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いざ釣りバトルへ。

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「ただいまーっと。あら起きてたのね2人とも」

 私とダークが買い物から戻ると、カイルとブレナンがテーブルの周りをめそめそしながらふんばば踊りでぐるぐる回っていた。

 ちゃんとテーブルの上に「買い物にいってくるから大人しくしてなさい」と書いておいたから不安になる筈はないのだけど。

「かーさま!おかえりなさーい」

 ガシッとジャンプでアタックをかけてきたブレナンに「ぐぉっ」っと淑女らしからぬ声が出た。

「よかったよかった。かーさまもとーさまもかえってきた」

 胸にスリスリして甘えてくるブレナンというのは珍しく、頭を撫でながら、

「買い物に行くって手紙置いといたでしょ?どうしたのよブレナン」

 とぎゅうっと抱き締めた。

「1にち1かいはかーさまにだきつくルール」

「いつ決まったの?」

「きょう」

「なんで?」

「かーさまにおこられないいいこになるように」

「ほうほう。いい心掛けねえ」

 ゲンコツやられて反省したのだろう。

「それと、かーさまのむねとおなかがぷにぷにしてきもちいいから」

「………………」

 胸はいいが腹のことは言うでない息子よ。ちょっとだけ母様ハートブレイクだ。

 ダークがブレナンのお喋りを聞いていたのか、ペリペリとブレナンを私から引き剥がし、

「残念だが、母様の胸とお腹はもう父様のモノだから、許可を得てから触るように」

 と、ていっとソファーに放り投げた。

「えー、ずるいとーさま」

「ずるくない。暫くはお前たち専用だったのを我慢してたんだぞ?今は父様専用だ」

「とーさまおとなげない………」

 後ろからカイルが呟いた。

「大人げなくないぞ。もうお前たちは大きいんだからオッパイは必要ないだろ」

「でも、とーさまはもっとおおきいでしょ?」

 カイルが首を傾げる。
 恐ろしいほどの正論である。

「大人は大人の必要性があってだなーー」

「ダーク!子供の前でなんてこと言ってるのよっ!この子たちにまだそんな教育は早いわよもうっ」

 私は怒ってダークを睨んだ。
 

 この人は本当に大人げないったら。

 こらしょんぼりしない。
 荷物出しながら上目遣いでこっち見ない。
 私に罪悪感持たせないでちょうだい。

「リーシャ………済まない」

 自分でもはしゃぎすぎたと反省したのだろう。そそそ、と近寄ってきて、めっちゃ小声で許しを乞うてきた。
 まあ父親の威厳ってものもあるものね。

「………もういいから。早くカイルたちの釣りセット出してあげて」

「っ!………分かった」

 私の怒りが解けた途端にご機嫌が戻り、いそいそと竿や魚籠、小さなバケツなどを取り出している。

 一回り以上歳上だと、普通は旦那が若い妻の手綱を握るもんじゃないのかしらね。

 なんで我が家の旦那様は妻の尻に敷かれて喜んでるのかしら。


 というか、我が家の決め事は執事のアーネストも私に許可を得てからダークへ告げる。
 ジュリアもサリーもまずは私に聞いてくる。

 ダークは私が許可していれば反対したことがないからだ。
 
 いったいヒッキーに何をさせたいのだろうか。

 信用しないで欲しいわヒッキーによる世間一般的な判断能力なんて。はじまりの町の勇者みたいなレベルなんだから期待されても困るのよ。

 熟練者が考えて決定した方が建設的だと思うのだけど。まあルーシーだけを連れて潔く嫁入りしてきた若奥様を、決して逃がすまいという熱意の表れだろうか。

 別に出ていくつもりはないんだけどな。


 ダークを見ると、カイルたちに竿の使い方や餌の付け方などを説明しており、子供たちは熱心に説明を聞いている。

 ルアーは動かし方にコツがいるので、今回は生き餌を付けることにしたらしい。

「うっわー………」

「にょろにょろきもちわるい………」

 初っぱなからミミズはハードルが高かったようだ。

「まずはとーさまとかーさまがみほんをみせてほしいの」

 ブレナンが今思いつきましたと言ったていで頷いた。ミミズを掴むのはしたくないらしい。

「あら、やりたいんじゃなかったの?」

「ぼくもうまいひとのテクニックをみてからのほうがいいとおもうんだ」

 カイルが言いながら私たちを見た。

「とーさまとかーさま、どっちがじょうずなの?」

「さあ、どっちかしらねぇ?」

「おいおい、母様を困らせたらダメだろう」

「………まあ、それじゃまるで私が下手くそみたいじゃないダーク?」

「下手なんじゃなくて俺の方がより上手いと思うんだ。歴も長いし」

 なんでこの人は釣りになると強気になるのかしら。

「下手の横好き………あら、一般的な話としてだけれど、歴が長いからって上手いとも言い切れない世界よね釣りって」

 私たちが唯一バトルになるのが釣りなのである。

「………分かった。俺はカイルを側につけるから、リーシャはブレナンをつけろ。
 公平に釣った数で勝負だ」

「分かったわ。ブレナン、母様の釣った魚の数は幾つまで数えられる?」

「にじゅう」

「あらあら、間に合うかしらねえ。
 まあいいわ。それなら早く着替えて出掛けましょうか?」

「………おう」

 2対2のチームに分かれた私たちは、鼻息荒く支度をして桟橋へと向かうのだった。

 


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