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到着したけど帰りたい。

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「おおお………外国だわ………」


 日頃の寝不足がたたったのか、船内ではほぼぐーすか寝ていた私は、タラップを降りた途端に普段の町とは違う異国の雰囲気に心を躍らせた。


 来た目的はどうであれ、住んでるところとは違う国に来た、と言うのは何となく非日常感が漂うものである。

 私の頭の中では、前世で見たなんちゃら大陸とか言う番組のテーマソングが高らかに鳴り響いていて、むやみにテンションが上がっていた。


 港の周りには市場が軒を連ね、賑やかに呼び込みの声が上がっている。

 イタリアっぽいと言えば分かりやすいだろうか。洒落た感じのカラフルな色をアクセントに使っている店が多い。

 朝イチの列車に乗り5時間揺られ、以前海水浴に来た町の港から、昼前に出航する船に乗って6時間。
 到着したのは夕方である。
 現在5時過ぎ。
 夕食の買い物に来ている人の群れで目眩がしそうだ。


 ………少々人が多すぎるでござるよ。


 テンションが上がったままの子供たちやアレックとは対照的に、しゅるしゅるしゅると元気が下降してきた私を見て、ルーシーがダークに耳打ちした。

「旦那様、確か迎えを寄越して戴けるというお話でございましたよね?
 早く人混みから離脱させないと、リーシャ様が憑依させてるオイチャンともども成仏してしまいそうでございます」

「ああ分かってる。さっきから探してるんだが、緑の三角の旗を付けてる四頭立ての馬車がどこかに待っている………は、ず………」

 ダークが背伸びをして辺りを見回し固まった。


 私が視線の先に目をやると、市場から少し離れたところに何故か規制ロープが張り巡らされており、レッドカーペットが敷かれていた。

 何だろう、誰か有名な人が来るんじゃないか、と知りもしないのに人だかりになっている。

 またご丁寧なことに、恐らくこちらの騎士団と思われる屈強の騎士達がレッドカーペットに沿ってズラリと並んでいるのである。

 その先には豪華な四頭立ての馬車が2台並んでいた。


 ………緑の旗つけて。



「………ヘ~イグッドイブニーン!みんなの心のアイドル、リーシャ・ブラックホールだよ♪
 今夜もリスナーのみんなから沢山お便りが届いてるよ!
 さぁ最初のお便りは、ダーク大好きっ子ちゃん。ありがとー!!

『王族と言うのは金と人を湯水のように無駄遣いしないと死ぬ生き物なのでしょうか?』

 うーん、難しい問題だねぇ。まあ金を使うことが誠意とか厚意だと思ってるふしはあるよね。ま、大概の人は恩恵に与る事はないから気にしないでいいんじゃない?
 じゃ、次のお便りは………」

「リーシャ、おいしっかりしろ!」

「旦那様、オイチャン飛び越えて前世のDJが憑依したのでそろそろまずいです。
 前世のらっぱーとか言う音楽家まで行くとガチギレ寸前で、それを越えると「アタシ妖精さんとマブダチだし」とか言って『ぱるぷ●て!ぱ●ぷんて!』とよく分からない呪文を唱えだして当分戻って来ないので急ぎましょう」

「ああ、分かった!」

 ブツブツとセルフラジオ放送をしてる私を抱えあげて、ダークがレッドカーペットの方へ急ぎ足で向かう。

 アナとクロエはアレックが抱え、カイルとブレナンはルーシーが手を引き同じように早足になる。


「あー、済まないが、こちらはジークライン王子の手配の方々だろうか」

 レッドカーペットに並んでいる騎士にダークが尋ねると、敬礼をした年配の騎士が声をかけてきた。


「はい左様です。シャインベック指揮官どのでしょうかガーランド国の?」

「ああそうだ」

「長旅お疲れ様でした。王宮でジークライン王子がお待ちです!ご案内致します。さ、こちらへ」

 私を見て、ちょっと顔を赤らめるとレッドカーペットに手を伸ばした。


 おい。このカーペットの上を数十メートル歩けと?私たちのようなパンピーにこの衆目の中をか?
 ダークも私を抱えたまま目を見開いた。


「………ヘイヘイYOYO暴走族王族♪お気遣い勘違い♪巣籠もり引きこもり♪帰りたい帰れない♪王宮行くのかYO♪責任者を出せYO~!」

「旦那様、リーシャ様にらっぱーが完全憑依してしまいますからお急ぎ下さい!
 ………騎士様、大変申し訳ありませんが、奥様が船酔いでお加減が悪いのですぐ近くまで馬車を寄せていただけますでしょうか?」

 ルーシーが頭を下げた。

「ああっ、それは大変失礼致しました。
 おい馬車をこちらへ!!」

 馬車の馬を急かしながらカポカポやってくる中、遠い意識の中で私が思っていたのは、

(ほんとおうち帰りたい………)

 の気持ちしかなかった。



ーーーーーーーーーー


「リーシャさん!シャインベック指揮官もお久しぶりです。やあ!クロエも会いたかったよ。いつもお手紙ありがとう」

「あい!」


 はいお久しぶりです、そしてさようなら。




 王宮に到着すると、ジークラインの執務室へ通された。
 早急の決裁案件があったとかでお詫びされたが、あのレッドカーペットの方を詫びて欲しいものである。
 ついでに超過勤務の騎士団の皆様にも。


 馬車に乗ってる間にようやくヒッキーのコミュ障の発作が収まった私は、ソファーに座るとご機嫌斜めなままジークラインを見つめた。

「ジークライン様、お気持ちは本当に有り難いのですが、私どもはあのような出迎えには慣れておりませんので、何卒次回以降はご勘弁願います」

 当分は来たくないけど。

「申し訳ありません。僕も親しい知人友人が少ないもので、ご迷惑をお掛けしてしまって………」

 項垂れるジークラインに、それ以上文句が言えなくなってしまう。


 数ヵ月ぶりに会ってもまあイケメンはイケメンである。当然ダークの方がいいけども。

「お疲れでしょうし、とりあえずゲストハウスに晩餐を用意してありますので、よろしければ。本日はゆっくりお休み下さい。
 ………クロエもまた明日ね」

「あい」

 ニギニギと握手をしてる2人を眺める。


 一発でクロエを見分けたところはポイント高いが、その程度で娘はやれん。

 私は薄幸な美青年に甘いが、それはそれ、これはこれである。


 ふと横を見ると、子供たちも興奮が収まった途端に、長時間の移動での疲れがどっと出てきたのか、カイルやアナはうつらうつらしてるし、ブレナンはルーシーの腕の中で既に爆睡中である。
 
 
「それでは、申し訳ありませんが子供たちも疲れているようなので本日はこれで」

 ダークが立ち上がり一礼すると、クロエを抱き上げた。

「はい。それではまた明日ゆっくりと。
 昼食でもご一緒しましょう」

 ジークラインに見送られ、先ほどの渋い騎士団の男性にゲストハウスまで案内してもらった。

「色々ありがとうございました」

 私は騎士団の人に頭を下げた。

「いやいや、お加減が良くなって何よりですな」

 50代位のオッサン騎士は、笑顔で頭を下げると、

「ごゆっくり」

 と出ていった。




「あーーーー、やっと家族だけになったわね。疲れたわ………」

「少々わたくしも疲れましたわ。………主にリーシャ様の心の平穏絡みで」

「悪かったわ。私は対人スキルがレベル1とか2なんだから仕方ないじゃないの」

「………憑依してたオイチャンが成仏しないで良かった」

「ダーク、貴方私よりオイチャンの方が好きな訳ね?」

「違う!一番リーシャで二番もリーシャ、三、四がなくて五がオイチャンだ」

「なんかそれも自分なんだけど腹が立つわね」

「いやー、しかし俺ら使用人にもすごく立派な部屋を用意してくれたみたいで、申し訳ないですねホント」

 食堂に用意してくれた豪勢な伊勢エビのチーズ焼きやらクラムチャウダーやらを平らげながら、私たちは明日の観光地巡りなどを話し合って解散した。

 子供たちは船でおやつや売店のソーセージなどを食べていたとのことでお腹は減ってなかったらしく、睡魔に負けて爆睡していたのでそのまま寝かせておくことにした。


 私もあくびを噛み殺しながらダークとベッドに入る。

「朝早めに起こしてね。お風呂入るわ。今夜はもう気力が………」

「そうだな………俺もなんだか肩が凝った………」

 2人であくびをしながら、あっという間に眠りこけたのだった。




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