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リーシャはご機嫌。
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何かを決める時のルーシーの動きはいつも素早い。
ビアガーデンでのライラの接待から帰った翌日には、既に開催日も会場も印刷所の段取りも整っていて、やはりルーシーは本当に私には勿体ない子だとつくづく思う。
どこに出しても恥ずかしくないチートレベルのメイドである。
まあ、既にもうメイドの枠に収まるかどうか謎ではあるが。
「でも、会場に中央グランドホールを使うのは大きすぎやしないかしら?
あそこは記念式典とか大々的なパーティーとかで使うところじゃないの」
私はルーシーに疑問を投げる。
中央通りの噴水広場からほど近いグランドホールを思い浮かべた。
だってあそこ、巨大な体育館みたいなもので、3000人や4000人は入りそうなのだけど。
こんな初開催の知名度もないヲタイベントにどれだけの人数が集まるかも分からないのに。スッカスカで閑散とした会場って物悲しいのよ。経験者は語るけど。
「ライラも編集長(兼社長)も大乗り気でございまして、善は急げと今日中にも印刷所の所長とイベント印刷割引などの話し合いを終わらせて、申込書つきのチラシを刷ってブックスカフェや街中で配布するそうでございます。
店舗に先行して貼ったポスターへの問い合わせも続々と来ているようですし、恐らく抽選になる位の参加が見込まれるそうですわ。
開催は2ヶ月後と少し開きますけれど、制作の期間も必要ですものね」
「流石にお金になりそうだと思うと動きが早いわね編集長は」
「ルージュの挿絵入りイザベラ=ハンコックの新作も出ますし、会場限定と言うのがやはり限定品好きなファン魂に訴えるかと」
「………え、小説にイラストも入れるの?」
「粘りましたが、落としどころがそこになりました。申し訳ございません。
後半に数ページだけでもマンガを、との依頼も断れませんでした」
仕事が何気に倍増した気がするが、それでも、即売会が行われると言うだけで私の期待度はMAXである。
前世で、一般の人が「××のコンサートが最高だった!」とか「○○○のドラマが本当に泣けるのよ~」とかで盛り上がるのだとすれば、「●●様の新刊が!」「推しキャラがもう神展開で」などと身悶えするのが同人ヲタである。
どちらも好きなものに対する愛情を注いでいるだけなのに、片方は変人扱いになるのはどうにも納得が行かないのだが、最近はマンガ家さんたちのクオリティが見違えるように上がっているし、お気に入りの萌え絵を描く人も増えてきたので、どんな作品が出るのかと思うと私は本当にワクワクである。
「ママ、たのしい?」
乗り合い馬車モードでサリーにズルズル引きずられてリビングに現れたブレナンが、ご機嫌な私を見てにっこり笑った。
くうぅ、子供の笑顔は邪気がなくて本当に可愛い。
私のような腐女子には過ぎた子供である。きっとダークが徳を積んでるからだわ。
「そうなのーママとっても楽しいのー♪」
「よかったねー。ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
踊り出したブレナンと一緒につい私も踊ってしまう。
「楽しい夏~ふんばばふんばば♪」
「あの、リーシャ様は何故こんなに嬉しそうなのですか?」
話が見えずに目を瞬かせていたサリーは、ルーシーに耳打ちされ、
「まあ!それでは私もまた絵の背景の方でお力添え出来ますわね」
と笑みを浮かべて、一緒にふんばばふんばば♪と回りだした。
「るーちーも」
とブレナンに言われて、
「………この踊りは妙にテンションが上がるので仕事中は避けたいところでございますが、ブレナン坊っちゃまにノーと言える訳もなし」
と、ふんばば踊りに巻き込まれた。
執事のアーネストがリビングを通り抜けようとして、この謎めいた踊りをしている私たちを微笑ましく眺めて、
「………リーシャ様が来られてからシャインベック家は本当に明るく賑やかになりましたねぇ………お子様はもとよりダーク坊っちゃまも幸せそうで………ま、それは我々もですかなぁ。
………おっといかん、今夜の夕食のメニューの確認をするんだった」
と慌てて通り抜けていく姿があった事には気づいていなかった。
※ ※ ※
余談ではあるが、リーシャからイベントの話を聞いたダークは惜しみない協力を約束した。
そして、イザベラ=ハンコックの即売会場限定の新作が出ると言う話を聞いた翌日には、仕事場に有給休暇を申請し早々に取得していた。
後日チラシを見て、慌てて有休を申請をしたヒューイともう一人までがギリギリ受理され、その後の希望者がキャンセル待ちになった事で、危なく有休が取れないところだっただろうがとヒューイがダークに詰め寄った。
「おいダーク、なぜ早めに知ったのならすぐ教えないんだよ。お前もイザベラ=ハンコックそんなに好きだったのか?
つうか、お前には親友への思いやりというモノはないのかっ!?あれだけ相談に乗ってやったのにぃぃぃっ」
「………いや、実は密かに妻の影響で大ファンになってしまってなぁ。だが、このトシではなかなか恥ずかしくて言いづらいだろう?こう言う話は。
それに恋人が好きとは聞いていたが、ヒューイがそこまで好きだとも聞いてなかったしな。
リーシャが結構友人から情報を得る事もあるようだから、今後耳よりな情報が入ったらヒューイにも教える事にする」
「絶対だかんな!」
と何とか和解に持ち込んだ、というささやかな修羅場が発生していた件についてリーシャに語られる事はなかった。
ビアガーデンでのライラの接待から帰った翌日には、既に開催日も会場も印刷所の段取りも整っていて、やはりルーシーは本当に私には勿体ない子だとつくづく思う。
どこに出しても恥ずかしくないチートレベルのメイドである。
まあ、既にもうメイドの枠に収まるかどうか謎ではあるが。
「でも、会場に中央グランドホールを使うのは大きすぎやしないかしら?
あそこは記念式典とか大々的なパーティーとかで使うところじゃないの」
私はルーシーに疑問を投げる。
中央通りの噴水広場からほど近いグランドホールを思い浮かべた。
だってあそこ、巨大な体育館みたいなもので、3000人や4000人は入りそうなのだけど。
こんな初開催の知名度もないヲタイベントにどれだけの人数が集まるかも分からないのに。スッカスカで閑散とした会場って物悲しいのよ。経験者は語るけど。
「ライラも編集長(兼社長)も大乗り気でございまして、善は急げと今日中にも印刷所の所長とイベント印刷割引などの話し合いを終わらせて、申込書つきのチラシを刷ってブックスカフェや街中で配布するそうでございます。
店舗に先行して貼ったポスターへの問い合わせも続々と来ているようですし、恐らく抽選になる位の参加が見込まれるそうですわ。
開催は2ヶ月後と少し開きますけれど、制作の期間も必要ですものね」
「流石にお金になりそうだと思うと動きが早いわね編集長は」
「ルージュの挿絵入りイザベラ=ハンコックの新作も出ますし、会場限定と言うのがやはり限定品好きなファン魂に訴えるかと」
「………え、小説にイラストも入れるの?」
「粘りましたが、落としどころがそこになりました。申し訳ございません。
後半に数ページだけでもマンガを、との依頼も断れませんでした」
仕事が何気に倍増した気がするが、それでも、即売会が行われると言うだけで私の期待度はMAXである。
前世で、一般の人が「××のコンサートが最高だった!」とか「○○○のドラマが本当に泣けるのよ~」とかで盛り上がるのだとすれば、「●●様の新刊が!」「推しキャラがもう神展開で」などと身悶えするのが同人ヲタである。
どちらも好きなものに対する愛情を注いでいるだけなのに、片方は変人扱いになるのはどうにも納得が行かないのだが、最近はマンガ家さんたちのクオリティが見違えるように上がっているし、お気に入りの萌え絵を描く人も増えてきたので、どんな作品が出るのかと思うと私は本当にワクワクである。
「ママ、たのしい?」
乗り合い馬車モードでサリーにズルズル引きずられてリビングに現れたブレナンが、ご機嫌な私を見てにっこり笑った。
くうぅ、子供の笑顔は邪気がなくて本当に可愛い。
私のような腐女子には過ぎた子供である。きっとダークが徳を積んでるからだわ。
「そうなのーママとっても楽しいのー♪」
「よかったねー。ふんばばふんばば♪ふんばばふんばば♪」
踊り出したブレナンと一緒につい私も踊ってしまう。
「楽しい夏~ふんばばふんばば♪」
「あの、リーシャ様は何故こんなに嬉しそうなのですか?」
話が見えずに目を瞬かせていたサリーは、ルーシーに耳打ちされ、
「まあ!それでは私もまた絵の背景の方でお力添え出来ますわね」
と笑みを浮かべて、一緒にふんばばふんばば♪と回りだした。
「るーちーも」
とブレナンに言われて、
「………この踊りは妙にテンションが上がるので仕事中は避けたいところでございますが、ブレナン坊っちゃまにノーと言える訳もなし」
と、ふんばば踊りに巻き込まれた。
執事のアーネストがリビングを通り抜けようとして、この謎めいた踊りをしている私たちを微笑ましく眺めて、
「………リーシャ様が来られてからシャインベック家は本当に明るく賑やかになりましたねぇ………お子様はもとよりダーク坊っちゃまも幸せそうで………ま、それは我々もですかなぁ。
………おっといかん、今夜の夕食のメニューの確認をするんだった」
と慌てて通り抜けていく姿があった事には気づいていなかった。
※ ※ ※
余談ではあるが、リーシャからイベントの話を聞いたダークは惜しみない協力を約束した。
そして、イザベラ=ハンコックの即売会場限定の新作が出ると言う話を聞いた翌日には、仕事場に有給休暇を申請し早々に取得していた。
後日チラシを見て、慌てて有休を申請をしたヒューイともう一人までがギリギリ受理され、その後の希望者がキャンセル待ちになった事で、危なく有休が取れないところだっただろうがとヒューイがダークに詰め寄った。
「おいダーク、なぜ早めに知ったのならすぐ教えないんだよ。お前もイザベラ=ハンコックそんなに好きだったのか?
つうか、お前には親友への思いやりというモノはないのかっ!?あれだけ相談に乗ってやったのにぃぃぃっ」
「………いや、実は密かに妻の影響で大ファンになってしまってなぁ。だが、このトシではなかなか恥ずかしくて言いづらいだろう?こう言う話は。
それに恋人が好きとは聞いていたが、ヒューイがそこまで好きだとも聞いてなかったしな。
リーシャが結構友人から情報を得る事もあるようだから、今後耳よりな情報が入ったらヒューイにも教える事にする」
「絶対だかんな!」
と何とか和解に持ち込んだ、というささやかな修羅場が発生していた件についてリーシャに語られる事はなかった。
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