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ブレナンとアナとアレック。【1】

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 プルプルホテルは、歴史ある重厚な佇まいと清潔感の漂う雰囲気の、高級感溢れるホテルであった。
 働いてる人たちも大変気持ちのいい対応をしてくれる。

 最初予約していたセミスイートも、子供たちが来ると言うので急遽大きな部屋に変更をお願いしたが、快く受け入れてくれた。


 実はダークに伝えた時は、大きめのスイートにはまだ変更出来てなかったのだが、ルーシーが、

「シーズンオフに高い部屋に変えるのですからきっと対応して頂ける筈です。プルプル町のオンシーズンは涼しい夏ですから」

 と言うのでフライング発言をしたのだが、無事に変更できて良かったと一安心した。

 ちゃんと夫婦用の1部屋と子供たちの1部屋、狭いが使用人に充てる部屋も2つあり、リビングも広くてキッチンやバーカウンターまでついている。

「ねぇルーシー…………お高いんじゃないのここ?」

 寝室で荷物を片付けながらそっとルーシーに耳打ちしたが、

「少しは使わないと銀行の残高が増える一方なので、たまには贅沢して下さらないと。
 最新刊の【龍王さまと僕】がまた大人気じゃありませんか。
 『イザベラ・ハンコックがまさかの人外×人とのラブロマンス!』『龍王のクセにほぼ人形態でいちゃついてるのが堪らない』『でも体力は龍王並みなのがイザベラ流で(略)』と町中では評判でございまして、3刷目の増刷だそうでございます。
 また、出版元が新しい商売に手を出しまして。タピオカドリンクを扱うカフェを商店街にオープンしたようで、連日長蛇の列でございます」

「評判がいいのは嬉しいけれど、何故あそこの出版元は私の本を出す度に、ビアガーデンが出来たりマンガカフェが出来たりするのかしらね。
 あのハゲ散らかした編集長、不思議と畑違いの商売に手を出すのに失敗しないのはすごいわよね。
 でもタピオカはあと2、3年が限界よ。あれカロリーが半端なく高いからダイエットの敵だもの。バレたら女性客激減よ。
 まー、原料は芋だものねぇ」

「……リーシャ様、重要なお知らせです」

「あら、何かしら?」

「編集長は、もうハゲ散らかしてはおりません」

「まあ!まさか植毛したの?」

「ヅラかも知れませんが、かなり質の良さげなもので違和感ありません。かなり若返って見えます。
 社内では『イザベラ増毛法』と呼ばれているそうでございます」

「…………何か、本の売上が髪の毛に変わるのはちょっとイヤだわね」

「その代わり、ゴリ押しの休みも融通が利くようになったとライラが言ってましたので、少々の増毛は許してあげましょう。
 何かあれば『初心忘るるべからず』とか言って元の毛までむしってやれば、新刊!新刊!と無理強いもしなくなると思いますし」

「元の毛もむしってしまったら初心すらなくなると思うけれど、まあそれはともかく、ダークが来る前に町のお店を覗きに行きましょうか。子供たちも楽しみにしてるし」


 ブレナンとアナは、ホテルに着く前に馬車の中でルーシーから、

「買い物の前がいいか後がいいか」

 ともふもふ羽ぼうきを目の前で揺らされ、お仕置きを思い出したようで涙目になったが、

「楽しい事の後にあると思うと泣きたくなるから前で」

 と言い、さっきまで子供用にした部屋でコショコショされていたらしい。
 らしい、と言うのは泣き叫ぶ声が扉を閉めてると全く聞こえなかったからだ。
 流石老舗の高級ホテルだ、防音がしっかりしている。

 ブレナンとアナは笑わされすぎて泣いたのだろう、『嫁にいけない……』『婿にいけない……』と目を真っ赤にしていたが、後は楽しいお出かけだけ~♪とゾンビダンスを踊っていた。

 立ち直りが早いのと打たれ強いのは、我が家の子供たちの長所かも知れない。


「左様でございますね。アズキ様の新しいオモチャもあれば入手致しましょう」

「そうね。あの子ったら我が家の家風に慣れすぎたのか基本ゴロゴロ寝てるし、メスのくせに週末のお父さんみたいだものね。
 猫らしいアクティブさが年々失われてる気がするわ。まあそれも可愛いんだけど、健康の為には運動させないとね」


 私たちは支度をして子供たち、アレックとともに買い物に繰り出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 アナはテント生活が面白そうと思ったのか、小さなナイフや細いロープ、発煙筒などに包帯や絆創膏、ガーゼや消毒薬までが小さなバッグに入った『お子様サバイバルキット』というのを買ってもらってご機嫌だった。

 どんどん野性化しているような気がして、レイモンド王子が少し可哀想になったが、まあこれもアナのキャラクターである。彼には猛獣使いとして精進してもらうしかない。

 クロエは本屋で【年上の彼を落とす魅惑のテクニック10選!】という特集が載っている女性向けの雑誌と、お菓子と料理のレシピ本をいそいそと持ってきたが、「失礼致します」とパラパラと年上の彼特集を見たルーシーが、

「これはクロエ様には10年早いのでいけません」

 とラックに戻しに行った。

「ひどいルーシー……」

 クロエがちょっと泣きそうになったが、

「大体既にジークライン様の心はわしづかみされているではありませんかクロエ様。
 良いですか?ああいったものは、ここぞという時に使ってこそ意味があるのでございます。
 クロエ様、お腹いっぱいな時に更に新しい食事が出てきたらどうされますか?」

「ゴメンナサイします」

「左様でございましょう?
 ですから既にクロエ様でお腹いっぱいのジークライン様に『胸の谷間でセクシーアピール♪』などして、ゴメンナサイされたらどうされるのですか。
 大体クロエ様に谷間など何処にあるのですか?せめてお母様ぐらい成長してからになさいませ。
 いえ、でもお母様も現在発展途上……いや、もう無理かも……でもまだ可能性は…………」

「ちょっと待ちなさいよルーシー。クロエを止めながらも私をサラッとディスらないでちょうだい。
 これでもCカップはあるんだから」

「寄せて上げて辛うじてCカップでございますからねリーシャ様?」

 ルーシーは巨乳である。
 動きにくいからと普段は割と締め付けて普通に見せているが、脱ぐとかなりのボリュームである。

「ぐぐぐっ」

「………クロエはもうおしまいなの?母様に似たから大きくならないの?」

 クロエも涙目で訴えるな。
 おしまいって言うな。
 チチは大きくしたくてもならなかったんだから仕方ないじゃないの。私の方が泣きたいわよ。

「クロエ様、大事な事を忘れてはいけませんよ」

 ルーシーがしゃがみこんでクロエの頭を撫でた。

「大事なこと?」

「クロエ様はお父様を格好いいと思ってらっしゃいますよね?」

「もちろんよ!今まで見た男の人の中で一番カッコいいのようちの父様は」

「そのお父様を、お母様は掴まえたのですよ?チチの大小は関係ないのです。
 むしろ、クロエ様はお綺麗なお母様と激似である事に感謝しなくてはいけません。
 そして、……あー、これはジークライン様に内緒にと言われたのですが……」

「なに?ジーク様がなんて!?」

「…………『クロエが笑顔で側にいるだけで幸せになる。料理も上手いし優しいし可愛いし、本当に僕は幸せだ。このまま嫌いにならないでくれたらいいなあ』と」

「私がジーク様を嫌いになるわけないじゃないの」

「ですから一番大切なのは、チチの大小なんかよりも、優しくて料理の上手なクロエ様でいる事ではないかと」

「そうなのね。ルーシー!教えてくれてありがとう!」

「でも、ジークライン様には内緒にして下さいね。あの御方はシャイなので、クロエ様に知られたら恥ずかしくて真っ赤になってしまいますから」

「分かったわ!……料理をどんどん頑張らないとダメね」

 コクコクと頷きながら決意を固めているクロエはもうチチの事はどうでもよくなったようだ。
 とりあえず心を地味にえぐられずに済んで良かった。

「ルーシーって、上手いこと話を逸らすの得意よね本当に」

「いえ、クロエ様はリーシャ様と基本のパターンが一緒でございますので」

「………私が単純だとでも言いたいのかしらね?」

「…………いいえまさか!バカ正直で騙されやす…………人を疑わない王族ホイホイ、…………えーと、そう、ピュア!ピュアな精神の持ち主だとわたくし常々感動しているのでございます」

「………ピュアって、やだわ大袈裟ね貴女も」

 私はちょっと照れた。

「何を仰いますか。リーシャ様やクロエ様たちがピュアでなければ、わたくし一体どなたをピュアと申し上げればいいのか分かりませんわ。第一、わたくしが27年もお仕え出来ているのも、ピュアなリーシャ様をお護りせねばという強い想いからでございます」

「恥ずかしいからもう止めてちょうだい。
 でもありがとうルーシー、そんな貴女こそいてくれないと私はダメなのよ。お願いだからずっと我が家に居てね」

「もちろんでございます」

 友情を温めあった私たちは、ふとスカートを引っ張る手に気づいた。

「ねえ母様」

「あら、カイルどうしたの?」

 いつの間にかカイルが私の側に来ていた。

「んーと、アナとブレナンが居ないんだけどどこ?あとアレックも」

「え?でも今さっきオモチャ売り場に…………」

 私はブレナンたちが居たところを見た。
 確かにいない。
 だがアレックも一緒にいるのだからと、さほど心配はしてなかった。

「ブレナ~ン!アナーーー?」

 それでも気になって呼び掛けたが、近くにはいないようで返事がない。

「ルーシー、あっちのペットショップの方を見てきてくれる?」

「かしこまりました」



 それから周囲を捜しまくったが、ブレナンもアナも、アレックまでも見つける事が出来なかった。

 迷子ではない。見張らしもいいしそこまで広いエリアではないのだ。拐われたのか?
 だが知らない人にはついていかないようにとあれほど言っていたのに。


「ダーク…………早く来て……」


 私はカイルとクロエの手を掴んだまま、ルーシーが見つけて戻ってくれることを願いつつ、ただ途方に暮れてしまっていた。



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