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叱るつもりだったのに。

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 父兄参観も終わり、私は逃げるようにカイルとブレナンを連れて表に出た。
 父母会?ご冗談を。羞恥で死ねるわ。

「残念ですが所用がございまして………申し訳ございません」

「そう。パンケーーんぐっ」

 慌ててブレナンを抱き上げ、

「それ内緒。バレたら連れてけないわよ」

 と小声で耳打ちしたら、

「かあさまー、ぼくねむいーかえるー」

 などとぐずる演技をし始めた。

 無駄に気配を読むのに敏感なのと、目的のためには面倒くさがりを敢えて捨て去るところがブレナンの良いところである。

 ………いや、良いところと言い切ってしまっていいのかやや疑問だがまあいい。

「まあまあこの子ったら。すみませんお騒がせして。それでは失礼致しますー。
 カイルも帰るわよー」

「はーい」

 私はしゅるしゅるとうまいこと脱出に成功した。



 待たせてある馬車に戻るために歩いていると、

「かーさま、ぼくよむのうまくなったでしょう?」

 というカイルから自信に満ちた満面の笑みを向けられた。

「………そうね。本当に読むのうまくなってステキだったわ」


 読むのだけはな。
 これからは内容はくれぐれも吟味してくれなアカンで坊や。
 洒落で済むことと済まへんことがあるよってにな。これは沽券に関わる問題やねん。


 心の中から出てこようとするチンピラには蓋をして、カイルをぐりぐり撫でた。

 撫で方がやや強くなっていたかも知れないが、きっと溢れる愛が止められなかったのだ。うん。

「かあさま。パンケーキ」

 ブレナンも目の焦点が私に戻っている。

「分かってるわよ。カイルもパンケーキ食べるでしょう?」

「ボクはチョコのパフェがいい」

「えー………母様が食べようとしてたものなのに。
 いいわ、読み方上手くなってたし特別ね。
 私はイチゴのパフェにするから一口交換しましょ」

「わーい!」

 馬車に乗り込むと、時々行くスイーツの美味しいカフェへ向かうことにした。

「かあさま」

「なぁにブレナン?」

「ぼくもとくべつにプリンアラモード」

「………何で特別なのよ」

「かあさまーぼくねむいーかえるー」

「………分かったわ。今回だけよ」

「ありがとございます」



 てーててれれてっててー♪

 ブレナンがレベルアップした!
 たいりょくが1あがった!
 えんぎりょくが2あがった!
 くろまほう『せいじこうしょう』をおぼえた!



 脳内で某RPGのピロピロした音が流れる中、

(ブレナン………侮れないわこの子………だてに私の血を引いてないわね。
 カイルが7:3でダーク寄りの性格だとしたら、ブレナンは1:9で私寄りかしら。外見だけでなくろくでもないところばかり似てきたわね………)

 と改めて我が子の血の濃さを感じるのだった。


◇  ◇  ◇


「お帰りなさい。お疲れさまダーク」

「………ただい、ま?」

 その夜帰ってきたダークの出迎えをした私の顔を見て、何かを察したのか、何故か疑問系になっている。

「ご飯は食べる?」

「………食べる」

「そう、良かった。丁度温め直したからスープも。
 それじゃお風呂沸かしておくわね。
 後で話があるから早めにね」

「………リーシャ、俺は何かをしたのだろうか?」

 ダークが不安に怯えた顔をした。

 この男、不安そうな顔をしただけで妖艶さが倍増するとはどういう事だ。羨まけしからん。

「………さあどうかしらね?じゃ後でね」

 首を傾げて私はお風呂の支度をしに二階へ上がる。

 ちょっとぐらい不安になっても良かろう。

 私の昼間の恥ずかしさよりは数倍マシなのである。


ーーーーーーーーーー


 私がお風呂から出て寝室に入ると、ダークがベッドの上で正座をして待っていた。

「………ダーク。なんで正座をしているの?」

「きっと俺が何かやったに違いないから」

「まあ、当たらずとも遠からずね」

 私は昼間の父兄参観の話をした。

「………………」

「私が何を言いたいか分かるかしら?」

「えーと、………生まれ変わっても一緒になりたいと言ったのが執着系で気持ち悪いとか………」

「ちがーう」

「あ!子供たちを二番目に好きだと言った事だろうか?だがそこは嘘はつけないしでも二番目といってもほぼ横並びに近いというか少しの差でどっちもすごく大事だからーー」

「ちがうちがうちがーーう!」

 私はダークを遮った。

「もっと根本的なところでしょうが。なんでカイルにそんな話をしたのよ。作文書いてるの分かってたでしょうに」

「でも、嘘は良くないだろう?」

「だから、あんな奥さん大好き宣言を人前でオープンにされた私の立場は?顔も上げられないほど恥ずかしかったのよ。
 ついでにコレ」

「………?」

 私は机の引き出しから取り出したモノを渡した。

 先日、私の紅茶クッキーを報酬としたカイルとブレナンからの報告書である。

「これは?」

「こないだスパイごっこしてた時の『父様のどんなところが好きで結婚したのか』って言うのを子供たちが調査した報告書よ。読んでみて」

 ダークは、封筒から中身を取り出した。

「ちょうさけっか。
『かあさまがいないとダメになるところ』
『かあさまがそばにいるといつもごきげんになるたんじゅんなところ』
『かあさまにおこられるとひっしであやまるすなおなところ』
『かあさまがつよいひとがすきだというのをきいてかくれてたんれんのじかんをのばすところ』
 ………意外と見てるもんだな子供たちは」

「私が一番腹が立つのはね、子供にまでこんな姿を見られたり、カイルにどれだけ私がすっ、好きかをアピールしてるくせに、私には最近あまり言ってくれない事よ。その上幸せ過ぎて脈を測ってるとかまだやってるって言うし。未だに不安なの?」

「脈を測るのは何だかもうクセで。済まない。………だが、リーシャが愛してるとか好きだとかあんまり言われると恥ずかしいから言うなって………」

 ダークが不思議そうに返した。

「………私が?いつよ」

「主にベッドで。俺が愛してるとか好きだとか言うと照れるからもう言わないでーーって。だから我慢してなるべく言わないようにしてたのに………まさか覚えてないとか言わないよな?」

「………あー………」

 うん、それはあれだ。

 閨の中ではイヤよイヤよも好きのうちというか、あるじゃないですかほら。本当はイヤじゃないと言うか、引いても押してきて欲しいと言うか。

「………そういうところ、額面通りに受け取るタイプよねダークって」

「俺は真面目で面白味のない男だしな………」

 あ、拗ねた上に落ち込んだ。

 ダークがダークゾーンに、………いや韻を踏んでる場合じゃないか。仕方ない、若干責任もあるし私が折れるしかないわよね。

「やあね。ダークのそんなところも好きよ」
 
 俯くダークの頬にキスをする。

「本当は、愛してるって言われるとすごく嬉しいけど、慣れてないって言うか、ほら恥ずかしいから、私の性格的に。分かるでしょう?旦那様なんだから。
 子供になんか言われたらもっと恥ずかしいのよ。父兄の方まで生温かい目になってたし、居たたまれなかったのよ?
 本人から言ってくれなきゃ有り難みもないわよ」

「………良いのか言っても」

「まあ出来れば二人の時だけにして欲しいけど、聞きたいわよそれは。愛が冷めたかと不安にもなるじゃない」

「俺の………俺の方がずっと不安だった。しょっちゅう言ってたから重たく感じてたのかとか、本当はもう好きじゃなくて、子供たちのために妻で居てくれてるのかとか………」


 日本人は羞恥心てものが結構ございましてね。
 つっても私も今はリーシャという名前の立派な外国人だけども。中身はそうそう前世から変わらないもので。

「ごめんね、不安にさせちゃって。ずっと愛してるから。めちゃめちゃ好きだから。でも私は照れ臭いって感情もあるから、そこは理解してくれると嬉しいのだけど」

 ダークが顔を上げて、ようやく私を見た。

「………ずっと愛してる?」

「愛してるよ」

「………めちゃめちゃ好き?」

「もうすんごく!」

「ーー俺も愛してるから」

 だからはにかむな可愛いから。

 40手前のオッサンの癖に乙女なのか。
 人外の美貌よ少しは衰えろ。

 中身は私の方がずっとオッサンのような気がしてしょうがない。

 しかし私が怒っていたハズなのだが、いつの間にかダークを慰める人になっていた。なんか疲れましたよ私。

「まあ良かったわ誤解も解けて。さあ寝よ寝よ」

 私はベッドに潜り込むと、ポンポンと隣を叩いた。

 嬉しそうに隣に入ってきてすりすりと身体をすり寄せてくる。

「もう………寝るのか?」


 寝るよ寝たいよ寝かせてくれよ。今日は1日どっと疲れたのよ私は。


「んー、ダークは眠くないの?」

「………全然。あのなリーシャ………」

「なあに?」

「その………気持ち悪いとか思わなかったか?生まれ変わっても一緒になりたいと言った事。俺みたいな、まあこの国ではかなり不細工な面倒くさいオッサンとまた来世でも一緒にとか思われてさ」

「いや、嬉しいけど?」

「そっ、そうか。………良かった」

 こら頬を染めてすりすりしなーい。

 なんだこの見目麗しい一途な可愛いオッサンは。
 世界的に保護しないといけない希少種じゃありませんかね。絶滅危惧種ですよ。
 いいんですか我が家に置いといて。


 いいんですか? 
 そうですかそうですか。
 もうどこにも渡しませんからね。

 おや。なんだか元気なムスコさんがぴたぴた当たってるんだけども。しかしいつの間にパンツ脱いだんだろうか。

「そんな可愛いこと言ってると、襲っちゃうぞー」

「………おう」

 蕩けそうな顔で嬉しそうに微笑むので、まったく敵わないなこのオッサンには、と私はキスを奪うのだった。




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