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カイルはウソがモロバレする。

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「……はい、母様とルーシーは出かけました、と」
 
 ブレナンが窓から去っていく馬車を眺めながら呟いた。
 
 
 子供たちはお見送りをした後に、何故か居間に揃ってコソコソと話をしていた。
 
「動物園には僕ら行ったことないのにねぇ」
 
「サーカスの時に見た大きいクマさんは動物園にもいるのかなぁ?」
 
「クロエはクマなの?私はトラが好きだなあ」
 
「アナは火の輪をくぐったのがカッコ良かったからだろう?ずっとスゴいねぇと言ってたからな」
 
 カイルがせっせと背を向けてリュックにタオルやら飲み物、お菓子を詰めながら笑った。
 
「……ところで、カイル兄様それは?」
 
 ブレナンがさっきからずっと気になっていたカイルの謎めいた行動を問い質した。
 
「ん?──ああ、僕は春休みにスケッチの宿題が出ていてな。早めにやっておこうかと思って、出かけてくる」
 
「へえ。どこに?」
 
「……近所の公園の噴水のところにいる鳥でも描こうかと。動物だからなお題が」
 
「カイル兄様、ほらお題がここに!動物!」
 
 アナがだる~んとソファーで寝転んでいたアズキを持ち上げ前足をハーイというように伸ばす。
 
「……ンニャ」
 
「……いやほら、アズキは見慣れすぎてて絵に描こうと思えないんだよな。新鮮さに欠けるというか」
 
「ねぇカイル兄様、なんで乗り合い馬車の時刻表があるの?おかしいなぁ、『動物園前』って確かきょう母様が行くところじゃなかった?」
 
「あっ、おいクロエ勝手にリュック開けるな!」
 
「カイル兄様は僕らを捨てて、自分一人だけで動物園に行こうと……なんてひどい裏切り……」
 
 うずくまって顔を覆うブレナンにおろおろしたカイルは、
 
「いや、違うんだ!決して楽しみの為に行くのではなくだな、母様の様子をこっそり陰から見守るためなんだ」
 
「え?なんで?」
 
 アナの疑問にもう隠すのが面倒になったカイルは、仕方ないといった顔をしてその場に座り直した。
 元々ウソをつくのが下手くそなのだ。
 
「実は父様が心配してるのを聞いたんだ。アレックに、『リーシャは王族ホイホイだしあの美貌だから、すぐ惚れられてしまう。その上お人好しで疑う事を知らないから、油断したらそのままガレク国へさらわれるんじゃないだろうか』と。アレックは僕が御者でついていくし、ルーシーもいるから心配いらないっていってたけどさ……ほら、前にもルーシーいたのに一緒にさらわれた事があっただろう?」
 
「……あー、アーデル国へいった時の話?
 私よく覚えてないけど前にルーシーが言ってたよね?ほら、ブレナン兄様のクマのぬいぐるみがヒモでぐるぐる巻きにされてたやつだよね?」
 
 アナがぽん、と手を叩いて頷いた。
 
「ええ?そんなことあった?」
 
 クロエは驚いた顔をしてアナを見た。
 
「クロエはジークライン王子と会えてイチャイチャしてたから覚えてないのね」
 
「人をバカップルみたいに言わないでもらえますか」
 
「え?違うの?」
 
「……えと、違わないけど、めったに会えないんだからしょうがないと思うの」
 
「まあそれはいいとして、カイル兄様はまた何かあったらと心配して?」
 
「ああ。僕もシャインベック家の長男だし、もう11歳だから、家族を守らないといけないと思って」
 
 カイルは父親の性格を受け継いだのか、努力家で責任感が強かった。
 
「ウチは、母様がいなくなったら大変なんだぞ?父様だって何をするか分からないし、ルーシーやアレックだって無茶するに決まってる」
 
「母様が買い物でちょっといないだけで、ソワソワしてるもんな父様は」
 
「だろう?それに僕らの母様は正直すっとぼけてて、自分がキレイとか思ってないから周りに与える影響が分かってないんだ。
 僕の友だちのお父さんとか、町で会って挨拶しただけでぽーっとしばらく立ちっぱなしだったんだぞ?
 お店のお兄ちゃんとかも、お釣りを渡すとき手を暫く握ったままで『女神に触ってしまった……暫く洗わない』とか呟いてたし!
 それなのに、母様は『お釣り落とさないよう気を遣ってくれたのね。親切ねぇあの人。私がそそっかしいと見抜かれてるのね』とかさ、呑気にも程があるんだよ」
 
 カイルの怒りに、ブレナンたちも確かになぁと頷いていた。
 
「──だけど僕は母様が大好きだから、どっかに連れて行かれたりしないように守りたいんだ」
 
 カイルの呟きは、弟妹たちの気持ちでもあった。
 
「やだなぁカイル兄様水くさいんだから。
 僕らも行きますよ。なあクロエ、アナ?」
 
「そうだよ!母様を見てるのだって、人手があった方がいいじゃない!トイレとか困るでしょ?」
 
「いや、だけど……」
 
「私たちの大事な母様でもあるんだからね。
 ──ついでにたまたまクマさんが見れたりするけど、あくまでもついでだから」
 
「そう、ついでにトラとか見られるだけよ」
 
「ちょっと待っててね支度してくるから。サリーたちに見つからないように、庭の方から出よう」
 
 こうなるとカイルが何を言っても聞かないので、
 
「向こうでは絶対に1人で歩き回らないこと!これだけは守れ、分かったな3人とも」
 
 3人が揃って親指をくいっと上げて各自の部屋へ消えていくのを見送りながら、横で平たくなって寝ているアズキを撫でた。
 
「アズキ……ウチのきょうだいって、何でこうムダに統率が取れてるんだろうね」
 
「……ニャ?……」
 
 カイルは溜め息をつくと、それでも1人で行く不安からは解放されて、どこかホッとしていたのだった。
 
 
 
 
 
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