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マーブルマーブル感謝祭【1】

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 感謝祭初日。

 子供競技の日の朝は、雲ひとつない快晴だった。これなら明日もいい天気に違いない。


 私は3時間程は眠る時間があったので泥のように眠りこけ、朝は子供たちやダーク、フランたちと食べるお弁当を作る。


 ダークもいいから寝ろと言ったのに、私がケーキの仕上げで起きてる間、ずっとなんやかや手伝いをして起きていてくれた。

「どうせベッドに入っても心配で眠れないから」

 と言う、ハイパー優しい旦那様である。

 徳を積みすぎて来世では会えなくなりそうなので、そろそろ人並みになってくれないかと思うのだが、ダークは既に聖人みたいに心が綺麗だから無理かも知れない。
 私のようなヨゴレな腐女子まで浄化されてしまいそうだ。


 しかし基礎体力の差なのか、同じ睡眠時間でも私はヨレヨレなのに対して、朝ごはんを美味しそうに食べているダークはとても元気である。

「リーシャのとこは朝はご飯なのね。おかずとか手間がかからない?………あー玉子かけご飯が身体に染み渡るわあ………」

 フランが海苔を醤油にチョイチョイと付けて、玉子かけご飯を巻き巻きして食べながらボンヤリと尋ねた。
 フランも寝不足で無意識に手を動かしている感じだ。

 まあ現在この屋敷内で元気なのは、子供たちと男性陣だけと言ってもいい。

「お握りとか、今日のお弁当を作るついでみたいなものだし、魚焼いたり玉子焼いたりする位だもの」

「リーシャおばさまのごはんはいつもおいしいです」

 レイモンド王子はキンピラゴボウをぽりぽり食べながら頷く。
 だから始終当たり前のように泊まりで人ん家に飯を食いにくるな王子の癖に。

「今日は応援してるので、リレーと組みダンス頑張って下さいね」

 私は食事を済ませお茶を飲みながらレイモンド王子に声をかけた。

「はい!とーさまとかーさまもおしのびでみにきてくれるみたいです」

「そうですか。良かったですねぇ」

 コクコク頷くレイモンド王子を見ながら、あの人たちちっとも忍んでないのよねえ護衛何人も連れてるしモロバレなのよ、とか思ったりもしたが、まあ親として子供の頑張る姿を見たくない訳がないし、今回は大目に見てあげよう。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「それじゃ、母様たちは準備があるから、お昼ご飯の時にね。………ダーク、子供たちをお願いします。アーネストも頼むわね」

「おう」

「畏まりました」


 今回は屋敷の人間は全員出席である。

 手が足りないのもあるのだが、近場だし、子供たちを常に可愛がってくれているみんなにも是非応援してもらいたかったからだ。

 レンタルした馬車も含めて5台(うち1台はお菓子の家のようにスイーツしか詰まってない)で公園にやって来た私たちは、運営ブースの馬車止めに馬たちを止めた。

 参加者は受付を済ませてハチマキを受け取り、そこで紅白のチームに自動的に振り分けられる。人数調整の為だ。

 勿論、兄弟で参加とか友達同士でとかある程度の融通は出来る。
 既に結構人が集まっていた。
 親に連れられている子も多いが、大きな子たちは友達同士でやってきた様子も見受けられる。

 既に見やすい場所取りなども始まっており、カラフルな敷物が公園の芝生を彩りだしている。

 ホットドッグやフライドポテトなどの軽食や飲み物を扱う出店も準備で忙しそうだ。


 明日は更に倍以上の人数が来るのかと思うとヒッキーとしては心が萎えそうになるが、頑張るしかない。

 受付に向かったダークたちを見送ると、私たちは公園内にあるオープンテラスのあるカフェへと向かう。
 2日間は運営ブースとしてお金を払って貸し切りにさせて貰った。

 風か強いとか天候がよろしくなかった時に、ケーキなどがダメになるといけないしね。

「リーシャちゃん!おはよう!いい天気で良かったわね」

「こういうのは日頃の行いがモノを言うんだよ。なあ」

 テーブルの準備をしていた商店街の八百屋のおばちゃんや肉屋のおじさんが、私たちに気づき手を上げた。

 日頃の行い………男性同士であんなことやそんなことをさせてる淫らな小説やマンガを描いたり、ケーキが仕上がった喜びで謎めいた踊りをしてたら扉に肘を打ち付けて痛みでうずくまり、ルーシーに叱られて涙目で湿布を貼ってもらったりしているような私には、日頃の愚行しか存在しない気がする。

 きっとそれをダークの善行が救ってくれているのだろう。後でしっかり拝んでおかなくては。


「すみません遅くなりまして。ケーキ等を運び込みたいのですが、よろしいでしょうか?」

「勿論さ。奥にテーブル並べてあるからそこに置いたらいいよ」

「ありがとうございます!」

 ルーシーやフラン、ジュリアたち女性陣とアレック、マカランと裏手の馬車に戻り、せっせとクッキーやケーキの箱を取り出して運び込む。

 いやー近くて良かった。体力が0になるところだったわ。というかバッテリーで言うともう30%位しかない感じだけれど。
 午後まで持つかしらね。

 商店街の他のお店の人たちも手伝ってくれて、ようやく全部運び込めた時には、思わず溜め息がこぼれた。

「すごいねぇ。これみんなリーシャちゃんが作ったのかい?」

 雑貨屋のおばちゃんが目を見開き、驚いたように山積みの箱を眺めた。

「私だけではとてもとても。身内にも手伝って貰いました。でもこんなに沢山作ったのは生まれて初めてですわ」

 タルトはイチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ダークチェリーのフルーツ4種類。
 レアチーズケーキにベイクドチーズケーキ、ショートケーキにオレンジのマーマレードをスポンジに挟んでアクセントにしたチョコレートケーキと全8種類。
 それにドライフルーツてんこ盛りのパウンドケーキとクラッシュアーモンドを混ぜた参加賞のクッキーである。

 明日の大人競技の分のケーキも持ってきたので、そちらは入るだけカフェの業務用の大きな冷蔵庫に入れさせてもらった。
 冬場だから大丈夫とは思うが念のためだ。

 後は、ケーキについてはそれぞれ見本用に箱の上だけ切り取って、ラップをかけて賞品受け取りテーブルの目立つ所に置けばいいだろう。白い箱だけじゃ中身が分からないもんね。


「もうほぼ準備は済んでますし、まだ1時間はゆとりあるから、お茶でも飲みません?」

 カチャカチャとカップとティーポットをトレイに乗せてカフェのオーナーの奥さんが笑顔でやって来た。

「ありがとうございます。頂きます」

 始まる前から疲労困憊では話にならないので、休める時には休ませて頂こう。

「あの、こんな朝から申し訳ありませんが、ケーキの試食、お願いしても宜しいですか?」

 運営側でボランティアでフォローに入ってくれる商店街の方々とカフェのオーナー夫妻に声をかけた。

 ルーシーたちも誉めてくれたし自分ではかなり満足の行く出来栄えだと思うが、ウチの屋敷の人間では身びいきもあるだろう。
 一般的な意見も聞いておきたい。

「いや………嬉しいけどいいのかい?こんな贅沢なお菓子………」
「さっきからいい匂いがすると思って気になってたんだけどよぅ」

 皆さん甘いものは苦手ではないようで、ゾロゾロと席につく。
 オーナーの奥さんも、

「大変。急いでもっとお湯沸かすわね!」

 と嬉しそうに厨房へ消えていった。

 待っている間にそれぞれ好きなケーキを選んで貰う。
 ちゃんとカットしたものも別途用意してあるのだ。

「これから明日まで大変だと思いますが、是非とも定期的に開催できるマーブルマーブル町の人気イベントとして盛り上がればいいと思いますので、皆様ご協力のほど宜しくお願い致します」

 皆にケーキと紅茶が行き渡ったところで、私も最大限の社交能力を発揮させてお辞儀をする。

「よーし、みんな、頑張るぞー!」
「「「おー!!」」」

 好意的な雰囲気でそれぞれがケーキにフォークを入れる。
 身内以外にケーキを食べて貰うのなんか初めてなのでちょっとドキドキする。

「………うまっ」

「このタルト、めちゃくちゃ美味しいわ!甘酸っぱいラズベリーが堪らないわね。それに見た目も可愛らしくて子供たちも喜ぶわあ~」

 良かった。みんな美味しいと思ってくれたようだ。それぞれ違うケーキの人と一口ずつ交換して味を楽しんでいる。

 私たちも、紅茶を飲みながらケーキをつまむ。作ってる間は甘い匂いだけでお腹一杯で、最低限の味見しかしてなかった。
 ちゃんと口に入れるのは今回が初である。うん、美味しい美味しい。

「リーシャ、貴女どこでこんな美味しいスイーツ教わったの?先生は?まだ教えてらっしゃるのかしら?それともお母様?」

 フランがリアーナと一緒にケーキを頬張りながら気になって仕方がないと言うような目を向けてきた。フランも私の自作ケーキをちゃんと食べるのは今回が初めてなのだ。

 今回リアーナは感謝祭に不参加だ。この子もシャイなので、知らない子供たちが大勢いるところに出るのは嫌だったらしい。
 来年は出てくれるといいな。

 ただ、彼女はフランス人形ばりのぱっちりおめめの旦那様譲りの金髪美少女だが、この世界では不細工寄りの扱いだろうから、無理に参加してバカな男の子たちにからかわれたりする可能性も考えられる。だから無理強いだけはしたくない。


 んー、しかし誰に教わったかと言われてもなあ。
 いや、前世で創作のストレスが溜まった時によく作ってるうちに上達しただけでございましてええ、とは言えないしなー。

 まあ基本的に貴族の娘が料理を学ぶのは母親か料理の先生位しかいないので、この質問も当然だけれど。

「最初は母様に基本を教わって、あとはアレンジよ。趣味だから」

「リーシャ様はフラン様もご存知のように、手先は器用でございますから」

 ルーシーがこそりと小声で耳打ちした。

「ああ………そうよねえ。それにしても美味しいわ………お菓子作りの才能も素晴らしいのねリーシャ」

 チョコレートケーキを幸せそうに食べながらフランが誉め殺しにかかってきた。

「止めてちょうだい恥ずかしいから」

「今回は言われるままに作業しただけだけど、主人が結構甘党なの。頑張ってみたいからレシピ貰って帰れるかしら?」

 フランは少々料理は苦手なのである。

「いいわよ。公爵家なら贅沢なフルーツ使い放題じゃない。頑張って!」

「ふふ。ありがとう。太っちゃいそうだけどね」


「そろそろ参加者も揃ってきたので、最終確認お願いしまーす」

 外で作業していた人たちも入れ替わりに入ってきたので、私たちも気合いを入れ直した。

 よっしゃ。
 一先ず今日を無事に乗り切らなくては。



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