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リーシャ、無事逃げ切る。
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「………リーシャさん、今、本当に幸せですか?」
いきなりの質問にちょっと頭が飽和状態になった。
「は?」
「昨日お会いしたご主人、お人柄は悪くないし騎士として体も鍛えられてるとは思いますが、僕よりも結構残念な顔立ちですよね?
それに、かなり歳が離れているようですし、何か政略的に無理矢理とか、断れない事情があって、とかで仕方なく結婚されたのではないんですか?」
「いえ!そういうのは全くないです。
むしろ私の方から好きになって押しまくって結婚して頂いた、という表現が正しいですね」
「………え?」
ジークラインは意外といった顔でリーシャを眺めた。
「あとご質問の件ですが、私は今、毎日とっても幸せですよ。
子供も可愛くて面白いし、旦那様も優しいし、頼もしいし、大切な友達もいるし、好きなこと出来てますし。
そんな不幸そうに見えますか私?」
私は苦笑する。
「………いいえ。そうであれば良かったのに、という僕の願望です。そうだったら、権力にモノを言わせて離婚させて、僕の国に来て貰えたかなっ、て」
ふう、と溜め息をついたジークラインは、私を見詰めた。
「リーシャさんは、僕の目を見て話をしてくれるし、言葉もストレートで裏がない。その上驚くほど美人だし、思いやりもある優しいお人柄です。話せば話すほどますます好きになって、離れがたくなります。
僕は第2王子だし、金銭的には不自由させませんし、別に再婚でも全く問題ないから、悪くはない条件かなって………」
そんなこと言われてもなあ。
「ジークライン様、楽をしたらいけませんよ」
「楽をする、ですか?」
ビックリしたようなジークラインに私は微笑んだ。
「ただ自分に好意的で、見た目が悪くなく、話しやすいって、ジークライン様にとっては都合がいいのかも知れませんけど、今のような私を作り出した存在は夫であり子供や友人、家族なんです。
満たされてるから人に優しく出来るのかも知れませんし、大概のことは許してしまえる人間になりましたが、いわば出来上がった商品みたいなものですよ。
周りの存在がいなければ、私なんか引きこもりで妄想癖のある釣り好きなだけのダメ人間でしたから、ジークライン様に好んで戴けるような女にはなれなかったと思います」
「そんな事はっ!」
「本当ですよ。そんな周りからの力で楽しく生きられている私は、それを取り上げられたら生きていけません。
私が幸せになれたように、ジークライン様にだって、ご自身で幸せにしてあげられる方が必ずいるはずです。
ですから、最初から努力もせずに手近にある出来合いの女を捕まえようとする安易な方法を選んではいけないのです」
「………ですが、私は、その醜いし………」
「私は醜いとは思いませんけど。
そんなものは心の有り様で変わりますので大した問題ではありません。
………うちの主人も周りから不細工不細工と言われまくってたようですが、私には素敵な人だし、物凄く格好いいと思ってます。
彼は32で私と出会うまで、ずっと女性の冷ややかな目に晒されていましたし、能力や人格も否定されることが多かったようですが、それでも努力を怠らない人格者です。そんなところも尊敬しています。
ジークライン様はまだ18でしょう?貴方だけを大切にしてくれる女性がきっと見つかりますよ。
うちの父も結構残念と言われる顔ですが、美人と言われてる私の母と結婚しましたし、今も仲良しです。人間為せば成るもんです」
「………そう、でしょうか」
「はい。私のように、主人やジークライン様のような顔立ちの方が魅力的だと思う女も居ますから、気長に見つければいいんです。たとえ幾つか恋に破れても良いではありませんか。失敗をバネにまた頑張ればいいだけです」
………あー、しまった。また偉そうな事を言ったわ私。
顔から来る自信のなさがダークに似てるからつい放っておけないんだよなぁ。
そっとジークラインを見ると、怒っているような気配はなかったが、無言である。
「あの、ジークライン様?」
「………そうですね。楽をしちゃいけませんよね」
顔を上げると、私を見て苦笑した。
「今のリーシャさんが好きってのは、ご主人や子供に囲まれて幸せなリーシャさんなんですよね。無理矢理僕が手に入れても、悲しい顔をされるだけでは辛すぎますし」
そうそう、分かってくれて何よりです。
王族の権力なんて、大概の希望は通せちゃうし、子爵クラスなんてゴミレベルだものねぇ。
私が安堵の息をついていると、いたずらっ子みたいな目をしてジークラインが私を見た。
「本当は薄々分かってたんですけどね。リーシャさんの様子を見てて。
仕方ありません、これも糧にして次へ頑張ります。それと、………」
と耳元に顔を寄せてきて、
「見ないでくださいね。ご主人がさっきからちょいちょい後方の建物の陰から様子を窺ってるのも見えてましたので、相思相愛なんだろうなと思ったら、羨ましくなって少々意地悪を言いたくなったんです。本当にすみませんでした」
「………ダークが?」
頭を下げるジークライン様に慌てて止める。
「本当に怖いので頭を上げて下さい!
………それにしても全く、ダークは仕事をほったらかして何をしてるんだか………」
口ではそう言ったが、内心では嬉しくてしょうがなかった。口元が弛み胸がじんわりと熱くなる。
仕事も疎かになるほど気にしてくれていたという事だ。
「男の矜持として、今は知らない振りをしてあげましょう」
「かしこまりました」
「じゃ、帰りましょうか」
「そうですね」
私達は馬車までゆっくり歩き出す。
「………まぁ、暫く想うぐらいは許して貰いましょうか。あっという間の失恋でしたし」
「……すみません、何か仰いましたか?」
「あ、いえ何でも」
何か小さな声でぼそぼそ言っていたジークラインは首を振り、私に言う。
「兄上とか父母もスイーツ好きなので、焼き菓子を幾つか買って帰りたいなと」
「それでしたら、お薦めのパティスリーがありますわ!通りすがりですのでご案内致しますね」
「お願いします」
私は歩きつつさりげなく周りを見たが、ダークの姿は見つけられなかった。
◇ ◇ ◇
「お帰りなさいませリーシャ様。如何でしたか?」
ジークラインが王宮の馬車に乗って帰るのを見送ってから屋敷に入ると、ルーシーがスカートにブレナンをくっつけながらやってきた。
ブレナンはルーシーが止まったので、ん?という顔をし、キョロキョロして私を見つけると抱っこをせがんだ。
「はいブレナン、ただいまのチューだよー。んー」
抱き上げて艶々したほっぺたにキスをすると、キャッキャッ、と笑う。
「ママだ!おかえりなさーい」
アレックとおもちゃの剣で戦っていたカイルもたたたと走って飛び込んできた。
「カイルもただいまのチュー。そろそろお片付けしてお風呂の時間よ」
「はーい!」
パタパタとカイルがアレックのところへ戻っていき、ブレナンがローリングでアレックの方へ転がって行くのを見ながら、
「………まあ無事にご案内出来たわよ。いつの間にかダークが仕事をサボって私達を尾行してたみたいだけれどね」
と小声でルーシーに囁いて笑った。
「まあ。旦那様ったら。
リーシャ様への独占欲がまた強化されましたわね。ジェラシーで仕事どころではございませんでしたのね」
「私、マンガや小説では面白いけど、束縛系の男とか現実では絶対イヤだわーと思ってたのだけど、ダークだと全然イヤじゃないのよね。何故かしら」
「旦那様フェチですからリーシャ様も」
「でもその反面、浮気でも疑われていたような気がして腹が立つのもまた事実。
このモヤモヤをどうしたらいいかしらねルーシー」
「なるほど。お仕置きでございますね。リーシャ様お耳を拝借」
「何かしら?………え?やだ貴女なんでそんなもの持ってるのよ………私の創作用資料って………いやー私には難易度が高いって言うかね………いえそれはそうなんだけども………」
私とルーシーの話し合いは、私が一方的に赤くなったり青くなったりしたものの、最終的にはルーシーに押しきられるような形でまとまった。
私もかなりルーシーに毒されているような気がするが、ルーシーは『進化なくして円満なし』と力説する。
まあ私のような恋愛スキルのない人間には、ルーシーのように色々と教えてくれる人がいないと絶対やらかしてしまうだろうからいいのだが、段々と羞恥グレードが上がって行くのが最近の悩みどころだ。
とりあえず後は、ダークが戻るのを待つだけだ。
いきなりの質問にちょっと頭が飽和状態になった。
「は?」
「昨日お会いしたご主人、お人柄は悪くないし騎士として体も鍛えられてるとは思いますが、僕よりも結構残念な顔立ちですよね?
それに、かなり歳が離れているようですし、何か政略的に無理矢理とか、断れない事情があって、とかで仕方なく結婚されたのではないんですか?」
「いえ!そういうのは全くないです。
むしろ私の方から好きになって押しまくって結婚して頂いた、という表現が正しいですね」
「………え?」
ジークラインは意外といった顔でリーシャを眺めた。
「あとご質問の件ですが、私は今、毎日とっても幸せですよ。
子供も可愛くて面白いし、旦那様も優しいし、頼もしいし、大切な友達もいるし、好きなこと出来てますし。
そんな不幸そうに見えますか私?」
私は苦笑する。
「………いいえ。そうであれば良かったのに、という僕の願望です。そうだったら、権力にモノを言わせて離婚させて、僕の国に来て貰えたかなっ、て」
ふう、と溜め息をついたジークラインは、私を見詰めた。
「リーシャさんは、僕の目を見て話をしてくれるし、言葉もストレートで裏がない。その上驚くほど美人だし、思いやりもある優しいお人柄です。話せば話すほどますます好きになって、離れがたくなります。
僕は第2王子だし、金銭的には不自由させませんし、別に再婚でも全く問題ないから、悪くはない条件かなって………」
そんなこと言われてもなあ。
「ジークライン様、楽をしたらいけませんよ」
「楽をする、ですか?」
ビックリしたようなジークラインに私は微笑んだ。
「ただ自分に好意的で、見た目が悪くなく、話しやすいって、ジークライン様にとっては都合がいいのかも知れませんけど、今のような私を作り出した存在は夫であり子供や友人、家族なんです。
満たされてるから人に優しく出来るのかも知れませんし、大概のことは許してしまえる人間になりましたが、いわば出来上がった商品みたいなものですよ。
周りの存在がいなければ、私なんか引きこもりで妄想癖のある釣り好きなだけのダメ人間でしたから、ジークライン様に好んで戴けるような女にはなれなかったと思います」
「そんな事はっ!」
「本当ですよ。そんな周りからの力で楽しく生きられている私は、それを取り上げられたら生きていけません。
私が幸せになれたように、ジークライン様にだって、ご自身で幸せにしてあげられる方が必ずいるはずです。
ですから、最初から努力もせずに手近にある出来合いの女を捕まえようとする安易な方法を選んではいけないのです」
「………ですが、私は、その醜いし………」
「私は醜いとは思いませんけど。
そんなものは心の有り様で変わりますので大した問題ではありません。
………うちの主人も周りから不細工不細工と言われまくってたようですが、私には素敵な人だし、物凄く格好いいと思ってます。
彼は32で私と出会うまで、ずっと女性の冷ややかな目に晒されていましたし、能力や人格も否定されることが多かったようですが、それでも努力を怠らない人格者です。そんなところも尊敬しています。
ジークライン様はまだ18でしょう?貴方だけを大切にしてくれる女性がきっと見つかりますよ。
うちの父も結構残念と言われる顔ですが、美人と言われてる私の母と結婚しましたし、今も仲良しです。人間為せば成るもんです」
「………そう、でしょうか」
「はい。私のように、主人やジークライン様のような顔立ちの方が魅力的だと思う女も居ますから、気長に見つければいいんです。たとえ幾つか恋に破れても良いではありませんか。失敗をバネにまた頑張ればいいだけです」
………あー、しまった。また偉そうな事を言ったわ私。
顔から来る自信のなさがダークに似てるからつい放っておけないんだよなぁ。
そっとジークラインを見ると、怒っているような気配はなかったが、無言である。
「あの、ジークライン様?」
「………そうですね。楽をしちゃいけませんよね」
顔を上げると、私を見て苦笑した。
「今のリーシャさんが好きってのは、ご主人や子供に囲まれて幸せなリーシャさんなんですよね。無理矢理僕が手に入れても、悲しい顔をされるだけでは辛すぎますし」
そうそう、分かってくれて何よりです。
王族の権力なんて、大概の希望は通せちゃうし、子爵クラスなんてゴミレベルだものねぇ。
私が安堵の息をついていると、いたずらっ子みたいな目をしてジークラインが私を見た。
「本当は薄々分かってたんですけどね。リーシャさんの様子を見てて。
仕方ありません、これも糧にして次へ頑張ります。それと、………」
と耳元に顔を寄せてきて、
「見ないでくださいね。ご主人がさっきからちょいちょい後方の建物の陰から様子を窺ってるのも見えてましたので、相思相愛なんだろうなと思ったら、羨ましくなって少々意地悪を言いたくなったんです。本当にすみませんでした」
「………ダークが?」
頭を下げるジークライン様に慌てて止める。
「本当に怖いので頭を上げて下さい!
………それにしても全く、ダークは仕事をほったらかして何をしてるんだか………」
口ではそう言ったが、内心では嬉しくてしょうがなかった。口元が弛み胸がじんわりと熱くなる。
仕事も疎かになるほど気にしてくれていたという事だ。
「男の矜持として、今は知らない振りをしてあげましょう」
「かしこまりました」
「じゃ、帰りましょうか」
「そうですね」
私達は馬車までゆっくり歩き出す。
「………まぁ、暫く想うぐらいは許して貰いましょうか。あっという間の失恋でしたし」
「……すみません、何か仰いましたか?」
「あ、いえ何でも」
何か小さな声でぼそぼそ言っていたジークラインは首を振り、私に言う。
「兄上とか父母もスイーツ好きなので、焼き菓子を幾つか買って帰りたいなと」
「それでしたら、お薦めのパティスリーがありますわ!通りすがりですのでご案内致しますね」
「お願いします」
私は歩きつつさりげなく周りを見たが、ダークの姿は見つけられなかった。
◇ ◇ ◇
「お帰りなさいませリーシャ様。如何でしたか?」
ジークラインが王宮の馬車に乗って帰るのを見送ってから屋敷に入ると、ルーシーがスカートにブレナンをくっつけながらやってきた。
ブレナンはルーシーが止まったので、ん?という顔をし、キョロキョロして私を見つけると抱っこをせがんだ。
「はいブレナン、ただいまのチューだよー。んー」
抱き上げて艶々したほっぺたにキスをすると、キャッキャッ、と笑う。
「ママだ!おかえりなさーい」
アレックとおもちゃの剣で戦っていたカイルもたたたと走って飛び込んできた。
「カイルもただいまのチュー。そろそろお片付けしてお風呂の時間よ」
「はーい!」
パタパタとカイルがアレックのところへ戻っていき、ブレナンがローリングでアレックの方へ転がって行くのを見ながら、
「………まあ無事にご案内出来たわよ。いつの間にかダークが仕事をサボって私達を尾行してたみたいだけれどね」
と小声でルーシーに囁いて笑った。
「まあ。旦那様ったら。
リーシャ様への独占欲がまた強化されましたわね。ジェラシーで仕事どころではございませんでしたのね」
「私、マンガや小説では面白いけど、束縛系の男とか現実では絶対イヤだわーと思ってたのだけど、ダークだと全然イヤじゃないのよね。何故かしら」
「旦那様フェチですからリーシャ様も」
「でもその反面、浮気でも疑われていたような気がして腹が立つのもまた事実。
このモヤモヤをどうしたらいいかしらねルーシー」
「なるほど。お仕置きでございますね。リーシャ様お耳を拝借」
「何かしら?………え?やだ貴女なんでそんなもの持ってるのよ………私の創作用資料って………いやー私には難易度が高いって言うかね………いえそれはそうなんだけども………」
私とルーシーの話し合いは、私が一方的に赤くなったり青くなったりしたものの、最終的にはルーシーに押しきられるような形でまとまった。
私もかなりルーシーに毒されているような気がするが、ルーシーは『進化なくして円満なし』と力説する。
まあ私のような恋愛スキルのない人間には、ルーシーのように色々と教えてくれる人がいないと絶対やらかしてしまうだろうからいいのだが、段々と羞恥グレードが上がって行くのが最近の悩みどころだ。
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