上 下
137 / 256

リーシャたちを追う影。

しおりを挟む
【遡ること数時間前】


 ダークとリーシャが楽しい釣り旅行へ出掛けるため馬車で駅に向かって出発した頃。

 2つの黒い影が木に水やりをしているマカランに忍び寄っていた。


「マカランマカラン」

「おや、カイル坊っちゃんとブレナン坊っちゃん。こんな朝っぱらからどうしたんです?」

「かーさまがわすれものしたんだ」

「えきまでとどけにいくの。ほめてもらうの」

「おや、それはまだ小さいのにえらいですねえ。でもお子様だけじゃ危ないですよ。
 ルーシーかアレックはどうしたんです?」

「アナたちがいるからたいへんなの。えきまでいってわたしてかえるだけだから」

「えきまでばしゃでおくってくれる?」

 マカランは庭師だが、肥料などの荷物の運搬をするので馬車も扱える。

「いや、そりゃ別に構いませんけど。ルーシーに聞いてこないと」

「もうおゆるしはもらったよ」

「いそがないとれっしゃがでちゃうの」

 マカランが立ち上がった。

「そうか、列車の時間があるのか………後ででもいいか。
 そいじゃ坊っちゃんたち、いそいで駅に向かいますからね。
 ………カイル坊っちゃん、背中のリュックの中身が忘れ物ですかい?」

「………そう!そうなんだ!」

「いそぐのマカラン」

「そうでした!それじゃ急いで馬車に乗って下さい。飛ばしますからね」

「わかった!」

 小走りに向かうマカランの後をてってけ走る2人は、何故かガッツポーズをしているのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 昨日のこと。

「ちょちょちょ、カイルにーさま」

「どうしたんだブレナン?」

 学校から戻ったカイルは、階段のところで待っていたブレナンに手招きされた。

「ひみつのおはなしが」

 ブレナンの部屋に連れ込まれたカイルは、ブレナンから父様と母様の後を追いかけて一緒に釣りをしよう、と言われて笑ってしまった。

「なにいってるんだよブレナン。ルーシーにみつかったらたいへんだよ。れっしゃもタダではのれないんだからな?」

「おかねはあるもん」

 ブレナンが列車の形をした貯金箱を割ると、お札と小銭がジャラジャラ出てきた。

「じいじやばあばにもらったおこづかいと、いえのてつだいでためたの」

「すごいなーブレナン!ぼくもおカネはちょきんしてるけど、ルーシーにあずけてるからなー」

「いざというときに、てもとにおカネはないとダメなのにーさま」

「そうなのか」

「そうなの。で、ぼくはつりをしてみたいの」

「ボクもやりたいけどさ、とーさまとかーさまにおこられないかな」

「だからひみつなの。かーさまはサプライズがすきだから、ふたりできたよっていってびっくりさせたらすごいねー、ってほめてくれるでしょ。
 かーさまにおこられなければとーさまおこらない」

「そうかー。ほめてくれるかな」

「がんばればいつもほめてくれるの」

「そうだな!でもどうがんばるんだよ。
 いっしょのばしゃにはのれないだろ?」

「ぼくにかんがえがあるの」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 マカランが駅へと急ぐ馬車の中で、カイルとブレナンはこそこそと密談をしていた。

「うまくえきまではいけそうだけど、キップとかはどうするんだ?」

 カイルは弟ながらも頭のいいブレナンにすっかり頼りっきりになっていた。

「とーさまが【トゥインクル1ごう】というれっしゃにのるっていってたからチケットかうの。ちゃんととまるとこもメモしたから」

 ぽん、とポケットを叩くブレナンに、

「だが、マカランにはしんぱいかけてしまうぞ」

 とカイルが難しい顔になった。

「だいじょぶ。てがみかいたから」

 ブレナンも背負っていたリュックから封筒を取り出して、椅子の背もたれに見えるように挟んだ。

「とーさまとかーさまにあいにいくからしんぱいしないでってかいてるから」

「そうか。いきさきもかいたならあんしんだな」

 カイルとブレナンは頷くと、早く駅に着かないかと窓から外を眺めるのだった。




「坊っちゃんたち、忘れ物届けたらすぐに帰ってきて下さいね!
 私は馬車をいつでも動かせるようにしとかないとダメですから」

 駅の周辺は混雑していて、馬車も何台も止まっている。
 馬車を空っぽのままには出来ないのだろう。

 カイルたちにはラッキーであった。

「分かった!あとでね」

 カイルとブレナンが手を振り、駅の中に走っていく。

「チケットうりばは………あ、あそこだ」

 カイルが窓口を指差した。

「ぼくはせがひくいからカイルにーさまがかってきて」

 巾着に入れたお金をブレナンから受け取って、カイルが窓口のお姉さんに声をかけた。

「ゲイルロードまでいくトゥインクル1ごうのキップ、こども2まいください」

「あらボク可愛いわねぇ。お使いかしら?パパとママは?」

「さきにのってます。ボクたちもあとからおいでってなったので」

「そうなんだ。あら、でも急がないともう出ちゃうわよ。お金は預かってきた?」

「はいあります!」

 巾着を渡すと、中を数えていたお姉さんが困った顔をした。

「あら、お金が足りないわ。特急だから、特急料金がいるのよ。これじゃ普通列車しか乗れないわ」

 あんなに沢山おカネがあったのにまだ足りないなんて。それも片道分みたいだ。

「ちょっとまっててください」

 巾着を返してもらい、急いでブレナンのところへ戻った。

 ブレナンに事情を説明すると、ブレナンも衝撃を受けたようだった。

「あんなにちょきんしてたのに………」

「どうしよう。ふつうれっしゃでいくか」

「そうだね、じかんかかってもつくもんね」

 2人でもう一度窓口に向かおうとしたところで、

「ーーこら待てお前ら。何でこんなとこにいる」

 と声がして、後ろ襟をガシッと掴まれた。

「はうっ」

「ふぁっ」

 わたわたと振り返ると、父様の仲良しのヒューイおじさんがしかめっ面で立っていた。

「ひゅ、ひゅ、ヒューイおじさん」

「おじさんこそなんでここに」

「いやな、ダークたちの見送りでもと思って来たんだけどよ、道が混んでてな。
 着いたらもうあと2分で出発だとさ。
 間に合わねーから帰るか、と思ったらお前らが見えたんで驚いたぞ」

 ブレナンがそっとヒューイの手を掴み、

「これにはふかいふかいワケがあるのです。
 さささ、つまらないもの………でもないですがこれを」
 
「お、リーシャちゃんのアーモンドクッキーじゃないか。これ好きなんだよ………ってコラ、誰が賄賂よこせといった」

「おねがいします。みのがしてください。
 とーさまとかーさまをおいかけてぼくたちもつりをしたいのです」

 ブレナンが目をうるうるとさせる。
 カイルも負けじと、

「がんばるとかーさまはいつもほめてくれるから、ボクらはゲイルロードまでふたりでいくのです」

 とヒューイに訴えた。

「いや、気持ちは分かるがお前らの父ちゃんと母ちゃんはデートだからなあ。
 らぶらぶなところを邪魔する事になっちゃうぞ?」

「らぶらぶ………」

「じゃま………ボクらじゃま…いらないこ……」

 うずくまるカイルとブレナンを見てヒューイも慌てる。

「おいおいっ、子供をいじめてるみたいだから泣くなよ!ったくよぉー、リーシャちゃんの血なのかこいつら無駄に行動力がありやがる………おいアラン!」

 後ろの方でよく分からない顔で控えていたヒューイの部下を呼びつけると、耳打ちした。

「えっ、ですが副官、指揮官もいないのにナンバー2まで不在になるのはまずいでしょう」

「おめー、小さい子が健気に親を追いかけようとしてんのに放置できるのかよ?」

「それはっ、ですがっ!」

 ブレナンはふと顔を上げて、風向きが少しこちらに向いた気配を感じた。

 騎士団のお兄さんのところまで目をこすりながら行くと、

「おにいさん、さささ、かーさまがつくってくれたとてもおいしいクッキーです。
 えんりょなさらずにどぞ」

 袋ごとお兄さんに渡す。

「かーさまは、きしだんのひとはとてもやさしくてかっこいいといってました」

「え?シャインベック夫人がっ?」

 顔を赤らめながら食いぎみに返すお兄さんに、ブレナンは頷き、

「アランおにいさんがとてもやさしくしてくれたとかーさまにつたえます。
 ………かーさまにあえたら………」

 と寂しそうに深々と頭を下げた。

「………ぐぅっっ!やはりこんな可愛い子たちを放っておくなんて出来ませんよね!分かりました副官、各部隊長には僕から伝えておきます!
 ブレナン君、お母さんにくれぐれも宜しく伝えてくれよ」

「アランおにいさん、いいひと。ありがとございます」

 カイルと2人で頭を下げる姿を見ながら、

(こいつらほんっとリーシャちゃん寄りの性格してんなー。まあそこが面白可愛いんだけどよ)

 と半分呆れながらも、2人を連れて窓口へ向かうのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

何を言われようとこの方々と結婚致します!

おいも
恋愛
私は、ヴォルク帝国のハッシュベルト侯爵家の娘、フィオーレ・ハッシュベルトです。 ハッシュベルト侯爵家はヴォルク帝国でも大きな権力を持っていて、その現当主であるお父様にはとても可愛がられています。 そんな私にはある秘密があります。 それは、他人がかっこいいと言う男性がとても不細工に見え、醜いと言われる男性がとてもかっこよく見えるということです。 まあ、それもそのはず、私には日本という国で暮らしていた前世の記憶を持っています。 前世の美的感覚は、男性に限定して、現世とはまるで逆! もちろん、私には前世での美的感覚が受け継がれました……。 そんな私は、特に問題もなく16年生きてきたのですが、ある問題が発生しました。 16歳の誕生日会で、おばあさまから、「そろそろ結婚相手を見つけなさい。エアリアル様なんてどう?今度、お茶会を開催するときエアリアル様をお呼びするから、あなたも参加しなさい。」 え?おばあさま?エアリアル様ってこの帝国の第二王子ですよね。 そして、帝国一美しいと言われている男性ですよね? ……うん!お断りします! でもこのまんまじゃ、エアリアル様と結婚させられてしまいそうだし……よし! 自分で結婚相手を見つけることにしましょう!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【R18】世界一醜い男の奴隷として生きていく

鈴元 香奈
恋愛
憧れていた幼馴染の容赦のない言葉を聞いてしまい逃げ出した杏は、トラックとぶつかると思った途端に気を失ってしまった。 そして、目が覚めた時には見知らぬ森に立っていた。 その森は禁戒の森と呼ばれ、侵入者は死罪となる決まりがあった。 杏は世界一醜い男の性奴隷となるか、死罪となるかの選択を迫られた。 性的表現が含まれています。十八歳未満の方は閲覧をお控えください。 ムーンライトノベルスさんにも投稿しています。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

処理中です...