土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

文字の大きさ
上 下
209 / 256

お引っ越しは完了。

しおりを挟む
「隣に引っ越して参りましたグエン・ロイズと申します。ルーシーさんとは先日からお付き合いさせて頂いておりますが、シャインベック隊長のご家族含めて仲良くしていただければと思います。それでこれ、つまらないものですがお納め戴ければ幸いです」


 グエン・ロイズがお菓子を持ってしれっと挨拶に来たのは、ルーシーと付き合う事になってから1ヶ月にもならない春陽気の穏やかな週末の午後であった。

 ダークは仕事で不在だったが、アーネストに居間に通してもらう。

「わざわざのご挨拶ありがとうございます。
 もう工事の方はすっかり終わられたのですか?」

 ルーシーが運んできたコーヒーを嬉しそうに受け取るグエンを微笑ましく思いながら、私は笑顔で尋ねた。

「あと客室が一部まだ残ってるんですが、我慢できなくて。あはははっ。
 ですが、住むところは概ね終わっております。
 家族がいつ増えてもいいように、ベテランのメイドも雇って掃除も滞りなく行っておりますのでご安心下さい」

 そう言いながらチラチラと視線をルーシーに向けているが、ルーシーは無表情のままスルーである。

 でも私には分かる。アレは照れているのだ。
 少し耳が赤くなっているし、落ち着きがない。
 
 まあまあ。付き合いたてのカップルってやぁねぇ、あてられるわー。

 世話好きなオバチャンのようにワクワクとしてしまうじゃないの。

 あー、小説やマンガでどエロい作品を書きなぐっている下世話なココロが洗われるようなピュアなモノを見てる気がするわ。

 でも私から創作意欲を取ったら、ちょっと料理が出来るだけの土偶である。
 私は一生ヨゴレでいいわ。妄想も楽しいから。

 だけどグエンみたいなタイプは、髭もじゃのオッサンに抵抗しながら無理矢理押し倒されて、気がつけばラブが生まれてるみたいなストーリーはどうかしらね。意外とイケそうな気がするわ。
 そうすると、やっぱり恋敵的な存在は同世代の仕事仲間とか……。

 腐女子は放置して置くと、脳内がどんどん腐る方向へ流れやすくなる。

 スキルが上がると、普通に会話したり仕事をしながら脳内はかなりヤバめの妄想がエンドレスで広がるものなのである。

 私が言葉少なに世間話をしている時は、大概ろくでもない事を考えている。
 
 さて縛るべきか目隠しはするべきかなど第2段階の妄想が広がりそうになったところで、学校から戻ったカイルたちが居間にやって来た。
 
「あ、未来のルーシーの旦那さん候補(仮)だ」
「おや、引っ越しは今日でしたか。それはそれは」
「ルーシーをもてべ……もてあそぶ悪い人?」
「お兄さんはプレイボーイさんですか?」

 4人の子供たちに一斉にワヤワヤと集まられ言い募られてグエンも一瞬動揺したが、
 
「ルーシーは僕のお嫁さん候補(確定)だよ」
「そうなんだ。これからお隣さんとして宜しくね」
「弄ぶなんて!今は僕が振り回されてるんだよ。可哀想だろう?」
「女の子をとっかえひっかえするどころか、付き合うのはルーシーが初めてなんだよ。だから応援してね」
 
 とそれぞれ丁寧に返していて、子供たちの好感度は上がったようだ。

「──グエン様、お子様方をそれとなく味方につけるのはお止め下さい」
 
 ルーシーが文句を言ったがグエンは突っぱねた。
 
「やだ。僕は誰であろうとも味方につけるよ。じゃないとルーシーに逃げられるじゃないか。ルーシーは僕を一生独り者の童て──」
 
「わーわーわーわー!!何を言い出すのですお子様の前で!ご身分をお考え下さいませ!」
 
 いきなり大声になったルーシーに、子供たちの方が驚いていた。
 
「わっ、ルーシーどうしたの?」
 
「ビックリしたよ。ルーシーおどかさないで」
 
「ルーシー、お客さまの前で大きな声出したらダメだよ?」
 
 と逆に叱られていた。
 
「……申し訳ございませんでした」
 
 頭を下げるルーシーをニコニコと眺めるグエンを見て私は感じた。
 
 完全に捕獲モードに入ってるわこの男。
 ハンターの目だもんなアレは。
 
 ルーシーにここまで感情を露にさせるとはやるなー。
 
 私はただの坊ちゃんじゃないなと認識を改めた。
 ……絡め取られそうだが一応頑張れルーシー。
 
 
 
「ところで犬はまだお引っ越ししてないの?」
 
 アナが周りを見回しながら首を傾げた。
 
「ん?いるよ。会いたい?」
 
「「「「会いたい!」」」」
 
 失礼して、と居間から窓を開けて庭に出たグエンが指笛を鳴らすと、ワン!と鳴き声がして、大型犬が走ってきた。
 
 ウチに猫がいるので気を遣って表の方に待たせていたのだろう。

 ジャーマンシェパード……ドイツがない国でジャーマンシェパードって言うのか不明だが、見た目はまんまあの警察犬とかにもなってる精悍で利口そうな犬である。
 目が穏やかでゆるく振っている尻尾が可愛らしい。
 
「バルゴって言うんだ。オスで2歳だよ」
 
「ふぉぉ……頭を撫でても怒らない?」
 
 アナが目をキラキラさせてグエンを見た。
 
「大丈夫だよ。こいつはちゃんとしつけているしね、性格も温和なんだよ」
 
 恐る恐るバルゴの頭を撫でたアナが、手をペロペロと舐められてくすぐったそうにしている。
 皆も撫でたかったようで、順番に撫で撫でして舐められていた。
 
「みんなの匂いは覚えたからね。僕の友だちだって分かったから噛んだりもしないから安心してね」
 
「ウチのアズキともお友だちになってくれるかな?」
 
 クロエが私を見た。
 
「うーん、どうかしらね。昔から犬と猫はあまり仲良くないって言うから……アズキ~?どこ~?」
 
 私がアズキを呼ぶと、居間の方にぽてぽてとアズキがやって来た。
 
「ンニャ」
 
 窓の向こう側にいる大きな犬を見て不思議そうな様子ではあるが、背中の毛を逆立てるほど警戒してはいない。
 
「お隣のワンちゃんでバルゴって言うのよ。挨拶しておく?ほらおいで」
 
 噛まれたらいけないので、私が抱っこしたままそっとバルゴの前にしゃがみこんだ。
 
「バルゴ、ウチのアズキよ。良かったらお友だちになってくれる?」
 
 バルゴはもふもふした生き物を覗き込んで、ペロッと頭を舐めた。
 
「……ニャ」
 
 アズキも特に嫌がる素振りもなく、前足を出して肉球で確かめるようにバルゴの鼻の辺りをてしてし叩いていた。お互いどうやら第一印象は悪くなかったらしい。
 良かった良かった。
 
 
 
 そうして、お隣さんは犬も込みでさりげなく我が家のメンツに顔合わせを済ませたのだった。

 ダークは動揺するルーシーという貴重なモノを見られなくて心底悔しがっていたが。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...