205 / 256
ルーシーの天敵【4】
しおりを挟む
【ルーシー視点】
リーシャ様に、
「相手も真剣なのだから、ちゃんと向き合ってデートでもしてから断るぐらいの誠意を見せなさい」
と至極まっとうな事を言われてしまった私は、仕方なくグエン・ロイズ様に手紙を書いた。
『ご都合のいい日があれば、ゆったりお茶でも頂きながらお話出来れば幸いでございます』
というシンプルなもので、敢えてデートという言葉は使わなかった。2度目があるかも不明だからだ。
2、3日で届いたとして、返事を貰うまでまあ1週間程度だろうかと思って、その後の仕事の調整をしていると、3日後、旦那様がお帰りになった際に、
「グエン・ロイズから預かって来た」
と手紙を渡された。
夜、風呂を出て自室に戻ってから開封すると、やたらと綺麗な文字で、
【とても嬉しい。良かったらお茶だけでなく昼食も一緒にしたい。◯◯日か◯◯日ならどちらがいいだろうか?
手紙を出すとこちらに届くまで時間がかかるので、返事はシャインベック指揮官に渡して下さい。快諾頂きました。】
などと書いてあった。
上司である旦那様を伝書鳩代わりにするとは、とグエン・ロイズ様の図々しさに驚いたが、まあ断るなら早い方が良いだろうと早めの日程を書いて、旦那様にお渡しした。
◇ ◇ ◇
毎日なんだかんだと忙しく動き回っていたら、あっという間にグエン・ロイズ様とのデートもどきの日になってしまった。
「さて、……」
屋敷に迎えに来るグエン・ロイズ様を待ちながら、私はクローゼットを眺めながら途方にくれていた。
デートというのは何を着ればいいのだろうか。
リーシャ様の服を選ぶのは簡単なのだ。
あの方は世の全ての殿方を虜にする美貌が備わっているので、何を着ても似合うし、着こなしてしまう。
私はと言えば、ど平凡な見た目である。服も動きやすい事を前提に購入するので、華やかさの欠片もない。
しかしいくらお断りするためのデートとは言え、失礼のないようにしないとシャインベック家の名にキズが付く。
悩んだ末に、濃紺のフレヤースカートと白いブラウスにグレイのハーフコート、という考えたわりには地味な装いになった。
まあいい。元が地味なのだから丁度いい。
軽くファンデーションをはたいて、ピンクベージュの口紅を塗る。
目元の二重を強調させたくないのでアイシャドウはしない。
鏡を見ると、いつもと代わり映えしない気がするが、変に気合いを入れていると思われても困る。
よし、と立ち上がると、私を呼ぶリーシャ様の声が聞こえた。グエン・ロイズ様が来られたようだ。
軽く深呼吸すると、私は部屋を後にした。
「ルーシーさん、お早うございます!いい天気で良かったですね」
居間のソファーで、リーシャ様と旦那様とコーヒーを飲みながら話をしていたグエン・ロイズ様が、私を見て満面の笑みで立ち上がった。
取っつきやすいイケメンと言ったところだろうか。常に笑顔である。感情表現が豊かな御方なのだろう。童顔なので笑うと更に若く見える。
170近い私とそう身長は変わらないので、小柄な方ではないかと思うが、流石に騎士団でおられるだけあって、ラフな茶系のジャケットに隠れた胸板や二の腕の厚みが日頃の鍛練を感じさせる。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「全然。早く今日が来ないかとずっと楽しみにしてました。──シャインベック指揮官、奥様、それではルーシーさんと出掛けて来ます。なるべく早くお送りしますので」
「別に構わんぞ。ルーシーは今日は休みだからゆっくり楽しんで来てくれ」
「そうよルーシー。たまには気分をリフレッシュしないとね。行ってらっしゃい」
リーシャ様が微笑むと、いつ見てもため息が出るほど光輝き麗しいが、グエン・ロイズ様は何の感慨も湧かないようだ。男性として少しおかしいのではないかと思う。
ロイズ伯爵家の馬車で町に向かう。
「ルーシーさん鳥は好き?ローストチキンとクロワッサンが美味い店があるんだけどそこでいいかな」
「はい。チキンは好きです」
「そう。良かった!」
ニコニコと私を見ながら楽しそうにしているグエン・ロイズ様を見ていると、誰にでも好感を持たれそうなタイプなのに、どうして私のような平凡で年上の女とデートをしたがるのか、未だに疑問であった。
戦い方が綺麗だったので惚れました、とか仰っておられたが、そんなところで女に惚れるのは通常あり得ない。
何か本当は別の目的があるんじゃないか。
私と付き合う事でリーシャ様の情報をつかみ、あわよくばモノにしようと考えているのでは、とも考えたが、それにしてはあの全く興味ないという態度は腑に落ちない。それに騎士団にいるのに上司の妻を寝取ろうとするような人にも見えないのだ。
旦那様の弱味を握って出世したい、といった権力思考も見受けられない。
町に着くまでの30分足らずに色々と想定をしてみたが、全く読めない。
たびたび話しかけられて答えている内に、まあ今日でもうお会いすることもないだろうし、どうでもいいか、と考えるのを止めた。
…………見目麗しい殿方と一緒にいて、気持ちが浮き立たない訳ではないが、私はシャインベック家の方々をお護りするだけで精一杯なのだ。
リーシャ様に、
「相手も真剣なのだから、ちゃんと向き合ってデートでもしてから断るぐらいの誠意を見せなさい」
と至極まっとうな事を言われてしまった私は、仕方なくグエン・ロイズ様に手紙を書いた。
『ご都合のいい日があれば、ゆったりお茶でも頂きながらお話出来れば幸いでございます』
というシンプルなもので、敢えてデートという言葉は使わなかった。2度目があるかも不明だからだ。
2、3日で届いたとして、返事を貰うまでまあ1週間程度だろうかと思って、その後の仕事の調整をしていると、3日後、旦那様がお帰りになった際に、
「グエン・ロイズから預かって来た」
と手紙を渡された。
夜、風呂を出て自室に戻ってから開封すると、やたらと綺麗な文字で、
【とても嬉しい。良かったらお茶だけでなく昼食も一緒にしたい。◯◯日か◯◯日ならどちらがいいだろうか?
手紙を出すとこちらに届くまで時間がかかるので、返事はシャインベック指揮官に渡して下さい。快諾頂きました。】
などと書いてあった。
上司である旦那様を伝書鳩代わりにするとは、とグエン・ロイズ様の図々しさに驚いたが、まあ断るなら早い方が良いだろうと早めの日程を書いて、旦那様にお渡しした。
◇ ◇ ◇
毎日なんだかんだと忙しく動き回っていたら、あっという間にグエン・ロイズ様とのデートもどきの日になってしまった。
「さて、……」
屋敷に迎えに来るグエン・ロイズ様を待ちながら、私はクローゼットを眺めながら途方にくれていた。
デートというのは何を着ればいいのだろうか。
リーシャ様の服を選ぶのは簡単なのだ。
あの方は世の全ての殿方を虜にする美貌が備わっているので、何を着ても似合うし、着こなしてしまう。
私はと言えば、ど平凡な見た目である。服も動きやすい事を前提に購入するので、華やかさの欠片もない。
しかしいくらお断りするためのデートとは言え、失礼のないようにしないとシャインベック家の名にキズが付く。
悩んだ末に、濃紺のフレヤースカートと白いブラウスにグレイのハーフコート、という考えたわりには地味な装いになった。
まあいい。元が地味なのだから丁度いい。
軽くファンデーションをはたいて、ピンクベージュの口紅を塗る。
目元の二重を強調させたくないのでアイシャドウはしない。
鏡を見ると、いつもと代わり映えしない気がするが、変に気合いを入れていると思われても困る。
よし、と立ち上がると、私を呼ぶリーシャ様の声が聞こえた。グエン・ロイズ様が来られたようだ。
軽く深呼吸すると、私は部屋を後にした。
「ルーシーさん、お早うございます!いい天気で良かったですね」
居間のソファーで、リーシャ様と旦那様とコーヒーを飲みながら話をしていたグエン・ロイズ様が、私を見て満面の笑みで立ち上がった。
取っつきやすいイケメンと言ったところだろうか。常に笑顔である。感情表現が豊かな御方なのだろう。童顔なので笑うと更に若く見える。
170近い私とそう身長は変わらないので、小柄な方ではないかと思うが、流石に騎士団でおられるだけあって、ラフな茶系のジャケットに隠れた胸板や二の腕の厚みが日頃の鍛練を感じさせる。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「全然。早く今日が来ないかとずっと楽しみにしてました。──シャインベック指揮官、奥様、それではルーシーさんと出掛けて来ます。なるべく早くお送りしますので」
「別に構わんぞ。ルーシーは今日は休みだからゆっくり楽しんで来てくれ」
「そうよルーシー。たまには気分をリフレッシュしないとね。行ってらっしゃい」
リーシャ様が微笑むと、いつ見てもため息が出るほど光輝き麗しいが、グエン・ロイズ様は何の感慨も湧かないようだ。男性として少しおかしいのではないかと思う。
ロイズ伯爵家の馬車で町に向かう。
「ルーシーさん鳥は好き?ローストチキンとクロワッサンが美味い店があるんだけどそこでいいかな」
「はい。チキンは好きです」
「そう。良かった!」
ニコニコと私を見ながら楽しそうにしているグエン・ロイズ様を見ていると、誰にでも好感を持たれそうなタイプなのに、どうして私のような平凡で年上の女とデートをしたがるのか、未だに疑問であった。
戦い方が綺麗だったので惚れました、とか仰っておられたが、そんなところで女に惚れるのは通常あり得ない。
何か本当は別の目的があるんじゃないか。
私と付き合う事でリーシャ様の情報をつかみ、あわよくばモノにしようと考えているのでは、とも考えたが、それにしてはあの全く興味ないという態度は腑に落ちない。それに騎士団にいるのに上司の妻を寝取ろうとするような人にも見えないのだ。
旦那様の弱味を握って出世したい、といった権力思考も見受けられない。
町に着くまでの30分足らずに色々と想定をしてみたが、全く読めない。
たびたび話しかけられて答えている内に、まあ今日でもうお会いすることもないだろうし、どうでもいいか、と考えるのを止めた。
…………見目麗しい殿方と一緒にいて、気持ちが浮き立たない訳ではないが、私はシャインベック家の方々をお護りするだけで精一杯なのだ。
12
お気に入りに追加
1,448
あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる