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リーシャ、オイチャンアゲイン。

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「ほら、深呼吸しましょう!気持ちも落ち着きますから。勢い一瞬、後悔一生というじゃないですかっ!」

「俺は冷静だってば。子供みたいに落ち着いてないのはリーシャの方だよ?
 ほらほら、いい加減俺を受け入れてさあ、気持ちいい事して子供沢山作ろうよ。ね?」

「ね?じゃないでしょうが。私は子供作るような行為はダークとしかしないの!子供だってもう4人もいるから充分ですっ!」



 私は現在、絶賛大ピンチ中である。



 トマトソースのパスタを作ってもらって、お腹が空いていたので有り難く頂いた。

 ヨハンが言っていた通り、やりなれている感じで手際よく作ってくれ、マッシュルームとかひき肉も入っていて結構美味しかった。

 多分この食材はよそ様からパクったお金を使って購入したんだろうな、と複雑な心境ではあったけれども、背に腹は代えられない。
 逃げるのだって体力大事。

 私も一応被害者ですからね、誘拐されてるし。そこはご勘弁願いたいものである。


 でももう今夜中に見つけてもらうのは流石に無理だろうなー、と私は潔く諦めた。

 体力温存のため眠らせてもらうべ、と使ってなさそうな部屋に入ろうとしたら、後ろからヨハンも入ってきたのである。

 扉が彼の背後にあるので出るに出られない。


「ですからね、貴方と内縁関係になる気も子供を作る気も一切ないんですってば!」

「大丈夫。俺の方はあるから」

「だから聞け人の話を。
 愛のない生活はよろしくないです!虚しいですよ!」

 私はズリズリと後ずさりする。

「んーでもさ、愛って片方が持ってればいつかほだされて情が湧くでしょーきっと?
 情からのスタートラインでもいいよ俺。
 最初から相手と同じくらい好きなんてことはまずないんだしさぁ」

「私は情が湧かないタイプです。
 なぜなら私実は猫を被ってましたが、クールで傲慢でワガママで自分の利益になる男としか付き合わない女ですから!」

「誰の事それ。リーシャはどうみても真逆っぽいけど」

「ほほほっ、人間第一印象通りとは思わない事ね!私は贅沢が好きな女。
 こんな貧乏生活は真っ平ゴメンだわ。
 あんな粗食、不味くて食べられたもんじゃなかったし」

 なるべくタカビーな感じで言ってみる。

「そうか………全部綺麗に食べてくれたから気に入ってくれたのかとばかり………。ゴメンね。
 やっぱりここは1つ、ケチな盗みじゃなくて貴族のところにでも強盗に押し入って、刃向かう奴がいたら人殺しも辞さない覚悟で大金を掴めってことだね!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!そうは言ってないでしょう?
 ノースプラッタ、ノークライム!
 なんでそうすぐにイリーガルな方向へ向かうのかしらね!?
 とにかく贅沢は旦那様のお金でするから帰して頂戴よ!」

「やーだー!俺と子供と楽しく暮らそうよ~」

「何度も嫌だと言ってるのに無駄に前向きね!しつこい男は嫌われるのよ!」

「嫌われるのはもうこの顔だから慣れてる~。でもコツコツと好きになってもらえるように頑張るから~」

「………顔が嫌いだって言ってるんじゃないわよ。誘拐するような人が嫌だと言ってるのよ」

「誘拐しないと俺のトコ来てくれないじゃん。えーっと………不可欠?不干渉?」

「不可抗力の事?」

「そうそれ!俺、学がないから難しい言葉なかなか覚えられなくて。それだよねきっと」



 更正も出来ないぐらいの極悪人という訳じゃない。

 ただ、自分の希望しか通そうとしないし、私の意思を完全に無視するところがどうしても好きになれない。

 向こうの言い分も分かるんだけど、きっとダークとまだ出逢ってない頃に会ってたとしても好きにはならなかっただろう。

 私が思うこちらのイケメンは、人格者で人柄がいい努力と忍耐の人ばかりみたいな気がしてたけど、不細工ってことで酷い扱いされた結果心が折れる人もいるんだよなあ。


 ダークみたいに強く折れないまま居られる人は、実はそんなに多くない。


 大概の不細工(という名の美男美女)は、差別と謂れのない蔑みを受ける。

 私はたまたま前世と違って美人枠(他称)という事で別の苦労を味わってる訳だが、もしも不細工枠で生まれてたなら、この世界だときっと耐えられなかったんじゃなかろうか。

 こっちの人は不細工の扱いマジでキッツいんだもん。

 一生引き込もって屋敷から出ずに暮らすのだろう。


 ………んん?いやそれは私としては願ったり叶ったりな話だわね。

 ずっと家の中で好きな小説やマンガを描いてその収入でのんびり余生を送って、たまに釣りに行って晩飯の魚を釣って………。

 まあやだ、桃源郷じゃないの。

 んー、別に結婚もダークに会わなきゃ独身のままでも良かったしなあ。
 ヒッキーだから家族以外に会わなくても全く問題ないし。


 そうか、私、意外と不細工枠でも楽しく生きていけてたかも。

 腐女子ってセルフ不死鳥が標準装備(デフォルト)だから、落ち込むことがあってもすぐ蘇るのよね。
 そうだったそうだった。

 まあミジンコとか虫とか草からの人生やり直しでないだけ御の字なんだもんね。



 ………。

 違う。不細工は大変だと言う話だったわね。

 私の思考回路はすぐ寄り道をしたまま行方不明になるのでいつもルーシーに怒られるんだったわ。反省反省。

 もう心が大分疲れてきたようだ。


「………オイチャンはさ、人が幸せを掴む努力をするのがいけないとは言わないよ。
 でもそれは、その為に周りの人を不幸にしていいって意味じゃないんだよ?」

「オイチャン?リーシャなにいってんの?
 だから俺が不幸にはしないってば」

「オイチャンは、オイチャンはダークが側に居ないとずっと不幸だよ。
 カイルやブレナン、アナやクロエ、ルーシーやアレック、家族みんなが側に居ないと笑えないよぅ………」

 ぶわっ、と涙が溢れる。
 お家に帰りたいよう。


 その時、バターンッ!と扉を開く大きな音がして、部屋になだれ込む人影が目の隅に入った。

「うわっ!誰だよお前たちっ!」

「リーシャ!」

「リーシャ様!!」

「あー、オイチャンのダークとルーシーだー」

 私は素早く立ち上がるとダークの胸に飛び込んだ。

「リーシャ、何もされてないか?」

「うん………オイチャンな、オイチャンは帰りたいって何度もお願いしたのに、ダメって言うんだよ?
 もう旦那様も子供もいるってのに俺と結婚して子供生んで楽しく暮らそうって言うんだ。
 オイチャンの話ちっとも聞いてくれなくて………」

 ダークが私を抱き締めたまま、頭をよしよしと撫で、ギリギリと歯ぎしりをしながらヨハンを睨んだ。

「………俺のリーシャをオイチャンにするまで追い詰めやがってこのクズが………死ぬか?いいや死ね。死んで墓の下で一生リーシャに詫びろ」

 もう片方の手で剣を抜くと、ヨハンの首元に突き付ける。

「リーシャ様はこれでもメンタルがミルフィーユ並に脆いんですのよ?
 私の大事なリーシャ様を泣かせた罪は、亀甲縛りなどでは飽き足りません。胡座縛りで恥ずかしく拘束した上で騎士団に突き出して差し上げますわ」

「っなんだよあんたら。どうしてここが分かったんだよ!マリア達はどうした?」

「教えてあげる義理はございませんわね。
 ああでも小柄な女性は、わたくしが気絶させて邪魔しないように縛って転がしておきましたわ。
 旦那様、あのがたいのいい方はアレックが処理すると言ってましたわね?」

「『やることなくてヒマだから、頼むから俺に譲って下さい!』とかいって何だか張り切ってたな。
 通りすがりに見たら相手はボッコボコだったが。ついでに騎士団の詰め所まで馬を走らせてるから、暫くしたら味方を引き連れて戻るだろう」

「………ひでえなお前ら。何てことするんだよ!俺の仲間なのに」

 ダークが笑う。

「お前がしたことより全然軽いぞ?
 俺の妻を拐って手込めにしようとした上に、子供から母親まで奪おうとした人間がよくも酷いとか言えたもんだ」

「………アンタは不細工なクセに、こんな綺麗な奥さんと可愛い子供に囲まれて、何年も幸せに暮らしてたんだろ?
 俺なんか今まで一度も幸せなんてなかったんだから、少しぐらい分けてくれたっていいじゃないか!」

 ヨハンが目の前の剣を気にもせず叫んだ。

「相手の幸せを考えずに、自分の身勝手な幸せしか望まない奴には無理だ。
 リーシャは幾ら綺麗でもお飾りじゃないんだ。意思のある人間なんだよ。
 嫌がる妻を無理矢理側において、幸せなのか貴様は?」

「ーーお前みたいに恵まれた奴にはわかんねえよ。本当の家族が欲しい人間の気持ちなんかな」

「俺はな、32になるまで誰とも付き合ったこともなかったし、不細工だったから仕事場でも嫌味やなんかは始終あったぞ。
 リーシャが初めて恋人になってくれた人だ。彼女と会わなきゃ俺だってきっと一生独り身だったよ。
 そういう意味では、今間違いなく幸せだけど、ずっと幸せだった訳じゃない」

「………オイチャンは、ダークと会えたのが人生で一番の幸運だよ?オイチャンとても幸せだから」

「なぁルーシー、オイチャンの時のリーシャはいつもより素直でくっそ可愛いな。いやいつも可愛いけど。
 普段もこのぐらい甘えてくれないかな?大喜びなんだが、主に俺が」

「それが出来ればオイチャン憑依したりらっぱー憑依させませんわよ。
 それにヨハンさんでしたか、家族が家族がって言いますけれど、おられるじゃないですか、貴方を想っておられる女性も兄弟的な方も」

「………あいつらは孤児院から一緒なだけの腐れ縁みたいなもんだし」

「マリアさんでしたか、『ほんとごめんなさい!ヨハンは悪くないの!自分の家族が欲しかっただけなんです!私が実際に拐ったようなものですから罪を犯したのは私だけです!』って仰ってましたわよ?
 グースさんもかばっておられましたし。
 わたくしには充分家族だと思えますけれども」

「………マリア………グース………」

 うなだれたヨハンを見て、私はぽんぽん、と頭を叩いた。

「オイチャンにはもう大切な家族がいるから、自分の家族は自分で作らないと。側にいる人大事にしないとダメだよ?
 ………ダーク、オイチャンすごく眠い………」

「ああ、少し休みなさい。迎えが来たら子供たちのとこへ帰ろうな」

「うん。………アズキちゃんにも会いたいな」

 私はうとうととしながら、もう大丈夫だと言う安心感で眠りに誘われていったのだった。





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