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束の間の平和。★

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 サバイバル訓練を少し早めに切り上げてダークが屋敷に戻って来てから数日。


 カイルのうっかり申告で、以前に自主的に拐われそうになっていたのがバレたアナの件もあって、全員が、【探索くんハイパー】(ネックレス)の常時着用を当分の間させられる事になった。

 ルーシーは過保護だが、私たちの心配をしているのが分かるので断れない。


「省電力なので、月に一度充電すれば良いのです。エンジェル電気もどんどん技術力が上がって素晴らしいですわね。プレミアム会員になった甲斐があるというものです。もっと防犯グッズを増やしてもらわねば」

 どうやら使い勝手を色々報告したりして、エンジェル電気のモニタリング会員(プレミアム料金が半額になるそうだ)にもなったらしい。

 心配をされるのは有り難いし嬉しいのだが、アナのせいで若干過保護に磨きがかかってしまった。


 カイル、ブレナン、クロエの3人が輪になって、反省を促すふんばば踊りをしながら延々とアナの周りを回っていて、アナは半泣きになっていた。

 何故かとばっちりで私までネックレスを装備させられる事になったので、ついでに私も輪に加わって、ふんばばふんばば♪と踊っていたら、とうとうアナが

「もう虫を見せてくれるって言われても付いていきまぜぇぇん!ごべんなざぁぁーい」

 と大泣きし出したので、そろそろ勘弁したろかのぅ、と皆で解放してあげた。

 ウチの子はメンタルがしぶといので、この程度の脅しではびくともしないが、反省をさせるのは大事なのである。

「リーシャ様も大人げないんですから」

 一汗かいて居間のソファーに腰を下ろしたところで、ルーシーがアイスカフェオレを運んできた。

「あーありがとう!ちょうど冷たいのが飲みたかったのよ」

 私はいそいそ受け取り喉を潤すと、

「だって私までネックレスつける羽目になったのよ?少しぐらいいいじゃない。
 だけどアナも何であんなに虫とか爬虫類とか、女の子が余り好まないモノに惹かれるのかしらねぇ」

 と首を傾げた。

「以前伺ったのですが、小さいのに一生懸命生きてる姿が格好いいと」

「……まあ好きなモノは人それぞれだからいいとしても、台所の黒いGを素手で捕まえようとするのは止めて欲しいわよね」

「個人的にはわたくしも激しく同感でございます」


 前世の日本ではペットとして飼う人もいたようだが、私はあれは昆虫として一生認める訳には行かない。悪い菌も沢山持っているし、それ以前にあのボディーが生理的にもう無理なのだ。

 アレに関してだけは、私はゴ●ゴ13になれる。
 正に『俺の背後に立つな』とクールに排除出来るのだ。それに、もしアズキが口に入れて病気にでもなったらえらい事だもの。


「……それはともかく、騎士団の方に改めて助けていただいた御礼にも行かないといけないわよね。
 一体何をすればいいのかしらねぇ。お菓子位では感謝の気持ちが伝わらないかも知れないし、かといってお金を渡すのも失礼な気がするし」

 訓練もほっぽらかして、我が家のちょっとアホだけど愛する子供たちを助けてくれたのだ。

 たまたま怪我をする事も他国へ拐われる事もなかったが、命の恩人である事には変わりない。

「リーシャ様手作りのお菓子で十分ですわ。ですが、それだけというのも確かにアレですわね。
 ただ部下とは言え男性の集まりでございますし、旦那様が少々……かなり嫌がるかも知れません。
 もし何でしたら屋敷に招待して、ディナーも含めておもてなしするのは如何でございますか?
 人数が多いので立食パーティー形式がよろしいかと。
 旦那様も、御礼をしたい気持ちはおありのようでしたから、お尋ねされては?」

「立食ね……立食なら何とか頑張れそうだわ。
 子供たちの恩人に、いくらヒッキーだからって失礼があってはいけないものね。ダークが戻ったら聞いてみるわ!」

 私は頷くと、もし立食にした場合のメニューは何にするかなどをルーシーと相談し始めた。



◇  ◇  ◇

 

「……立食パーティー?」

 夕食後、お風呂から出た私は、髪を乾かしながら、同じくお風呂から戻って来たダークに昼間の話を持ち出した。

「そう。一応プルプル町で御礼がてら夕食は食べて頂いたけど、やっぱり改めて立食パーティーでもして感謝の気持ちをね。
 何と言ってもブレナンとアナを助けてもらったんだし、このままという訳にもいかないじゃない?」

「ああ、いや、それは俺も思ってはいたんだが……リーシャは余りそういう大勢の人が集まるようなパーティーとか苦手だろう?」

「大勢とは言っても救出に来てくれた15人とヒューイさんでしょ?あとはご夫婦なら奥様とかお子様も含めて……30人から40人?……え、思ったより多いわね。まあでも別に社交とかじゃないから何とかなるわよ」


 顔見知りも多いし乗り切れるだろう。多分。


「……頑張ってくれるのは嬉しいが、リーシャの手料理を他の奴らに食わすのは悔しい……」

 ダークが私の背後から腕を回して抱き締める。

 鏡越しに見ても目に破壊力のある眩しい美貌の美丈夫だが、絶対この人、神様が年を取らせるの忘れてる。

 44になるのにたるんだところが全くない筋肉質の体なうえに、30過ぎからほぼ顔も老けずに色気が増す一方だ。女性としては羨ましい限りだ。

「料理は楽しいし、美味しいと言ってもらえたら私は嬉しいからいいのよ。妻が料理出来るのって夫として良くない?」

「そういう問題でなく、リーシャが作るモノを他の奴らの体に入れたくないんだ」

「私は料理ぐらいしか人様に披露出来るものがないじゃないのよ」


 この世界では受けがいいだけの土偶顔で、エロエロなBL作家&マンガ家でヒッキーなのだ。
 その上時々オッサンやらチンピラやらになって現実逃避したがるような、メンタルがおぼろ豆腐な女である。

 正直、中身も知ってて全部受け入れてくれている聖人のようなダークがいなければ、きっと一生のびのびと生きられなかった気がする。


「ダーク」

「ん?」

「私と結婚してくれてありがとうね」

「なんだ突然?」

「こんな変わった女とずっと一緒に居てくれてホント有り難いなーと思ったから。
 これからもよろしくお願いします」

「……おう。俺も一緒に居てくれて有り難いといつも思っている」

 ふわりと抱き上げられて、ベッドに下ろされる。

「……おー。私の王子さまは力持ちで良かったわ」

「もっと太っても全然平気だぞ」

「ギックリ腰になったら困るからほどほどにしとくわ。──この状況は、もしかするともしかするのかしらね?」

「絶対もしかするだろうな」

 気がついたらまた私の寝間着のボタンが全はずしになっている。もうマジシャンである。どこの名うてのプレイボーイだろうか。


「あのね、思ったんだけど……」

「ん?」

「ダークなら全部許せると思ったんだけれどね……」

 耳元に唇を寄せて、

「死ぬまで私以外の人と体は合わせないでね。それだけはどうしてもイヤなの」

 とコソッと囁いた。


 昔は愛してれば何でも許せると思った。そういうものだと考えていた。

 だが、年月が経てば経つほど益々ダークに惚れ直している私には、逆に許せない事が出来てしまった。
 
 ダークが別の女性を抱き締めるのもキスするのも、セックスするのも耐えられない。
 触れてもいいのは私だけでありたい。
 逆に私もダークにしか触れられたくない。

 きっと、これが執着というものなのではなかろうか。余りいいものじゃない感情だ。

 ダークと恋愛するまで、自分はもっと淡々とした感情で恋愛をして、結婚するものだと想像していたが、人間分からないものである。


 ダークが静かなままなので、束縛系の発言はやはり控えるべきだったかと不安になったが、固まったまま何かブツブツ呟いている。耳をすませると、

「……妻が可愛い妻が可愛い妻が可愛い妻が可愛い妻が可愛い可愛すぎて死ぬ。いや死ねない。でも心臓が締め付けられる。死ぬのか?やはり死ぬのかでもほんとクソ可愛い可愛すぎる死ぬいや死にたくないでも可愛い……」

 死ぬと可愛いのミルフィーユ連呼になっていた。

 束縛、執着系が性癖だったのかしら。

「……ダーク?大丈夫?」

 延々と呟いているのが心配になり、そっと声をかけた。

 ハッと私を見たダークが、私を見て

「リーシャ、俺と結婚してくれ!」

 と叫んだ。

「──いや、してるよ?」

「あっ、違うっ!そうじゃなくて、毎年さっきのアレ、言ってくれないか?」

「な、何で?」

「絶対にリーシャ以外で勃たないのに、あんな可愛いジェラシーとか。最高のご褒美だ」

「いや勃つか勃たないか見た事ないんだけれど。
 というか現時点でも驚くほどお元気で」

「──試すか?俺はいいが、娼館に夫婦で行くのはちょっとマズいよな。裸になってくれる人を出張でこっそり呼ぶか」

「呼ばなくていいわよ。よその女性の裸見たら私のアラが目立つじゃないの」

「じゃあ信じろ。俺は死ぬまでリーシャだけだ」

 私に覆い被さるようにして抱き締めながら、舌を絡ませてきた。少し強いぐらいの力で胸を掴む。

「んんっ、ぁ」

「済まないが、今は余裕がない」

 ダークは私の足を広げると、己の熱を私に突き入れた。既に私も潤っていたのか、すんなりあの大きさのモノが呑み込まれる。
 
「っ、はっ」

 しかし相変わらずの圧迫感だが、もう体が慣れてしまっているので、すぐ快感に切り替わる。
 いつもより激しく抽送するダークのモノが震え、最奥で白濁を放つのが分かった。

 息を荒げていたダークが、

「……駄目だ。まだ足りない」

 と抜かないまま今度はゆっくりと抽送が始まる。何故かまだガチガチのままだ。

「あ、ちょ、待って……」

「リーシャが浮気の心配をしなくて済むよう、俺もリーシャへの愛を体で精一杯伝えたい」

 
 いやダークの精一杯をされたらマジで死ぬからね私。ほんと体力的に無理だから。


 そう言いたかったのに、喘ぎで言葉にならない内に快楽の波に乗せられてしまい、気づけば3連戦が済んでいた。


 身動き出来ない私にまめまめしくタオルで体を拭き綺麗にしてくれたダークが、私を抱え込むようにして「おやすみ」と言ったのかどうかも曖昧な状態で、

(この体力オバケには一生敵わない……)

 と思いながら眠りの渦に沈んでしまった。



 翌日、

「どうしてダークはいつもいつもいつもっ!」

 と叱る私を、無駄に美しい正座をしながら謝っていたダークを見たアナが、

「父様、また何かやらかしたのね?母様に嫌われないよう早く仲直りしてね」

 と肩を叩かれ、「また・・……」とかなりダメージを受けていた。




 しかし、この平常運転に変化が訪れるのは、そう先の事ではなかった。



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