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ダーク、悩む。
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【ダーク視点】
俺たちが無事に自宅へ戻ってから数週間。
何かリーシャに転機があったのか、前よりも一層マンガも小説も精力的に執筆するようになった。
その上、週に1度か2度、わざわざ俺の弁当を騎士団の詰め所まで直接持って来るようになり(そういう時はやたら手の込んだおかずが入ってたりする)、詰め所の部下達にはクッキーだのポテトフライだのを差し入れするようにもなった。
あのヒッキーで『屋敷から一生出ないで暮らせたら最高に幸せ~♪』と常々言っているリーシャが、である。
そして弁当を持ってきた午後は、外で部下達に訓練をつけている時に、ふと視線を感じた方向へ目をやると、木の影からそっとリーシャが見ていたりして、目が合うと照れながら笑顔で小さく手を振って帰って行く。
「おいルーシー、リーシャがなんかおかしい」
俺は何が起きているのか分からず、屋敷でルーシーを捕まえてこっそり問い質した。
ルーシーは、
「ああ、リーシャ様はリハビリ中なのでございます。お気になさらずに」
と答えたが、さっぱり分からない。
「リハビリって何のリハビリだ?」
「ただのヒッキーから若干社交も出来るヒッキーへの進化に向けてと申しますか」
「そもそも社交的ならヒッキーじゃないだろう」
「いえ、根本はヒッキーのままなので。
恐らく啓蒙活動の一環なのだと思われます」
「啓蒙活動?なんのだ」
「旦那様のようなお人柄もよろしく、仕事も有能、けれどお顔が残念といった方々の地位向上ですわね。
自分は美女(他称)らしいから、そんなのが不細工と呼ばれる方にゾッコンだと言うのをなるべく見せる機会を作れば、『不細工だと思って塩対応してたけど、あんな美女を惹き付ける何かがあるのかも!』と、男女問わず不細工への当たりが柔らかくなるんじゃないかとお考えのようです」
俺や他の不細工たちの為にヒッキー生活を犠牲にして動いてるのか。
まあ正直言えば、リーシャがちょいちょい来ることで妬みもひどくなり、死ねばいいのにとかもげろコールが増量している現実なのだが、俺は嬉しいのでどうでもいい。
だが第三者が見る事で、確かにイメージは良くなるのかも知れない。
リーシャが女神レベルで綺麗すぎるからモデルケースにはしづらいが、不細工と抵抗なく付き合える人は増える気がする。
「………ウチの奥さん、何でそう考えることが可愛いかな」
「表向きはどこに出しても恥ずかしくないわたくしの自慢の主人でございますから。
………まあそんな訳で、食材の買い物も積極的に町へ出ては、店の人間に『主人がお肉好きなんですー』とか『夫が優しくていつも感謝してますの。前なんかですね………』とか、旦那様大好きアピールも頑張ってしておりますわ。
帰ってくると社交ポイントが0になって暫くグッタリ動けなかったりしますけれども」
「何もそこまで頑張らなくても………」
「わたくしもそう申しましたら、『私が楽しいヒッキー生活をずっと送れてたのはダークのお陰なのよ。ツルだって地蔵だって恩返しするのに、感謝してる私がしないとか有り得ないでしょう?!』と仰いますので放置する事に致しました。
ちなみに、ツルは前世の鳥の種類、地蔵は前世の信仰対象の石像みたいなものだそうです、参考までに」
リーシャと結婚出来て一番感謝してるのは俺なんだが。
ああリーシャほんっとクソ可愛い。全くどうしてくれよう。
周りの妬み嫉(そね)みは正当性がある。
こんなに美しくて思いやりのあるいい妻をもらえた男はそうはいないからだ。
幾らでも甘んじて受けよう。
絶対に他の男には渡さんが。
「旦那様はくれぐれも知らない振りでよろしくお願いします。本人はこっそりやってるおつもりなので」
「リーシャにこっそりは難しいと思うんだが………まあ分かった。ルーシーはリーシャが出歩く際の護衛を頼むぞ」
「かしこまりました」
俺は風呂へ向かいながら考える。
リーシャの努力に報いるには、先日渡した128色のカラーペンだけじゃ足りないな。
何か他にプレゼント出来る物はないだろうか。
ただリーシャはドレスも靴も宝石も全く欲しがらない。
「そんな贅沢はいけないわ。私は家から殆ど出ないし必要ないわよ。
これから大きくなる子供たちの為に貯金しときましょ」
と以前ドレスを注文しようとした時に言われて以来、プレゼントは文具と本とお菓子と花をローテーションでぐるぐる回している状態だ。
いくら欲しがらないからといっても、安物ばかりを贈っているような気分でとても心苦しい。
(何かないかな………)
俺は、何しろリーシャしか恋人と名のつく人が居たこともなく、そのリーシャと結婚しているので、好きな女性に贈ると喜ばれるプレゼントの知識とか、経験値がないのでさっぱりなのである。
モテない男の辛いところである。
何かすごく喜ばせる事が出来る物はないだろうか、と頭を悩ませたが全然思い浮かばない。
やはり、ここはヒューイに聞くべきだな。
今は結婚してすっかり落ち着いてしまったが、昔は遊びまくってた奴である。きっと何かいいアドバイスをくれるだろう。
俺は風呂場に入ると力強く頷き、身体を洗うべく石鹸を手に取るのだった。
俺たちが無事に自宅へ戻ってから数週間。
何かリーシャに転機があったのか、前よりも一層マンガも小説も精力的に執筆するようになった。
その上、週に1度か2度、わざわざ俺の弁当を騎士団の詰め所まで直接持って来るようになり(そういう時はやたら手の込んだおかずが入ってたりする)、詰め所の部下達にはクッキーだのポテトフライだのを差し入れするようにもなった。
あのヒッキーで『屋敷から一生出ないで暮らせたら最高に幸せ~♪』と常々言っているリーシャが、である。
そして弁当を持ってきた午後は、外で部下達に訓練をつけている時に、ふと視線を感じた方向へ目をやると、木の影からそっとリーシャが見ていたりして、目が合うと照れながら笑顔で小さく手を振って帰って行く。
「おいルーシー、リーシャがなんかおかしい」
俺は何が起きているのか分からず、屋敷でルーシーを捕まえてこっそり問い質した。
ルーシーは、
「ああ、リーシャ様はリハビリ中なのでございます。お気になさらずに」
と答えたが、さっぱり分からない。
「リハビリって何のリハビリだ?」
「ただのヒッキーから若干社交も出来るヒッキーへの進化に向けてと申しますか」
「そもそも社交的ならヒッキーじゃないだろう」
「いえ、根本はヒッキーのままなので。
恐らく啓蒙活動の一環なのだと思われます」
「啓蒙活動?なんのだ」
「旦那様のようなお人柄もよろしく、仕事も有能、けれどお顔が残念といった方々の地位向上ですわね。
自分は美女(他称)らしいから、そんなのが不細工と呼ばれる方にゾッコンだと言うのをなるべく見せる機会を作れば、『不細工だと思って塩対応してたけど、あんな美女を惹き付ける何かがあるのかも!』と、男女問わず不細工への当たりが柔らかくなるんじゃないかとお考えのようです」
俺や他の不細工たちの為にヒッキー生活を犠牲にして動いてるのか。
まあ正直言えば、リーシャがちょいちょい来ることで妬みもひどくなり、死ねばいいのにとかもげろコールが増量している現実なのだが、俺は嬉しいのでどうでもいい。
だが第三者が見る事で、確かにイメージは良くなるのかも知れない。
リーシャが女神レベルで綺麗すぎるからモデルケースにはしづらいが、不細工と抵抗なく付き合える人は増える気がする。
「………ウチの奥さん、何でそう考えることが可愛いかな」
「表向きはどこに出しても恥ずかしくないわたくしの自慢の主人でございますから。
………まあそんな訳で、食材の買い物も積極的に町へ出ては、店の人間に『主人がお肉好きなんですー』とか『夫が優しくていつも感謝してますの。前なんかですね………』とか、旦那様大好きアピールも頑張ってしておりますわ。
帰ってくると社交ポイントが0になって暫くグッタリ動けなかったりしますけれども」
「何もそこまで頑張らなくても………」
「わたくしもそう申しましたら、『私が楽しいヒッキー生活をずっと送れてたのはダークのお陰なのよ。ツルだって地蔵だって恩返しするのに、感謝してる私がしないとか有り得ないでしょう?!』と仰いますので放置する事に致しました。
ちなみに、ツルは前世の鳥の種類、地蔵は前世の信仰対象の石像みたいなものだそうです、参考までに」
リーシャと結婚出来て一番感謝してるのは俺なんだが。
ああリーシャほんっとクソ可愛い。全くどうしてくれよう。
周りの妬み嫉(そね)みは正当性がある。
こんなに美しくて思いやりのあるいい妻をもらえた男はそうはいないからだ。
幾らでも甘んじて受けよう。
絶対に他の男には渡さんが。
「旦那様はくれぐれも知らない振りでよろしくお願いします。本人はこっそりやってるおつもりなので」
「リーシャにこっそりは難しいと思うんだが………まあ分かった。ルーシーはリーシャが出歩く際の護衛を頼むぞ」
「かしこまりました」
俺は風呂へ向かいながら考える。
リーシャの努力に報いるには、先日渡した128色のカラーペンだけじゃ足りないな。
何か他にプレゼント出来る物はないだろうか。
ただリーシャはドレスも靴も宝石も全く欲しがらない。
「そんな贅沢はいけないわ。私は家から殆ど出ないし必要ないわよ。
これから大きくなる子供たちの為に貯金しときましょ」
と以前ドレスを注文しようとした時に言われて以来、プレゼントは文具と本とお菓子と花をローテーションでぐるぐる回している状態だ。
いくら欲しがらないからといっても、安物ばかりを贈っているような気分でとても心苦しい。
(何かないかな………)
俺は、何しろリーシャしか恋人と名のつく人が居たこともなく、そのリーシャと結婚しているので、好きな女性に贈ると喜ばれるプレゼントの知識とか、経験値がないのでさっぱりなのである。
モテない男の辛いところである。
何かすごく喜ばせる事が出来る物はないだろうか、と頭を悩ませたが全然思い浮かばない。
やはり、ここはヒューイに聞くべきだな。
今は結婚してすっかり落ち着いてしまったが、昔は遊びまくってた奴である。きっと何かいいアドバイスをくれるだろう。
俺は風呂場に入ると力強く頷き、身体を洗うべく石鹸を手に取るのだった。
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