。
 
「ルーシー、王宮の奢りなのだから何か食べれば?」
 
「いえ、食べると体の動きが鈍りますので」
 
「こんなに沢山護衛の方々がいるのだから大丈夫よ」
 
「わたくしはリーシャ様の護衛でございますから」
 
 相変わらずルーシーは過保護である。
 仕事意識が高いのはいいが、たまには気を緩めてもいいと思うんだけどなあ。
 
 飲み物と私のタルトが先に運ばれてきて、
 
「私たちのが来るのを待つ必要はないから食べなさい」
 
 とガレク国王が勧めるので頂く事にした。
 精神的に疲れると甘いものが欲しくなるのは昔からである。
 
(ふおお……タルトが美味しいわー。体にスイーツパワーが染み込むぅぅ)
 
 アイスミルクティーで喉を潤すと、周りの景色を眺めた。ぽかぽか陽気で気持ちがいい。
 
 子供たちの遊び場が前方にあるので何となく目が行き、そのまま通りすぎる予定が二度見した。
 
「……ルーシー」
 
「はい、どうされました?」
 
「あのポニーに乗っている子、カイルに似てない?」
 
「え?」
 
 ルーシーもサッと視線を飛ばした。
 
「いえ、まあ世の中に似ている子は何人かいると思うのだけれど……まさかねえ」
 
 少し離れているから似てると感じたが、近くで見たら全然似てないとかよくあるパターンだ。
 
「……カイル坊っちゃまですね。更には手前でウサギを撫でながら双眼鏡でこちらを見ていたブレナン坊っちゃまが私たちが見ている事に気づきました」
 
「ええ?ブレナンもいるの?」
 
 私が見直すと、確かにブレナンだ。
 何やら慌てて双眼鏡をリュックにしまい、カイルに声をかけている。
 
 よく見たら犬と戯れている双子までいるではないか。
 どうしてここにいるのかさっぱりである。
 
「ルーシー、全員捕獲で」
 
「かしこまりました」
 
 すっと立ち上がり頭を下げたルーシーが走り出した。
 子供たちがゾンビに襲われる村人ばりに逃げまどっていたが、ポニーに乗っていたカイルが逃げ遅れてルーシーに捕まると、兄を置いてはいけないのか3人も逃げるのを諦めたようだ。
 
 
 大人しくドナドナされてきた子供たちは、私の顔を見てすかさず正座し、相変わらず無駄に美しい土下座を披露した。
 
「「申し訳ありませんでした母様!!のぞき見をするような事をしてすみません!」」
 
「そこじゃないわよ怒ってるのは」
 
「……貯金を使って乗り合い馬車に乗ったことですか?」
 
 ブレナンがおそるおそる顔を上げた。
 
「違うわよ。子供たちだけで許可も得ずにこんな遠出をしてることを怒ってるのよ」
 
「……あー、話の途中済まないが、この子供たちはリーシャのお子さんかな?」
 
「ガレク国王陛下、申し訳ございません勝手に子供たちが後から付いてきたようで」
 
 私は立ち上がると深く頭を下げてお詫びした。
 
「アロンゾでいいと言っただろう?
 ──しかし、ビックリする位整った顔立ちの子供たちだな。リーシャにそっくりだ。それに謝罪も潔い」
 
 ガレク国王が立ち上がると土下座をしていた子供たちの頭を撫で、立たせた。
 
「気にするな。きっと母親が心配で付いてきたんだろう。親思いのいい子たちではないか」
 
 カルロス王子も立ち上がると、アナとクロエの前でしゃがんだ。
 
「お母さんにそっくりだね。大きくなったらどちらか僕のお嫁さんにならないかい?」
 
 と笑いかけた。
 
「ごめんなさい。私はアーデル国のジークライン王子と結婚するので無理です」
 
「私はうちの国のレイモンド王子がいるの。きっと他の人と結婚すると泣いちゃうからごめんなさい」
 
 秒で断られていて、断る理由がどちらも王族なのでどうすることも出来ず苦笑いしていた。
 
「ふはははっ!諦めろカルロス。これだけ美人なんだからもう先約ありに決まってるだろう。
 さあ、みんなもお腹が空いただろう?一緒に食べて動物を見に行こうか。リーシャ、いいだろう?」
 
 ガレク国王は空いているテーブルに子供たちを座らせるとウエイトレスにメニューを運ばせて、
 
「好きなものを頼みなさい」
 
 と微笑んだ。
 
 カイルが私を見る。
 しゃあないか、と頷くのを見てホッとした様子になり、メニューに集中した。
 
「誠に申し訳ございませんガレ……アロンゾ様」
 
「いや、素直でいい子たちだな。リーシャの血を引いて将来が楽しみな子ばかりだ」
 
「ありがとうございます……」
  
 まあ金太郎飴みたいに生んでも生んでも同じような顔ばかりでしたけども。
 
 子供たちにとっては大和民族推しの国で良かったな。
 まー不細工と思われるとダークみたいに苦労してしまうしね。私の血に価値があるならラッキーだ。
 
 私自身はダークに好きになってもらえた以外は別に役に立たないけど。ヒッキーの腐女子ですからねぇ。
 社交性もないし家にいられればそれでいいし。
 
 
 それにしても、なんで子供たちはこんなところまで来たのやら。やはり春休みで退屈だったのかしらね。
 
 
 やはり少しは遊びに連れていくべきかしらね。
 ごめんね母様ヒッキーで。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

転生からの魔法失敗で、1000年後に転移かつ獣人逆ハーレムは盛りすぎだと思います!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 異世界転生をするものの、物語の様に分かりやすい活躍もなく、のんびりとスローライフを楽しんでいた主人公・マレーゼ。しかしある日、転移魔法を失敗してしまい、見知らぬ土地へと飛ばされてしまう。  全く知らない土地に慌てる彼女だったが、そこはかつて転生後に生きていた時代から1000年も後の世界であり、さらには自身が生きていた頃の文明は既に滅んでいるということを知る。  そして、実は転移魔法だけではなく、1000年後の世界で『嫁』として召喚された事実が判明し、召喚した相手たちと婚姻関係を結ぶこととなる。  人懐っこく明るい蛇獣人に、かつての文明に入れ込む兎獣人、なかなか心を開いてくれない狐獣人、そして本物の狼のような狼獣人。この時代では『モテない』と言われているらしい四人組は、マレーゼからしたらとてつもない美形たちだった。  1000年前に戻れないことを諦めつつも、1000年後のこの時代で新たに生きることを決めるマレーゼ。  異世界転生&転移に巻き込まれたマレーゼが、1000年後の世界でスローライフを送ります! 【この作品は逆ハーレムものとなっております。最終的に一人に絞られるのではなく、四人同時に結ばれますのでご注意ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...