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演劇フェスタ【6】
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最初は別になんという事はなかった。
双子のお姫様が、誕生日のおねだりに町の移動遊園地へ遊びに行きたいと王様に言い、少人数の護衛とともに町にやってくる。
あー、親の欲目かも知れないけどうちの娘(こ)たちラブリーだわぁ。
流石にダークの血が混ざっただけあるわね。大和民族にヨーロッパ風の手足の長い体形、一重だけど睫毛長くてばっさばさ、色白で艶々黒髪のアジアンビューティーである。ぷにぷにのピンクに塗った唇も可愛らしい。
和と洋の融合。
抹茶あんみつのアイスクリーム&生クリーム乗せと言ったところだろうか。
違うか。まあ概ねそんな感じだ。
観客からも、「おお………」だの「何て愛らしい………」「天使だな」「うちの息子の嫁になってくれないだろうか、いや是非とも」などと言う囁き声が聞こえてくる。
親バカだが、子供が褒められると嬉しい。最後の台詞は止めて欲しいが。
3つ隣の席の温度が数度下がった気がするし。
ジークライン王子も過保護系の旦那様になるのかしらねえ。
そう思いながらも、私は舞台に引き込まれて行った。子供たちの方がよほど演技が上手くて芸達者なんだもん。
だが、どうもおかしい。
設定が子供じゃないのだ。
双子のお姫様は17歳だし、少年団設定が騎士団設定になってる。
おいブレナン。いくら王子が変更の許可を貰ったからとはいえ、いいのか?
『わたくしたちは、ほんとうはふつうにまちであそんでみたり、すきなひととこいをしたりしたいのです』
『このままおしろからもでないで、せいりゃくけっこんなんかクソくらえなんですの!』
17の誕生日に町で普通の女の子として過ごしてみたいと夢見る双子は、騎士団の護衛(カイル)に頼んで、弟(ブレナン)が住む町の自宅で町娘の格好に着替え、遊園地に繰り出すのだ。
そこで隣の国から遊びに来ていた商人(レイモンド)とアナが恋に落ち、クロエはずっと慕っていたカイルに想いを告げ、短いデートを楽しむ。
しかし、王様はそれを知り大激怒。
さっさとよその国との結婚話を進め出してしまう。
『カイルさまとデートすることができただけでもしあわせでした。しょせんはかなわぬゆめだったのですね』
『おうぞくのやくめははたさないとなりません。レイモンドさま、アナのことを………おぼえていてくださいね』
よよよ、と泣き崩れるアナとクロエ。
どうでもいいが、名前まんまじゃないの。………多分アナが役名覚えるの面倒臭かったのねきっと。
観客は最初こそ戸惑っていたが、身分違いの恋という恋愛もののテンプレ設定にいつの間にか感情移入してしまい、
「………いくら王様でも若い2人を引き裂くなんて………」
「諦めるのかカイル!レイモンド!身分の違いがなんだ、乗り越えてみせろよ」
と目頭を押さえたりしている。
そっと右側を見ると、ナスターシャ妃殿下はハラハラと涙をハンカチで拭ってるし、国王陛下も皇后も前のめりで展開を見守っている。
4歳から7歳の子供たちの演技力に大人が翻弄されている。
きみら劇団ひま●りか、と突っ込みを入れたいが、私自身も思わず身を乗り出してしまっているのでどうしようもない。
どろどろポイントを稼ぐ事を目的に愛憎劇ごっこをしていた位である。
ドロドロさせるのまで念入りだ。
実は皇后は後妻で、血の繋がらない娘が美しいのを妬んでイビっていただの、メイド頭が皇后の手先で、飲み物に虫を入れたり、冷たい食事やポソポソのパンを与えたりしていた事なども発覚していき、観客は後妻の皇后とメイド頭への怒りを蓄積させる。
そして、ヒーローは明日は嫁入り、という夜更けに窓に小石を投げて迎えに来るのだ。
『おれのベイビー、ないていたらかわいいかおがだいなしだ。ぜいたくはできないがたのしいことはほしょうする。だから、いっしょにたびをしながらくらしていかないか?』
『レイモンドさま!よろこんで!』
『おうこくきしだんのわたしが、クロエさまをさらうのもおかしなはなしだが、となりのくにへにげればてだしもできないだろう。
どうかわたしのつまになってもらえないだろうか?』
『わたくしもありがたくおうけいたしますわ!』
アナにほっぺにちう、とされてレイモンド王子は真っ赤になっていたが、カイルは妹からのほっぺチューなどよくある事なのでただ凛々しいままである。
カイルも騎士団の格好似合うわあ。剣も鍛えてるし、やっぱりダークのように騎士団に入るのかしら。
2組のカップルはさっさと城を脱走し、危険なのでブレナンも共に逃げ出した。
国王は他国への面目丸潰れになり、皇后とメイド頭がしていた行為はアナとクロエが手紙でしたためて、それが主な理由で命の危険があるので逃げ出すとアチコチにばらまいていたため2人は牢屋へ入れられた。
国王もそれに気がつかなかった自分を反省し、皇后と離縁し弟に王位を譲って引退。
双子のお姫様は追っ手もかからずに幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
身分差ロマンスありイジメありざまぁありハッピーエンドありという、詰め込むだけ詰め込んだ王道ラブロマンスは、観客のスタンディングオベーションで幕を閉じた。
私も思わず立ち上がって拍手しながらも、台本の設定が殆ど残ってないじゃないのよ、と気づいてドッと変な汗が背中から流れ出し、右側を見た。
台本を下さった妃殿下は怒ってないだろうか。
「あ、あの、ナスターシャ妃殿下………」
俯いていたナスターシャ妃殿下ががばりと立ち上がり、
「素晴らしかったわっ!!みんなの演技力も驚くほどよね?
台本とはかなり違うけど、こちらの方が断然良かったわ。もう一度観たいぐらい興奮が収まらないわねリーシャ!」
ライリー殿下や国王陛下、皇后や護衛まで立ち上がって力強く拍手をしていた。
………うん。まあいいのか。そっか。
とりあえず怒ってはいないようだ。
有り難いけどさ。いいのかな王族こんなストライクゾーン広くて。
そして、子供たちの舞台は最高金賞を獲得し、私の舞台は特別賞に選ばれた。
私たちは屋敷に戻り、私はやっと終わった解放感から、子供たちはなんか賞もらえたねーわぁーい、な喜びで長いことふんばばふんばば踊っていた。
もうすっかり一仕事終えた感じはあるが、お風呂に浸かって身体を伸ばしながら、そういえばジークライン王子が明日クロエを迎えに来て、帰る前にデートをさせる約束をしてたわ、と思い出した。
うーむ………まあわざわざ遠くから来てくれてるし、何よりクロエが喜ぶものね。
「せいぜいお洒落させて、可愛い娘のデートを後押ししますかね………」
所詮親が何を言ったところで、くっつく時はくっつくのだ。
王族でなければ、正直ジークライン王子は人柄も頭も、ついでに顔も良い(私とクロエの価値観では)。
私は積極的な応援はしないが大反対もしない、という方向でゆるく眺める事にしたのだ。
我が家はイチイチ気にしていたら心臓がもたないほど、バラエティに富んだ事件が多すぎる。
平常心大事。
うんうん頷いて風呂を出る。
そして、寝室に入るとダークが正座して待っていた。
武に長けた人は、正座の姿勢も美しいのね。しかしなんでだ?
「リーシャ、今日は席を代われなくて済まなかった」
………ああそれか!
私の八つ当たりから、手を叩かれたり無視されたのがかなり堪えたようだ。
私は喉元過ぎるとすぐ忘れてしまうタイプである。むしろ自分の問題に家族を巻き込もうとしたのだから、怒られるのは私なのである。
そう言って謝ったが、ダークは首を振った。
「リーシャの問題は俺の問題だ。夫が妻の願いを………物理的に難しかったとは言え、叶えてやれなかった。
リーシャに手を叩かれた時には目の前が真っ暗になった。これが世間で言う夫婦喧嘩なのかと。俺は信頼できない夫として捨てられてしまうと」
「結論はや。その上相変わらず悲観的」
「俺は、俺にはリーシャの居ない人生なんてもう無理だ!何も出来ない………」
「その間違った結論を元に、自分に無駄にダメージを与えるセルフM機能をまずどうにかしましょうかね」
私は、ダークを立たせると、ベッドに突き飛ばした。
ダークのように、すぐ自分を責めてしまうタイプは、罰を与えてリセットさせないと、許されてないと思ってしまう。まあうちの旦那様だけかも知れないが。
「っ!?」
「ダーク」
「な、何だろう」
「離婚しない代わりに貴方に罰を与えるわ」
「分かった!何でも聞く」
「ひとつ。浮気はダメ、絶対」
「勿論だ」
「ひとつ。娼館で他の女を抱くのも浮気と見なすので禁止です」
「リーシャにしか勃たないと前からーー」
「ひとつ。全部自分が悪いと思わないでちょうだい。私が悪いと思ったらちゃんと言うこと」
「でも、リーシャが悪い事なんてなーー」
「言うこと!」
「分かった」
「ひとつ。私はね、束縛と独占欲が強いのよ。だからダークは一生、私だけに独占されなさい。離婚なんか絶対しないわよ。生涯面倒を見ることね!ほほほほほっ」
「………先生」
「何かしらダーク君」
「なにかさっきから俺にはご褒美的なワードしか聞こえないんだが」
「罰よ!男の人は、モノにした女性の数を競うというじゃないの。それを私1人だけにするのよ?」
「リーシャ1人いれば十分過ぎると思うが」
「………ダークが女性に話しかけただけで焼きもち妬くわよ?鬱陶しいわよ?」
「相当嬉しいが」
「えっと、ずーっと離婚しないから、好きな人がこの先出来ても、再婚も出来ないわよ?これは悪妻でしょう?」
「好きな人は目の前にいるし、他の女性は要らない。
むしろ離婚は全力で阻止する側だから、リーシャの方が再婚出来ないな」
「え?いえ私はいいのよ。旦那様はダークだけと決めてるから、貴方の幸せの為に別れる事があっても、もう再婚しないし」
「ーー何で俺の幸せの為に離婚?」
「ほら、私が病気や怪我で二目と見られぬ姿になったり、重い障害が残ったりしたら、一緒にいるのは流石に悪いと思うのよ。その時はちゃんと揉めずに離婚してあげるから、そこは心配しないで。
幸いな事に仕事で食べていく事は出来るから、ダークの第2の人生の邪魔はしないわよ」
いやーしかしあれが罰にならないのか。女は私しか知らないとか充分ペナルティだと思うけど。ダーク基本が真面目だからなあ。
困ったな。それじゃあと何が罰になるんだろか。
考えてる私をダークがきつく抱き締めた。
「ぐえっ」
「リーシャがボロキレみたいなバーさんになっても、ボケて俺や子供たちまで分からなくなっても絶対離婚しないから、俺がもっと不細工になっても、ボケ老人になっても一緒にいよう!」
すりすりしてくる大型犬(イケメン)の頭を撫で撫でする。
「ちょっと、愛する妻にボロキレとは結構な言いようね。
だけどダークがこれ以上イケメンになると困るわ。ただでさえ眩しい生き物なのに目のやり場に困るじゃない。
ボケたらボケたで仕方ないわ。好きでなる訳じゃなし。
まあ日によって妻だったり娘だったり近所のオバサンになったりメイドになれるから、面白い所もあるわよね」
「俺は、そんな風になんでも面白がれるリーシャが本当に好きなんだ」
「そう?ありがとう。じゃあもう寝ましょうか。今日はさすがに疲れたわ」
私は毛布に潜り込んだ。
「………まさかこの話の流れで眠るのか?」
「寝るわよ。ベッドで寝ないでどこで眠るのよ」
生殺しだ、とかムスコが、とかブツブツ言っていたが、緊張がようやくほどけて、疲れがどっと押し寄せたのだ。
私はダークを抱き枕にしながら気がついたらすぴーすぴー爆睡していた。
早朝というか明け方、起きるのを待っていたダークに強襲され、眠る前より疲労する結果になった訳だが。
双子のお姫様が、誕生日のおねだりに町の移動遊園地へ遊びに行きたいと王様に言い、少人数の護衛とともに町にやってくる。
あー、親の欲目かも知れないけどうちの娘(こ)たちラブリーだわぁ。
流石にダークの血が混ざっただけあるわね。大和民族にヨーロッパ風の手足の長い体形、一重だけど睫毛長くてばっさばさ、色白で艶々黒髪のアジアンビューティーである。ぷにぷにのピンクに塗った唇も可愛らしい。
和と洋の融合。
抹茶あんみつのアイスクリーム&生クリーム乗せと言ったところだろうか。
違うか。まあ概ねそんな感じだ。
観客からも、「おお………」だの「何て愛らしい………」「天使だな」「うちの息子の嫁になってくれないだろうか、いや是非とも」などと言う囁き声が聞こえてくる。
親バカだが、子供が褒められると嬉しい。最後の台詞は止めて欲しいが。
3つ隣の席の温度が数度下がった気がするし。
ジークライン王子も過保護系の旦那様になるのかしらねえ。
そう思いながらも、私は舞台に引き込まれて行った。子供たちの方がよほど演技が上手くて芸達者なんだもん。
だが、どうもおかしい。
設定が子供じゃないのだ。
双子のお姫様は17歳だし、少年団設定が騎士団設定になってる。
おいブレナン。いくら王子が変更の許可を貰ったからとはいえ、いいのか?
『わたくしたちは、ほんとうはふつうにまちであそんでみたり、すきなひととこいをしたりしたいのです』
『このままおしろからもでないで、せいりゃくけっこんなんかクソくらえなんですの!』
17の誕生日に町で普通の女の子として過ごしてみたいと夢見る双子は、騎士団の護衛(カイル)に頼んで、弟(ブレナン)が住む町の自宅で町娘の格好に着替え、遊園地に繰り出すのだ。
そこで隣の国から遊びに来ていた商人(レイモンド)とアナが恋に落ち、クロエはずっと慕っていたカイルに想いを告げ、短いデートを楽しむ。
しかし、王様はそれを知り大激怒。
さっさとよその国との結婚話を進め出してしまう。
『カイルさまとデートすることができただけでもしあわせでした。しょせんはかなわぬゆめだったのですね』
『おうぞくのやくめははたさないとなりません。レイモンドさま、アナのことを………おぼえていてくださいね』
よよよ、と泣き崩れるアナとクロエ。
どうでもいいが、名前まんまじゃないの。………多分アナが役名覚えるの面倒臭かったのねきっと。
観客は最初こそ戸惑っていたが、身分違いの恋という恋愛もののテンプレ設定にいつの間にか感情移入してしまい、
「………いくら王様でも若い2人を引き裂くなんて………」
「諦めるのかカイル!レイモンド!身分の違いがなんだ、乗り越えてみせろよ」
と目頭を押さえたりしている。
そっと右側を見ると、ナスターシャ妃殿下はハラハラと涙をハンカチで拭ってるし、国王陛下も皇后も前のめりで展開を見守っている。
4歳から7歳の子供たちの演技力に大人が翻弄されている。
きみら劇団ひま●りか、と突っ込みを入れたいが、私自身も思わず身を乗り出してしまっているのでどうしようもない。
どろどろポイントを稼ぐ事を目的に愛憎劇ごっこをしていた位である。
ドロドロさせるのまで念入りだ。
実は皇后は後妻で、血の繋がらない娘が美しいのを妬んでイビっていただの、メイド頭が皇后の手先で、飲み物に虫を入れたり、冷たい食事やポソポソのパンを与えたりしていた事なども発覚していき、観客は後妻の皇后とメイド頭への怒りを蓄積させる。
そして、ヒーローは明日は嫁入り、という夜更けに窓に小石を投げて迎えに来るのだ。
『おれのベイビー、ないていたらかわいいかおがだいなしだ。ぜいたくはできないがたのしいことはほしょうする。だから、いっしょにたびをしながらくらしていかないか?』
『レイモンドさま!よろこんで!』
『おうこくきしだんのわたしが、クロエさまをさらうのもおかしなはなしだが、となりのくにへにげればてだしもできないだろう。
どうかわたしのつまになってもらえないだろうか?』
『わたくしもありがたくおうけいたしますわ!』
アナにほっぺにちう、とされてレイモンド王子は真っ赤になっていたが、カイルは妹からのほっぺチューなどよくある事なのでただ凛々しいままである。
カイルも騎士団の格好似合うわあ。剣も鍛えてるし、やっぱりダークのように騎士団に入るのかしら。
2組のカップルはさっさと城を脱走し、危険なのでブレナンも共に逃げ出した。
国王は他国への面目丸潰れになり、皇后とメイド頭がしていた行為はアナとクロエが手紙でしたためて、それが主な理由で命の危険があるので逃げ出すとアチコチにばらまいていたため2人は牢屋へ入れられた。
国王もそれに気がつかなかった自分を反省し、皇后と離縁し弟に王位を譲って引退。
双子のお姫様は追っ手もかからずに幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。
身分差ロマンスありイジメありざまぁありハッピーエンドありという、詰め込むだけ詰め込んだ王道ラブロマンスは、観客のスタンディングオベーションで幕を閉じた。
私も思わず立ち上がって拍手しながらも、台本の設定が殆ど残ってないじゃないのよ、と気づいてドッと変な汗が背中から流れ出し、右側を見た。
台本を下さった妃殿下は怒ってないだろうか。
「あ、あの、ナスターシャ妃殿下………」
俯いていたナスターシャ妃殿下ががばりと立ち上がり、
「素晴らしかったわっ!!みんなの演技力も驚くほどよね?
台本とはかなり違うけど、こちらの方が断然良かったわ。もう一度観たいぐらい興奮が収まらないわねリーシャ!」
ライリー殿下や国王陛下、皇后や護衛まで立ち上がって力強く拍手をしていた。
………うん。まあいいのか。そっか。
とりあえず怒ってはいないようだ。
有り難いけどさ。いいのかな王族こんなストライクゾーン広くて。
そして、子供たちの舞台は最高金賞を獲得し、私の舞台は特別賞に選ばれた。
私たちは屋敷に戻り、私はやっと終わった解放感から、子供たちはなんか賞もらえたねーわぁーい、な喜びで長いことふんばばふんばば踊っていた。
もうすっかり一仕事終えた感じはあるが、お風呂に浸かって身体を伸ばしながら、そういえばジークライン王子が明日クロエを迎えに来て、帰る前にデートをさせる約束をしてたわ、と思い出した。
うーむ………まあわざわざ遠くから来てくれてるし、何よりクロエが喜ぶものね。
「せいぜいお洒落させて、可愛い娘のデートを後押ししますかね………」
所詮親が何を言ったところで、くっつく時はくっつくのだ。
王族でなければ、正直ジークライン王子は人柄も頭も、ついでに顔も良い(私とクロエの価値観では)。
私は積極的な応援はしないが大反対もしない、という方向でゆるく眺める事にしたのだ。
我が家はイチイチ気にしていたら心臓がもたないほど、バラエティに富んだ事件が多すぎる。
平常心大事。
うんうん頷いて風呂を出る。
そして、寝室に入るとダークが正座して待っていた。
武に長けた人は、正座の姿勢も美しいのね。しかしなんでだ?
「リーシャ、今日は席を代われなくて済まなかった」
………ああそれか!
私の八つ当たりから、手を叩かれたり無視されたのがかなり堪えたようだ。
私は喉元過ぎるとすぐ忘れてしまうタイプである。むしろ自分の問題に家族を巻き込もうとしたのだから、怒られるのは私なのである。
そう言って謝ったが、ダークは首を振った。
「リーシャの問題は俺の問題だ。夫が妻の願いを………物理的に難しかったとは言え、叶えてやれなかった。
リーシャに手を叩かれた時には目の前が真っ暗になった。これが世間で言う夫婦喧嘩なのかと。俺は信頼できない夫として捨てられてしまうと」
「結論はや。その上相変わらず悲観的」
「俺は、俺にはリーシャの居ない人生なんてもう無理だ!何も出来ない………」
「その間違った結論を元に、自分に無駄にダメージを与えるセルフM機能をまずどうにかしましょうかね」
私は、ダークを立たせると、ベッドに突き飛ばした。
ダークのように、すぐ自分を責めてしまうタイプは、罰を与えてリセットさせないと、許されてないと思ってしまう。まあうちの旦那様だけかも知れないが。
「っ!?」
「ダーク」
「な、何だろう」
「離婚しない代わりに貴方に罰を与えるわ」
「分かった!何でも聞く」
「ひとつ。浮気はダメ、絶対」
「勿論だ」
「ひとつ。娼館で他の女を抱くのも浮気と見なすので禁止です」
「リーシャにしか勃たないと前からーー」
「ひとつ。全部自分が悪いと思わないでちょうだい。私が悪いと思ったらちゃんと言うこと」
「でも、リーシャが悪い事なんてなーー」
「言うこと!」
「分かった」
「ひとつ。私はね、束縛と独占欲が強いのよ。だからダークは一生、私だけに独占されなさい。離婚なんか絶対しないわよ。生涯面倒を見ることね!ほほほほほっ」
「………先生」
「何かしらダーク君」
「なにかさっきから俺にはご褒美的なワードしか聞こえないんだが」
「罰よ!男の人は、モノにした女性の数を競うというじゃないの。それを私1人だけにするのよ?」
「リーシャ1人いれば十分過ぎると思うが」
「………ダークが女性に話しかけただけで焼きもち妬くわよ?鬱陶しいわよ?」
「相当嬉しいが」
「えっと、ずーっと離婚しないから、好きな人がこの先出来ても、再婚も出来ないわよ?これは悪妻でしょう?」
「好きな人は目の前にいるし、他の女性は要らない。
むしろ離婚は全力で阻止する側だから、リーシャの方が再婚出来ないな」
「え?いえ私はいいのよ。旦那様はダークだけと決めてるから、貴方の幸せの為に別れる事があっても、もう再婚しないし」
「ーー何で俺の幸せの為に離婚?」
「ほら、私が病気や怪我で二目と見られぬ姿になったり、重い障害が残ったりしたら、一緒にいるのは流石に悪いと思うのよ。その時はちゃんと揉めずに離婚してあげるから、そこは心配しないで。
幸いな事に仕事で食べていく事は出来るから、ダークの第2の人生の邪魔はしないわよ」
いやーしかしあれが罰にならないのか。女は私しか知らないとか充分ペナルティだと思うけど。ダーク基本が真面目だからなあ。
困ったな。それじゃあと何が罰になるんだろか。
考えてる私をダークがきつく抱き締めた。
「ぐえっ」
「リーシャがボロキレみたいなバーさんになっても、ボケて俺や子供たちまで分からなくなっても絶対離婚しないから、俺がもっと不細工になっても、ボケ老人になっても一緒にいよう!」
すりすりしてくる大型犬(イケメン)の頭を撫で撫でする。
「ちょっと、愛する妻にボロキレとは結構な言いようね。
だけどダークがこれ以上イケメンになると困るわ。ただでさえ眩しい生き物なのに目のやり場に困るじゃない。
ボケたらボケたで仕方ないわ。好きでなる訳じゃなし。
まあ日によって妻だったり娘だったり近所のオバサンになったりメイドになれるから、面白い所もあるわよね」
「俺は、そんな風になんでも面白がれるリーシャが本当に好きなんだ」
「そう?ありがとう。じゃあもう寝ましょうか。今日はさすがに疲れたわ」
私は毛布に潜り込んだ。
「………まさかこの話の流れで眠るのか?」
「寝るわよ。ベッドで寝ないでどこで眠るのよ」
生殺しだ、とかムスコが、とかブツブツ言っていたが、緊張がようやくほどけて、疲れがどっと押し寄せたのだ。
私はダークを抱き枕にしながら気がついたらすぴーすぴー爆睡していた。
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