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子供たちは植物に。

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「自己紹介は?」

「カイル・シャインベックです。4さいです!」

「ブレナン………3さいです」

「アナスタシアは、ひとつ」

「クロエ。いっさい」

「はい。じゃ誰かに親切にしてもらったら?」

「「ありがとうございます!」」

「「ありあとごじゃます!」」

「自分が悪いことしたら?」

「「ごめんなさい」」

「「ごめなしゃい」」

「はいよく出来ました。今日は、お出かけして美味しいもの食べにいくけど、周りは大人の人が多いからね。良い子にしてないとダメよ?
 良い子にしてた子は、帰りにパパが公園に連れていって遊んであげるって約束してくれたからね」

「「「「はい!(あい!)」」」」

「敬礼はいらないわよー。もう、ダークが教えたのかしらねぇ」



 私は、ルーシーやミルバ、サリーと一緒に子供たちに服を着せながら、挨拶などの最低限の言葉だけは言えるようにし、自分も久しぶりにドレスに着替えた。

 子育てしてると裾が鬱陶しいのでドレスなんぞ着ていられない。普通のワンピースやキュロットみたいなものが多いのだ。

 白とオリーブグリーンの落ち着いた色合いのドレスを身に纏い、ルーシーに髪をアップにしてもらいメイクをお願いする。
 ネックレスもダークが買ってくれたシンプルなオパールのものだけにした。

「はぁぁ、知らない人が一杯よねぇ………トラブル起きて中止にならないかしら………」

 ため息がこぼれるのは、ヒッキー生活が長いせいである。

「外は冷えますけど、大ホールでございますからねぇ。トラブルは考えにくいですわね」

 パウダーをはたき、チークや口紅を真剣な顔で塗っているルーシーから塩対応をされた。

「冷たいわねルーシー。………でも、そうよねぇ。まあダークの職場の人達にご挨拶するのはやぶさかではないのだけど、何十人ってレベルだと会う前から気疲れするわ」

「普段屋敷に籠りっきりなんですから、たまには社交もしませんと。そろそろ仕事も再開しますし、ネタの仕入れだと思えばよろしいではありませんか」

 だいぶお休みしていたが、来月から小説、再来月からマンガもまた描き始める事になった。

 最近は双子たちも夜眠ると朝まで目覚めないようになったので、私の体力も以前よりついたようである。お腹のお肉も少しついたままだが。

 ダークは嬉しそうに、

「もっと太ってもいいんだぞ。元が細すぎたんだから。柔らかくて気持ちいい」

 などとお腹にすりすりしてくるが、サイズがそんなに変わったら服を買い直さなくてはならないじゃないか。
 そんな贅沢は4人の子供たちを育てていく母として許してはならないのである。
 それに、あんまりひどい体型になったらなったで、

「ダークみたいな不細工な男のところに嫁いだから太って不細工になった」

 とか言われてしまう。
 他称『傾国の美女』でも結構気は遣うのである。


「準備は出来たか?」

 ダークが黒の通常時の制服でやってきた。
 白もヤバいが、普段の濃いグレーの制服もかなりヤバい。神々しいまでのイケメンオーラが半端ない。
 そして鍛えた身体に広い肩幅。
 未だに30前後にしか見えないこの素敵な旦那様が、世の中で不細工扱いなのが全くもって理不尽である。

「みんな~、支度は出来ましたかー?」

 はーい、あい、と手を上げる子供たちを見て、

「大丈夫みたいよ」

 とダークに声をかけた。

「リーシャはいつにもまして綺麗だし子供たちも可愛いし、………正直ほんっとうに出掛けたくない」

 舌打ちでもしそうな顔で呟くダークに、

「まあ仕方ないじゃない。子供たちも良い子にして、帰りにパパに公園へ連れていって貰うのを楽しみにしてるんだから」

「………そうか。それじゃ行かないとな」

 ひょいひょいと可愛い白襟の紺のワンピースを着た双子たちを抱き上げ、

「カイルもブレナンも行くぞー」

「おー」

 ふんばばふんばば♪とダークの後ろを踊りながらついていく息子たちに、

「ちょっとあなたたち、ふんばばは家以外禁止よー」

 と慌てて私は追いかけるのだった。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「まぁ!なんて………なんて可愛らしいお子さん達なの!!お行儀も良くて。先行きが楽しみではございません?」

「ありがとうございます。でも家では結構ヤンチャなんですのよ」

「リーシャ様は、お身体が余り丈夫ではないと伺っておりましたけど、もう大分よろしいのですか?」

「マリア様ではございませんか!以前お茶会でお会いして以来ですわね。
 昔から少々気管支が弱くてすぐ風邪を引いたり体調を崩してしまいますの。本日は元気ですわ。お気遣いありがとうございます」

「お噂はかねがね伺っておりますが、相変わらず、いや以前より妖艶な美しさが増して、眩しいほどの美貌でご主人が羨ましい限りです。話題の双子の姫君も予想以上の愛らしさですな。坊っちゃん達も男前だ」

「(妖艶?そんなものどこに)まあバーモント様ったら。ご冗談も過ぎると本気にしてしまいますわ!
 うちの子供たちまで褒めて頂いて、この子たちが調子に乗ってしまいますわ」


 会場に入って一瞬静まり返った人々に、昔社交界デビューでマークス兄様と行った時の記憶が蘇ったが、今回は子供たちのデビュー戦みたいなものだ。

 土偶武装モードが久しぶりに発動である。

 必要以上に目立たせたくはないが、そこそこの社交もしておかないと、この子たちが大きくなってから困るであろう。
 脳内で貴族名鑑を必死にばらばらめくり、笑顔と柔らかい話し方、淑女の振る舞いを意識しての対応。
 会場に着いて30分で心のカラータイマーがピコーンピコーンと鳴り響く。

 武装モードは長時間維持できないところがヒッキーな私の限界である。


「リーシャ、ここにいたのか」

 パパンが笑顔でやってきた。
 会場で待ち合わせをしていたが、人が多くてなかなか会えなかったのだ。

 ママンはちょっと風邪気味なので、今回は留守番だわと残念そうにしていた。
 王宮で事務官として働くマークス兄様も顔を出してくれると言っていたので、だいぶ気は楽になる。

「お義父さん、わざわざすみません」

 ダークが頭を下げるものの、

「アナやクロエを守るのに男手は必要だからな。こんな可愛い孫達を、邪な視線に晒すわけにはいかん」

「じいじ」

 クロエがパパンのズボンをきゅっと掴んで抱っこをせがむ。
 あ、パパンのきゅんメーターが上がった。

「おうじいじだよークロエ。まだオヤツは食べてないのかい?あそこに沢山あるからじいじと見に行くかい?」

「あい。ありあとごじゃます」

 にっこり笑ったクロエにパパンは心を撃ち抜かれて、いそいそとスイーツのテーブルに向かっていった。

「アナもスイーツ見に行くか?」

「あい!」

 ダークにひょいっと抱っこされ、

「ちょっと行ってくる。そこのテーブルで待っててくれ。戻って来たら、リーシャとカイルたちと交替しよう」

「分かったわ」

 近くの丸テーブルにカイルとブレナンを座らせてると、

「リーシャさん!」

 とシャーロッテを連れたミランダが現れた。

「まあミランダ!この人混みでよく会えたわね。座って座って。ヒューイさんは?」

「知り合いが居たみたいで挨拶してくるって。良かったわリーシャさんに会えて。
 彼が戻るまで少しお邪魔してていいかしら?」

「勿論よ!シャーロッテちゃん、こんにちは。ママのお友達のリーシャよ。でも赤ちゃんの時にしか会ってないから忘れちゃってるわね」

「こんにちは、シャーロッテです」

 頬を赤らめながら、お辞儀をするシャーロッテは、ブレナンとカイルにも同じく挨拶をした。

 茶髪を三つ編みにして、とても聡明そうな印象を受ける、年齢より大人っぽい感じの子である。

「あー、疲れたわ。ほら私、元が平民だから、こういう華やかな貴族が沢山いるところは苦手なのよ」

「私は貴族がどうとかより、人が沢山いる自体が苦手だわ。社交下手だし」

「………リーシャさんて、本当に綺麗なのに、美貌を無駄遣いしてるわよね。表に出てちやほやされたいとかないの?」

「あー、美貌の無駄遣いとはルーシーによく言われるわね。でもダークにだけちやほやされれば充分だし、表に出るのは気力使うじゃない?
 それに好きでもないのに不特定多数にモテても嬉しくないでしょ。無駄遣いじゃないと思うのだけど」

「うん、まあリーシャさんはそういう人よね。ダークさんが一番って感じで」

 ミランダが笑う。そして声を低めると、

「でも、今日はどうやら陛下や殿下もいらっしゃるみたいよね。ヒューイが、騎士団の人間じゃない貴族がゴロゴロしてるとも言っていたわ。きっとリーシャさんとお子さんたち目当てよ」

「私は人妻だから関係ないと思うけれど、子供たちはまあ親の欲目引いてもそこそこ可愛いから、既に釣書送ってくる人たちも現れてるみたいでね。困ったものよねぇ」

「やだわ。そこそこ、どころじゃないわよ。さっきこっちに来るときに身分の高そうなおじ様達が、
『シャインベック家の女神とフォアローゼスが来てる』
『あそこまで子供の時から綺麗だとは思わなかったな』
 とか騒いでたわよ」

「女神とフォアローゼスって………」

 うちの子供たちはバーボンか。
 いやこの世界にバーボンはないか。じゃ植物か。

 人外でも現象でもなく植物にまで変貌してるではないか。

 大体なんで私まだ女神とか言われてるのだろうか。
 びいせんの女神と言われたのは何年も前で、私の今世の黒歴史だが、まだアレを引きずってるのかしら。

 私は苦笑して、

「あれよ、ダークの子供たちと言うからどんなのが来るかと思ったら、思ったより可愛かったから驚いただけじゃない?」

「いや正直少しはそれもあるんでしょうけど、元々は貴女の美貌を受け継いでる子供たちって事で前から噂になってて、今回すでに争奪戦が水面下で起きてるみたいよ?」

「寝言は寝て言えって言うのよ。この子たち幾つだと思ってるの?双子は1歳でカイルやブレナンだって4歳と3歳よ?
 それに地位だって子爵位から成り上がるつもりもないし、少なくとも政略結婚なんかさせるつもりはないから勝手に争わないで欲しいわ」

 小声でこそこそ話していると、ヒューイを連れたダークがアナとスイーツの沢山乗ったお皿を抱えて戻って来た。

「お、やっぱミランダとシャーロッテはリーシャちゃん達のとこにいたか」

「ヒューイ」

 ミランダが立ち上がった。

 シャーロッテを見たアナが、

「アナです」

 とにっこり笑いかけた。

「シャーロッテです」

 と返事をして、

「ママー、おにんぎょみたいー」

 と頬を赤くした。

「う?アナはおにんぎょじゃないよ」

 ほらかたくないでしょ、などと自分の手に触らせているアナを見ながら、私はダークに、

「何だかフォアローゼスとか呼ばれてるみたいようちの子供たち」

 と耳打ちした。

「いい迷惑だな。早く食べて撤収しよう」

「そうね」

 パパンがクロエと山盛りにしたスイーツの皿を抱えて戻ってきたので、交替してカイルとブレナンの分もさっさと取ってきて、私たちはヒューイ家族とぱくぱく食べ始めた。

 クロエもシャーロッテと挨拶をして、アナとカイルたちも含めて仲良く喋っている。

 仲良き事は美しきかな。幼馴染みとしてこれからも仲良く出来るといいのだけど。

 みんなの飲み物を運んでくれたダークとヒューイにお礼をいい、レアチーズタルトを食べる。

 みんな食べやすいプチサイズで、子供たちも色んな味を交換こで味わえて楽しんでいるようだ。

「しっかし、ダークんとこはみんなリーシャちゃんに似ちゃってまー、この先が心配になるよなあ」

 塩味のついたスティックパイを頬張りながら、ヒューイが呆れたように呟いた。

「やっぱりそう思うかねヒューイ君も」

 パパンが孫バカ丸出しの顔で話しかけた。

「だってこんな小さな時からこの完成度でしょう?周りの客も見惚れてましたもん」

「だよなーそうだよな!
 さっきお菓子を取り分けてもらったパティシエにクロエが『ありあとごじゃます』って笑いかけたら赤くなってたしな。絶対ロリコンだあれは。死ねばいいのに」

「………いや、お義父さん」

「ダーク君、うちの孫達の可愛さたるや、老若男女問わずの破壊力だぞ。やはりリーシャのように余り表に出さないようにするべきだと思う」

「ちょっと父様やめてよ。私は好きで屋敷に引きこもってたけど、子供たちに無理矢理それを押しつけるのはダメよ。のびのびと育って欲しいもの」

「うむ………そう言われると弱いが」

「大丈夫ですよ。まだまだ赤ん坊みたいなもんですからもっと成長してから心配しましょう。俺も心配ですがキリがない」

「そうですよ~。まだ色気より食い気のお子ちゃまで………」

 ヒューイは目を見開き、急に小声になった。

「ーー振り向かないで下さい。食い気より色気な殿下と妃殿下がこちらへ向かって来てます」

「うえっ」

「プチ情報ですが、妃殿下は綺麗なものや可愛いものが大好きだそうです」

「そのプチ情報今聞きたくなかったわぁ………」


 何気ない素振りをしつつ、迫り来るフラグの気配に私たちは恐れおののくのだった。




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