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レッドフラグ。

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「やあ、楽しんでるかな?」

「これはこれは殿下。妃殿下まで。気づかずに失礼致しました」

 パパンがすかさず席を立ったため、私たちも慌てて後に続く。

「お声をかけて戴けるとは思ってもおらず、恐縮でございます」

「あら、本日はわたくし達が勝手にお邪魔しているだけですもの。気を楽にしてくださいな」

 ナスターシャ妃殿下はちょっとツリ目できつめに見えるアッサリ顔の方だが、笑顔に全くトゲがない、心穏やかな性格が漂う方である。

 ライリー殿下は、あのルイルイと1、2を争うほどのイケメンらしいが、私から見ればコケシのルイルイよりはよほど人間味溢れる御方である。
 例えるならば、室町時代とかに美男と呼ばれてそうな。いや、イメージですけども。

「こちらが噂のシャインベック指揮官のお子様達なのね?………まぁ、本当になんて可愛らしいのかしら………双子ちゃんなんて、お母様そっくりね。いい子ね、すごく可愛い………」

「………う?」

 何だかよく分からないけど、パパもママも頭を下げているエライ人が自分たちを見てイイコだと褒めてくれているようだ、とアナとクロエは思ったようで、お菓子を飲み込むと、

「「ありあとごじゃます」」

 と笑顔でペコリと頭を下げた。

 カイル達も合わせて、

「「ありがとうございます」」

 と笑顔でお辞儀をした。

 パパが良い子にしてたら公園で遊んでくれると言ってたのを絶対覚えてるんだわ。
 今はむしろ無礼を働いて嫌われてくれた方が良かった気がするが、そんな大人の事情などこの子たちには分かるまい。

「まあ、礼儀正しいのね。連れて帰りたい位愛らしくてよ!!」

 頬を緩めた妃殿下に笑顔がひきつりそうになる。
 うちの子を連れて帰られてたまるかい。

「家ではこんなに大人しくはございませんわ。周りが大人ばかりですのでやはり子供なりに緊張しているのかと思います。私も若輩者で躾もまだまだ至りませんで申し訳ございません」

(意訳:ほら、うちの子顔だけで行動は山猿だから、変に近隣諸国のエエとこのボンボンとか、政略絡みの婚約とか押しつけて来ないでね。むしろ失礼になっちゃうから。
 そもそもうち貴族でもぜーんぜん下っ端の子爵だから。ね。ね。)

 心の声よ届け!と念じながら言葉を絞り出す。

「そんなことなくてよ。今までお会いした子供たちの中でも可愛さと礼儀正しさはベストだわ。ねえライリー?」

「そうだな。ーーーシャインベック指揮官」

「はっ」

「本日は私たちの息子のレイモンドは連れてきていないのだが、あの子も2歳になる。
 一人っ子だから人見知りになってしまって、少々気難しくてな。
 周りに同年代の遊び相手がいないせいもあると思うのだ。
 もし良ければたまに遊びに来て、あの子の友達になってやってくれると嬉しいのだが」


 それ、アレですよね?


 良ければ、とか言って選択肢与えてる風で、王族の誘い込みに子爵ごときが断れる道なんかどこにも見当たらないイエス一択の修羅の道ですよね?

 
 案の定ダークは、

「………うちの子で宜しければ喜んで」

 と返事をした。そうせざるを得ないではないか。

「まあ素敵!ありがとう。レイモンドもきっと喜ぶわ!改めて招待状を送らせて頂くわね」

 アナとクロエの頭をなでなでしたナスターシャ妃殿下は、ライリー殿下と腕を組み、違うテーブルへと歩いていった。


「………こぇぇな、あの圧。うちの子全く眼中になかったけど、むしろなくて良かった」

 暫くダークと共に頭を下げていたヒューイがそろりと顔を上げて汗を拭った。
 ミランダもコクコク頷いていた。

「やはり、来るべきじゃなかった気がする………」

 ダークが私を見て済まなそうな顔をする。

「仕方ないわよアレは。お友達でしょお友達。
 でも、殿下達も譲歩してたと思うわ。流石に王子との婚約話を早々に持ちかけられたら私たち断れないもの」

「妃殿下は確実にロックオンしておられたがな。私は泣いていいかなリーシャ」

「よしてよ父様!最後まで何があっても友達で逃げ切るんだから」

 カイルやブレナンはご学友といったレベルだろう。
 アナスタシアとクロエのどちらかが間違って婚約ルートに流れないようにしなくては。

 いや、どちらかが本当にレイモンド王子を好きになるなら別に構わないが(出来たらやめて欲しいけど)、下手したら未来の王妃ではないか。そんな面倒くさそうなフラグは御免こうむりたい。

 というか、未来の王妃の母親が薄い本書いてますーとか薄いマンガも描いてますーテヘペロ♪なんて、どう考えてもバレたら一発アウトな案件であろう。
 より身バレに慎重さが求められる。

「大丈夫だリーシャ、まだ決まった訳じゃない。ずっと先の話だし、先々二人が望まなければ『我が家の家訓』で何とかしよう」

 震える手をダークが握りしめ囁いた。

「え、ええ、そうよね。まだ決まった訳じゃないわよね」

 獣道のような細い道からコンクリート舗装の広い一本道に固めてこようとしてる気配がするけれど、確かにまだ未確定。

 今から心配してもしょうがない。

 子供たち以外はどんよりした空気になったところで、マークス兄様がやって来た。

「リーシャ、………これ渡すようにって宰相から」

「え?なあに?」

 受け取ると、王家の家紋の蝋印。

「………ひぃぃぃ!今さっきお別れしたばかりじゃないのよぅー」

 開けるのが怖くなりダークにそのまま渡す。
 ダークがじっと見つめてため息をついたが、覚悟を決めて開ける。

「………来月の都合のいい日程が一覧になってる………1週間ぐらいあるな」

「一覧て何よ。うちの子供のスケジュールなんてがら空きじゃないのよ!
 明らかに月1以上の逢瀬を求めてるわ。
 もうダメなのよー逃げ道なんか本当はないのよー高い塀に囲まれたゴールイン一本道なんだわーふふ、ふふふっ」

「落ち着けリーシャ!とりあえず子供たちに幾つか習い事をさせよう。それで、月に1度、はまずいだろうから、月に2度ぐらいの訪問に抑えてだな………」

「………よし、パトリシアも闘病中にしよう!見舞い名目でルーベンブルグ家に来る頻度を上げればもっと予定も埋められるだろう?」

「こんな小さな子にそんな忙しくさせたら身体壊すわよ。習い事はともかく、母様だって無理やり感が半端ないわ。
 ………よし、私と同じ病弱設定を徐々に出しましょう。健康問題があればそうそう踏み込んでは来ないはずよ」

「おお!そうだな!アナもクロエも見た目がいかにもか弱いご令嬢風だしな」

「………風邪1つ引かないぐらいに丈夫だけどね。カイル達も」

「アナとクロエは病弱設定で、主にカイル達を向かわせればいいだろう。3回に1回位は一緒に行けばいいんじゃないか?」

 大人たちが小声で交わす嘘にまみれた悪どい相談をよそに、子供たちは何か楽しそうにお喋りしては笑っている。

 無駄にこの世界での美形顔に生んでしまった私が一番の問題なのかも知れないが、どうにもならないことは不可抗力として置いといて、変な権力闘争とか政略結婚とか、愛のない暮らしをさせることだけはさせるまい、とダークとぎゅっ、と手を握り合った。
 




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