土偶と呼ばれた女は異世界でオッサンを愛でる。R18

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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帰る。

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 私を拐った人たちは、アレックが詰め所まで馬を走らせて呼んでくれた騎士団の人たちが、ルーシーが縄でハレンチに縛って捕まえておいた状態のまま引きずっていった。

「奥様は災難に遭われましたし、馬に乗るのも大変でしょうから」

 と別途用意してくれた馬車で、ダークとルーシーは私と一緒に中に、アレックは御者代わりとなりゲストハウスへ戻る事になった。



 ダークたちは、私を急いで追うために馬で走ってきてくれたらしいが、騎士団の人たちが代わりに乗って帰ってくれるというのでお願いした。

 元気なときでも夜、馬に乗るのは私には難しい。自分の運動神経の存在と言うのを小さな頃から見た覚えがない。
 落っこちて怪我をするのがオチだ。

 しかし、私がいるところをなぜ突き止められたのかが不思議だ。
 それを聞いたらルーシーに何となく口を濁された。

 馬車の窓からポイした熊のぬいぐるみは、ルーシーが追いかけてる過程で無事に見つけてくれたそうだから、そのお陰かも知れない。
 まあ亀甲縛りの熊で居場所見つけましたとか言いづらいよね。

 そうでなくとも、彼女は私なんかよりよほどチートな能力が沢山あるので、きっと思いもよらない手段を使ったのだろう。



 私はダークにぴったり寄り添って、ずっと頭を撫でてもらっていたので、だいぶ精神的な疲れが楽になってきた。

 ずっと身体の何処かがピリピリ緊張していたのが薄れた気がする。ダークの癒しの力はすごいわー。


 ギュンター王子の時には、SM的要素しか求められなかったせいなのか、ドン引きはしたが恐怖感は殆どなかった。

 まあ腐っても王族だし、そんな無茶も言うまいと思っていたのもある。


 だが、見知らぬ第三者に迫られるのは、むちゃくちゃ怖かった。

 ダークたちが間に合わなければ、本当にレイプされていたかも知れないのだ。
 いくら呑気な私でも、身体が震えた。

 ダークがずっと撫でてくれてるのも私の震えに気がついていたからだろう。



「………ダークはほら、顔にコンプレックスあったじゃない?」

「うん。………というか今でもあるぞ」

「でもほら、私には超イケメンだから。
 だからなのかな、なんか私が整ってるなぁと思う顔の人は、ダークとか父様ブライアン、お義父様、あとジークライン王子みたいに、苦労してる分人柄が練れてるとか話の通じる人だと認識してたのよ」

「そうか」

「でも、全く話が通じない人もいるんだなと今回初めて分かったわ」

「まあ今頃でございますか。
 リーシャ様は、昔っから馬鹿がつくほどお人好しでございましたからね。
 旦那様や大旦那様みたいに精神(こころ)がしなやかな方はそうそう居ないものなんですよ?
 ………ただ、あの連中も軽率で身の程知らずな部分はありましたけれど、ほんの少しだけですが、理解出来るところもございました」

「そうね………なんでこの国も我がガーランド国も、美醜に拘りが強いのかしらね?そのせいで辛い目に遭う人たちも多いし。
 人間の価値ってそれだけじゃないでしょうに。
 んー、でも私がダークを眩しい生き物だとつい拝みたくなるのも、結局はイケメンに弱いって事だわね。人の事は言えないか」

「………眩しい云々の部分は納得できないが、まあ中身を知らなきゃ、飲み屋でも綺麗な女性に酒を注いで欲しい人も多いだろうし、女性だって不細工よりはイケメンと付き合いたいものだろう?」

「そういう人は多いわね。私は正直、落ち着かないから嫌だったんだけれど」

 私は苦笑した。

「リーシャはイケメンと付き合いたいとは思ってなかったのか?」

 ダークが不思議そうに尋ねた。

「全く。イケメンなんてものはね、遠くから愛でるものであって、身近にいたらしょっちゅう浮気の心配はしないといけないし、醜い嫉妬心も煽られるしでハラハラして疲れるじゃない。
 顔は別にどうでもよくて、自分の方だけを見てくれる人で、物の価値観が合う人が理想だったのよ、前世から」

「俺は………どうだったんだ?」

「本音を言うとね、前世ならまず近寄らなかったタイプよ。
 イケメンで性格もよくて努力タイプでマメで優しいとか、そんな激レアな生き物は私ごときがどうこう出来る存在じゃないもの。
 ダークが不細工だと言う不本意な扱いをされてたから、そう言うことならアタックしてもいいかも、と頑張ったけれども」

「なるほど。不細工だったのも俺にとっては都合が良かったと言う事か」

「だからイケメンなんだってば私には。
 前世なら見渡す限りの浮気相手が列をなしてる状態よ?いやー嫉妬しすぎで死んでたわ絶対。無理無理」

 私はくっくっ、と笑うと、ダークが真顔で返した。

「俺が万が一こちらでイケメンだったとしても、浮気とかはしない。好きな女はリーシャ一人で充分だ」

「………私がメチャクチャ不細工だったならどうする?」

「ん?でも中身がリーシャなんだろ?じゃあ別に変わらないな。
 むしろもっと不細工な方が安心して惚れられたぐらいだ」

「………物好きねえ腐女子が好きとか」

「腐女子が好きと言うか、単にリーシャが好きなだけだ」

「………ねえルーシー、うちの旦那様って言動が惚れ惚れする位男前よねー?
 惚れ直さないちょっと?」

「私は惚れてませんので勝手に惚れ直して下さって構いませんが、ひとつ別の問題が」

「あら、何かしら?」

「ブレナン様のぬいぐるみなのですが、縛られていた部分がケバケバしてしまっているのと、後ろ手にしていたせいか手の向きが戻りませんわ」

「あー、それがあったわね………そのまま返す訳にもいかないわよね。
 ダーク、明日もう一度あの景品のぬいぐるみ取れるかしら?」

「ああ、問題ない」

「………ねえちょっと聞いたルーシー?この自信に裏打ちされた台詞を?デキる男って感じでゾクゾクするわよね?
 ほんと私の旦那様ってば弱点ないんじゃないかしらね?くううううヤバいわぁ」

「敢えて言うならば、弱点はお顔とリーシャ様とお子様たちでございましょうか。正直ウィークポイントまみれでございます」

「ルーシーは俺の事も大分見切ってるな。遠慮のないところがいっそ清々しい」

「本当にそうよね。私がひょいひょい拐われたりするからダークにも心配かけてしまって………」

 私はしょんぼりする。

「やっぱり私も、ルーシーに自衛力を高める訓練もしてもらうべきかしらね。あまり運動神経には自信がないのだけど………」

「必要ない。リーシャが悪い訳じゃないし。俺とルーシーがいるから安心しろ」

 ダークがぎゅっと私を抱き寄せた。

「いや、でもいつも皆様に迷惑をかけてるし………」

「リーシャ様を鍛える方が生命的に危険が及びそうでございますのでお止め下さい」

 ルーシーが首を振る。
 
「俺は頼ってくれた方が鍛練の頑張り甲斐がある。それに、リーシャが手でも怪我したら大変じゃないか」

 この2人は私を甘やかすと言うのがDNAにインプットされているに違いない。

 聞く人選を間違えた。

 帰ってから違う人に聞こう。


 パパンかママン………は駄目だ。ダークたちと同じで甘い。マークス兄様もブライアンも同じだ。

 フランは………いや多分、

「あら羨ましい。男女2人の騎士にガードされる姫じゃない。萌えるシチュエーションだわ!」

 で終わる気がするし、アレックも

「ラッキーっすね。指揮官どの超強いですし、ルーシーもいれば恐いもんなしじゃないっすか」

 とか言いそうだ。

「………なんで周りには私をダメにする人しかいないのかしら………」

 私は呟いた。
 これは要改善案件である。

「リーシャ様が周りを甘やかしてるからではないですか?」

「そんな覚えはないわよ?」

「旦那様のお願いって断った事ございます?」

「………ないわね」

「わたくしもリーシャ様に頼み事をして断られた覚えはございません」

「………貴女はそんな大した頼みはしてこないじゃないの」

「ですから、そういうご自身の許容範囲が広すぎるから、血でラブレターを書いて寄越すストーカーだの、イケメンのナルシストだの腐れ王族だの誘拐犯だのをホイホイするんですよ。
 お子様方よりホイホイ率は高いんですから少しは自覚して下さらないと」

「待てルーシー。
 その血でラブレターを書くストーカーと言うのは初めて聞いたが」

 ダークが遮った。

「私も初めて聞いたのだけど。
 お茶淹れるみたいにサラっとホラー話するのは止めてちょうだい」

 私も慌てた。

「ああ、お伝えしてませんでしたわね。
 リーシャ様が旦那様と結婚されて、カイル様を妊娠中の時でございましたので、母胎に悪影響でもあってはと。
 ベビー服を見に町へ出た時に勝手にリーシャ様を見初めたそうで、最初はアーネスト経由で厚かましくもリーシャ様にラブレターを寄越していたのです」

「見たことないわ」

「わざわざ自分の血まで使って、
 『僕の心は君だけの指定席だよ。分かってるだろう?エブリデイ君に夢中さマイスウィート!
 君のラブサインはちゃんとキャッチしてたよベイビー♪
 ハネムーンは1ヶ月は取ってメイキングベイビーだね。いつまでも僕たち2人ならラブラブだよね☆
 ラブフォーエバーマイプリンセス!!』
 ………みたいな文章センスの欠片もない呪いの手紙を見たら目が腐っていたかと」

「………結婚してるのを知らなかったのか?」

 眉間にシワを寄せてダークが聞いた。

「アーネストが結婚もしていてもうすぐお子様も生まれますので、と丁重にお断りしてからの手紙でございます」

「こわっ!病み属性だったのね」

「ーーそうか。それなら死ねばいいのに」

「それが何度も続くわ届けるお相手も貧血で段々やつれてくるわで、アーネストも扱いに困ってわたくしに相談してきたのです。
 それでさっさと身元を調べまして………まあ某侯爵家の次男坊でしたけれど、血染めのラブレターを持って直接屋敷に乗り込ませて頂いて。
 ご両親にこのまま息子を放置すると犯罪者になるかもとか、こちらは子爵位とは言え王族の覚えもめでたいので侯爵家といえど只では済まない………などまあ穏便に話を致しまして、病気療養名目で領地のど田舎にナイナイして頂きました。
 複数人で交替で見張りもつけて下さってるそうなので、もう心配はないかと」

「ちっとも穏便な話に聞こえないが、よくやったルーシー」

「恐れ入ります」

「でも私、買い物と言っても殆どさっさと買って帰るだけだったと思うけど………」

「町中で頭痛が酷くなってうずくまってたら、リーシャ様に頭痛薬を貰ったそうですわ」

「………そんなことあったかしらね………」

「『人混みだと私も時々偏頭痛が起きますの。ツラいですよねえ。
 いま全然薬は飲んでませんので余ってますから気にせずどうぞ』とか何とか言われて笑顔で薬を渡されたので、これはアプローチだと分かったとか」

「薬あげた位でそんな訳あるかーーい」

「旦那様から『俺は使わないのでよかったら使って欲しい』とカラーペン夢の128色セットを差し出されたらどう思います?」

「間違いなく惚れるわね」

「同じことですわよ」
 
「………ダーク、メモしなくて良いから。もう惚れてるし関係ないわよ」

「………でも、欲しいんだろう?」

「そりゃまあ。でも高いからいいの。64色セットはあるし」

「愛する妻から物をねだられないのも夫としては寂しい。たまにはねだれ」

「ダークもねだらないじゃない。いいのよ本当に」

「俺はリーシャをねだってるからな。子供もねだったし、本気で欲しいものがもうないんだ」

「………私、128色セットのカラーペン欲しいな~♪」

「おう。帰ったら買いに行こうな」

「………ありがと」


 やはりウチの旦那様は世界一優しい。




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