土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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リーシャ、地雷を踏む。

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 我がシャインベック家では、現在とても頭を悩ませている事がある。


 演劇フェスタの賞金の使い道だ。


 何しろ子供たちは最高金賞だとかで日本円だと500万ほど、私の特別賞でも200万ほどの賞金がポーンと王宮から出たのだ。総額700万。ちょっとした宝くじ気分である。



「リーシャ様の貯蓄はそのウン10倍ございますが。なぜそのように頭を抱えるのでしょうか?」

 ルーシーが、少し冷ましたミルクティーを淹れながら不思議そうに問いかけてきた。

「まあ、また増えたの?ルーシー、貴女財テクとかして勝手に増やしてるんじゃないでしょうね?
 ダメよ、アブク銭というのは身に付かないものなんだから」

「『ほら、僕が綺麗に流してあげるよ。バカだなぁ、背中に泡が残ってしまってるじゃないか』とか言わせて、主人公のルークに恋人の背中へどんどん泡立てたソープを塗りたくってアチコチまさぐらせていたリーシャ様のお言葉とも思えませんが。
 あ、その作品がお金になってぶくぶくと増えましたけれども、あれも言うなればアブク銭でございますかしら」

「ひぃぃぃ止めてえぇぇっ!あれは泡プレイであってアブク銭じゃないのよぉぉ~ぅ」

 耳を押さえた私は、己の恥ずかしい小説の一節を身悶えしながら聞き流す。

「どちらも『金(きん)を掴む』という意味では同じでございますわ。
 まあそれはそれとして、お話を戻しますけども何故悩んでおられるのでございますか?」

「サラリと上品な口調で強烈に下品なネタをぶっこんで来ないで頂戴。一瞬『あらお上手』とか言いかけてしまったじゃないの。
 貴女も一応嫁入り前の女性なんだから、もう少しオブラートに包んだ言い方は出来ないのかしら」

「28にもなってチン●の1つも平常心で言えないメイドなど、どこの世界にいるのでございますか?カマトトぶるお年頃は遥か彼方に過ぎ去りましてございます」

「殆どのメイドがそうよ。むしろ平常心で言えてしまう自分を心配しなさいよ。まあそれはともかく、ほら王宮がこんなに賞金を弾んだのは、やっぱり町のお祭りごとの活性化な訳じゃない?」

「大盛り上がりだったではございませんか」

「いえその場は盛り上がったかも知れないわよ?
 でも、終わればまたイベントの少ない町に戻ってしまうじゃない」

 私は飲み頃のミルクティーを口にした。

「勿論、まずは賞を取った子供たちに、何でも好きなものを買ってあげると言ったのよ?」

「………坊っちゃま方、あんまり物欲ございませんからねぇ」

「そうなのよ!要らないと言うところを頑張って考えなさいと言ったら、クロエはレターセットとカラーペン36色セットと画用紙だし、ブレナンは百科事典、カイルは剣の鍛練用の動きやすい運動着、アナに至っては昆虫図鑑とスコップよ?
 どこの貴族の子供がそんなものを喜んで欲しがるってのよ!」

「リーシャ様が幼少時の誕生日のおねだりも、釣竿とかルアーとか紙とペンか色鉛筆などと、メルヘンの欠片もございませんでしたわ。
 毎年ガッカリする旦那様たちを見ながら、子供心にも『お嬢様はなんでぬいぐるみとか綺麗なドレスとかを欲しがらないんだろう』と不思議でしたもの。血筋は侮れませんわね」

「………私の事はいいのよ私の事は。
 お陰で全然お金が減らなくて、地域の活性化に繋がらないのよ」

 そう。せいぜい2万ビル(1ビル=約1円)もかからず買えてしまったのである。
 沢山賞金を頂いたのに、これじゃあまるでケチケチファミリーみたいではないか。

「リーシャ様だって特別賞を頂いたのですから、ばーんと大きな買い物をすれば宜しいではありませんか。下着とか下着とかドレスとか装飾品とか、下着とか」

「下着下着しつこいわよ。下着は貴女に色々勧められて買わされたせいで売るほどあるのよ。まだ一度も身に付けてないのも沢山ね。
 ドレスは興味ないし、装飾品なんかもっと興味ないわね。仕事の邪魔だし」

「………お子様方だけを責めるのは間違っておられるとわたくし思うのですが」

「ええ、自分でもそう思うわよ。
 それでね、ダークにも何か欲しいモノはない?と聞いたのだけど………」

「どうせ旦那様の事ですから、『リーシャと子供たちがいれば何も要らない』とか仰ったのでございましょう?」

「………貴女本当に何でも分かるのね。ほぼ原文ママよ」

「まあ長い付き合いでございますし、シャインベック家には複雑な思考回路の方はおられませんので。
 それにしても活性化………活性化でございますか………」

「家族総出で単純おバカとディスられた気がするのだけれど、強く否定も出来ないからまあいいわ。
 ねえ、ルーシーなら何かいい案を思いつくんじゃないかしら?」

「………薄い本カーニバーー」

「とりあえず薄い本から離れて頂戴」

「………そう言われましても余りにざっくりとし過ぎておりまして的が絞れません。大人向けと子供向け、どちらでございますか?」

「そうねぇ………やっぱり子供向けじゃない?これから健やかに成長して貰わないとならない訳だし、子供の時の楽しかった思い出や感動って結構大人になっても残るものなのよね。
 私も9歳の時に川の主と呼ばれた巨大マスと一時間の死闘を繰り広げて、ようやく釣り上げーー」

「その町のガキ大将みたいな武勇伝は聞き飽きましたので、もっとこう、ロマンティックなものはございませんか?参考までに」

 ルーシーに急に振られて私は考え込んだ。

「ロマンティックなものねぇ………ロマンティックロマンティック………ああ!あるわよ」

 私はポン、と掌を叩いた。

「ダークと手を繋いで初デートしたわ!ついでにアーンもファーストキスも一気に………」

 と言いかけてる途中でルーシーにがくがくと肩を揺さぶられた。

「な、ぜ!9歳、から、い、き、な、り、18歳にっ、飛んで、お、ら、れ、るのですかっ!そ、の、間の、記憶は、どこ、へ、仕舞われ、たので、すかっ!!」

「記憶は、あ、る、けど、うす、薄い、本の、小説を、か、書くの、と、釣りを、して、た、覚え、しか、ない、も、のっ」

 ルーシーが手を離し、ガックリと膝をついた。

「………よくマークス様のご友人が遊びに来られたではありませんか。【兄の友人への仄かな憧れ】みたいなピュアなエピソードの1つや2つないんですかリーシャ様」

「ないわよ。ほぼ8割自室か川にいて、こそこそ隠れて趣味にいそしんでた女だったのよ?
 だから何度も言ってるじゃない、ダークが私の初恋なのよ」

「………ほんとに、本当になんて美貌の無駄遣いを………この先バチが当たるんじゃ………でも結果的に今が有るわけで、それはそれでいいのかしら?
 いいえ待つのよルーシー、そうやってお嬢様を甘やかしてきたからこんな筋金入りのヒッキーになってしまったんじゃないの。
 ………私が、私がメイドとして至らないばかりに………」

「大袈裟ねえ。どちらにせよ、私が社交的な性格になって、ダンスパーティーで殿方を目利きしたり、お茶会でお嬢様たちとウフフオホホなんて上手くやれてた訳ないでしょう?現実を見ましょうよ現実を………あらこのマフィン美味しいわね」

「………わたくしとした事が少々取り乱しまして申し訳ありません。そうですわよね。所詮リーシャ様はリーシャ様ですからどうにもなりませんわね」

 ルーシーは立ち上がると、スカートの乱れを整えた。

「何だか不良品みたいな言い方をされるとちょっとアレだけれど、少なくとも誉められた伯爵令嬢ではなかったものね」

「あーそうですわね、と言えない被雇用者の辛さも分かって頂きたいものですがそれはともかく、今わたくしに降りてきましたわイベントの女神が」

「いえしっかり明言してると思うのだけど、それよりもイベントの女神が?」

 ルーシーの普段見せない笑顔らしい笑顔に若干の不安を感じながらも、私は思わず身を乗り出すのだった。



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