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授与式【3】

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 馬車で王宮に向かう。

 過剰な装飾のないスモーキングブルーの落ち着いた色合いのドレスは大人の女みたいで気に入ってるし、メイクもシンプルにパウダーとアイライナーとサーモンピンクの口紅のみ。
 土偶武装モードとしてはボスレベルのアーマーであると言える。

 ただこの、寄せて上げる感じのブラを着けた辺りの、結構攻めてる開き具合が私を不安にする。


 チチ3割は見えてるぞおい。


 いや、最近の人気は首からデコルテ辺りの女性らしいラインと胸元の谷間を強調して見せる事で、慈愛と色気と包容力を演出するんです、とかよく分からない事をルーシーが言ってたけれど、これ本当に大丈夫なんでしょうね。そもそも慈愛と色気と包容力って同時に演出できない気がするんだけれど。


「今しかないボリューミーな胸を強調しないでいつするんですか?
 またお子様が出来るか旦那様に揉んで頂いて、『辛うじてC』から『看板通りのC』カップになるまで保留ですか?次は一体何年後でございますか。
 未だにロリコンとか無垢な女神をだまくらかしただの、ひそひそ陰口叩かれてる旦那様のためにも、セクシーな大人の女性ですよっ、てところを公式の場でアピールするのも妻の務めですわ」

 とか言われて、怒りと勢いでその気にはなったのだけど。恥ずかしいものは恥ずかしい。
 


 悶々としているうちに王宮へ着いたが、思ったより早かったようで受付にはまだ誰もいなかった。

 しっかし無駄に広いわよねー。
 庭園だけでうちの屋敷いくつ入るのやら。
 
 一度だけ子供の頃に父様に連れられて来たことがあるけど、久しぶり過ぎてどこがどこやらさっぱりである。


 少し庭園を散歩して時間を潰そうかしらね。

 天気も良いし人も少ないし、とブラブラ池の方まで歩いて行くと、しゃがみこんで池の中を覗き込んだ。

(うーん、ここもメダカばっかりだわ。金魚っていないのかしらねこの国。
 ……そういや最近釣りに行けてないわね。でもカイルもブレナンも小さいしなー。ま、もう少し経ってからでもいっか)

 ボーッとベンチに座り、穏やかな気分で考え事をしていると、視線を感じた。

 辺りを見回すと、隣のベンチに座っている美少年がこちらを見ていた。が、記憶にない顔である。


 多分二十歳までは行ってない。
 17、8歳位かしら。成人はしてそうだ。

 黒に近いような焦げ茶色の癖のない柔らかそうな髪に、ダークとはまた系統の違う中性的な優しげな顔のイケメンで、グリーンの瞳がとても綺麗だ。

 騎士団なら第三、第四部隊でもトップクラスの美形、と言うことはまあかなりの不細工という事ですねぇ。

 もしかしたら、周りに見られたくなくて人の少ないところに来てたのかも知れない。
 悪いことをしてしまった。


 何しろ社交界には必要最小限しか出入りしてなかったもので、貴族の名前は大体分かるんだけど、顔と名前が一致しないのよね。うーん、公爵か侯爵だった?伯爵家は多いしなー。蘇れ私の記憶力よー。
 ………ダメだわ。すっかり腐女子マインドになってるものねぇこの頃は。


 しかしぼんやり見つめあっててもしょうがないので、立ち上がり淑女の礼をしつつ確認した。

「大変失礼いたしました。
 私は人の顔をなかなか覚えられないもので不躾を、………あの、以前お会いした事がございましたでしょうか?」

「っ、こちらこそ失礼しました!あんまり綺麗な女性だったので驚いてしまってっ」

 サッと顔を赤らめモジモジする美少年。
 眼福ではあるが、やはりはみチチドレスでは目のやり場に困るのだろう。

「まぁ、ふふっ。そんなお若いうちからお世辞など覚えなくても宜しいのですよ。
 ………でも左様でございますか?間違いなく日光補整だと思いますが、ありがとうございます。
 貴方様もエメラルドのような綺麗な瞳でおられますね。羨ましいですわ」

「え?あっ、ありがとうございます!
 ………ですが、いくら瞳が綺麗と仰って頂いても、彩る顔がこれでは台無しですね」

 自嘲気味に頬を押さえる美少年に、思わず手を伸ばした。
 全く、本当にこの国はイケメンに冷た過ぎるのよ。

「いいえ。見る人によって顔立ちなど好みは異なるのです。御自身で貶めてどうするのです。
 顔がどうだろうと、最終的に一番大切なのは中身の美しさだと私は思います」

「………ですが………」

「私が1つ、気持ちが楽になる言葉をお教え致しましょうか?」

「………?」

「美人だろうが美男子だろうが、ブスだろうが不細工だろうが、歳を食ったらみーんな同じジジババになるのです。
 これは何があろうが不変です。
 美貌なんか年月で確実に衰えますが、知性やお人柄は年月では衰えませんのよ?
 だったら無い物ねだりをするよりも、変わらない方を研鑽する方がよほど建設的じゃありませんか」

「………ジジババ………」

「あら、少々言葉に品がなかったですわね。時々メイドにも怒られますのよ、ふふふっ。もしお気を悪くされたなら申し訳ありません。
 ………いけない、そろそろ行かないと。
 では、失礼致します」

 受付に人の姿が見え出したので、私は慌ててお辞儀をする。
 ちょっとのんびりしすぎたわ。

 受付に向かって歩き出した私に、美少年が呼び掛けた。

「私は、ジークライン・フェルーシーと申しますがお名前をっ!」

「リーシャ・シャインベックですわ。名前も名乗らず偉そうな事を言ってましたのね私。大変失礼致しました」

 振り返り再度頭を下げると、受付に向かいながら再度考えた。
 フェルーシー?………やっぱり知らないわー。死んでるわ私の脳。後でダークに聞いとかないと………などと思いながらも、つい好き放題言ってしまっていた自分に反省し、せめてそんなに高い爵位のボンボンじゃありませんように、と心で祈りを捧げるのだった。




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