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マーブルマーブル感謝祭【8】

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 大体100メートル走は、女性8人×5組、男性8人×8組。100人越えている。

 ただ、己のスピード勝負なので、思ったより人は少ない。

 確かさっき参加者リストを見せて貰った時に、一番多いのは大玉転がしの500人ほどで、次に多かったのは綱引きの300人位だったかと思う。人海戦術でパウンドケーキだけでもというしょうもない作戦の気配を感じる。

 受付のおじさんが数の把握のため、参加者へ受付時に、

「勝ったら金一封とケーキのどちらがいいか」

 と聞いたら、9割近くの人が「リーシャ様のケーキ」と答えたと聞いて、だから金一封で幾らでも買えるだろうが! この町の人間は足し算も出来んのかおおぅ?と町のチンピラが降臨しそうになった。

 ルーシーが、

「製作がリーシャ様=プライスレス」

 とか訳の分からん事を言って宥めようとしたが意味が分からない。

 いくら以前に傾国の美女(他称)だのびいせんの女神(他称)だのと勝手にアダ名を付けられてたかも知れないが、今は人妻で4人の子持ちなのである。とっくに時効案件である。

 大体町の人たちとは商店街の一部の人としか話すのはおろか、顔を合わせた事すらない。

「いえ、大概は借金の利息のように、元がそんなでもないのに噂だけがどんどん膨らんで自爆するパターンが多いですけど、リーシャ様の場合は噂の方が控えめなので、当人を見るとお値段以上のお得感と言うか。
 あれですわね、とびっ子かと思ってたらキャビアだったみたいな感じなのでしょう」

「ちょっと例えが人外どころか人型ですらなくなってるじゃないの。私はとびっ子大好きよ!むしろあの粒々感が………いえとびっ子の話じゃなかったわ。
 噂が控えめってどういう事?びいせんの女神(他称)や傾国の美女(他称)のどこが控えめなのよ?過剰装飾もいいとこじゃない」

 100円もしないチョコレートに豪華なラッピングをしたようなものだ。
 まぁあれはちょっといいモノを貰ったような気がするのが不思議で好きだが。

「ですからいい加減認めましょうよ。リーシャ様がいくら腐女子でヒッキーだとしても、この国随一の美貌なのは間違いないんですってば」

「だからいい加減諦めなさいよ。私は死ぬまで認めないわよ。その他大勢の一般人の主婦でいいんだってば」

 最推しのダークがいれば本望なのである。

 第一モテてどうするのだ。
 ダーク以外の男性に興味もないし、多分このまま屋敷からほぼ出ないで喜んで生涯を全うする予定の人間に。

「リーシャ様だって、綺麗なモノは愛でたいと思われる事もあるでしょう?
 リーシャ様の愛でる対象が旦那様なのであれば、町の方々の多くが………まぁ最愛の人は別にしても、単純に眺めていたい愛でていたいと思ってるのはリーシャ様だ、というだけの話でございますよ。シンプルイズベストです。
 あ、そろそろ始まりますわね」

「何がシンプルイズベストよ、ちっともシンプルじゃないわよ。そんなこと聞くと、ますますヒッキー生活に拍車がかかるじゃないの。………あらほんとね。
 何だか参加者の女性から火花が散っているような気がするのだけど」

 笛の音で一斉に走り出した最初の組の女性たち。
 見ているとロングヘアーの20代くらいの女性が首位かと思われたが、後ろの同世代の女性がクン、と髪の毛を引っ張り、驚いたロングヘアーが一瞬戸惑った所を追い抜いてゴールした。

「ちょっと!髪の毛引っ張ったでしょ!」

「あーら何のことかしら?前でバサバサ鬱陶しい感じで視界を遮られるから邪魔で払いのけた記憶はあるけど。むしろ進路妨害はそちらでは~?
 大体、誰に見せたいのか知らないけど~、レースで髪の毛を結びもしないってどうかと思うのよね~。そちらの方がマナー違反でしょう?」

 ………まぁ引っ張っるのはダメだが、確かに他人の髪の毛が当たるとかイヤだわな。

 ぐぐっ、と詰まった女性の姿を見て、レース前のロングヘアーの男女が一斉にそれぞれ急いでゴムで結んだり団子にまとめたりし始めた。

「………解説のルーシーさーん?フランさーん?」

「はいはい、こちらルーシーです」

「フランですわー」

 隣で一緒に様子を見ていたフランも反応した。

「何やら初戦からザ・女の戦い!といった感じになってきましたねぇ。今回のレースはどう見ますかルーシーさん?」

「そうでございますね。あれは『男にモテたくてチャラチャラしてっからケーキ逃すんだよ。こちとら息子がケーキの土産を心待ちにしてんだよ!』とでも思ってるんじゃないでしょうか?」

「フランさんはどう思われますか?」

「そうですわね、後続の選手たちが慌てて髪をまとめ出したのは、走行を妨害されたくないのと、進路妨害のクレームで失格になりたくない切実さが感じられますわね。
 先ほど化粧直しに参りましたら、見本のケーキに熱い眼差しを送っているグループ、勝った時には違うケーキを貰って1切れずつ交換する取り決めを交わしているグループを見かけました。誰が最初に8種フルコンプ出来るかと言った所が一番の話題でございましたよ」

「………たかがケーキにそこまでですか?」

「リーシャ様印ですからねえ」

「リーシャ様印ですものねえ」

「あ、次のレースがスタートしました!ぶっちぎりでテープを切った女性に2位以下の選手が物言いです。
 ………おおっと、寒いからと外さなかったマフラーが取られたぁぁ!あれは喉仏でしょうか?おや、審判員が股間に手をやる!
 失格!失格です!どうやら男性が女性レースに紛れ込んでいた模様です」

「確実に勝てる方法を取ろうとしたんでしょうねぇ。どうせ受け取りで名簿記入するので、秒バレしてたと思いますが、ワンチャン狙ってたんでしょうね」

「とても愚かですけれど、お気持ちは分かりますわね。ですが同情はしません。勝負は正々堂々と戦ってこそ勝利のケーキの有り難みと言うものが分かるのです!」

「えげつないですねぇ。そこまでのモノではないと思うんですけれどね」

「リーシャ様印ですからね」

「ハイパーブランドですわね。今後一生食べられないかも知れませんから、それは必死になる事でしょう」

 私は、ドン引きしそうになる心を茶化して誤魔化すしか手がなかった。

 外の世界はおっかねぇだ。

 女性も男性もその後もちょいちょい反則ギリギリ………というか個人的にはアウトな感じのレースを繰り広げていたが、うちのマークス兄様は、地道に特訓をしていたようで、1位でゴールに飛び込んで、若い女性たちから歓声を浴びていた。

 マークス兄様も大和民族系の顔立ちだから、モテるのよね。もう30過ぎてるんだからいい加減結婚すればいいのに。


「リーシャ!見てたか?兄様は格好よかっただろ?」

 ウインクをしながらやってきたマークス兄様は、誉めて欲しそうにしていたが、隣に座る国王陛下や王妃様の姿に気づいたようで、深々とお辞儀をし、

「リーシャ、それじゃランチの時に!俺はちょっとダークの手伝いをしてくるよ」

 と、競歩かというぐらいのスピードで消えていった。

 ダークの手伝いというのは、大玉転がしで使う紅白の玉が少し破れていたという事で、最終の借り物競争にしか出ないダークや他の騎士団の有志によって急ぎ修理中なのである。

 学校の子供たちが放課後に、竹ひごみたいな素材で作った球体へ薄っぺらい紙をペタペタと貼り重ねて作成してくれたそうだ。

 実際に見たときはしっかりとしていたように思えたのだが。

 ………まさか誰かがわざと破った訳じゃないだろう。
 たかがパウンドケーキのためになんか、やらないよ、ね?

 声が聞こえて背後を見ると、さっきのレースで勝ったお兄さんが、女性の勝者とケーキを交換していた。

「ようやく4種類きたー!よし、あと残り4種類でコンプだー」

「私はまだ3種類よ。女性はケーキの種類がバッティングしてる人が多くて交換に応じられるのは2人だけだったのよ。助かったわ。
 ところで、誰かチョコレートケーキを貰った人を知らないかしら?」

「ああ、いるいる。俺もこれから向かおうと思ってたから、一緒にどう?」

「行くわ。コンプしたら盗まれそうだから、こっそり動かないと」

 周りを見回しながら、さりげなく歩いている男女は、ケーキを持っている事が分からないよう手提げ袋に入れていた。

 ………ケーキの闇取引現場のようである。
 顔にモザイクと音声処理がかかってやしないかと勘違いしそうになった。

 何でキャッキャウフフな筈の乙女のスイーツが、ダーティでイリーガルな雰囲気の中でやり取りされているのか、謎は深まるばかりである。


「えっと………次はリレーですね!ブライアン&フレンズには頑張って欲しいものですね」

「そーですね」

「そーですわね」

 どうやら2人もさっき見たものは忘れる事にしたらしい。


 そう言えばサリーたちが静かねと振り返ると、王族コロコロを始めたばかりのうちの使用人たちには、まだラスボスの国王陛下や王妃様はキャパオーバーだったようで、揃って路傍の石モードになっている。


 ランチ………ご一緒なのだろうか。


 多すぎるかなと思う位にはお握りもオカズも作ってきたけど、どうにも食欲が湧かない。

 最悪、怖れを知らないウチの子供たちに、

「レイモンド王子のじーじとばーば、子供と話すのが大好きみたいだから、一緒に色々お話してあげてね」

 と丸め込んで接待させよう。そうしよう。
 



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