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演劇フェスタ【5】

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 演劇フェスタの最後を飾る子供たちの舞台を観るために、並んでいた観客が客席をどんどんと埋めていく。

 私はナスターシャ妃殿下のご厚意で、最前列の席を確保されていた。

 ご厚意と言うか、ほぼ私にはイジメのレベルである。

 最前列には護衛が何人かと国王陛下と皇后、ライリー殿下とナスターシャ妃殿下、の隣に私の席があり、2つ離れてジークライン王子、という恐ろしい顔ぶれが揃っている。


 オイチャンどころか速攻でラッパーが憑依に舞い降りそうな最強の布陣だ。


 たまたま最前列が取れてしまったという感じの人の良さげな中年のご夫婦は、緊張で顔を強張らせ、汗をダラダラ流しながら座っている。まだ始まってもいない前方の舞台しか見ていない。いや左右はついうっかりでも見られないんだろう。

 そらぁこの国と隣国の王族のサンドイッチ状態など、普通の人は望むまい。

 私だって当然ながら望んでいない。


 ちなみにダークたち4人は、前が通路の7列目中央というベストポジションだった。

 私はルーシーに、

「子供たちの舞台を近くで観たいと言っていたじゃない。最前列で観るのはどうかしら?私はダークの隣でいいし」

 と泣きついたが、

「7列目も充分前でございます。わたくし視力もかなり良いですし。
 リーシャ様がこんなか弱い1メイドを、あんな立入禁止エリアみたいな死地に追い込もうだなんて鬼畜な事を考えておられるとは………ここまでお育てしたわたくしに、そんな非道な振る舞いをなさるのでございますか?無理に決まってるじゃありませんか」

 と泣いた振りをしながらハンカチを目に当てている。

「………じゃ、じゃあとっ、父様はどう?
 ほら、国の仕事もしてるし面識もあるじゃない?ね?ね?」

「駄目よリーシャ。父様の儚い毛根が精神的ダメージを受けて、滅び行く大草原みたいになってしまうじゃない。諦めてあっちに座りなさいな。
 それに、貴女の為に用意された席じゃない。私たちが座ると不敬になってしまうわ」

 ママンがパパンのセコンドについてしまった。

「母さん、聞き捨てならないよ?私の毛根はまだ元気一杯夢一杯だよ!滅びるのはまだ何十年も先だよ!てか保護活動に抜かりはないんだからね。
 ………でも、そうだぞリーシャ。残念だがお前の為の席に、私たちが座るわけにはいかない。なあダーク君?」

「………そうですね。
 リーシャ、今回ばかりは1時間半だけの辛抱だ。リーシャだって本当は無理だって事は分かってるだろう?」

 愛するダークにまでたしなめられた。


 そうさ、分かってるさあそこに座らなきゃいけない事ぐらい。スポットライトが当たってるようにすら見える異空間だもの。

 でもさ、でも少し位足掻いてみても良いじゃないか。


「………みんな嫌いよぅ」

 私は手を伸ばしてきたダークの綺麗な指先をてしん、と払いのけて呟くと、諦めてトボトボと席へ戻ることにした。

「あっ!リーシャ!!」

 ダークが声をかけてきたが、無視だわ無視。

 勿論ダークのせいじゃないのは分かってる。完全な八つ当たりなのだが、緊張感に最弱なヒッキーは、藁をも掴みたかったのである。

 席に向かうまでだって、客席からは

「あ、びいせんの女神だ」
「噂以上の傾国の美貌だな………」
「さっきの舞台観たか?尋常じゃないほどの美しさだったぞ」
「それに見ろよ!あの黒髪の艶やかな事。とても子供のいる人妻には見えないな!せいぜい20かそこらだ」
「この舞台で噂のフォアローゼズが出るが、これまた母親譲りの麗しさらしいからな。ここに来てる客の7割は将来の嫁候補婿候補の見定めだって言うウワサだぜ?」

 などと顔を伏せて歩かないと、とてもじゃないが歩けない程の注目の眼差しが私にぷすぷす刺さっているのだ。

 私は空気。私は空気。
 土偶ステルスモードでナスターシャ妃殿下の側へ向かう。



「遅くなりまして、申し訳ございませんでした」

 ナスターシャ妃殿下たちに頭を下げながら席へ腰を下ろす。

「良いのよ。それに良かったわぁ貴女の舞台も。久しぶりにときめいたわ私!うふふふ」

「恐縮でございます」

「楽しみねレイモンドたちの舞台も!ドキドキするわねえ」

「左様でございますね」

 ロボットのように決められた最小限の受け答えをしながら時が過ぎるのを待つ。



 たしか、子供たちの舞台の台本では、二輪の薔薇のような聡明で美しい双子のお姫様が拐われて、偶然発見した町の少年団が力を合わせて助けに向かう、という冒険劇みたいな話だったと思う。
 話し方とかをちょっとアレンジしたみたいな話はブレナンが言ってたけれど。



 だった筈なのよ。


 確かに台本もそんな感じだった筈なのよ。



 しかし、ブーーーーー、とブザーが鳴り響き、暗くなった客席のざわめきが静まり始まった舞台は、私の口やら耳やら鼻から魂が抜け出して行きそうなほど衝撃的なシロモノであった。



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